安倍首相は"死んだふり改憲"を狙っている
プレジデントオンライン / 2017年8月22日 9時15分
■読売に始まり、読売で終わる?
安倍氏は5月3日、読売新聞で改憲に向け「2020年に施行」を目指すと表明。その後、改憲に向けた決意を語り続けてきた。まとめると、
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(2)今秋の臨時国会に自民党の改憲原案を提出する
(3)来年2018年の通常国会で、衆参3分の2以上の賛成で可決、発議する
(4)18年中に国民投票
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というスケジュールになる。この通り進んでいけば、施行は19年中に可能。5月に安倍氏自身が描いた「20年施行」より速いペースとなる。いかに安倍氏が改憲に前のめりだったのかうかがえる。
状況が一変したのは7月2日の東京都議選の敗北。そして報道各社の世論調査で内閣支持率が大暴落。これを受けて安倍氏は8月3日の記者会見で、「憲法施行70年の節目で、憲法はどうあるべきか議論を深めていく必要があるとの考えから一石を投じた。しかしスケジュールありきではない」と語り、自身の発言を修正した。
翌4日の在京紙は6紙中、朝日、読売、毎日、産経、東京の5紙が1面トップで報じた。3日には内閣改造が行われている。そのニュースを脇に追いやってトップで扱われたところからも、安倍氏の発言の重大さが分かる。読売は翌5日の朝刊で「改憲案 秋提出見送りへ」という記事を掲載。読売が火を付けた改憲論は、3カ月後、読売が沈静化させるという皮肉な展開となった。
■変化のきっかけは世論調査
確かに自民党内の議論はペースダウン。間もなく夏が終わりに向かおうとしていることを考えると、(1)の「夏の間に論点整理」は間に合わないだろう。実際、3日の記者会見のころは、安倍氏もかなり弱気になっていた。
しかし、その状況は変化の兆しがみえる。自民党内には「再び改憲への決意をみなぎらせ始めた」という観測が少なくない。
変化の原因は、内閣改造後に行われた世論調査である。改造では、安倍氏に距離を置いてきた野田聖子氏を総務相に、河野太郎氏を外相に抜てきしたことが評価され、内閣支持率は数ポイント向上。このことは、8日にアップした「『マジで危険』を避けた安倍首相の反省度」に詳しいので参照いただきたい。
この結果、自民党内では、「政権の支持が下げ止まったので、再び改憲に力を入れるべきだ」という声が台頭し始めている。
だが、安倍氏自身は、このような楽観的な分析をしているわけではない。むしろ世論調査の別のところに注目し、危機感を抱いている。社によって微妙に違うが、最新の調査を分析するとある傾向が出る。公明党支持層や支持政党なし層では、失われた信用をかなり回復している。そのことは安倍氏にとってはありがたい。その一方で自民党支持層は、横並びもしくは微減という状況になっている。
■安倍首相が大事にしてきた「コアな保守層」
安倍氏は2012年暮れに首相に返り咲いたのは、自民党支持層の中でも保守的な層が粘り強く支援してくれたからだと信じている。そして、4年8カ月の間、その層を大切にしている。だから13年12月、周囲の反対を押し切って靖国神社を参拝。その後も中国、韓国には譲歩し過ぎない姿勢を貫き、内政でも保守的な政策を続けてきた。
そのコアな支持層は、野田氏や河野氏を重用する人事を行い、改憲スケジュールを白紙化するような言動を行った安倍氏に失望している。そして、恐らく8月15日、安倍氏や閣僚が1人も靖国を参拝しなかったことに不満を持っている。
この状況に危機感を持つ安倍氏は、コアな人たちの支持をつなぎ留めるためにも、再び改憲に向けてアクセルを踏むタイミングをうかがっているとみてよさそうだ。
安倍氏を代弁するように、自民党の高村正彦副総裁は15日行った時事通信のインタビューで、臨時国会への改憲原案提出方針について「できればそうしたい。最初からスケジュールを放棄するのはよくない」と発言している。来年の自民党総裁選で安倍氏の3選支持をいち早く打ち出し、党内の改憲議論の司令塔でもある高村氏は、安倍氏と連携をとりながら発言をしている。
3日の安倍氏の「スケジュールありきではない」と15日、高村氏の「スケジュールを放棄するのはよくない」。2つの発言の微妙な違いからも、改憲に対し再度アクセルを深そうとしている気配が感じ取れる。
■狙うのは31年前の再現か
1986年、当時首相だった中曽根康弘氏は7月の参院選にあわせて衆院を解散し衆参同日選を行うとの観測を否定し、野党側が油断したところで解散に打って出た。後に中曽根氏が「(86年の)正月からやろうと考えていた。死んだふりをしていた」と語ったことから「死んだふり解散」として戦後政治史にその名をとどめている。
この中曽根氏にあやかり、何年か先に「2017年夏も改憲は全くあきらめていなかった。死んだふりをしていた」と安倍氏が語るようなことになるのだろうか。と、すればこれは「死んだふり解散」ならぬ「死んだふり改憲」として長く語られていくことになるのだろう。
(写真=時事通信フォト)
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