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「消費税5%」なら会社員の給与は増える

プレジデントオンライン / 2017年10月6日 9時15分

安倍政権がデフレ脱却に向け導入した金融緩和。企業の業績は好調に転じたが、利益は労働者に配分されず、むしろ実質賃金は低下している。経済アナリストの森永卓郎氏は「実質賃金を増やすには、消費税を5%に引き下げればいい」と主張する。なぜ消費税を引き下げると実質賃金が増えるのか。デフレ脱却の「秘策」を解説する――。

※以下は森永卓郎『森卓77言 超格差社会を生き抜くための経済の見方』(プレジデント社)から抜粋、再構成したものです。

■賃金水準全体が伸びにくいのは、本当だった

厚生労働省が発表した2015年度の毎月勤労統計調査によると、物価上昇を調整した後の実質賃金は、前年比0.1%下落しました。これで実質賃金の低下は5年連続となりました。実質賃金が5年も連続して下がるのは、日本の歴史上初めての事態です。2016年の実質賃金は5年ぶりに増加に転じましたが、基本給にあたる「所定内給与」は前年比0.2%増にとどまりました。全国的な人手不足の中、フルタイム労働者より給与が低いパートタイムの割合が増えていることで、賃金水準全体が伸びにくくなっています。

アベノミクスで労働市場は大きく改善し、株価も上がりました。しかし、なぜ私たちの賃金が、上がらないのでしょうか。安倍政権は、デフレからの脱却を目指すため、大規模な金融緩和に踏み切りました。金融緩和を行うと、二つの効果が経済に表れます。一つは、対国内の効果です。お金の供給を増やすのですから、お金の価値は落ちます。それは、裏返すと物価が上がることを意味します。実際、それはうまくいきました。15年間にわたって下がり続けた物価が、少なくとも下落はしなくなったからです。

もう一つは、対外的な効果です。金融緩和は、「円」の供給を増やすのですから、円が安くなります。つまり、為替が円安に向かうのです。これも、もくろみ通りでした。民主党政権末期の12年11月に79円だった対ドル為替レートは、あっという間に100円台になったのです。

為替は輸出産業の業績を劇的に変動させます。1ドル=70円台の円高で国内事業損益や営業損益が赤字転落していたトヨタ自動車は、史上最高益を生み出すようになりました。しかし、金融緩和の経済効果は、それだけにとどまりません。金融緩和で物価が上がっても、賃金はすぐには上がりません。したがって、金融緩和の初期では、実質賃金が低下します。そのことが輸出競争力を増し、ますます輸出が増えるのです。

■タックスヘイブン課税、消費税減税を実施すれば、税収は増える

つまり、アベノミクスは、初めから実質賃金の低下は見越していたのです。ただ、低下は一時的なもので、経済が好転すれば大きな賃上げが生じて、実質賃金も上昇に転ずるとみていました。

その点が唯一、アベノミクスが見方を誤ったところでした。企業の儲けは、大きく拡大しました。しかし、企業は利益を内部留保で抱え込んで、労働者にほとんど配分しませんでした。その傾向は続いているどころか、もっとひどくなっていると思われます。

例えば、トヨタ自動車の2015年のベースアップは4000円でしたが、2016年は1500円でした。史上最高益を出しながらも、ベースアップは半額以下だったのです。2017年は円高で採算が悪化したこともあり、ベースアップは1300円とさらに下がりました。

企業に任せていても賃金が上がらないことが明らかになったのですから、本来、政府がやるべきことは、労働者の手取り所得が増えるようにする政策です。そのために一番簡単な方法は、消費税率を5%に戻すことです。

そうした話をすると、「消費税を下げる財源などない」という話になってしまうのですが、財源はあります。それはタックスヘイブン課税です。日本は、すでに米英を抜いて、世界一のタックスヘイブン利用国になっており、その額は80兆円にも達します。ここに課税をすれば、10兆円単位の税収がすぐに入ってくるのです。

