妻に「ワンオペ育児」をさせる夫の傾向5
プレジデントオンライン / 2017年7月3日 9時15分
■育児は「若葉マーク者ひとりではできない」
今、「ワンオペ育児」という言葉が定着しようとしている。
「ワンオペ」とは「ワンオペレーション」の略で、ファストフード店やコンビニエンスストアなどでの一人勤務という過酷な労働環境を指す言葉であるらしい。
この「ひとりで何もかも」という状況が、ひとりで仕事・家事・育児のすべてを回していかなければならない母親の「ひとり育児」と似ていることから、ネットを中心に広く使われている。
私自身、2人の子どもを育て(いずれも成人)、また教育・子育てアドバイザーとして多くの母親たちの奮闘ぶりを見てきた。そこで痛感するのは、育児は「予測不能なこと」の連続であり、未経験者や「若葉マーク」の人間がひとりで行えるものではない、ということだ。
したがって、母親ひとりの頑張りだけではどうにもならないのだが、この国では「母親なんだから(ワンオペで)頑張って!」と片付けられがちである。しかし、繰り返すが、ひとりの「頑張り」ではどだい無理なのだ。
▼最大のサポーター「そうかいオバサン」が消えた
かつて日本には“社会的資本”としての「そうかいオバサン」がいた。
「そうかい、そうかい、そんなことがあったのかい」と新米ママの愚痴を聞いてくれる近所のオバサンたち。彼女たちは今や絶滅の危機で、そのせいでママたちの孤軍奮闘ぶりに拍車がかかっている。誰にも頼れないという疲弊感が悪循環を生んでいるのだ。
ちなみに、「そうかいオバサン」は筆者の友人の造語である。専業主婦世帯が大半だった時代には、子育てから卒業した「卒母」がいた。ところが、いまや「そうかいオバサン」は全国的に絶滅危惧種と化している。なぜなら多くの「卒母」が「おせっかい」と嫌われるリスクを避けるようになっているからだ。
時間的に余裕のある彼女たちは、地域のゴミステーションでのちょっとした掃除や、小学生の通学路での見守り、あるいは地域の防犯活動などを、結果的に無償で引き受けてくれていた。さらに、泣いている子をあやしたり、ほんのわずかな時間でも子どもを預かってくれたり、経験から出る実践的アドバイスを現役母にする「子守+知恵袋」という役割も担っていた。
しかし現在では「おせっかい」と嫌われることをおそれ、地域活動に力をいれずに、パートや習い事で余暇を過ごすようになっている。
■「でかい口たたくなら、俺よりも高い給料を取れ!」
子育ては、本来ひとりでやるものではない。ところが「産んだ責任」という理由で、母親ひとりに押し付けている。もし母親たちに糸電話で「少子化の原因がどこにあるのか?」と聞いたなら、張りつめた糸の先から「ワンオペなら、もう限界!(二度と産むか~!)」という「叫び声」が聞こえてくるだろう。
このことを父親である夫はもっと正面から受け止めなければならないと思う。
家庭生活は、誰かひとりの犠牲、または多大なる献身によって成り立たせるべきではない。これは育児だけでなく、介護でもそうだ。1本の糸で張り続けると、その糸はとても弱くなる。クモが出す糸のように、数種類の糸で暮らしのリスク管理を行わなければ、その家庭はいざというときに、もろく崩れてしまうだろう。
誰かに負担がかかるなら、それを分かち合ったほうがいい。誰かが不満をずっと抱えたままでは家族でいつづけることは難しくなる。
「私ばっかりに押し付けて!」
「俺だって、遊んでいるわけじゃないんだぞ!」
「残業、残業って、たまには早く帰れないの?」
「オマエに仕事のきつさがわかってたまるか!」
「私だって、働いてますけど?」
「でかい口、たたくなら、俺よりも高い給料を取ってきてから言え!」
「あ~もう、鍋が焦げるから、あなたは泣いてる赤ちゃんを見て来て!」
「おい、ウンチが出たって!」
「アンタは大小便の報告係か!?」
なんて会話が続いたら、妻は間違いなく、夫との間に「万里の長城」よりも高い「鉄壁の壁」を造り上げるだろう。
▼欲しいのは、「ひとりでゆっくりトイレをする時間」
夫に不満をぶつけられるなら、まだいい。もっと悲惨なのは、自身は「ワンオペ育児」で疲弊しているが、「夫も大変なのに子育てに参加しようと頑張っている」と思いこんでいるパターンだ。こうなると、自分の苦しみを誰にも吐露できず、さらなる疲弊を招くことになる。
