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自動運転車が事故ったら、誰の責任なのか

プレジデントオンライン / 2017年8月18日 9時15分

レクサス新型LSが自動で車線変更を行う様子(写真提供:レクサスインターナショナル)

自動車業界を根本から変える技術として注目を集める「自動運転」。世界各地で研究が進むなかで、「事故の責任」については結論が出ていない。日本などは「自動運転時でも運転者に責任」としているが、ドイツは法改正で「自動運転システムに事故の責任がある」と踏み込み、公道走行を後押しする。日本の課題は何か? 元レーシングドライバーで自動車評論家の桃田健史氏が解説する。

■議論している間に内容が古くなってしまう

自動車業界で今、最もホットな話題は自動運転だ。経営者も、エンジニアも、大学の研究者も、そしてメディアも、AI(人工知能)やEV(電気自動車)と自動運転を絡めて、自動車の未来を語ることが多い。

しかし、往々にして、そうした議論はピンボケしている。なぜならば、自動運転に関する世界各国での動きが流動的で、いち企業やいち行政機関では現状把握することが難しく、社内や省内で議論している内容がドンドン古くなってしまうからだ。

筆者は定常的に世界各地を巡り、自動運転を含む自動車産業の最新動向を追っている。自動車メーカー各社の幹部や行政機関の関係者とコンフィデンシャルな意見交換をすることも多い。

本稿では、自動運転に対して一般の方から聞かれることが多い質問に答えるという形式で、自動運転の現状と今後の課題を紹介する。

■どのメーカーが自動運転で進んでいるのか?

結論からいうと、自動車メーカーというくくりでは評価できない。

あえて言うなら、リーダーはジャーマン3 (ダイムラー、BMW、VWグループ)だ。なぜならば、自動車技術の歴史はジャーマン3の歴史とほぼ同じであり、新しい技術領域に対して彼らは常に「リーダーであり続ける」ために手段を選ばないからだ。

近年の自動運転バブルともいえる状況下でも、ジャーマン3はドイツの自動車部品大手のボッシュとコンチネンタルを“操りながら”、高精度三次元地図の大手である独Here(ヒア)に3社共同で投資し、米インテルや米エヌビディアなどの大手半導体メーカーを巻き込んで、そしてジャーマン3のお得意さまである中国政府と水面下で絶妙な駆け引きをしながら、自動車産業界でのリーダーとして君臨し続けようとしている。

また、ジャーマン3は日本に対する「政治外交」もうまい。今年3月の独ハノーバーで行われた、安倍首相とメルケル首相とのトップ会談に絡めて、自動運転に不可欠な高精度三次元地図などIoT(インターネット・オブ・シングス/物のインターネット化)での日独の連携を『ハノーバー宣言』として明文化した。これは、自動運転の技術について、ジャーマン3の日系ビック3 (トヨタ、ホンダ、日産)に対する影響力が高まったことを意味する。実際、トヨタは自動運転につながる高度な運転支援システムにおいて、トヨタの子会社であるデンソーの他、独コンチネンタルからの受注を今後さらに増やす傾向が見られる。

ジャーマン3以外での世界の動きとしては、米デトロイト3 (GM、フォード、FCA≪フィアット・クライスラー・オートモービル≫)が、シリコンバレーのITメーカーや、ライドシェアリング大手との連携が目立つなど、自動運転のサービス事業化を重視している。

この他、中国は最近、共産党本部が主導する自動車業界再編もささやかれる中、自動運転をきっかけに、自動車産業のデータ産業への転換を狙っているように見える。

■グーグルがスマホのように自動運転でも世界を牛耳るのか?

自動車メーカーが、自動ブレーキや自動車線変更など、高度な運転支援システムの技術開発を徐々に積み上げることで、2030年頃に完全自動運転の実用化を“夢見ている”一方で、IT業界を中心にそれより10年早い2020年頃に完全自動運転による有料サービスを開始しようとしている動きがある。

その筆頭が、Google(グーグル)だ。2000年代に米国防相系の先進研究機関が実施した無人車レースで上位の成績を収めたMIT(マサチューセッツ工科大学)、カーネギーメロン大学、そしてスタンフォード大学などのロボット研究者を雇い入れ、自動運転の開発チームに巨額の資金を投じてきた。そして2016年後半、完全自動運転の事業会社としてWaymo(ウェイモ)を分離し、現在カリフォルニア州やテキサス州の公道で試験走行を続けている。

この他、フランスのNavyaやイージーマイル、アメリカのローカルモータース、そして日本のDeNAやソフトバンクの子会社のSBドライブなど、完全自動運転をバスやタクシーのように活用するビジネスの創出を狙っている。

自動車メーカーはオーナーカー(自家用所有車)を、一方のベンチャー企業はサービスカー(公共機関に近い商用車)という、自動運転に対するアプローチの方法が大きく違う。

こうした二極化した動きが同時進行している。

米インテル社がカリフォルニア州サンノゼ市内で自動運転実験車両を走らせる様子(筆者撮影)

■自動運転車で事故が起こったら、誰の責任なのか?

