戦略おたくだけでは小池氏は長続きしない
プレジデントオンライン / 2017年10月12日 9時15分
■小池氏と前原氏をつないだ「共通点」
総選挙の「与野党対決の構図」が明確となった。自民党と公明党の与党、希望の党と民進党保守派と日本維新の会の連合軍、立憲民主党と社民党と共産党のグループの三つ巴の戦いとなる。
安倍晋三首相は「混迷・民進党」「未熟・小池新党」を見て、今なら勝てると踏んで電撃解散に打って出た。最初は先手必勝の空気が強かったが、「戦略おたく」を自称する小池百合子・東京都知事のアピール力と勝負師の才が上回った。自ら希望の党を結成して代表に就任する一方、前原誠司・民進党代表らとの連携をあっという間に実現し、総選挙政局の主役に躍り出る。解散を仕掛けた安倍首相を吹き飛ばすほどの強烈パンチだった。
だが、対与党の対抗勢力結集をめぐって、小池氏が「理念・路線・政策の一致」を条件に線引き・選別・排除を主張したため、民進党左派が同調せず、新党結成に動く。野党側の2極分解で「1強多弱」に逆戻りという空気も生まれ、ブームは不発、「小池劇場」は開演と同時に閉幕、と予想した人も多かった。
安倍「1強」の要因は、衆参選挙4連勝、今年前半までの高支持率、経済好調などともに、3年3カ月の旧民主党政権に対する国民の失望と幻滅の反動も大きかった。野党転落後、旧民主党、民進党とも、国民の期待感は完全消滅状態である。
今回の安倍戦略については、「大義なき自己都合の不意打ち解散」という批判も強かったが、首相が内閣の議会解散権を使って国民に直接、信を問うという選択は、代議制民主主義の原理に沿った正当な権限行使だ。国民は総選挙で安倍政治への信任・不信任と政権継続について審判の機会を手にする。解散権行使の是非も含めて判断すればいい。
一方で、総選挙は国民にとって政権選択の機会でもある。「増長・慢心・弛緩」が目立つ安倍体制への不信感が今も強く、「1強ノー」という国民の声が大きければ、状況が一変する可能性もある。いきなり政権選択とはいかなくても、自公による安定政治の継続か、緊張感と相互監視が働く政権交代可能な代議政治の復活か、有権者は選択のカードを握る。
その点を強く自覚し、自公の対抗勢力となる受け皿を意識する小池氏や前原氏が今回、意を決して行動を起こした。両者の共通項は年来の保守2大政党論者という点である。
■維新は「官邸寄り」から「野党結集」へ
1998年の第2次民主党結成以来、自公の対抗勢力の受け皿は「非共産・保守中道リベラル総結集」が中核だった。国民の期待感を醸成し、2009年の政権交代につなげたが、総選挙での民主党の獲得議席は09年の308から、12年は57、14年は73と低迷が続いた。
前原氏だけでなく、民進党保守派は「保守中道リベラル」の矛盾から抜け出さなければ、国民の期待感の再醸成は不可能と痛感したに違いない。矛盾とは、「非共産」を放棄する「リベラル」と、保守浮動層の支持を重視して「非共産」厳守を主張する「保守」が一つの党に同居することの不適合である。期待感の再醸成は「非共産・保守中道」による結集でなければ、と判断したのだ。
今回の動きは、小池氏に頼まれた細川護煕元首相(元日本新党代表)が今年6月、前原氏に会って保守2大政治勢力による政界再編を、と説いたのがスタートだったようだ(朝日新聞9月2日付朝刊「時時刻刻」参照)。3人は1990年代前半、日本新党に結集した旧同志である。
7月27日、蓮舫氏(前民進党代表)が辞意表明し、代表選実施となる。その前後、前原氏と細野豪志氏(元民主党幹事長)が国会近くの中華料理店で会食した。細野氏が民進党離党を表明する数日前だったが、前原氏は代表選出馬、細野氏は離党の意思を打ち明け、以後の対応を協議したのではないか。同じ京都大学出身の「同志」で、交流が深く、考え方も近い。2人は「小池新党」との連携を前提に野党再編構想を話し合い、前原氏は細野氏に将来の野党結集の先遣隊の役割を期待して離党を容認したと見られる。
細野氏は離党後、9月11日に小池氏と新党結成で合意した。16日に解散・総選挙実施が確定する。保守2大政治勢力の結集には、維新との連携の成否がもう一つのカギであったが、20日に竹中平蔵・元経済財政相が東京で会合を設営し、橋下徹・前大阪市長も同席して、小池氏と松井一郎・大阪府知事(維新共同代表)が会談した(朝日新聞10月1日付朝刊「乱気流」参照)。
維新と小池氏の関係は微妙だった。大都市改革プランや地方自治のあり方など、路線や政策の面では共通点が多かったが、特に松井氏と小池氏の距離は遠かった。個人的接触はなく、20日の会合が事実上の初顔合わせである。昨年の参院選に維新公認で当選して副代表に就任し、その後に離党して小池応援団にはせ参じた元みんなの党代表の渡辺喜美氏は、「維新と小池さんの橋渡し役を、と橋下さんと松井さんに話をしたが、両者の小池さんに対する距離感は全然違った。橋下さんは前向きだったが、府知事として首相官邸との関係を重視する松井さんは是々非々でという姿勢だった」と語っていたが、松井氏は解散・総選挙と小池新党結党の動きを見て「首相官邸寄り」から「野党結集」にかじを切り替えた。
■「寛容な保守改革」は支持されるか
9月24日、前原氏は小沢一郎・自由党代表と協議する。民進党と自由党の合流で合意するが、もしかするとその席で、新進党解党を主導した経験がある小沢氏が、前原氏に野党第一党解党のノウハウを伝授したのかもしれない。
翌25日、小池氏が希望の党を旗揚げし、代表就任を表明する。その日、小池氏はかつて環境相として仕えた小泉純一郎元首相と会談し、小泉氏が説く「原発ゼロ」への賛成を約束した模様である。続いて29日の夜、前原氏と一緒に連合の神津里季生会長と会って野党結集について協議する。翌30日、大阪に出向き、松井府知事、愛知県の大村秀章知事と3人で記者会見して「連携」をアピールした。「やっつけ結集」とからかう声も多いが、安倍首相の電撃解散に即応して、希望の党と民進党保守派と維新の連合軍が電光石火ででき上がった。
前述のとおり、野党側の2極分解が起こったが、22日投開票の総選挙で、国民の審判が下る。判断基準となるのは、一言で言えば「旗・人・矢」だ。旗は理念や路線や政策、人は指導者と擁立する候補者の人材の質、矢は与党側では政策実現力、野党側では政権追及力である。
小池氏は旗として「寛容な保守改革」を打ち出した。改憲容認、消費税増税凍結、法人税改革、原発ゼロなどを提唱しているが、本命は維新との共通項の「地方分権と自治改革」と見る。一方で、「しがらみ打破」を唱え、急進的な改革路線を突っ走る気配もある。手本にしているのは「自民党をぶっ壊す」と叫んだ小泉改革ではないか、と映る。
最大の問題点は、小池氏が政治リーダーとしていまだ自身のビジョンやグランドデザインを明確に語っていない点だ。世界観や国家観、目指す社会の具体的な将来像などを、わかりやすく示さなければ、「戦略おたく」のアピール力と勝負師の才だけでは、国民の期待感は長続きしないだろう。
「1強維持・野党ノー」「保守野党結集」「リベラル・共産党」の3つの選択肢のうち、国民が期待感と信頼感を寄せるのはどの道か。
(作家・評論家 塩田 潮 写真=AFLO)
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