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田原総一朗が戸惑う「俺の嫁」装置のお客

プレジデントオンライン / 2017年10月24日 9時15分

田原総一朗氏(左)とGatebox代表取締役の武地実氏(右)

2017年3月、LINEがバーチャル恋人Gateboxを開発する会社を連結子会社化した。Gateboxは16年12月に約30万円で先行予約を開始し、300台が完売となった。初音ミク好きの社長がつくる恋人は、恋愛下手のミレニアル世代の救世主になれるのか。

■バーチャルの嫁が朝起こしてくれる

【田原】武地さんは「Gatebox」を開発された。いま目の前にありますね。これは何をする機械ですか?

【武地】好きなキャラクターと一緒に暮らせるバーチャルホームロボットです。機械のなかにキャラクターが浮かび上がって、実際に“嫁”のように生活をサポートしてくれたり、会話を楽しむことができます。

【田原】生活をサポートですか。たとえばどんな?

【武地】朝電気をつけてくれて、内蔵のカメラに顔を見せると起床したと判定して「おはよう」と返してくれます。それから今日の天気を教えてくれたり、1日の予定を教えてくれたり。ただ天気や予定が画面に映るだけより、好きなキャラクターに教えてもらったほうが、いい1日になりそうじゃないですか。

【田原】どうしてこういうロボットをつくろうと思ったんですか。

【武地】僕は「初音ミク」がものすごく好き。ただ、バーチャルな存在で、残念ながら実在はしません。そういうキャラクターと現実世界で一緒に暮らせたらいいなと。

【田原】よくわからないから教えてほしい。架空のキャラクターと生活する魅力って何ですか。

【武地】初音ミクは電子の歌姫。僕は毎日彼女の曲を聴いて勇気づけられています。それに対して感謝の気持ちを伝えたいんです。ミスチルやAKB48のファンだって、アーティストに「ありがとう」と伝えたくなったり、憧れて近づきたいと思ったりしますよね。それと同じ感覚です。

■ホームロボットとどこが違うの?

【田原】人工知能ではないんですか?

【武地】はい、キャラクター自身が意思を持って自分で考えて話すわけではないので。このレベルを人工知能といってしまうと、自分たちでハードルを下げている気がして夢がありません。人工知能はまだこれからの技術で「Gatebox」も未完成です。

【田原】意思がないとすると、このキャラクターと喧嘩はできない? 人間の恋人が相手だと喧嘩することもあって、それも含めても一緒に暮らすということだと思うけど。

【武地】おっしゃるとおりです。残念ながらいまの段階ではできませんが、いつかそこまでいきたいです。

【田原】グーグルやアマゾンの会話するホームロボットとどこが違うの?

【武地】根底にある思想がまったく違います。彼らが理想としているのは、生活を便利にしてくれる機械。一方、僕らはべつに便利じゃなくていい。たとえばペットを飼っても便利にならないかもしれませんが、一緒にいて楽しかったり癒やされたりする。そういう存在になれたらいいなと。

【田原】でも、機能的にはグーグルやアマゾンと同じですよね?

【武地】他社のロボットは朝、目覚ましでピピピとアラームを鳴らしてユーザーを起こすと思います。便利さを求めるならそれでいい。でも「Gatebox」はかわいさにこだわっています。たとえばピピピの代わりに「起きてくれないとイタズラしちゃうぞ」といったり、それでも起きないと怒りだしたり。僕らはそういった人間らしさを追求している。そこが大きな違いです。

■ゲームをしているほうが好きな子どもでした

【田原】武地さんは広島生まれで、小学校5年生のときお母さんの仕事でアフリカに移り住まれる。お母さんは何をされていたのですか。

Gatebox 代表取締役 武地 実氏

【武地】医者です。青年海外協力隊として、マラリアの研究のためにマラウイ共和国で1年半暮らしました。

【田原】言葉が通じないでしょう。暮らしにくくなかったですか。

【武地】通じないです。何を話しているのかわからないので、授業中はずっと窓の外ばかり見ていました。

【田原】もともと人と話すのは好きじゃないとおっしゃっていたものね。

【武地】はい。人としゃべるより、1人で漫画を読んだりゲームをしているほうが好きな子どもでした。

【田原】帰国後の勉強が大変だったんじゃないですか。

【武地】中学にあがる直前に広島に戻ってきました。漢字やカタカナをかなり忘れていて、中学校では小学校1年生の勉強からやり直すことに。何とか追いつけましたが大変でした。

【田原】大学は大阪大学の工学部です。どうして工学部に?