「自動運転車が事故を起こしたら、それは誰の責任になるのか?」

この命題について、いまだに結論は出ていない。

答えが出ないのは、「自動車の運転は運転者が責任を持つ」という根本的な部分において、「ジュネーブ条約」と「ウイーン条約」という2つの国際条約の考え方が異なるからだ。

ジュネーブ条約では「自動運転システム搭載車でも、運転の責任は運転者にある」としているのに対し、ウイーン条約では一定条件下ではあるが、自動運転システムに運転の責任を任せていいと考えるに至っている。

ジュネーブ条約は1952年発効で、日本、アメリカなど多くの国が批准している(ジュネーブ条約加盟国では、日本で発行した国外運転免許証が有効。参考: http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/menkyo/menkyo/kokugai/kokugai04.html )。一方、ウィーン条約は1977年発効で、ドイツなど主に欧州各国が批准しており、日本やアメリカなどは批准していない。

本稿では両条約の詳細については割愛するが、現時点では両条約による“ねじれ現象”が起こっている。日本、アメリカなど加盟国が多いジュネーブ条約は改正に至っていないが、一方で欧州各国が中心のウィーン条約は2014年3月に改正が採択され、2016年3月に発効した。それを受ける形でドイツ国内の道路交通法が2017年6月に改正された。さらにそれを受けて、アウディが今年7月、運転の主体が人間ではなく“車側のシステムに属する”自動運転レベル3の機能を装備した最上級モデル新型A8の量産化を発表した。

こうした状況下でも、いまだに“システム”の責任と、“運転者”の責任のあり方について、世界各国での共通理解は得られていない。それでもドイツは、法改正で自動運転の実用化を後押しすることで、事実上の標準化であるデファクトスタンダードを狙い、自動車業界のイニシアチブを握ろうとしている。

今後、日本は、法律をどのように整えていくべきだろうか。日本と同じくウィーン条約に加盟していないアメリカと歩調を合わせるのか、それとも前述のハノーバー宣言を重視してドイツと歩調を合わせるのか、はたまた独自路線を行きながら米独との接点を見いだすのか――日本としては、重大な判断の時期が迫っている。

■ 最近、全国各地で自動運転のテストが始まるという話があるが?

ここまで見てきたように、技術の領域でも、法律の領域でも、日本の立場は“微妙”だ。

日本でも、警察庁が定めた自動運転の公道テストに対するガイドラインを踏まえて、全国各地で実証試験が行われており、2017年度はその数がさらに拡大する。各実証実験の目的は、「バスやトラックなど商用車の自動化」「高齢化が進む地域の生活改善」「観光地での移動手段」などバラバラで、大きく4つのグループに分かれている。以下に、それらをまとめた。

(1)SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)

戦略的イノベーション創造プログラム、略称をSIPという。政府主導で産学官連携による次世代産業創出を狙うもので、その一つがSIP-adus (オートメーション・ドライビング・フォー・ユニバーサル・サービス)だ。内閣府が統括する形で、関係各省庁を横串にする国家プロジェクト。メインテーマは、東京オリンピックパラリンピックに向けた東京湾岸地域と首都圏の高速道路での実証試験で、都心での自動運転バスや、東名・新東名・常磐自動車道の一部の300キロメートルを使った大型トラック3台による自動追従走行がある。

(2) 内閣府 国家戦略特区

SIPと同じく内閣府が取りまとめているが、SIPとは違う枠組み。全国各地に特区制度を活用した実証試験の動きがあるが、中でも積極的なのは愛知県。

(3)国土交通省

道路局が中心となり、北海道から九州まで全国13カ所の“道の駅”で、完全自動運転の実証試験を行う。主な目的は、高齢化が進む中山間地域での生活改善。

(4)経済産業省

製造産業局が中心となり、観光地や中山間地域での生活改善を目指す、ラストマイル自動走行。ラストマイルとは、駅やバス停から自宅や事業所まで残り1~2キロメートル程度の距離の移動を指す。全国4カ所で実施。

以上4つはいずれも国が主導するものであり、この他にも、自動車メーカー各社や大学などの研究機関が独自に、全国各地で自動運転の実証試験を行っている。

SIPが6~7月に石垣島で実施した、バス自動運転実証実験。空港と離島ターミナルの間を、自動運転のコミュニティバスが1日4往復した。

日本のように多種多様な内容での実証試験を行っている国はまれであり、自動車メーカー関係者は「日本は自動運転の公道実験が世界一やりやすい環境にある」と語る。日本の実証実験はバラバラと行われているが、実験の数だけ多くても、とても実用化には近づかない。

多様な視点から自動運転を考えてみると、日本が過去にさまざまな産業で味わってきた『先行技術開発で勝って、事業で負ける』という苦い思い出がよみがえってくる。

日本は、技術では世界と互角に戦える可能性が高い。ただし自動運転のキモとなるビックデータについてはアマゾン、グーグル、マイクロソフトなど巨大IT企業との協業が不可欠。また法整備については国連やアメリカの動向を見守るしかない立場であり、今後デファクトスタンダードを狙うためには大きなハードルがある。世界各国で取材をしながら、筆者はそう感じている。

(桃田 健史 文=自動車ジャーナリスト 桃田健史)

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