分裂阻止で抱きつかれた前原民進党の前途
プレジデントオンライン / 2017年9月15日 9時15分
■「改憲メッセージ」は民進党の分断を狙った
9月1日の民進党代表選で、前原誠司元外相が党首に選出された。代表選では、共産党との選挙共闘、消費税増税、経済政策、野党間の連携や政界再編、原発とエネルギー、憲法改正問題などが争点となったが、前原氏はこれらの論争では長く党内で少数派だった。
2014年6月、テレビ番組で日本維新の会との合流の可能性について 「100%」と発言して話題を呼んだことがある。党内では同調論ではなく、違和感が圧倒的に強かった。
前原氏は「プレジデントオンライン」の筆者のインタビューで発言の意図を、「政策・理念が共有できれば、他の野党と100%合流して自公政権とがっぷり四つを組める体制を整えることが大事。野党の『大きな家』をつくるという意味」と説明した。党再生か野党再編かという問題では、「非共産」での野党再編を視野に、という姿勢を示した。
「党内少数派」のもう一つの理由は改憲論者という顔だ。蓮舫前代表らと争った16年9月の代表選では、憲法第9条に第3項を設けて自衛隊の位置付けを明記する案を唱えた。
今回の代表選で争った前原氏、枝野幸男元幹事長とも、安倍晋三内閣が成立させた安全保障法制を憲法違反と断じる。その上で、憲法案については、枝野氏は「『専守防衛』の範囲で自衛権と自衛隊を憲法に明記して自衛権行使に歯止めを」と主張し、前原氏は「安保法制を残したまま、9条改正に手を付ければ、違憲の追認となる。今、改憲が最重要事項とは思わない」という姿勢だ。ともに「安倍流改憲ノー」を唱えて一線を画している。
だが、今年の5月3日、安倍首相が発した「改憲メッセージ」は、党内に護憲派と改憲派が混在する民進党の分断も企図した高等戦術だったと見ることもできる。
安倍首相は「新憲法の2020年施行」と併せて、「9条への3項追加による自衛隊明記」「教育無償化」を提唱した。前者は「加憲」の公明党で議論されてきたプラン、後者は維新が主唱する構想で、友党2党の抱き込みが安倍首相の目的と見た人が多かった。
■前原代表選出は民進党大分裂の序曲か
それだけでなく、民進党分断という狙いも見え隠れした。「9条第3項で自衛隊明記」は、公明党の検討案と同時に、先述のように前原氏の持論であった。安倍首相は民進党の改憲派も引き寄せる作戦で、リーダー格の前原氏をターゲットに、と企図したのだろう。
今回、民進党を背負うことになった前原代表は、憲法問題について、前述の「プレジデントオンライン」のインタビューで、こう述べている。
「創憲という立場。今の憲法をすべて守るということではありません。改憲の中身については是々非々です。議論には乗れると思います。自民党と公明党が憲法案を出してくれば中身の議論には応じます。ですが、自民党と公明党では多分、まとまらないでしょう。それでいいんですよ。野党再編との関係でいえば、改憲の中身についてある程度、議論しておけばいい。国民は社会保障や日頃の生活に重きを置いています。憲法改正は一義的に国民の関心事にはなりません」
この基本姿勢は3年後の今も不変と見て間違いない。改憲派だが、国民が改憲を最重要課題と捉えていない以上、憲法改正を優先的に推進する必要はないという考えである。
民進党内の「民・共」共闘派や護憲派は、細野豪志元幹事長ら離党者続出という流れを見て、党内の綱引きでいつまでも前原氏を少数派に押し込めておくと、党分裂は必至で、結果的に分断を狙う安倍首相の思うつぼ、と危機感を抱き、今回の代表選では前原氏選出を容認した。いってみると、党分裂阻止のための前原氏抱きつき戦術と映る。
問題は前原体制の民進党の今後である。代表選の争点のうち、分裂要因となりそうな主要テーマは、「民・共」共闘、維新や「小池新党」などとの連携、憲法改正問題だ。前原代表のリーダーシップで「反共・非自公・改憲是々非々」で党内を一本化し、自公政権に対抗する勢力を結集して、2大政治勢力による政権交代可能な政党政治を再現できるのかどうか。前原代表選出は党大分裂の序曲で、「民進党の終わりの始まり」と予想する声もある。その結果、「1強多弱」が長期固定化する可能性は大きい。
カギを握るのは、政党や政治家ではなく、国民の側だ。民意という点では、ポピュリズム横行の懸念はもちろん消えないが、何回かの政権交代を体験し、現状と将来を見据えて、総和として冷静な判断を示す成熟した国民の意思が決め手となる。
■「改憲より国民生活」前原民進党は支持されるか
国民の多くは今も政権交代可能な政党政治の再現を望んでいると思われる。民進党の最大の課題は、今や完全消滅状態となった国民の期待感の再醸成だ。前原体制が民意を正確に吸収して「健全で強力で効果的な政党政治」を創出できるかどうかが最大のポイントである。
一方、安倍首相は、今年前半の大逆風にもかかわらず、悲願の「在任中の改憲実現」こそ政権の達成目標という強い意志を失っていないはずだ。8月3日の内閣改造後、「改憲スケジュールありきではない」と口にしたが、改憲断念を明言したわけではない。
1カ月後、前原登場を見て、従来の自民、公明、維新などの各党に、民進党改憲派も含めて「改憲勢力」大結集の道が開けてきた、と手をたたいている姿も思い浮かぶ。だが、前原代表は「改憲より国民生活」の方針を守り、安倍流改憲プランには乗らないだろう。
有権者は、「改憲より国民生活」の前原路線を支持するのか、「重要課題に対案を示さずに反対だけを唱える野党」と見て背を向けるのか。他方、安倍流改憲に対しても、「国民軽視の理念押しつけ型改憲」という批判は今も強い。安倍流も「国民生活に結びつく改憲案」を用意できず、支持が広がらないという欠陥を抱える。
現実の攻防は、安倍首相が「在任中の改憲実現」を具体化できるのか、それとも野党側が時間切れに追い込んで安倍流改憲プランを葬るのか、という展開となりそうだが、有権者は、憲法問題への対応を通して、どちらが政権を託すのにベターな政治勢力か、そこを見抜こうとしている。来年12月までに必ず実施される次期総選挙で、「冷静な判断」が示される。逆に国民の側は、きわめて高度な政治課題について、どんな答えを書けばいいのか、本当の意味で「成熟度」が問われることになるだろう。
(作家・評論家 塩田 潮 写真=AFLO)
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