こうした状況に対し、誰かに「育児とはそういうもの。皆、そうやってきた。この大変さは後できっと宝物」と言われた日には立ち直れないだろう。育児を終えた今は確信をもって言えるが、こうした言葉はキレイなごまかしにすぎない。母親が欲しいのは「後の宝物」ではなく、「今の睡眠」。ひとりでゆっくりトイレをする時間さえないのが、育児の現場なのだ。
■「妻にワンオペ育児をさせる夫」チェックリスト
多くの家庭をウオッチしていると、「ワンオペ育児」はやがて夫婦の溝を広げ、家族全員の疲弊を招き、そしてその後の子育ても悪い方向に導いてしまいやすくなる。
テンションだらけの糸で絡まる家庭で育つと、子供はそこから逃げ出そうとして、目の前にぶら下がった「幸せもどき」のかぼそい糸を掴んでしまいやすくなるのだ。これが一番、結果としてはつらいものになる。
例を挙げるならば、子を成したために生活基盤のないままに結婚してしまうとか、悪人の見せかけの優しさに人生を搾取されてしまうなどが起こりやすくなるということだ。
家族が思いやりを見せない愛のない家庭で育つと、その愛を渇望するがゆえに、皮肉にも求めていたものが得られないという結果になりやすいことが怖いところなのだ。
ここで「妻にワンオペ育児をさせてしまう夫の遺伝子」をチェックしてみよう。
(1)夫の母から結婚時に「これで息子のお世話から解放されたわ~」と言われたことがある。
(2)新婚時、あるいは同棲時代、夫は靴下を蛇腹状態で脱ぎっぱなしにしていた。
(3)新婚時代、家で夫に仕事の愚痴を言っていたら、夫がいきなりテレビに向かい「打った! ホームラン!」と叫んだことがある(妻の話はそっちのけで野球観戦)。
(4)妻のことを他人も子どももいない場なのに「ママ」と呼ぶ。
(5)夫は「いただきます」「ごちそうさま」という言葉を幼稚園で習得できなかったとしか思えない。
▼「子育てバイト」する夫はいらない。「正社員」の夫が欲しい
5項目すべてが○だとしても、諦めてはいけない。わが子の世話は「待ったなし」であることがほとんどなので、どうしても夫の協力は不可欠だ。家族全員の幸せのためにも、夫を「育児を手伝う人」から「育児を担う人」に変えなければならない。
男性は論理的な人が多く、問題があると「解決したい」という欲求を持つ傾向があるのでその習性を利用しよう。そのためには「育児、家事、仕事」をできるだけ具体的に「見える化」することだ。そのうえで、諦めずに夫との話し合いの場を設けよう。
■「頑張っているのは知っているよ。本当に偉いね。ありがとう」
たとえば、こう夫に相談して、話し合いのテーブルにつかせるのだ。
「お互いが帰宅してから寝るまでの家事は◯◯、育児関係の仕事には△△がある。子どもを眠らせるのが21時ならば、逆算して20時半にはお風呂に入らせたい、それならばこの時間に食べさせたいので、食事作りはこの時刻からやりたい。付随する業務として寝かしつけのための絵本読み、子どもをパジャマに着替えさせ、歯磨きをさせる、洗濯機を回す、食器を洗う、翌朝のゴミ回収の準備が考えられる。このオペレーションを効率的にやるための分業プランは何だろう?」
もちろん育児ほど計画的にいかないものはないので、理想と現実には大きなギャップが
出るだろう。それでも夫の意識改革の第一歩に着手しなければ、いつまでたってもゼロ地点から前には進めない。
たとえば「21時以降は大人だけのくつろぎタイムにしよう」という共通目標があれば、「妻が子どもをお風呂に入れている間、夫はテレビタイムではなく食器洗いタイム」にして「定時運行を目指す!」ということもできるだろう。
育児には、都合のいいときだけ手伝う「子育てバイト」ではなく、フルタイムで子育てにかかわる「正社員」が必要だ。そのことを理解してもらい、お互いが主体的に動けるようになれれば、夫婦の溝がこれ以上広がることは避けられるはずだ。
長時間労働を強いられ、どうしても夫が子育てに時間を割けない、というケースもあるだろう。その場合、夫は、「ワンオペ育児で大変な思いをしている」という妻の気持ちを受け入れてほしい。
「頑張っていることはわかっているよ。本当に偉いね。ありがとう」と言ってあげるだけでもいい。この場合、解決策や分析は必要ない。夫婦に一番必要なのは「承認と共感」であるのだから。
(エッセイスト、教育・子育てアドバイザー、受験カウンセラー、介護アドバイザー 鳥居 りんこ)
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