■プライマリーバランスを考えて行動する人などいない

いま経済学者の間で、プリンストン大学のシムズ教授が提唱する「シムズ理論」が注目されています。シムズ理論の骨子は「実質政府債務が将来のプライマリーバランスの割引現在価値と一致するよう物価が調整される」というものです。

この理論に基づいてシムズ教授は、「アベノミクスの金融緩和でデフレが脱却できない理由は、物価目標を達成する前に消費増税をしたからだ。今後は物価目標を達成するまでは、少なくとも消費税増税を凍結するべき」だと主張しています。

現在、学者の間でシムズ理論の評価は大きく分かれています。私は、政策の方向性は正しいと思いますが、理論に関しては若干疑問があります。国民は、プライマリーバランスの割引現在価値などという難しいことを考えて行動していないからです。優秀な経済学者がしばしば陥る罠は、他人も自分と同じくらい頭がよいと思い込んでしまうことです。

もちろん、世の中には頭のよい人もたくさんいますから、シムズ理論もある程度までは成り立ちますが、頭がよい人は一部に限られるので、経済全体としてみると、完全に理論通りには動かないのです。

シムズ教授の言うように、消費増税でアベノミクスが失速したことは事実ですが、その主因は、消費増税によって消費者の実質所得が減少したことです。だから、シムズ教授の指摘通り、消費税率を2019年10月から10%に引き上げたら、デフレ脱却がさらに遠のくのは間違いないのですが、消費税凍結でデフレ脱却ができるかどうかは疑わしいと言わざるを得ません。凍結では消費者の実質所得が増えないからです。

実質所得を増やし、デフレ脱却を確実にするための唯一の方法は、消費税率を5%に戻し、なおかつ将来の再引き上げを政府が明確に否定することでしょう。

■消費税率を下げれば、デフレから脱却できる

日本の財政は、いまや実質的に無借金であると書いたら、信じてくれる人は少ないかもしれません。しかし、それは財務省自身が発表している統計で明らかなのです。

『森卓77言 ―超格差社会を生き抜くための経済の見方』森永卓郎著 プレジデント社

財務省が2016年3月に発表した連結財務書類をみると、2015年3月末で、政府が抱えている広義の負債は1371兆円あります。ただし資産も932兆円あるため、差し引きの純債務は439兆円です。ここで言う広義の政府とは、一般会計と特別会計に加えて、各省庁から監督を受けるとともに、財政支援を受けている特殊法人、認可法人、独立行政法人、国立大学法人など、政府と密接な関係を持つ組織を含めたものです。このように政府の範囲を広めにとると、日本の純債務はGDPの9割程度ということになります。これは一般的な先進国の債務水準です。ところが、実はもう一つ重要なポイントがあります。

2017年1月10日時点で日銀は国債を411兆円保有していましたが、国債の買い増しを続けた結果、5月末に純債務の金額とほぼ並んだのです。

日銀が保有する国債は、元利の返済が実質不要です。日銀の国債を買い入れるということは、国債を日銀が供給するお金にすり替えることを意味します。日銀券は、元本返済も利払いも不要なので、日銀保有の国債は、借金にカウントする必要がなくなります。それが通貨発行益と呼ばれるものです。政府は、これまで通貨発行益を財源として利用してきませんでした。通貨発行益に依存しすぎると、インフレを起こしてしまうからです。

しかし、実質的に純債務がなくなり、そしてデフレが続いているいまこそ、通貨発行益の一部を活用すべきではないでしょうか。例えば、通貨発行益を活用して消費税率を下げれば、確実にデフレから脱却できるでしょう。

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森永卓郎(もりなが・たくろう)経済アナリスト、獨協大学経済学部教授
1957年生まれ。東京大学経済学部経済学科卒業。専門は労働経済学と計量経済学。著書に『年収300万円時代を生き抜く経済学』『グリコのおもちゃ図鑑』『雇用破壊 三本の毒矢は放たれた』『消費税は下げられる! 借金1000兆円の大嘘を暴く』などがある。

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(経済アナリスト、獨協大学経済学部教授 森永 卓郎)

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