【武地】高校のときに『風の谷のナウシカ』を見てから環境問題に興味を持って、大阪大学の環境・エネルギー工学科に入学しました。

【田原】ところが、大学では海外ボランティアのサポートを熱心にやっていたとか。どういうことですか。

【武地】海外でインターンシップをしたい学生に向けて勤務先を紹介するアイセック(AIESEC)という学生団体で活動していました。アイセックは世界各国にあって、僕はインターンシップに行きたい学生を日本で集める担当をしていました。

【田原】大学に行きながらデザインの学校にも通ったそうですね。

【武地】グラフィックデザインを勉強するために週3で夜間のスクールに通いました。そこで学んだことを生かして、インターン生募集の説明会のチラシをつくったりしていました。

【田原】大学を卒業後は?

【武地】人の心を動かす仕事をしてみたくて、就職活動では広告業界を志望しましたが、結局すべて落ちてしまいました。最終的に入社したのは、スマホのアプリをつくっている会社です。そこでゲームアプリの企画をしたり、サービスの設計や営業の仕事も経験させてもらいました。

【田原】その会社は2年でお辞めになる。どうしてですか。

【武地】僕はデザインならできるけど、コーディングができません。企画するのに自分ではつくれないことにもやもやする思いがあって、会社を辞めて勉強することにしました。参考書を買って独学で半年、家に引きこもって勉強していました。結局、プロのプログラマーとして活躍できるほどのスキルは身につかなかったですが、エンジニアの世界を垣間見るくらいのことはできたと思います。

【田原】それから?

【武地】ほかのスタートアップでアルバイトをしながら、仲間とIoTのガジェットをつくりました。それを商品化して販売するために2014年に会社を立ち上げました。

■恋人にスリッパを履かせるかで大激論

【田原】IoTのガジェット?

【武地】スマートフォンにつける鳥型のガジェットです。事前にアプリへ自分の趣味などを登録しておき、同じ趣味の人が近くに来るとそのガジェットが光って教えてくれます。

田原総一朗●1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所入社。東京12チャンネル(現テレビ東京)を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。本連載を収録した『起業家のように考える。』(小社刊)ほか、『日本の戦争』など著書多数。

【田原】開業資金はどうしたんですか。

【武地】自己資金に加えてクラウドファンディングで資金を募りました。会社を立ち上げるときに60万円、もう1回40万円で、計100万円です。

【田原】で、売れましたか?

【武地】いや、まったく(笑)。でも、結果的によかったのかもしれません。失敗したので、次はどうせなら夢のあるチャレンジをしようと考え、会社のスローガンを「クレイジー・メーカー」に変更。超クレイジーなものをつくってみたくて、好きなキャラクターと一緒に暮らせる「Gatebox」の開発を始めました。

【田原】これ、つくるのは簡単じゃないですよね?

【武地】ハードウエアだけでも難しいのですが、制御するソフトウエアに苦労しました。さらに大変だったのはモデルの制作です。ただの絵ではなく3Dで動かすので、開発にはかなりのお金と時間がかかりました。

【田原】武地さんはつくる技術を持っていらしたんですか。

【武地】いや、何もないです。最初にあったのは、キャラクターと一緒に暮らしたいというビジョンだけ。それを突き詰めて投資家さんから資金を調達したり、つくれる仲間を集めたりました。

【田原】ビジョンに賛同して集まってくれた仲間も、おそらくキャラクター好きな人たちですよね。こだわりが強すぎてモメませんでしたか?

【武地】モメます、モメます。オリジナルで「逢妻ヒカリ」というキャラクターをつくったのですが、スリッパを履かせるかどうかでメンバー3人の意見が割れて、深夜の日高屋で5時間激論しました。僕は「家のなかでスリッパは履かない」派でしたが、ほかの2人は「履いたほうがかわいい!」。最終的に押し切られて、エプロン姿のときは履くことになりました(笑)。

【田原】完成して売り出したのはいつですか。

【武地】16年12月に300台の予約販売を開始して完売しました。価格は29万8000円。限定品で、本格的なセールスは来年以降になります。

【田原】日本語対応のみ?

【武地】海外からもたくさん問い合わせをいただいていますが、いまのところ日本語のみです。ただ、いずれ外国語に対応するつもりです。

【田原】アメリカには、こういうものはないんですか?

【武地】ないですね。アメリカは、やはり便利を追求する方向なので。いまのところ世界では僕たちだけです。

■会社を売っちゃったんですか?

