なぜ「熱海」は人気観光地に返り咲いたか
プレジデントオンライン / 2017年10月12日 15時15分
■若い世代のお客が増えている
かつて熱海は人気の観光地だった。昭和の頃には新婚旅行の宿泊先にもよく選ばれ、やがて社員旅行などで団体客がたくさん訪れるようになった。だが、時代の変化と共に熱海は古臭い観光地として敬遠されるようになった。熱海市の統計資料を見ると、宿泊客数は1991年がピークで、1年で440万人以上の観光客が熱海に宿泊している。しかしその後宿泊客数は減少の一途をたどり、2002年からは300万人を割り込む事態に。特に東日本大震災が起きた2011年には246万人まで落ち込んだ。
そんな熱海が復活しつつある。2012年から毎年103~110%程度宿泊客数が増え続け、2015年には14年ぶりに300万人台にまで回復。2016、17年の数字はまだ発表されていないが、さらに増えそうな勢いだという。
なぜ熱海は往年の活気を取り戻しつつあるのだろうか。その背景には「アラフィフおじさん」の活躍があったようなのだ。
■温故知新、花火大会に力を入れる
熱海には昔から変わらぬ強みがたくさんある。温泉、海、山、新鮮な魚料理。何と言っても首都圏からの近さが売り。泊まった次の日に8時半に熱海を出発すれば、1時間ほどで東京駅に到着できる。月曜朝にエクストリーム出社なんていう選択肢もある。客が減っていく中、存続の危機に直面した熱海の旅館ホテル組合が「この強みを生かさない手はない」と動きだした。
中心人物のひとりであり、熱海温泉ホテル旅館組合の観光情報委員長で、熱海の景勝地に立地するホテルニューアカオの加藤光良取締役はこう語る。「もったいないと思ったんです。もしかしたら、当たり前になっていることが若い方には新鮮に見えるのかもしれません。熱海はいいところだよ、と知ってもらうことから始めようと5年前からプロモーション活動に力を入れ始めました」
プロモーションの目玉として、力を入れているのが“花火”。熱海には、昭和27年から続く歴史ある花火大会があるのだ。三方が山に囲まれている湾状の海で打ち上げられる花火は、反響音の効果もあって見る人の体に響き、実際の音以上に迫力がある。30分間と時間は短めだが、ショーアップされて見応え抜群と評価は高い。最も盛り上がる夏場は動員数3万人以上、春や冬にも開催される。
さらに今年からは秋にも開催。年間計18回、毎回、各5000発、最大2尺玉の花火が打ち上げられる。プロモーション用に、ドローン4台が花火の中を飛ぶ公式映像まで作った。ドローンを飛ばした当日はイベントに仕立てたので、メディアの取材も多く入った。本番直前、温泉に入っていた客がドローンの飛行を不審に思い、クレームが入るという事態もあったが、旅館組合メンバーの対応は迅速だった。「ドローン撮影には規制があり、許可申請がいろいろと必要でしたが、熱海市に理解があって話は早く進みました。何より熱海の花火を知らしめたい。宿泊客の方にお食事が終わった頃合いに花火を楽しんでもらい、終わった後は街に出て遊んでもらいたい。それが街の経済効果につながります」(加藤氏)
■ゆるキャラ「あつお」は“オジサンの妖精”
実際に筆者も花火会場に行ってみたところ、浴衣姿のカップルや女子グループなど若いお客でにぎわっていた。地道にキャンペーンを続けた効果が着実に表れている。宿泊客の減少で大手以上に打撃を受けやすい中小規模の旅館も、その効果を実感しているところだ。客室数9室の旅館「法悦」の3代目主人徳用たつや氏は「花火大会の当日は早くから予約が埋まります。ここ1~2年で宿泊客の半分以上を20~30代が占めるようになった。夏の期間は学生のグループも目立ちます」と話す。
「あつお」も熱海の盛り上げ役を担っている。あつおとは、旅館組合のメンバーがつくったキャラクターの名前だ。かつて熱海が団体旅行でにぎわっていたことを象徴し、かつ昭和のイメージを脱却する狙いで考え出された。あつおの設定を聞くと、「会社の慰安旅行で芸者を上げてどんちゃん騒ぎをしていたサラリーマンが、熱海を気に入って居付いた挙げ句に妖精になってしまった」という、切ない胸キュンな(?)ストーリー。片手に魔法のスティックを持ち、花とスイーツが好きな乙女なオジサン「あつお」は、キーホルダーやタオルなど、お土産用に各種グッズ化され、店先で並べられている。
