高給なのに"クチコミ残念"会社ランキング
プレジデントオンライン / 2017年8月24日 9時15分
■給与「以外」の面も徹底分析
上場企業は毎年、有価証券報告書で従業員の平均給与を公表している。そしてそれを元にした給与ランキングも存在する。
しかし、給与ランキングだけからはわからないこともある。それは、その会社の「社風」。社員にとって、その会社が給与以外の働きがいや働きやすさの面でどんな会社であるかということだ。
同じ「高給企業」でも、社員がハードに働いている会社もあれば、業務負担が比較的軽い会社もある。また、給与がそれほど良くない会社のなかにも、社員が給与の安さに不満を抱いている会社もあれば、社員が給与以外の面で満足している会社もあるだろう。
そこで今回プレジデント誌では、就職・転職のための企業リサーチサイトVorkersの協力により得た、社員や元社員の会社に対するクチコミ評価や、当該会社の平均残業時間・有給休暇消化率に関するデータを用いて、「働き方の社風別の給与ランキング」を試みた。
このランキングを見れば、その会社の給与が単に多いか、少ないかだけではなく、「ハードに働きたい人向きか、のんびり働きたい人向きか」「働きがいを最重視する人向きか、そうでない向きか」といったことがわかるはずだ。
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社員の平均年収、従業員数は2016年3月決算時点の有価証券報告書データを使用(東京商工リサーチ提供)。クチコミ評価、月平均残業時間、有休消化率は、就職・転職のための企業リサーチサイトVorkersの2017年4月時点のデータを使用。上場企業のうち、データが利用可能な1763社についてデータを分析した(ランキングは、クチコミ件数10件以上の会社のみ掲載)。40歳推定年収は、平均年収と平均年齢の関係を回帰分析した結果から推定。「社員・元社員のクチコミ」は、Vorkersサイトに投稿されたクチコミを文意を変えない範囲で編集した。
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■「クチコミ評価」も「給与」も高い会社ベスト20
▼社員・元社員のクチコミ
・キーエンス
「この会社で学べばどこでもやっていける」
「ETC の通過時間整合性チェックなど、ちょっと異常な管理」
・三菱商事
「コンプライアンスに対する意識が高く、安心して仕事ができる」
「サービス残業も少なからず存在する」
・伊藤忠商事
「海外に駐在すると20代でも2000万円近い年収」
「働き方の改革が他社に比べて進んでいる」
・ 三井物産
「他企業だと滅多にいない優秀な人がゴロゴロいる」
「官僚的な人間が抜擢され活力が削がれた」
・電通
「社員は総じて人が良く、面白い」
「入社年度が1年違うだけで、海よりも深い溝がある」
社員の会社への評価は、年収が1000万円を超えると総じて高くなる傾向にある。長時間労働で話題となった電通に関しても同業他社の人事課長は「給与が低くて長時間労働だと不満も出るが、30代で1000万円をもらえるとタワーマンションにも住める。どんなに忙しくても仕事が面白ければ皆納得するし、長時間労働でも不満を口にする人は少ない」と指摘する。
上位にランクする総合商社も同じだ。残業時間が36協定の1カ月45時間を超えている企業も多いが、そもそも「商社は多忙」と自覚して入社した社員も多い。加えて総合商社の人材育成投資はダントツ。20代で海外拠点に出向するなどスキル獲得の点でも魅力。商社勤務は市場価値も高く、転職でも有利だ。
日揮や千代田化工建設は海外プラント事業が主力。海外に派遣されると危険地域手当などがついて30代でも軽く1000万円を超える。
一方対照的なのがトヨタ自動車。高年収に加えて長期雇用を標榜し、雇用も安定。しかも平均残業時間29時間、有休消化率82%。自動車業界は労使一体となって有給休暇の取得率向上などに努めており、評価が高いのもうなずける。
■高給なのに「クチコミ評価が残念」な会社20
▼社員・元社員のクチコミ
・ファナック
「トップにリーダーシップがあり、社内政治がないのが良い」
「上の者には絶対に逆らえず、意見することもできない」
・ジャストシステム
「キーエンスと提携以降、社風が一変した」
「求められるものは非常に高いが、正当な評価をされている」
・フィンテック グローバル
「経営層との距離が近い」
「社長に好かれるか、好かれないかで待遇が違う」
・科研製薬
「トップダウンの体制」
「上司が休みを取らなければ、下の社員も取りづらい空気がある」
・日本水産
「上司が言うことは絶対」
「いかに派閥に馴染み上司とうまくやるか、という雰囲気が漂っていた」
給与が良くても、仕事や権限の裁量範囲が小さく、上司に逆らえない上意下達的風土はモチベーションを低下させる。その典型が東芝の不正会計事件でも指摘された「ものが言えぬ風土」だ。
