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「定年後」の給与引き下げは認められるか

プレジデントオンライン / 2017年9月19日 9時15分

法律改正で企業は社員を65歳まで継続して雇用しなければならなくなった。60歳の「定年」を迎えた後は給与が大幅に下がるのが普通だが、定年後の給与引き下げには裁判所の判断もゆれている。さらに政府は65歳以降も働くことができる社会を目指している。そのとき給与はどうなるのか。企業とシニア社員がお互いに満足する方法とは――。

■定年後の賃金ダウンは違法か?

「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(高年齢者雇用安定法)が改正され、65歳までの継続雇用は企業に義務づけられました。たいていの会社では、定年延長後の賃金水準は大幅に下がります。

ところが、2016年5月13日、東京地裁で驚くべき判決が出ました。これは、横浜市の運送会社で定年再雇用後のトラックドライバーが起こした裁判で、「仕事内容が変わらないのに、年収が定年前より2~3割下がるのはおかしい」という訴えです。これに対して裁判長は、「定年前と同じ立場で同じ仕事をさせながら、給与水準を下げてコスト圧縮の手段にするのは正当ではない」として、会社側に賃金差額の支払いを命じる判決を出したのです。

これは、企業がこれまで実施してきた定年後の継続雇用方針に対して、根本的な見直しを迫る判決といえます。多くの企業は、65歳まで継続雇用する代わりに、「再雇用後の賃金については、企業と労働者の合意に委ねる」という前提で、賃金水準を設定しています。これがアウトということになれば、人事制度の大幅な見直しを迫られることになるからです。

その後、2016年11月2日の控訴審で、東京高裁は、「定年後に賃金が引き下げられることは社会的に受け入れられており、一定の合理性がある」として、一審の判決を覆しました。しかし、今回の判決をきっかけに、同様の訴えを起こす人が増える可能性は高まったといえるでしょう。また、今後の国会審議が予定されている同一労働同一賃金関連法案のゆくえも気がかりです。

では、企業はどのような対策を打てばいいのでしょうか。

「定年前と同じ仕事をさせながら、給与水準を下げてはいけない」というのであれば、選択肢は大きく2つです。賃金を下げないか、同じ仕事をさせないか、ということになります。

トヨタ自動車は、2016年1月より、工場で働く社員に対して「一定の条件を満たせば現役時代と同水準の待遇で働き続けられるコース」を設定して話題となりました。しかしながら、このような思い切った選択のできる会社は、人件費負担の面からも限られるでしょう。

では、「賃金水準は下げるけれど、仕事内容も大幅に見直す」のか。これも、ちょっと先走りしすぎだと思われます。現時点では、「賃金水準は下がっているが、仕事内容も変更している」ということを証明できるようにしておく、というのが企業側の現実的な対応策ではないでしょうか。

例えば、「現役時代と同じように営業部門ではあるが、チームリーダーから営業マンに役割変更しており、責任範囲も軽減されている」、あるいは「定年前よりも、営業担当範囲や売り上げ目標が縮小している」といった感じでしょうか。

■シニア社員のやる気をどう引き出すか

2015年、東京電力は、60歳以降の雇用延長社員の処遇改善を打ち出しています。電力自由化や福島第一原発の廃炉作業に備えて、業務や技術に熟練した社員の定着や士気を高める狙いのようです。

65歳定年時代を見据えて、定年再雇用制度(=シニア社員制度)のあるべき姿を考えてみたいと思います。

シニア社員制度を再検討する際には、次の観点で考えるとよいでしょう。

(1)雇用形態、コース分け

65歳までの雇用が義務づけられると言っても、雇用形態について制約が設けられているわけではありません。実際、正社員の定年を延長する会社は少数派で、再雇用後には(嘱託)契約社員として雇用するケースが大半です。

雇用形態やコース分けで考えるべきは、社員ごとの意向や能力に加え、会社がコントロールできる柔軟な制度にしておくことです。社員ごとの意向とは、どのような勤務形態(出勤日・時間)で、どのような仕事をしたいか、といった希望条件。能力とは、定年前のポジションに対する能力ではなく、むしろ定年後の職務に対する能力や貢献度を示しています。一方、会社側のコントロールとは、経営環境や部門ごとの人員計画・年齢バランスなどに応じて調整しやすい仕組み、という意味です。

例えば、人材が不足しがちな中小企業の中には、優秀人材は60歳以上も管理職や高度技能職として活躍を期待する会社が多くあります。一方で、義務化前なら再雇用契約しなかったであろう、評価の低い人材が存在しているかもしれません。

そこで、対象者一律の再雇用制度ではなく、以下のようなコースを設け、社員ごとの能力や意欲に応じて、会社がコース選択できるようにすることをお勧めしています。

■シニア社員制度は「多様化」していく

(2)給与・賞与制度

再雇用後の賃金については、定年前の給与水準をベースに決定するケースが多く見られます。「定年前の基本給×60%」といった決定方法です。

しかしながら、定年前の給与水準はあくまで、それまでの役割や貢献によって決定された賃金です。本来は、60歳以降の職務や役割、貢献度に応じて決定するのが、妥当ではないでしょうか。

そこで、定年までの役職、等級、給与水準といった要素はいったんご破算にし、60歳時点での能力を再評価して、その後の役割により等級ランクや賃金決定する方式を検討すべきです。

たいていの会社で、定年後も引き続き意欲を持って仕事をする人がいる半面、急速にやる気をなくし消極的な姿勢になってしまう人が存在するのも事実です。緊張感を維持してもらうためにも、60歳以降も給与や賞与は変動する、という仕組みが望ましいと考えます。

(3)シニア社員の人事評価

再雇用後の社員には、目標管理や人事評価を行わない会社があります。また、多くの場合、再雇用後は仕事の役割が変わるにも関わらず、それを明文化し、本人に伝えることを怠っているのではないでしょうか。しかし、それでは定年後の緊張感が維持しづらくなるだけでなく、自らの役割認識が希薄になってしまいます。

そこで、シニア社員にこそ目標管理を実施し、年度ごとの期待役割や期待貢献を明確にし、達成度確認や人事評価も行うべきです。できれば、それを賃金だけでなく、表彰制度やインセンティブに反映してみてもよいでしょう。シニア社員に対しても、仕事に対する意欲や達成感を、高く持ち続けてもらう仕組みが必要なのです。

政府は昨今、65歳以降も働き続けられる社会の実現を目指そうとしています。一方で、労働者側も、「できれば65歳を超えても働きたい」という人が少なくありません。日本人ならではの傾向だと思いますが、この点においては、政府と働く人の考えが一致しているのです。企業は、65歳以降の雇用について、真剣に考えるタイミングを迎えています。

シニア社員制度のキーワードは「多様化」です。各人の意向や能力、組織上の必要性に応じて、定年後の仕組みを考えていくことが重要なのです。その際には、兼業・副業推奨や起業支援プランなども、有力な選択肢となるでしょう。

(新経営サービス 常務取締役 人事戦略研究所所長 山口 俊一)

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