気象予報士が"天気が悪い"と言わないワケ

プレジデントオンライン / 2017年9月14日 9時15分

情報を発信すれば、意図しなくても人を傷つける可能性がある。特にネットの情報は、いつ、どこで、誰の目にとまるか、想像するのが難しい。広報のプロである大谷恵さんは「炎上を避けるには『3つのFの視点』が重要になる」としたうえで、「だから、気象予報士は『天気が悪い』とは言いません」と説明する。それはどういう意味なのか――。

■情報の発信はどこかの誰かを傷つけている

私は、「広報」の仕事をしています。広報とは、「広く報(しら)せる」の文字通り、「新製品が出ます」「新しい取り組みを始めました」「こんな事業を行っています」といった情報を社内外に広め、「選んでいただく」=「ブランドを高める」ための仕事です。

広めるべき情報を峻別し、「攻め」と「守り」のバランスをとりながら「真意を伝えるコミュニケーション」が求められる仕事です。私はこの仕事をとおして、「広めるべき情報」と「出さない情報」を区別する癖をつけてきました。

それでも、ミスすることがあります。

仕事のひとつに、毎週19万人の読者にむけてエグゼクティブコーチが書くコラムの編集発行があります。

東北の震災から2年ほど経ったときのことです。「何十年もかけて、何万本もの桜を植樹する」という、ある地域の活動をテレビで知りました。放射能問題などで土地を離れた人たちがいずれ帰ってくるようにという願いをこめ、地元の人たちを中心に桜を植え続けるという活動でした。その取り組みにつき動かされ、編集後記で触れたのです。

すると、即レスとも言えるスピードで2人の読者の方から返信メールが届きました。 放射能汚染についての私の微妙な書き方が「この地域は使えない土地になった」という印象を与え、風評被害を拡散する、というご指摘でした。

茫然としました。「未来にむけて頑張る人を応援したつもりだった。読んだ人たちは私と同じように共鳴してくれると思っていた。なのに、怒っている人がいる。何が起きたのだろう?」と。

あのとき、私には「編集後記にまで目を通しているのは、ごくごく数名の人たちだろう」という油断が明らかにありました。さらに、「読んでくださった人はみな、この内容に共感してくれるだろう」と独りよがりの思いを抱いていたのだと思います。

この経験をとおして私が痛感したのは次のことです。

・ネットの情報は、いつ、どこで、誰の目にとまるか、想像するのは難しいこと
・発信するときは、正確性や表現の細部にまで神経を研ぎ澄ませる必要があること
・意図しなくても、人を傷つける可能性があること

読売新聞の一面コラム「編集手帳」を長年執筆し、日本記者クラブ賞を受賞している竹内政明論説委員は、著書に「私のコラムは、いつ、何を、どう書いても、知らず知らずにどこかの誰かを傷つけている」と書かれています。大ベテランの専門家でさえ、そう肝に銘じて、日々ペンをとっているのです。

では、誰もがメディア化した今、炎上リスクを減らす手立てとはどのようなものなのでしょうか。

■スローコミュニケーションに変える「3つのF」

意図しない炎上が起きる理由のひとつには、即返信、即回答が求められる中で、既読スルーを避けるために即座に絵文字を送るといった、「ファストコミュニケーション」も背景にあります。

この「ファストコミュニケーション」の流れにのまれないために必要なこと、それは、日々押し寄せる情報や事柄と向き合う「間」を意識的にもつことだと思います。「あえて」一拍おく余裕ともいえるでしょう。

私の場合は、「3つのF」の視点で「言う」「黙る」「伝える」のいずれにするかを考えるようにしています。

まず、自分の見方や解釈には、何らかの偏見や癖があることを自覚する。そして、「それは本当のことなのか?」「他の見方はないのか?」と一度踏みとどまり、確認する。この、「一瞬の間」をもつために軸となる視点です。

(1)Fact:ファクト(事実 = 出来事、情報、事柄、行動、現象など)
 ひとつの事柄や情報、出来事を、感情を排除してとらえる

(2)Feeling:フィーリング(感情 = 感想、感覚、印象、解釈、意見など)
 それに対して、自分にはどんな感想や意見があるのか、また、他の人や集団にはどんな感想や意見があるのか、に想いを馳せる

(3)Future:フューチャー(未来 = 将来像、期待、先行きの予想など)
 ファクトとフィーリングをふまえて、言うのか言わないのか?あるいは、何をどのように伝えるのか、を考える

例えば、「降水確率が高い」というファクトについて、「遠足なのに残念だ」(フィーリング1)と思う人もいれば、恵みの雨を待ちこがれた農家の人は「嬉しい」(フィーリング2)と感じるかもしれません。「雨が降る」ということは全ての人に“悪い”とは限らない、ということを前提に、気象予報士は、「天気が悪い」とは言わない(フューチャー)のだそうです。

この3つFの視点は、日常の対面の場でも活用できます。

例えば、「子どもがテストで50点を取ってきた」(ファクト)とします。それに対して、「嬉しく思った」のか「怒りがこみあげてきた」のか?また、子ども自身は、この点数をどう捉えているのか?(フィーリング)を考えます。

それらを踏まえながら、「今後にむけて、子どもにどのような言葉をかけると良いのか?」(フューチャー)を決めます。

ひとつの情報や現象をこの3つのFの視点で考えることで、「事実」と「意見」「他人の説を元にした自分の考え」の混在がなくなるという利点もあります。

独りよがりでない、複数の視点での検証、意見や思想の異なる人たちの立場に立って考え方や捉え方を考慮すること、その情報を発信することで、未来、そして周囲の関係者へのどのような影響を及ぼすかまでを考える時間をもつことができます。

「言う」「黙る」「伝える」の選択肢を一瞬考えるための「間」をもつことで、意図しない炎上リスクは大幅に削減できるのではないでしょうか。

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大谷恵(おおたに・けい)コーチ・エィ 広報スペシャリスト
上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒業。商社、国際博覧会事務局、アーティストの個人事務所、輸入車メーカーなどを経て、2006年、日本を代表するエグゼクティブ・コーチング・ファーム、株式会社コーチ・エィに広報のプロフェッショナルとして入社。テレビ、新聞、雑誌、ウェブ媒体などに「システミック・コーチング」の情報を露出する他、19万人の読者をもつコーチ・エィ発行のメールマガジン「WEEKLY GLOBAL COACH」のコラム編集、広報誌発行、書籍出版企画などを行う。エグゼクティブコーチによる人気コラム「Coach's VIEW」の編集を、10年にわたり担当。コーチとしては、企業や医療、出版、教育などの分野で活躍するリーダー層にコーチングを行う。

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(コーチ・エィ 広報スペシャリスト 大谷 恵)

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