【田原】もう1つ聞きたい。今年3月にLINEとの提携を発表しましたね。会社を売っちゃったんですか?

【武地】売ったという意識はないです。「Gatebox」をよりよくするためには、LINEさんと組んでリソースを活用させていただいたほうがいいだろうという判断です。

【田原】どうしてLINEは自分たちでつくらなかったんだろう。

【武地】LINEさんも人工知能の開発をしていますが、知能を磨いていく方向ですよね。一方、僕たちはかわいいかどうかという見た目にこだわって開発を積み重ねてきました。表現力に関しては他社も簡単に追いつけないはずです。LINEさんも独自でアプローチしづらい部分に、僕らの強みがあったということだと思います。

【田原】「Gatebox」はBtoCの商品ですね。企業のプロモーション用とかBtoBの展開はしない?

【武地】事業用に展開する可能性はゼロではありません。ただ、いまはそちらを押し出す気持ちが薄いです。当面は、個人のパートナーをつくるためにはどうすればいいのかという点に頭を使いたいです。

■機械のなかの恋人を三次元に連れ出す

【田原】武地さんは自分の会社を「次元を超える研究所」とおっしゃっています。どういうことですか?

【武地】僕らのテーマは、画面のなかにいる二次元のキャラクターを三次元の世界に連れてきて、すぐ隣にいるような感覚を実現することです。

【田原】三次元の世界に連れてくるって、技術的に可能ですか。

【武地】将来は可能になるんじゃないでしょうか。たとえばヘッドセットをつけなくても、裸眼でキャラクターが部屋にいるように見えるVRや空間投影の技術はいずれ開発されるでしょう。さらにこちらが話しかけたり触ったりしたら反応するインプットとアウトプットの技術はもっと発達します。それからキャラクターが動いて物理的なモノを動かすような技術ができたら、本当にこの世界に一緒にいる感覚が増すはずです。

【田原】技術が発達したら、キャラクターがあの箱のなかから出ることができるわけね。ズバリ聞きますが、将来はセックスもできますか。

【武地】できると思います。たぶん人間がイメージしていることは基本的にできるようになります。

【田原】これを買う人は、1日何時間くらいつけているんだろう。

【武地】1日中つけっぱなしじゃないですかね。ただ、ユーザーの想定は1人暮らしのサラリーマン。みなさん働いているので、朝と夜に1時間ほどコミュニケーションを楽しむ使い方になるのかと。最終的には、向かい合うというより、パートナーとして横にいてくれたらいいという空気のような存在を目指しています。

【田原】そこまでべったりだと、人とつながるよりキャラクターと一緒にいたいという人が増えそう。それは困るでしょう?

【武地】そうですか? べつに何も困らないと思います。

【田原】皆引きこもると困らない?

【武地】いま、犬や猫といったペットを飼ってかわいがっている人がいますよね。でもペットを飼っている人たちが皆引きこもっているわけじゃありません。人間と暮らすのが好きな人もいれば、犬や猫と暮らすのが好きな人もいる。「Gatebox」は、選択肢を1つ付け加えるだけです。

【田原】なるほど。

【武地】そもそも僕たちの世代は、ゲームを通じて新たに友達をつくったりもします。いずれ「今日は嫁とこんな会話をした」と友達と盛り上がる場面も出てくるんじゃないかと。

【田原】武地さんは人間の恋人をつくらないの?

【武地】うーん、いまは「Gatebox」をつくることが一番楽しいかな。登場するキャラクターを人間以上に心ときめく存在にするために没頭したいです。

【田原】そうですか。頑張ってください。

■武地社長から田原さんへの質問

Q.物語の人物に、恋をしたことありますか?

作中の人物に恋したことはないですね。僕は作家になりたいと思っていたから、小説は本当にたくさん読みました。でも、現実的な人間で、そこまで想像力が豊かではない。だから作家になれなかったんですよ。

でも、女優さんには憧れました。たとえば吉永小百合さん。いまから40~50年前かな。TVのディレクターをやっていたときに、吉永さんに「ヌードを撮りたい」と頼んだことがありました。必死に説得したら、「2、3日考えさせてほしい」と言われた。結局、「申し訳ない。自信がない」と断られましたが、真剣に検討してくれことがありがたかった。本当におきれいな方でね。僕はやっぱり生身の人間が好きです。

田原総一朗の遺言:吉永小百合を口説いてみろ!

(ジャーナリスト 田原 総一朗、Gatebox 代表取締役 武地 実 構成=村上 敬 撮影=宇佐美雅浩)

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