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これまでの総選挙に「大義」はあったのか

プレジデントオンライン / 2017年10月11日 15時15分

阿比留瑠比●1966年生まれ。福岡県出身。早稲田大卒。90年に産経新聞社に入社し、仙台総局、文化部、社会部を経て、98年から政治部。現在は産経新聞論説委員兼政治部編集委員。

安倍晋三首相が衆議院の解散に打って出た。野党再編の台風の目となった「希望の党」は230人以上の立候補者をそろえ「安倍一強の打破」を掲げる。今回の選挙で国民は何に注目すればいいのか。安倍首相を長年取材し、首相の表も裏も知る産経新聞・阿比留瑠比編集委員と、「森友」「加計」問題の政府責任を厳しく追及してきた東京新聞・望月衣塑子記者に聞いた――。

■▼解散に大義はあるのか

【東京新聞・望月衣塑子記者】今回の選挙は大義がない選挙です。郵政解散は郵政の自由化を掲げ、それに関して選挙を通じて民意を問うというものでしたし、野田佳彦元首相も解散で社会保障と税の一体改革の是非を国民に問いました。9月下旬の共同通信の世論調査では64.3%がこの時期の解散に反対しており、これは身勝手な解散を断行した政権への不信感の表れです。

安倍晋三首相は森友・加計学園問題で「説明責任を果たす」と国民に約束しました。野党が「ならば臨時国会を召集せよ」と言い続け、ようやく9月にきっちり追及することになっていました。このタイミングだけを見れば「森友」「加計」からの逃げじゃないかと疑ってしまいます。最低限の代表質問や衆議院調査局の調査もすっ飛ばし冒頭解散をしましたが、首相の独断で決めていたかのような印象があります。

【産経新聞・阿比留瑠比編集委員】野党などは「今回の選挙は大義がない」と主張していますが、そのこと自体が的外れでナンセンスです。衆議院議員というのは任期満了しようと4年に一度は選挙をする。そのときに、いちいち大義が必要なのか。過去の衆議院選挙で、大義があった選挙ってあるんですか。そのことを考えてほしいです。

小泉純一郎元首相の郵政解散は、あれは自分がやりたい法案が衆議院では通ったけど、参議院で否決されたから衆議院を解散するという、めちゃくちゃな話でした。吉田茂元首相のバカヤロー解散、中曽根康弘元首相の死んだふり解散、佐藤栄作元首相の黒い霧解散にせよ、どこに大義なんてあったのでしょうか。大義のある選挙などこれまでなかった以上、それは難癖で、イメージを落とそうとしているだけです。

■▼「森友」「加計」問題

【阿比留】野党や一部メディアの言う説明責任という言葉が具体的に何を指すのかよくわからないです。納得するまで話せと言われても、そういう人に限って納得する気がないんです。そもそも「森友」「加計」の、特に加計問題はフェイクニュースだと思っています。

望月衣塑子●1975年、東京都生まれ。慶應大卒。2000年に東京・中日新聞に入社し、これまでに地方県警、東京地検特捜部などを担当。武器輸出や軍学共同の取材にも注力してきた。

それは違法性を裏付ける証拠がまったくないからです。道義的にも悪いことをした証拠が1つもない。憲法第72条には首相は行政各部を指揮監督するって書いてあります。安倍首相は加計学園について何も発言していないと言われていますが、仮に発言していても問題はなく、行政がゆがめられたなんて言われる筋合いはないのです。

【望月】国家戦略特区諮問会議の議事要旨などの状況証拠を読み重ねると、不自然に「加計ありき」で話が進んでおり、同じく獣医学部の設置を望んでいた競合相手の京都産業大との比較考慮がされていないことがわかります。そのうえで、加計学園の加計孝太郎理事長は安倍首相とのゴルフや飲食を月1回のペースで繰り返していた時期もあり、加計学園の関係者によると、その代金の大半を加計さんが払っていたのではという指摘もあります。

もし安倍首相が実際に過剰な接待を受けていたらアウトです。元検事や弁護士によれば、この問題は贈収賄に発展する可能性も秘めています。国会の場でも、どういう関係性でおごった、おごられたのかを細かく質疑が行われるべき。韓国の学者や記者からは「なぜ日本はこんなに緩いんだ」と質問されます。「安倍さんは朴槿恵氏以上のことをやっているのになぜ特捜部が捜査しないのか」と。

■▼北朝鮮情勢

【望月】今回の選挙でもう1つ気になることが北朝鮮問題です。Jアラートが鳴るなど、このところ騒々しい日々がずっと続いていますが、この時期に解散して政治的な空白ができるのは大丈夫なのか。例えば全国遊説に首相が行ったときミサイルが発射されても対応できるのか。国家安全保障会議(NSC)に首相がいなくてもいいのか。

