"死ぬまでSEX"に注がれる高齢者の熱視線
プレジデントオンライン / 2017年8月22日 15時15分
■「バイアグラ」空前の大ブーム
私にバイアグラの効能と使い方を懇切丁寧に教えてくれたのは浅利慶太さんと渡辺淳一さんだった。
紹介するまでもないが、浅利さんは「劇団四季」の創設者で高名な演出家、渡辺さんは札幌医大の医師から作家に転身、『光と影』で第63回直木賞を受賞し、後年は『失楽園』『愛の流刑地』など男女の究極の愛の形を描いた。
ともに私より一回り上で、当時は60代半ばだった。渡辺さんからは、酒を飲み過ぎると危険、コトを始める1時間ぐらい前に飲めなどとアドバイスをもらった。浅利さんからは、彼女とホテルに入ったらシャワーを浴び、裸のままバスローブを羽織り、バイアグラを飲んでワインを傾けムードづくりをしなさい。
バイアグラは相手を好きにならないと効果があまりない。その代わり、恋情をもよおせばこれほどすごい媚薬はない。細部までは記憶が定かではないが、恋をしている相手を口説くがごとく、私に語ってくれた。
その頃、私はまだ“現役“だったから、モテる人は大変だな、とまだひとごとであった。
狭心症の治療薬だったシルデナフィル(バイアグラはファイザー製薬の商品名)が、1998年にED(勃起不全)薬としてアメリカで発売されるや、世界中で大変なブームを巻き起こした。
日本では手に入りにくかったため、『週刊現代』に読者サービスとして輸入代行業をやってあげるから、欲しい人は編集部にハガキをくれとやったら、話題になるのではないかとサジェッションした。
すると想定外の反響で、1万数千ものハガキが来て、編集部は悲鳴を上げていた。
■人類史上例を見ない性生活への関心の高まり
翌年、日本でも販売が始まった。ホテルを取り、彼女を待つ間にバイアグラを飲んだが、結局、彼女は現れず、一晩中勃起したムスコを眺め悶々としていたという「悲劇」があちこちで起きた。
今ではバイアグラ以外にさまざまなED薬があり、24時間立ちっぱなしという注射を打ってくれる医療機関まである。
バイアグラなどのED薬は高齢者の性生活を大きく変えた。昔は還暦過ぎてSEX(セックス)の話をするのは、よほどの好色ジジイだけだったが、今では年金が出たその日に、高齢者たちが、吉原などのソープランド街に朝から列をつくる光景は珍しくない。
老人ホームでは、後期高齢者の三角関係のもつれから刃傷沙汰が起きる。ラブホテルを朝から占拠するのは高齢者カップルたちである。
人類史上例を見ない高齢者たちの性生活への関心の高まりを、優秀な週刊誌編集長が見逃すはずはなかった。
2009年から12年まで『週刊現代』の編集長を務めた鈴木章一氏(現・講談社取締役)は、当時マンネリ化したヘア・ヌードに代わる売りもの企画を考えていた。サラリーマン雑誌を標榜してきた『週刊現代』だが、読者の年齢層は年々上がり、団塊世代が中心になって来ていた。
■「死ぬまでSEX 死ぬほどSEX」戦争
そこで、いくつになってもセックスを楽しもうという大特集を組んだら、見事にヒットし売り上げは急増した。
いくつになってもセックスは楽しめる。60代、70代、80代、そして90代までエスカレートしていった。
ライバル誌の『週刊ポスト』は、一時、ヘア・ヌードはやらないと宣言して部数を落とし、あわてて再開するなど迷走していた。
部数低迷の救世主として『週刊ポスト』の編集長に就任した飯田昌宏氏は、さっそく誌面の改革を行う。現在も同誌編集長を務めている飯田氏は、私へのメールでこう書いてくれた。
「私が編集長になる前年くらいから、『週刊現代』に復帰された鈴木章一編集長が、これまでとは考えられない大ページ数を割いてSEX特集を組み、これが非常に売れていたので、当方も負けてはいられない思いで、編集長に就いた2010年夏くらいから追随したと思います。もとよりSEX特集のノウハウ、スケベ度については雑誌としても個人的にも負けない自信がありましたので」
かくして現代とポストの「死ぬまでSEX 死ぬほどSEX」戦争の幕は切って落とされたのである。飯田編集長は読者の反応にびっくりしたという。
■これまでの「定説」などは嘘っぱちだった
「大きな反響に正直、驚きました。これまでのSEX特集は、『GORO』や『スコラ』などの若者へのハウツーに始まり、ポストでも壮年、中年層への娯楽として提供していたと思いますが、シニア層がこれほどSEX記事を渇望していたとは」
年をとれば性に対する関心は薄れていく、というこれまでの「定説」などは嘘っぱちだった。もちろんその背景にED薬があることは間違いない。
