英語を学び始めるには"ゲーム"が一番いい
プレジデントオンライン / 2017年10月4日 9時15分
■ゲーム感覚を取り入れた英語学習
【三宅義和・イーオン社長】イーオンでは、今年7月から「英語でおもてなしガイド」というアプリの提供を始めました。これはバーチャルリアリティ(VR)を活用した英会話学習アプリで、専用ゴーグルを着けると、外国人観光客などのキャラクターが現れ、会話が楽しめます。このアプリにゲームの仕組みを取り入れるため、今回のゲストである藤本徹先生に監修をお願いしました。藤本先生はゲーミフィケーション分野の第一人者で、記者発表会でもご登壇いただきました。その節は、ありがとうございました。
【藤本徹・東京大学 大学総合教育研究センター特任講師】こちらこそ、とても勉強になりました。それにしても、多くのメディアが集まり盛況でしたね。それなりの反応はあると思っていました。というのも、最近、VRがブームとなっていて、あちこちでアトラクションが開設されています。それだけにVRを打ち出すと注目されるわけですが、予想以上でした。
【三宅】なぜ、このアプリが注目されたとお考えですか。
【藤本】2020年には東京オリンピック・パラリンピックがあり、外国人旅行者も急増していて、タイミング的に盛り上がっている時期だったということが1つ。加えて、こういう新しいテクノロジーを使った教育というのは、いつも注目されます。スマホが使われ出したときもそうでした。その前はマルチメディア教育だったと思いますが、英会話学校のイーオンさんが、本格的にそこに乗り出したということが大きかったのでしょう。英会話教育の実績とVRをうまく組み合わせて、ゲーム感覚を取り入れたというところに注目が集まったのではないかと思っています。
【三宅】確かにこれまでの会話練習では、「あなたはAさん、私はBさんという形で、このテーマで会話しましょう」と言っても、現実感は薄かったかもしれません。ところが、VRだと臨場感にあふれたものになる。別の言い方をすれば、没入感のある中で練習できるというところがおもしろいですよね。
【藤本】従来だと、ある程度は学習者のイマジネーションに頼っているところがあったと思います。それをビジュアルに可視化して、ボランティアガイドの現場を再現するとか、外国人観光客が東京の街中で行動しているという設定は、とても興味のある要素になっているのではないかと思います。
■ゲームの要素を他のサービスに取り入れる
【三宅】やってみると楽しいですよね。私自身もあらためて新しい学び方だと実感しました。「英語の勉強、本当は嫌いだけども、VRという形だったら、やってみたい」という人もいると思います。このやり方で会話が進んでいくと「おー!」という驚きや感動もあります。
【藤本】それこそゲーム開発のノウハウをもった会社に作り込んでもらったおかげですね。VRだと学習者の脳がよりリアルに感じ、対面の環境、つまり外国人のガイドに近づけます。対面では反復練習にも限界がありますが、VRであれば何度でも繰り返せるのもメリットです。
【三宅】そもそもゲーミフィケーションとは、どのような概念なのですか?
