小池百合子の痛快さを示した"排除の論理"
プレジデントオンライン / 2017年10月6日 9時15分
10月3日、希望の党の第一次公認候補が発表された。東京・永田町の参院議員会館での記者会見の様子。左から、民進党の玄葉光一郎総合選対本部長代行、希望の党の若狭勝前衆院議員、細野豪志元環境相。(写真=AFLO)
■3極のわかりやすい争いになった
小池百合子・東京都知事の「希望の党」が10月3日、衆院選の第1次公認候補を発表した。この小池氏の候補者選別に対し、「排除の論理を振り回し、民進党を分裂させた」との批判の声が上がっている。
だが、その批判はナンセンスだと思う。なぜなら小池氏がリベラル派を拒否した結果、民進党の枝野幸男代表代行が新党結成に踏み切り、保守と革新が同居する民進党がきれいに分断されたからだ。これで10月10日公示、22日告示の衆院選は「自民・公明」「希望・維新」「枝野新党・共産・社民」の3極のわかりやすい争いとなる。
新聞各紙の社説や記事を読み解きながら、小池氏の選別の是非を考えてみたい。
■細川元首相が「女性首相目指せ」と励ます?
小池氏にとっても、旧民主党や民進党の元凶だった保守と革新の同居、寄り合い所帯を解消し、民進の保守候補者を受け入れることで、選挙後の希望の党が安定することは間違いないだろう。
しかし小池氏の選別に異を唱える声も多い。
たとえば毎日新聞東京本社発行の10月3日付朝刊社会面に掲載されインタビュー記事で、小池氏の師匠である細川護熙元首相は小池氏のやり方を「こざかしい」と痛烈に批判しているから実におもしろい。
その記事中、細川氏は「公認するのに踏み絵を踏ませるというのはなんともこざかしいやり方で『寛容な保守』の看板が泣く」と述べ、小池氏が衆院選に立候補する可能性については「恐らくないだろう」と語る。
さらに細川氏は自分自身が日本新党を結成したことを振り返り、「政権交代という大目標に立ち向かうときは怒濤のように攻め立てなければ成功しない」と小池氏を批判していた。
この批判、裏を返せば小池氏に「都知事を辞して立候補し、日本初の女性首相を目指せ」と励ましているようにも感じられるが、どうだろうか。
■毎日は小池氏に是々非々だったが……
毎日新聞の社説は、これまで小池氏や「希望の党」には是々非々のスタンスをとってきたが、それでも10月4日付の社説は「日本の岐路 希望が公認発表 ダイナミズムがそがれた」と手厳しく批判する。
前半で「この1週間、政界やメディアは小池百合子東京都知事の一挙手一投足に注目し続けたが、希望の党のイメージは出発時点とは大きく変わった」と書いた後、小池氏が選別に至る経緯を分かりやすく解説する。
「民進党の前原誠司代表は、公認予定者をまるごと希望に合流させるつもりだった。『安倍1強』の閉塞感を打破するために『名を捨てて実を取る』戦略だった」
「しかし、保守を信条とする小池氏は合流の条件として憲法改正や安全保障法制への同意を個別に求めた。そこで、同意できない左派系が『立憲民主党』を結成した」
ここまで書いた後、小池氏の選別に一応の理解を示す。
「衆院選が政権選択である以上、基本政策の一致を求める小池氏の姿勢は理解できる。政党が政策を結集軸にすべきことは言うまでもない」
■小池氏に「寛容」を期待するのが間違い
しかし、次に毎日社説は「問題はその進め方だ」と指摘し、「党内では、安倍政権への対抗軸作りよりも候補の選別が先行した。公認権を独占する党首が公然と『排除の論理』を振りかざしたことで、党の理念として掲げられた『寛容』や『多様性』がかすんでしまった」と批判する。
この毎日社説の批判にあえて言わせてもらえば、希望の党に真の「寛容」や「多様性」があったとはとても思えないし、小池氏という女性にこれらを期待するほうが間違っていると、この沙鴎一歩は思う。どうだろうか。
■選挙結果を見てみないと分からない
さらに毎日社説は「選別基準として『在日外国人への地方参政権付与に反対すること』が持ち出されたのも唐突だった。議論もなく、小池氏の個人的なイデオロギーが出てきたように思われた」
小池氏が日本初の女性首相になりたくて、自ら名乗りを上げて立ち上げたのが希望の党である。当然、小池イデオロギーが出てくのは当然だ。問題はそれをどこまで有権者が受け入れるかだろう。