「認識を新たにしたのは、ちょうど定年にさしかかっていた団塊世代の読者が、その年齢にさしかかっても健康(長寿)への関心=長寿欲、投資、財産運用、年金への関心=金銭欲、そして女性への関心=性欲への異常な強さを持っていることでした。この欲望の強さは、彼らより若い世代、現在の若者たちよりもずっと強いのではないでしょうか。そこで誌面でも、こうした団塊世代向けのSEX記事を意識して特集するようになりました」(飯田編集長)
私が『週刊現代』編集長時代、苦し紛れにひねり出した「ヘア・ヌード」という言葉は、一時大きなブームになった。
■朝日新聞が批判した「ヘア・ヌード」
それまでは一般週刊誌にヘアが映り込んでいるグラビアが載ることなど考えられなかった。『チャタレイ夫人の恋人』『四畳半襖の下張り』裁判など、猥褻表現の自由を争う裁判は多くあり、有識者たちが論陣を張ったが、権力の壁にことごとく阻まれてきた。
だが、時代が少し動きだし、「ヘア・ヌード」が後押しして、大げさにいえば、日本の歴史上はじめて猥褻表現の自由が一歩も二歩も前進したのである。
これに対し、世の良識を代表していると錯覚している朝日新聞が、子どもも目にする週刊誌にヘア・ヌードを掲載するのはいかがなものかと批判してきた。JALやANAをはじめとする航空会社も、機内誌から現代とポストを外すという動きに出た。
私は、せっかくここまで進んだ性表現の自由を後戻りさせてはいけない、と朝日新聞に反論した。桜田門(警視庁)の担当者とも話して、これ以上過激なことをやる考えは、私にはないといった。
そのためか、いまもヘア・ヌードは健在である。だが、当局のさじ加減一つで、いつまた四半世紀前に逆戻りするかもしれない状況は変わってはいない。
私は「人間の欲の中で衰えないものは、食欲と性欲だ」と編集長時代によくいっていた。だがその頃の対象読者層は30代から40代である。
だが自分が70代になって、まだかすかだが性に対する欲望がくすぶっているのを感じる。いざ鎌倉というときのためにバイアグラを財布に忍ばせてある。使うことはなさそうだが。
■両誌の苦心のタイトル
話を死ぬまでセックスに戻そう。こうしたセックス記事で難しいのは、いい方は悪いが、やることは一緒なので、バリエーションの付け方や目新しい見せ方について、死ぬほど考えることである。
両誌の苦心のタイトルをいくつか紹介しよう。
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「飛び出して震える四次元エロ動画」(ポスト)
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「60歳からのSEXは『早くて強く』が気持ちイイ」(現代)
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きっと担当者は血の小便を流しながら考えているに違いない。
これだけED薬が普及して、週刊誌にヘア・ヌードがあふれ、ネットでは過激なエロ動画が簡単に見られるのだから、高齢者たちは夫婦でセックスを日々楽しんでいるのではないだろうか。
■高齢者をひきつけるネットのエロ動画
『週刊現代』(7/22・29号)の「週現世代 夫婦のリアル『セックス白書』」によると、60代以上の夫婦では、「月平均3.74回 1回あたり25.11分」であるという。
これを多いとみるか、少ないとみるか。バイアグラ以前のデータが手元にないので比較はできないが、ほぼ週イチだから、やや少ないのではないか。
セックス記事に対する読者の反応はどう変化してきたのか。飯田編集長はこういう。
「影響という意味では、記事に対して一番手応えもあり、関心の高さを感じさせられたのが、無修正エロ動画の特集ではないかと思います。その昔、家庭用ビデオデッキの爆発的普及に、アダルトビデオが貢献し、一部では裏ビデオをおまけにつける販売店があったと聞きます。高齢者がスマホを使いこなすようになった原動力のひとつも、ネットの無修正エロ動画ではないか、と。その種の特集を組むと、まだよくスマホを使いこなせないような高齢者の読者から、どうやってアクセスするのか、少なからず電話の問い合わせがありますからね」
ここでもIT格差があるようだ。
不謹慎ないい方で申し訳ないが、これから医学が進歩して、60代、70代の女性でも望めば子供を産むことができるようになれば、この国の少子化問題はあっという間に解決するのではないか。
元気でセックスに強い関心を持っている高齢者や後期高齢者を活用してこそ「1億総活躍社会」だと思うのだが、いかがですかな安倍首相。
(ジャーナリスト 元木 昌彦)
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