【藤本】簡単に言いますと、ゲームの要素だとか、ゲームの手法を、ゲーム以外のサービスやアプリの開発に応用するという考え方です。そのゲームの要素というのが、例えば、パズルゲームとか、クイズゲームとか、ゲームそのものをサービスに持ち込むという形もあります。「時間制限内でクリアしましょう」とか、「3回までのトライアルで成功させましょう」といった、ゲームのルールを設定して行う場合もあります。
また、ゲームの中でよく使われるポイントや経験値などを数値化・可視化することでレベルアップを図っていくというように、人を夢中にさせるような要素を盛り込むことです。そういったゲームの中で使われている要素を利用して、よりよいサービスをつくろうということです。
【三宅】学習や教育とゲームの融合ということですね。
【藤本】クイズも一種のゲームです。授業の中で「この質問の解答を次の3つから選んでください」という三択テストは、クイズそのものです。そこに、競争の要素や、くじ引きなど運の要素を入れると、さらにゲーム性は増します。あるいはロールプレイングゲームのように生徒各自が役割を演じるということもあります。
【三宅】単に学習というのではなく、ゲームとして参加すると本気になりますし、非常に楽しめますからモチベーションが上がりますよね。得点や時間制限があると、一気にやる気が高まると思います。英語学習でもモチベーションの維持は非常に重要です。そのためにゲーム感覚を入れるというのは、すばらしいことですね。
■ゲームに夢中になるように勉強できる
【三宅】ゲームと教育との関係についてですが、藤本先生のご経歴を拝見させていただくと、大学卒業後は大手予備校に就職。いわば教育分野に進まれています。そこで、ゲーミフィケーションの研究に興味を持たれた経緯を教えてください。
【藤本】私はもともと勉強が好きだったわけでもなく、まして、教えるのが得意でもありませんでした(笑)。憧れてこの分野に進んだというよりむしろ、子どもたちが、自分が受けたような教育ではなく、もっと楽しい教育を受けてほしいと切実に思ったことがモチベーションになっているのかもしれません。
【三宅】ペンシルバニア州立大学に留学されたのもそのためですか。
【藤本】子どもの頃、ゲームに夢中になって「こんなふうに勉強できればいいのに……」と考えた経験は、誰でも持っているのではないでしょうか。そこを研究にしたらおもしろいだろう、と。ただ、日本にいる時はそこまで考えていなかったんです。むしろ予備校で働いていたときは、いかに良い授業を提供するかということを考えていました。
2002年から留学したのですが、その直後の2003、04年ぐらいからシリアスゲーム(社会問題の解決を主目的とするゲーム)を使った教育を普及させようという動きがアメリカを中心に起きてきました。当然、それに取り組む研究者もかなりいたわけです。そのコミュニティも組織されていたので、私も参加しました。
シリアスゲームの代表的なものが、「シムシティ」という都市を開発していくゲームの大学版、つまり大学を経営する「バーチャルU」というゲームがスタンフォード大学の副学長の主導で開発されて、無料公開されていました。米国の大学院などのシミュレーション教材として活用されていましたが、それを目の当たりにしたことが、私が「この分野でやっていこう」と確信を持った理由です。
【三宅】日本人はどうも生真面目なのか、勉強は苦しいもの、努力しなければならないものと捉えがちです。楽しくやるのは勉強ではないという風潮があります。特に、われわれの世代では「刻苦勉励」が尊いとされてきました(笑)。
【藤本】しかし、我慢しなくて、辛くなくて済むものは楽しく学べるほうがいいというのが、私の考え方です。
【三宅】そうですね。英語はそもそもコミュニケーションの手段ですから、コミュニケーションの学習をするのに、苦しい中でやるというのも変な話です。もちろん単語を覚えるという地道な努力は、一方で必要ですが、相手と理解し合うには心を開いて、楽しくやるというのは絶対必要ですよね。
先生がおっしゃった、自分の苦労はさせたくない、自分が学んだようには、これからの子どもにはさせたくない。まさに英語教育に関しても、そのまま当てはまることだと思います。
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東京大学 大学総合教育研究センター 特任講師。1973年大分県別府市生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。民間企業等を経てペンシルバニア州立大学大学院博士課程修了。博士(Ph.D. in Instructional Systems)。2013年より現職。専門は教授システム学、ゲーム学習論。ゲームの教育利用やシリアスゲーム、ゲーミフィケーションに関する研究ユニット「Ludix Lab」代表。著書に「シリアスゲーム」(東京電機大学出版局)、訳書に「幸せな未来は「ゲーム」が創る」(早川書房)など。
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(イーオン代表取締役社長 三宅 義和、東京大学 大学総合教育研究センター 特任講師 藤本 徹 構成=岡村繁雄 撮影=澁谷高晴)
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