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キレる人を落ち着かせる"アドラー心理学"

プレジデントオンライン / 2017年10月28日 11時15分

「このハゲーッ!」。テレビで繰り返し流された豊田真由子氏の罵声。なぜここまで激しくキレてしまうのか。アドラー心理学に詳しい岩井俊憲氏は「劣等感が感情を爆発させてしまう」と指摘する。突然キレる人への対処法を解説しよう――。

■職場で、家庭で、街中で、怒りが止まらない

「週刊新潮」の記事で報じられた豊田真由子氏の「このハゲーッ!」「ちーがーうーだーろーッ!!」という元秘書への罵声。その音声はテレビでも繰り返し流された。豊田氏は一連の騒動により自民党を離党し、今回の衆院選には無所属で出馬している。

あの罵声をはじめて聞いたときには、異常な心理状態だと思えた。だが、この状況、意外とあるのではないか。

筆者の家庭では、パソコンや電気機器の配線や操作を、妻の私がほとんどやっている。夫は機械とITが苦手な文系人間だ。つい先日、夫は大好きな歴史番組を録画するために、DVDにHDDのデータをダビングして空き容量をつくろうと、リモコンを操作しては何度も失敗した。教えるこちらはとにかくイラつく。「まずDVDを初期化しなさいよっ」「そのボタンは違う!」「前もやったのに、何度言えばわかるんだよ~ッ!」……豊田氏の気持ちが痛いほどわかる。

次に、前に勤めていた職場の風景を思い出す。数少ない女性営業マネジャーに抜擢された同僚は優秀で、大手のクライアントを抱えていた。連携する他部署に頼んだ仕事がうまくいかず、相手がのらりくらりとかわしたとき、オフィス中に響きわたる声で急に怒りを爆発させた。

「信じられないッ、2回も同じミスをするなんてあり得ない! お客さまになんて説明すればいいの!!」

職場が凍りついた。

キャリア女性だけではない。部下のミスを怒鳴り散らす切れ者男性上司は、枚挙にいとまがない。満員電車の中、優先席で席を譲らない若者にキレ、騒ぎ出す子供に怒り、商品やサービスの欠陥を見つけてはお客さま相談センターにクレームの電話を入れる。キレる人は男女限らずいる。家庭で、職場で、公共の場で、怒りを爆発させるのは、どんな心理メカニズムなのだろうか。

■劣等感が災いして完璧主義と支配欲を生む

アドラー心理学を使った研修やカウンセリングで定評のある岩井俊憲氏(ヒューマン・ギルド代表)は、豊田氏の一連の心理状態をこう分析する。

「怒りというのは普通、瞬発的に終わるものです。しかし彼女の場合怒りは執拗(しつよう)に続いています。これが特徴その1。2つ目の特徴は、彼女は挫折知らずで自分を追い込むタイプ。その執拗さは劣等感の裏返しです」

桜蔭中高から東京大学法学部、厚生労働省、米ハーバード大学留学というエリートコースをたどった豊田氏だが、記者会見では“完璧主義”“劣等感”を匂わせるキーワードがあった。

「振り返れば、自分はなんでも完璧にやらなきゃいけないとずっと思ってきて。仕事も、国会でも地元でもたぶんすごい抱えちゃっていて」
「私はもともと自分にものすごく自信がなくて。自己肯定感がめちゃめちゃ低くて、なんでもすごくがんばらないと自分はここにいちゃいけないという思いを小さいころからずっと持っていて」

秘書への執拗な追及は、何でも完璧にやらねばならないのに、未達成な自分の劣等感の表れからくる、というのだ。はた目から見ると劣等感なんか持つ必要がないキャリアだが、「他者との比較ではなく自分の掲げた、あるいは親から期待されて自分の中に勝手に内在化した劣等感」というのが岩井氏の見立てだ。

さらに、怒りの元には、別の感情がある。その元は一次感情といい、悲しみ、心配、落胆、寂しさなどがベースに潜んでいる。次にくる怒りは二次感情となり、対人関係の中で発動する。

アドラー心理学によれば、感情は、ある状況で、特定の人(相手役)に、ある目的(意図)をもって発動されるとする。そして、怒りの目的にあるのは、大きく次の4つだ。

(1)支配
(2)主導権争いで優位に立つこと
(3)権利擁護
(4)正義感の発揮

いずれの要素にも、根底には「~しなければならない」「~べき」という信念がある。キレながらお説教やクレームをまくし立てる暴走老人に多いのは(4)のタイプである。

豊田氏の場合は「予定通り業務をこなせず、自分が傷つけられたと思い、秘書の失敗に落胆しているのです。それに対して怒りで表すと、秘書としてはなぜこんなにキレられるのかがわからない」(岩井氏)

上司が支配や主導権を目的に、理不尽な怒りを発動すれば、傷つけられたと感じる部下は「だったら私も反撃します」というモードで復讐に至る。豊田氏と秘書、両者とも対人関係のトレーニングができていなかったわけだ。

■「このハゲーッ!」は相手へのリスペクト不足から出た言葉

また、秘書への怒りはアドラー心理学の言葉で言うと「リスペクト(尊敬)不足」が招いたことだと岩井氏は指摘する。エリートやワンマンな上司の中には、「自分は上の立場だから、秘書や部下は使用人、上役に奉仕して当然」という考え方をする人がいる。リスペクト不足はいろんな局面に表れ、組織ではパワハラ、セクハラ、モラハラにつながる。夫婦間のドメスティックバイオレンスや子供に対する虐待もその一種。リスペクトの対象なら「このハゲーッ!」は出なかったわけだ。