こうして旅館組合が仕掛ける花火大会や街おこしの施策の数々によって、熱海は活気を取り戻し、14年ぶりに宿泊数は300万台にまで回復した。危機感がそうさせたと言えばそれまでなのだが、客の誘致や街おこしに奔走しているのは熱海だけではない。熱海で結果が出ているのはなぜなのか? 本当の理由が知りたい。
■役所や観光協会だけでは復活できない~オール熱海体制
取材をしていくうちに気づいたことのひとつが、汗をかきながら現場で奮闘する「アラフィフ」の男性の姿が目立つことだ。例えば花火大会は、熱海温泉ホテル旅館組合に所属する旅館の主人たちが音頭を取り(40~50代男性が多い)、組合の青年部の部隊が総出でおそろいのTシャツを着て会場運営に当たる。お祭り気分を上げる露店も、地元の飲食店が協力して出店している。
「他の観光名所には申し訳ないぐらい、熱海は資源的に恵まれていますよ」と笑顔いっぱいに街自慢するのは熱海市観光協会会長で、駅前で魚屋を営む中島幹雄氏。「細かい種まきから実際の運営まで自分たちの手で仕掛け、年4回の市長ミーティングではそれぞれの団体が情報やアイデアを共有する場を設けています。お互い足の引っ張り合いにならずに、4つの団体がタッグを組んでうまくやっている自治体は、全国でもそうそうないはず。それが復活の道につながっていると思います」。4つの団体とは、市と観光協会、商工会議所、そして旅館組合のこと。この4団体が手を組むオール熱海体制こそ、V字回復の理由だというのだ。
行政の立場から熱海全体のプロモーションを仕切っている熱海市役所観光経済課長の立見修司氏も、現場主義のオール熱海体制が回復のカギであることを強調する。「イチから出直さないと復活しないという共通認識のもと、お互いに近しい気持ちで話を積み重ねています。ひとりでも多くの方に来ていただき、熱海のファンになってもらいたいという気持ちを持って一致団結しています」。たとえ普段は商売敵でも、「これは熱海のためだ」という共通認識を持って、オール熱海で団結しているのだ。
■次のターゲットは、外国人ツーリスト
市の取り組みとしては、テレビ番組への熱海の露出を増やすため、番組ロケサポートに特化した「ADさん、いらっしゃい」や、ブランドプロモーションキャンペーン「意外と熱海」や事業応援サポート「A-biz」など、熱海へ人を呼ぶための新しい手を次々に打ち出している。
9月2日にはアロハフェスティバルの会場で齋藤栄市長が、観光地としては世界初の「熱海ダイバーシティ宣言」を行った。旅館組合の目黒俊男理事長とバリアフリー活動に奔走する「車椅子ウォーカー・ウィーログ」の代表である織田友理子さんもその場に同席した。これは2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けた市の心構えを宣言したものという。
「本来、宣言するまでのことでもないのですが、熱海市の人口はわずか3万7000人程度。年間300万人もの方が宿泊され、日帰り客を含めれば、その数はさらに上をいきます。いろいろな方が集まって熱海市が成り立っているのです。だからこそ、多様性が必要なのです。海外からいらした方にも、障がいをお持ちの方にも、あらゆる方々を迎え入れる優しい街づくりを目指し、できることからやっていこう。そういう宣言です」(立見氏)
外国人の宿泊数を見ると、確かに隣の箱根は11%、富士五湖は25%あるのに対し、熱海はわずか1.1%にとどまる。課題が明確であるため、あらためてダイバーシティ宣言を行い、外国人客の誘致とユニバーサル対応の機運を高めることを狙う。
年間宿泊人数は300万に回復したが、熱海市はそれをさらに伸ばして、大きなV字カーブを描くシナリオを描いている。「東京観光の外国人をターゲットに仕掛けを考えています。ジャパンレールパスなどを使って熱海日帰り旅行を推進していき、まずは知ってもらって“次回は泊まろう”という流れを作りたい」(加藤氏)
オール熱海体制によるプロモーション活動は、今日も続いている。
(メディアジャーナリスト 長谷川 朋子)
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