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なぜ「ゲーム」が日本の教育を変えるのか

プレジデントオンライン / 2017年10月11日 9時15分

藤本徹・東京大学 大学総合教育研究センター特任講師

この数年、「ゲーミフィケーション」という仕組みへの注目が高まっている。クイズやくじ引き、経験値といったゲームの要素を取り入れることで学習効果を高めるものだ。研究成果の蓄積も急速に増えつつある。具体的にどう取り入れればいいのか。第一人者である東京大学の藤本徹特任講師に、イーオンの三宅義和社長が聞いた――(後編。全2回)。

■ゲームは学習効果を上げる一つの方法である

【三宅義和・イーオン社長】藤本先生は、ゲーミフィケーションに関する研究ユニット「Ludix Lab」を立ち上げ、その責任者を務めています。ワークショップや公開研究会などを開催されているそうですね。日本ではゲーム、とりわけスマホ配信のゲームは大きな産業になっていますが、そうした遊びと学習の組み合わせには、学校の教師や親御さんからの反発も予想されます。

【藤本徹・東京大学 大学総合教育研究センター特任講師】「遊び」というと、ふざけ半分という認識があるからなのか、遊びの要素を入れると「もっと真面目にやりなさい」となります。でも、遊びでも真面目にやっていると、気がついたら、いろんなことができるようになる。それは「学び」の基本ですから、私は非常に有効な手段だと思っています。

最近になって、ようやくわれわれの研究が、学習効果にもつながるということが理解されだした気がします。海外ではそういう事例がたくさんありますので、それらを日本に伝え、普及していく活動が大事です。

【三宅】海外での成功事例はたくさんありますか。

【藤本】あります。この分野でも、海外には研究センターがいくつもあり、この10年で何百何千という数の研究論文が出ています。英語でも数学でも、「ゲームを使うことで、これだけの学習効果があった」といった研究成果が蓄積されています。

【三宅】日本でゲームと教育は、どのような化学反応を起こしていくのでしょうか。またどうなっていくことを期待されていますか。

【藤本】現状では「ゲームや遊び」と「勉強や学習」は完全に切り離されています。学校では「授業中」と「放課後」といった違いでしょうか。けれども、「両者はもっとつながっている」と強調したいですね。例えば、子どもが英語版の「ポケモンGO」をプレイすれば、そこに出てくる英単語はどんどん覚えます。

遊びの中で学びを意識したサービスを提供する。または教育の中にゲームの要素を取り込んでいく。そうなれば、とてもおもしろい相乗効果が生まれ、より深い学習ができると思います。

■ゲームと違って、勉強を自発的にやれるか

【三宅】考えてみると、いろいろなテストも、一定の時間内でどれだけ問題を解けるかを競うゲームのようなものです。速い人、遅い人、正解した人、間違った人と、ゲームに似ていますよね。

三宅義和・イーオン社長

【藤本】それがゲームになるのは、自発的にやっているからです。やらされると、ゲームだって辛いじゃないですか。たぶん、子どもが母親から「あなた、このゲームで毎日1時間遊んでいなさい」と言われたら嫌がると思います(笑)。

【三宅】なるほど、自発性を持ってやるかどうかですね。

【藤本】テストは誰しも嫌なものです。それでも、いい成績を取り、受験でも志望校に合格できる生徒は、試験をゲームと見なして取り組んでいたりします。

【三宅】そこは、すごく重要な点ですね。例えば、授業中のドリル計算でも、「きょうは100問中、何問解けた。あしたは同じ時間で何問多く解こうと、それをゲームにしてしまって、自分の中で競い、あるいは友人と比べても楽しいでしょうね。

【藤本】そうです。

【三宅】ところで、最近はIoTやAI(人工知能)、ロボティクスなどテクノロジーの進歩に関する話題が、毎日のように報じられています。ITを利用した学習ツールの台頭も目覚ましいですね。具体的には、インターネット上で、誰もが無料で大学の授業を聞くことができる「MOOC」(=Massive Open Online Course、大規模公開オンライン講座)に注目しています。藤本先生はどのように評価しておられますか。