さらに、支配的で利害感覚がものすごく強く、カネ・モノ・人の注目を徹底的に追求するタイプは“ゴー・ゲッター(go-getter)パーソナリティ”と言い、やり手ではあるが周りも傷つける両刃の剣の持ち主である。

さらに岩井氏によると、豊田氏は、「タイプA」パーソナリティの典型だという。AはAggressive(攻撃的)の意味があり、性格面ではAccountable(責任感が強い)、 Ascending attack(上昇志向が強い)、 Ambitious(野心的)、行動面では、Awful(せきたてられる)、Active(行動的)、Annoying(いらだちやすい)傾向だ。こういう性質のタイプは、循環器系の疾患になりやすいという医師の研究がある。心臓病にかかった著名政治家や経営者の顔が思い浮かぶ。それに対して温和なのんびり屋はタイプB(Being)といわれる。

忙しい議員やビジネスマンともなると、スケジュールは分刻みになり、前の予定が狂うと全てに影響してしまう。絶えずせきたてられるように行動するが、そういう状況は本人の気質が招いている部分もある。

「豊田氏の記者会見を見ると、このスクープを最初に報じた週刊誌記者の質問を、いきなり遮ってにらみながらバーッとしゃべり出しました。本人も周りもくつろげない性格の人なんですよ。急げ急げ病です」(岩井氏)

豊田氏のような上司は、政治家だけでなく、特にエリートに多い。このような気質の人は、失敗を非常に恐れる。完璧主義者だから、想定から外れる事態を恐れ、自分を評価する相手を恐れ、自分自身を恐れる。恐れがせきたてる行動の原動力でもあり、攻撃的になり、それが致命傷にもなる。

■「秘書」はどんな行動を取るべきだったか

このようなタイプは、どうやって自分を律すればよかったのだろうか。

まず、怒りそうだと感じとき、二次感情の発動をいったん抑え、「あなたにはがっかりしたわ」「あなたのことを心配しているよ」という、一次感情の問題にフォーカスしながら、やわらかく相手の立場から諭すことである。こういう伝え方なら、激しい感情を出さなくても、部下に自省を促すことができる。

豊田氏の場合は秘書のたび重なるミスで完全にわれを失い、怒りが増幅して高揚し、火に油を注ぐ状態だった。こうなると、「周囲が羽交い締めにするしか止める方法はない」(岩井氏)という。

そこで重要なのが、部下、この場合では「秘書」のとる行動だ。

例えば、道を間違えたときは、「車を止めてしまえばよかったんですよ。そうすることで豊田氏が目的地に行けなくなるわけですからね」と、岩井氏は意外な策を提示する。

ミスが続いて相手が怒りまくる非常事態だから、秘書の立場もかなり危ない。ここはなんとかしようと焦るよりも、クビ覚悟で車を止め、「これ以上怒ると、私にとって運転不可能です」と思いきって言うことで、その場の空気が変わる。車を止められると豊田氏もさらに困るわけだが、怒りが問題解決にならないことに気づき、クールダウンするきっかけにもなる。

あるいは、内部告発という最終手段に出る前に、同僚と共闘することで、事態を打開できることがある。暴言に悩まされている同じ仲間3人くらいで囲み、「先生、ちょっとお話があります。これは先生のためを思って申し上げるのですが……」と、問題を話し合う。心理学ではコンフロンテーション(直面化)と言い、ときには部下もそれをやらなくてはいけない。部下ひとりでやらなくてはいけないときは、かなりの覚悟の上で向き合うことが求められる。

岩井氏のもとを訪れる相談者の中に、ある企業のミドルがいた。その企業のトップは、中興の祖と言われたやり手だったが、怒りっぽく支配的で、公私混同や違法行為を繰り返していた。そのミドルが勇気を出して直言し、さらに他の役員に根回ししても、トップは改心せず、最終的にそのミドルはコンプライアンス委員会に違法行為を報告した。結果そのトップは、株主からの突き上げで解任されたというから、経営者が部下からの声に真摯に耳を傾けることがいかに大事かわかる。

「基本は人のフィードバックを受けること。友人でもいいし、部下でもいい。あるいは自分の尊敬する師匠やメンターを持つのも効果的。偉くなっても謙虚でいるためには、意見を言ってくれる存在を持つことです」と岩井氏。

「実るほど頭を垂れる稲穂かな」ということわざがある。 上に立つ人ほど謙虚に聞けるようになること、どんな立場の相手も、一人の人間として尊敬の念を持つこと。怒りの感情を抑え、対人関係を円滑にして良い結果を出すためのコツは、仕事でも家庭でもぜひ心しておきたいものだ。

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岩井俊憲(いわい・としのり)
ヒューマン・ギルド代表。1947年、栃木県生まれ。早稲田大学商学部卒。外資系企業に就職。85年ヒューマン・ギルド設立。中小企業診断士、上級教育カウンセラー、アドラー心理学カウンセリング指導者。カウンセリング、カウンセラー養成や公開講座を行うほか、企業・自治体・教育委員会・学校から招かれ、カウンセリング・マインド研修、勇気づけ研修、リーダーシップ研修や講演を行っている。主な著書に『人を育てるアドラー心理学』『人生が大きく変わるアドラー心理学入門』などがある 。

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(フリーライター 上本 洋子)

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