上記の企業では、「トップダウンの体制」(科研製薬)、「上司が言うことは絶対」(日本水産)というクチコミが見られる。こうした企業に共通するのはオーナー経営者や実力派カリスマ経営者の存在だろう。
HOYAの鈴木洋CEOは先代の後を継いで2000年に社長に就任して以来、長期政権にある。ファナックは長年カリスマとして君臨した稲葉清右衛門名誉会長に続き、今は息子の稲葉善治現会長兼CEOが絶対的力を握っている。「上の者には絶対に逆らえず、意見することもできない」というクチコミもある。
度重なるリコール隠しや燃費不正問題で注目を浴びた三菱自動車工業は、昨年8月の特別調査委員会の報告書で「部署の上の人は部門の上の人に対してイエスマンの状態」「上はとにかく目標を達成しろ、なんとかしろとしか言わない」という社員の声を紹介している。「閉鎖的な風土」は給与が高くても、社員のモチベーションを下げやすい。
■高給与なホワイト企業ベスト20
▼社員・元社員のクチコミ
・三菱地所
「福利厚生が非常に充実しており、待遇は良い」
「ある種の“おぼっちゃま感”のある会社」
・生化学工業
「穏やかな人が多い」
「評価が低くてもボーナスは5%ほどしか変わらないので、やる気がない人も」
・日本たばこ産業
「自由な雰囲気で、社員間の交流は活発」
・エヌ・ティ・ティ都市開発
「仕事のプレッシャーは小さく、業務量も少ない」
「対持ち株会社も含め、上への説明という『関所』が多い」
・石油資源開発
「有給休暇が取りやすく、残業を強要されることもない」
「50代以上の人は事なかれ主義で活気がない」
日本の伝統的大企業がズラリと並ぶ。一見地味だが、給与面では成果主義色はそれほど強くなく、福利厚生も充実し、子育て費用など生活保障も万全だ。
日本たばこ産業の元社員はクチコミで「福利厚生に関しては日本トップクラスといえよう。住宅補助が(家賃の)7割も出る会社は他にはない。特殊勤務手当等、他にもさまざまな補助がある」と評価する。しかもキッコーマン、キヤノン、本田技研工業のように多くが長期雇用を標榜している。
そして驚くのは月の平均残業時間は20時間前後と短いことだ。週休2日、月20日労働で換算すると、1日1時間前後しか残業していないことになる。有休消化率も6割を超える。今どき珍しいホワイト企業だ。
だが、このような会社で仕事にやりがいを感じるかは人それぞれだ。クチコミの評価もそれほど高いとはいえない日本精工では「実力主義の評価を希望する人には物足りないかもしれない」というクチコミもある。
「周りの雰囲気に合わせないと浮いてしまう」とのクチコミがある会社も。バリバリ働きたいチャレンジ志向の人には合わない風土もある。
■給料は「ほどほど」でも働きがいがある会社20
▼社員・元社員のクチコミ
・アイ・ケイ・ケイ
「平日はノー残業が当たり前」
「上のポストが少ないため長く勤めても収入が上がらない」
・EIZO
「社風は悪くはなく居心地はとてもいい」
「年々給与や福利厚生面での締め付けが進んでいる」
・サンエー
「成果を出せば出すほどのし上がることができる」
「給料を時給換算すると850円ぐらいだった」
・アルバイトタイムス
「成果主義で自由な社風」
「社員同士の交流も活発」
「定年まで働くロールモデルとなる人が少ない」
・エイチーム
「年齢や性別に関係なく事業本部長になれる」
「高校生のような“イジリ”に対応するノリが必要」
推定年収は500万円前後だが、物価水準も低い地方の地場企業の社員にとっては悪くない水準だ。「平日はノー残業が当たり前」(アイ・ケイ・ケイ)、「成果を出せば出すほどのし上がることができる」(サンエー)というクチコミがあるように居心地もよく、仕事のやりがいを感じている人もいる。
東京ガスや大阪ガスのように経営も雇用も安定している公益企業も入っている。ただし、ガス会社3社の40歳の推定年収が600万円前後というのは低い感じもする。東京ガスの40代社員に聞くと「大多数を占める現場の工事やメンテナンス業務の社員を含めた年収はそのくらいかもしれないが、大卒総合職だと40歳の非管理職でも800万円はもらっている」と話す。
しかも「総括原価方式という仕組みがあり、利益の中から給与を払うのではなく給与を払っても利益が出るようにガス料金を算出する。社員にとっては超ホワイト企業」(社員)だけに羨ましい限りだ。
新日鐵住金も現業職と大卒総合職では給与は異なる。現業職は40歳で年収600万円超であるが、総合職は35歳で年収は900万円弱、40歳で1000万円を超えている。
(ジャーナリスト 溝上 憲文、プレジデント編集部 本西 勝則 データ協力=東京商工リサーチ、Vorkers)
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