【藤本】私も東大で、海外向けの「MOOC」の企画開発を、4年ほど担当しています。世界中のトップ大学の講義を無料で受けられるという魅力は大きいですね。こうした動きが始まって、もう5年ぐらいになりますが、以前のオンライン教育と異なるのは、大学などの高等教育の「フリーミアム化」が起きた点です。授業は無料で受けられますが、一部の生徒は論文を提出し、修了証を貰う際にお金を支払うことになりますから。こうしたやり方は新しいビジネスモデルと言っていいでしょう。

■日本の田舎にもグローバル人材はいる

【三宅】先生は海外の留学経験があり、現在もMOOCを通じて、世界中の人たちと関わりをもたれています。その活躍ぶりは、「グローバル人材」という言葉にふさわしいと思うのですが、この言葉は日本以外では使われないとも聞きます。藤本先生から見て、世界で活躍できる人材の要件はなんでしょうか。

【藤本】グローバル人材というと、すごく大げさな感じがします。私は単純に、外国に出て行って、異なる文化の中に飛び込み、その国の人たちの立場を理解したうえで一緒に活動できることだと考えます。

私もかつては、グローバル人材というと、世界を股にかけて、活躍するアクティブなビジネスマンといったイメージを持っていました。しかし、たとえ日本の田舎にいても、しっかり英語を学び、外国人観光客をもてなしているような方であれば、十分にグローバル人材という言葉にふさわしいと思うようになりました。

『対談(2)!日本人が英語を学ぶ理由』(三宅義和著・プレジデント社刊)

【三宅】おそらく、そうした中でこそ本当のコミュニケーション力も養えるのかもしれません。しかも、会話だけでなく、ボディランゲージや近くにある物などを使って、コミュニケーションを取っていけばいいですよね。極端なことを言えば、自分がわからなければ、周りの人に頼んでもいい。

【藤本】そうです。

【三宅】英語学習は、気をつけないと学習のための学習になりかねません。やはり藤本先生が言われるように、必要に迫られて、とにかくコミュニケーションを取らなければいけないという場で磨く英語が強いのですね。

【藤本】私は本当に英語が苦手でした。その中で、どうすれば英語の勉強を楽しめるか、と考えました。私のキッカケとなったのは音楽でした。洋楽を聞いて、何を歌っているのかと興味を持ったのです。自分がこれだったらやれる、というキッカケをどこかで見つけられると学習も捗るはずです。

もうひとつは、海外の人との交流は楽しいということです。東大のMOOCで、昨年から開講している「Studying at Japanese Universities」というコースがあります。これは外国人向けの日本留学入門で、「受講生みんなで、留学準備をしましょう」という内容です。世界中から日本に留学したい受講者が集まっています。日本の留学生の大半はアジアからですが、このMOOCにはアフリカや東欧など普段はあまり東大と接点がないような地域からの留学希望者もいます。なぜ自分は日本に行きたいのか、日本の大学でどんなことを学びたいのか、ということを掲示板に書き込み、交流しているわけです。英語はそうした異文化の人たちの交流に役立ちます。

こういう楽しさにうまく触れられるようなキッカケを作ることができたら、勉強も必ず楽しくなると思います。

【三宅】本日はありがとうございました。

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藤本 徹(ふじもと・とおる)
東京大学 大学総合教育研究センター 特任講師。1973年大分県別府市生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。民間企業等を経てペンシルバニア州立大学大学院博士課程修了。博士(Ph.D. in Instructional Systems)。2013年より現職。専門は教授システム学、ゲーム学習論。ゲームの教育利用やシリアスゲーム、ゲーミフィケーションに関する研究ユニット「Ludix Lab」代表。著書に「シリアスゲーム」(東京電機大学出版局)、訳書に「幸せな未来は「ゲーム」が創る」(早川書房)など。

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(イーオン代表取締役社長 三宅 義和、東京大学 大学総合教育研究センター 特任講師 藤本 徹 構成=岡村繁雄 撮影=澁谷高晴)

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