小池知事の「越後屋政治」に限界はあるか
プレジデントオンライン / 2017年7月13日 9時15分
■「稲田失言」は圧勝の主因とはいえない
今回は小池百合子都知事の敵を必ず倒す“強さ”を書かせていただく。
自分を攻撃してくる相手を悪人に仕立て上げ、世論を味方に付けて反撃する。彼女はそれがとてもうまい。数年前、直接会って話を聞いたときから、この沙鴎一歩(さおう・いっぽ)はそう感じていた。
今回の都議選だけではなく、防衛事務次官だった守屋武昌氏との戦い、自民党東京都連会長だった石原伸晃氏との対立もそうである。
しかし新聞各紙の社説は、「1強」の安倍政権の驕(おご)りや弛(たる)み、それに加計学園問題、稲田朋美防衛相の失言が、小池氏の「都民ファーストの会」が圧勝した主因のように解説している。それは読みが浅い。
■小池氏の政治手法は「越後屋政治」
繰り返すが、小池氏は攻撃してくる輩を悪人にして反撃する。ここに彼女の強さの1つがある。こう思っていたら、同じようなことを考えている先輩記者がいた。
7月8日の読売新聞。特別編集委員の橋本五郎氏が自身のコラム「五郎ワールド」で、小池氏の政治手法を「越後屋政治」と評しているのだ。
今回は、この橋本氏のコラムを手がかりに、小池氏という政治家を分析してみたい。
橋本氏はコラムで、「ここではあえて小池さんの高い支持率とその陥穽について考えてみたいと思います」と前置きする。
陥穽とは「かんせい」と読み、その意味は落とし穴である。「高い支持率」はいいとして「陥穽」について、読者は「何を言いたいのか」と疑問に感じるはずだ。この辺も頭の片隅に入れておこう。
■ライバルを時代劇の「悪い商人」に仕立てる
さらに橋本氏はこう続ける。
「小池人気の最も大きな源泉は政治手法にあって、それをひと言で表現すれば、『越後屋政治』というのが私の見方です。勧善懲悪の時代劇を見ていると、欠くべからざるキャラクターとして悪代官が登場します。その側(そば)には悪い商人がいます」
「世の越後屋さんには甚だ申し訳ないことですが、商人はどういうわけか『越後屋』という屋号です。2人は料理屋の薄暗い2階で密談しています。悪代官はニヤリとしながら言います。『越後屋、お主も悪よのう』」
よくテレビの時代劇で見る場面である。それをコラムで引用して「越後屋政治」なるものを読者に分かりやすく説明し、語りかけていく。さすが読売の大記者といわれる橋本氏だ。
そのうえで橋本氏は「小池さんは『越後屋』をつくるのが実にうまいのです。自分に反対する人を『越後屋』に仕立てて攻撃します」と書く。ここまで書かれると、読者はすっかり橋本ワールドに引き込まれてしまうだろう。
■1号は内田茂氏、2号は森喜朗元首相
橋本氏によると、小池氏によって越後屋「第1号」にされたのが、都議会のドンこと自民党の内田茂前都連幹事長。2号、3号はというと、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長の森喜朗元首相。それに石原慎太郎元都知事である。
橋本氏は「越後屋政治」について「小池人気を解くひとつの鍵に過ぎない」と指摘する。そのうえでコラムの後半では「これからは都民、国民の目も一段と厳しくなることを覚悟しなければなりません」と小池氏に忠告する。
敵をつくってこらしめるという「越後屋政治」では、次々と敵を作り続けなければいけない。つまり橋本氏のいう「陥穽」とは、「敵をつくって戦うだけでは問題は解決しない」ということだ。コラムの見出しを眺めると、「『越後屋政治』に決別を」となっている。「決別」とは、ずいぶん強い批判である。
確かに橋本氏の指摘するような側面はある。しかし先輩記者の橋本氏には申し訳ないが、小池百合子という政治家は並みの政治家ではない。「越後屋政治」をやるには卓越した演出力が必要だ。小池氏はどんなところでも、敵を見つけ、その敵から一時的に攻撃を受け、そして最後には勝つという力を持っている。ここが橋本氏とは大きく意見が分かれるところだ。
■「防衛省の天皇」をクビにした読み
小池氏が勝利を収めたのは今回の都議選ばかりではない。昨年夏の都知事選では自民党と対立、自民党の推薦候補を破って勝ち、安倍晋三首相に「小池さんには、きつい1本を取られました」と頭を下げさせた。なかでも自民党東京都都連の会長を務めていた石原伸晃氏との戦いぶりは象徴的だった。