続けて毎日社説は「さらに小池氏の側近が候補者の規模や選挙後の戦略を口にしても、直後に小池氏が否定する展開が繰り返され、すべてが小池氏の胸三寸で決まってしまう印象を与えた」と「胸先三寸」という表現まで駆使して小池氏を非難する。
また「政治は論理と感情の組み合わせで動く。パフォーマンスに優れた小池氏が民進党をのみ込むことで選挙構図は流動化したが、1週間で初期のダイナミズムがそがれたのは否めない。小池氏の国政復帰を求める声が少ないのはその表れだろう」とも書く。
沙鴎一歩はこの論調にも違和感を抱く。なぜなら、小池氏にどれだけの有権者が期待しているは選挙結果を見てみないと分からないからである。
■「政策本位の野党再編につながるなら悪くない」
この毎日社説とは逆に、10月3日付の日経新聞の社説は、民主党の分裂の事情を偏ることなく、分かりやすく解説し、「政策本位の野党再編であれば悪くない」(見出し)と主張している。沙鴎一歩はこれには賛成である。
日経社説は「民進党が保守系とリベラル系に分裂した。希望の党への合流を巡り、排除された枝野幸男代表代行らが新党結成へと動き出した。衆院選目前のドタバタ劇にはあきれるが、結果として政策本位の野党再編につながるならば必ずしも悪い話ではない」と書き出す。
その後は民進党の簡単な“歴史”である。いまの政局を考えるうえで参考になる内容なので、以下に引いておきたい。
「民進党の前身の民主党は1996年、保守系の新党さきがけとリベラル系の社民党の出身者によって生まれた。自民党出身者らもなだれ込み、この20年あまり、終始一貫して『寄り合い所帯』の感があった」
「憲法や外交・安保などの政策課題で党内に常にあつれきがあり、協議をしても結論を先送りすることが多かった」
「民進党の近年の支持率が低空飛行を続けてきたのは、有権者がこうした体質に嫌気がさしていたからだ。リベラル系の離脱によってようやくすっきりしたといってよいだろう」
■「政党交付金」はすべて国民の税金だ
日経社説は後半で「今回の衆院選は保守系の自民・公明、希望・維新、リベラル系の民主・共産の三つどもえになることがほぼ確定した。選択の構図がくっきりし、有権者は投票しやすくなった。各党がおのおのの立ち位置から活発な政策論争を戦わせてほしい」と書く。
繰り返すが、選挙の構図を分かりやすく塗り替えたのは小池氏の「排除の論理」の成果である。有権者社このことを忘れずに選挙に臨んでもらいたい。
日経社説は最後に「消えゆく民進党に注文がある」と書く。なんだろかと思って読み進めていくと、「わかれるからには、政党助成法の規定に沿い、きちんと分党手続きをすべきである」と指摘する。
その通りである。政党の分裂、合併でこれまでどれだけの政党交付金が行方不明になってきたことか。政党交付金はその元をたどればすべて国民の税金である。
日経社説は「政党助成制度に基づき、民進党には今年、国から87億円の政党交付金が配分される。すでに43億円が振り込まれた。この後始末を曖昧にしては批判を免れない」と書く。
さらに「所属議員や公認内定者は当面、(1)希望への参加(2)枝野新党への参加(3)野田佳彦前首相のような無所属組(4)民進党に残る参院議員――にわかれていくことになる。その頭数に応じて、きちんと交付金を分配するのが妥当である」と締めくくる。
他の全国紙が忘れているところにこうした指摘をする。さすが日経新聞である。
■「100%立候補しない」はまだわからない
ところで小池氏は「100%立候補しない」と新聞やテレビ局のインタビューに答えている。ここまで否定されると、だれしも「そうか」と思ってしまうのだが、沙鴎一歩はそうは思わない。
これまで彼女やその周辺に直接、取材してきた経験から小池氏には世の中の常識を越えた勝負師的なところがあると思う。だからこそ、今回、リセットという言葉を使って「希望の党」の代表に名乗り出たのである。ジャーナリストとして衆院選の告示間際まで彼女の動きには目が離せない。
(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=AFLO)
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