年末にかけてもっと情勢が悪化していくという予測もあって、核基地限定攻撃という最悪のシナリオが年末に起こるかもしれないという話も出ている。だからこそ、安倍首相は今、解散に打って出たとも読めますが、金正恩とトランプの掛け合いは激化しており、北朝鮮が「政治空白」の隙を突く懸念はないと言い切れるのか。

【阿比留】今後、ますます米朝関係は緊迫していくと考えられる一方で、新たな経済制裁などの効果が見えてくるのは年末年始以降。アメリカはまずその効果を見ているから、今年中に有事は起きないという心証を日本政府は得ています。だったら今解散するのは、ごく当然の判断だと思うんですね。仮に来春にアメリカが北朝鮮に先制攻撃をかけたとします。すぐ収束するかわからないし、日本も被害を受ける可能性だってある中で解散できるのか。では解散しなければいいかというと、結局任期満了が来年末にはくるのです。

また、北朝鮮情勢がひどくなったときに対応するのは、国会ではなく内閣です。大臣がいて政府が機能していれば何も困りません。選挙中、官房長官と防衛大臣は常に東京か東京周辺にいるということを決めています。首相だってどこで演説しようと、国内だったらヘリで東京に数時間で戻れますから

■▼消費増税は正しいか

【阿比留】安倍首相の言う「全世代型給付」自体は賛成です。今まで高齢者に重きを置きすぎていましたから。高齢者のほうが投票率が高いからそうなってきたわけですが、ここ2年ぐらいの世論調査を見ると必ず同じ傾向なのが、安倍内閣に対する支持率というのは10代、20代が高くて、60代が低いんですよね。だったら高齢者に手厚い政策を取らなくてもいいやと転換した可能性があるなと感じます。しかし消費増税自体は一消費者としては痛いですよね。特に高い物が買えなくなります。

【望月】主要使途を借金返済から子育て支援と教育に2兆円を変更するということですが、そもそもこれは民進党が打ち出していた案であり、もともと安倍首相の狙いであった消費増税による財政健全化とは真逆の方針です。ちなみに2兆円のうち3000億円の原資については目処も立っていないのに打ち出しています。一般市民の感覚からすれば、「森友」「加計」問題や北朝鮮よりも生活や教育のほうが重要視されていると見て、選挙対策として無理やり持ち出したんだろうと感じます。

■▼小池首相誕生か

【阿比留】小池百合子都知事は、都知事に当選したときが絶頂期でした。いまだ人気は高いですが、メッキが剥がれつつあります。結局豊洲移転問題では、ただ時間を引き延ばして莫大な金を無駄にしただけで、何の解決にもなっていない。また今回の国政政党「希望の党」。政党で盛り返しを図っているのでしょうが、徐々に破綻が見えてくるんじゃないかなと思っています。選挙である程度の議席は取れると思いますが、地方の選挙区は厳しい。東京以外では、大した風は起きないでしょうね

今のところ出ている希望の党の政策って反原発で改憲派で改革派で消費増税を凍結すると。全部兼ねられるような政治家がどれだけいて、それをどうやって実現するなんていうことは、まだ小池都知事自身何も考えていないんじゃないかと思いますね。小池都知事は勝負師として、勘とはったりはすごいのですが、いまだ豊洲で何も進められないということを見ると、実務能力は高くない。たとえ政権を奪ってもイニシアチブを取るのは難しいのでは。

【望月】もし、小池都知事が首相になったとしたら、記者として関東大震災の朝鮮人虐殺の追悼文送付拒否について問いたださなければいけません。反省し続けなきゃいけない歴史だと思うので、ああいうものをなくすということ自体、すごく重いことです。謝罪を続けるってある意味、日本社会が背負っていかなきゃいけないものだと思うんです。やっぱり彼女の判断には疑問符がつく。

また、希望の党が選挙で躍進した結果、右派の二大政党ができ、核武装論や憲法9条廃止も含めた議論が国政で過熱していくのではないか危惧しています。緊迫した北朝鮮情勢を抱える中で、9条改正に手をつけることに私は反対です。憲法9条は、日本のみならず世界が目指すべき理想として、憲法に掲げ続けるべきだと思います。

※インタビューは2人別々に実施し、テーマごとに発言を分けて記事を構成しました。対談ではありません。

(産経新聞政治部 編集委員 阿比留 瑠比、東京新聞社会部 記者 望月 衣塑子 構成=鈴木聖也 撮影=村上庄吾(阿比留氏)、横溝浩孝(望月氏))

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