また2007年に防衛相を務めていたときも、事務次官人事などをめぐって防衛省の天皇といわれた守屋武昌・防衛事務次官(当時)と激しく対立。小池氏は結局、守屋氏を辞任に追い込んでしまう。この守屋氏は、退任後に収賄容疑で逮捕されるからこれまた小池氏の読みはすごかった。
「越後屋政治」をやるのは簡単ではない。小池氏は政治家として目端がよく利く。相手をたたきのめす鋭い刃(やいば)をその懐に持っている。
■小池氏の本心は初の女性首相にある
都議選後の最大の焦点は、小池氏が新党を結党し、首相就任を目指すかどうかになっている。小池氏の本心は、初の女性都知事が初の女性首相になるところにある。しかし、都議前後の新聞各紙の社説はそのことに触れていない。「このことは残念である」とこれまで「プレジデントオンライン」に沙鴎一歩は書いてきた。
あらためて都議選翌日となる3日付朝刊の社説の見出しを並べてみよう。
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「都議選で自民が歴史的惨敗 おごり代償と自覚せよ」(毎日)
「『安倍1強』の慢心を反省せよ 小池氏支持勢力の責任は大きい」(読売)
「大敗の自民 『安倍政治』への怒りだ」「都民ファースト 風で終わらせぬよう」(東京)
「安倍自民は歴史的惨敗の意味を考えよ」(日経)
「小池勢力圧勝 都政改革の期待に応えよ」(産経)
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こうした見出しを見ただけでも、社説の大半が、小池氏の本心には触れず、安倍政権に対し、「1強」の驕りや弛みの反省を強く求めるものにすぎないことがよく分かる。
■「都ファ」代表辞任という離れ業
都議選後、小池氏は地域政党「都民ファーストの会」の代表を退いている。この突然の退任劇には、「初の女性首相」への意欲がにじんでいる。
小池氏は選挙前まで、地域政党「都民ファーストの会」の代表ではなかった。これは「知事が代表を務める政党が行政のチェックをできるのか」と二元代表制の観点から批判を受けてきた事情が影響している。二元代表制とは、首長と議会それぞれが有権者の直接選挙で選ばれる地方自治の原則を指す。首長の行政運営を議会が議案の議決でチェックすることで行政を健全に進める。
しかし小池氏は都議選前に「都民ファーストの会」の代表に就任した。小池氏と「都民ファーストの会」の人気に大きな差があり、この差を埋めることが代表就任の狙いだったとみられる。自民党からは「二元代表制を否定するもので、これでは都政のチェック機能が働かなくなる」と批判の声も上がった。小池氏は、選挙戦を通じ「一部の有力都議の意向が反映されてきた自民中心の都政こそ、チェック機能が働いてこなかった」と反論した。
そして、圧勝から一夜明けた7月3日午前、突然、「二元代表制への懸念があることを想定し、知事に専念する」と代表を退くことを表明した。
選挙期間中は代表で、選挙が終わってから辞める。かなりの離れ業でもある。そういう意味では選挙目当ての代表就任とみられても仕方がない。それを覚悟で小池氏はなぜ、突然、代表を辞任したのか。
■都知事のほうが首相を狙いやすい
中立性が重視される知事の立場で政党の代表を続けるわけにはいかないからだ、というのが大方の見方のようだ。だが、沙鴎一歩はそうは思わない。
「都民ファーストの会」はあくまでも地域政党である。首相の座を狙うためには全国的な政党(たとえば「国民ファーストの会」)を立ち上げる必要がある。そのためには、いまの時点で地域政党の代表を辞任することがベストなのだ。都知事を務めながら、首相の座を狙うには、そのほうが動きやすい。
前述したように、小池氏は敵を必ず倒す底力を持つ。次の「越後屋」はだれになるのだろうか。
(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)
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