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"ゆとり世代"のやる気スイッチの見つけ方

プレジデントオンライン / 2017年11月5日 11時15分

「ゆとり世代」に代表される若手の社員は、いくら叱咤激励しても重い腰を上げようとしない。どうしたら彼らのやる気にスイッチが入るのか。3人の識者にスポーツ心理学、メンタルヘルス、脳科学の観点から聞いた――。
▼部下をやる気にさせる3人の達人

(左)枝川義邦(えだがわ・よしくに)
早稲田大学研究戦略センター教授/早稲田大学先端科学・健康医療融合研究機構および高等研究所准教授などを経て現職。脳科学を専門とし、人材を生かした組織の研究も行う。

(中)新井淳子(あらい・じゅんこ)
オフィスフローラン社長/全国展開の料理教室で店長、人事部を経験。現在は社会保険労務士として、人事相談、メンタルヘルスなど労務トラブルに対応している。

(右)大儀見浩介(おおぎみ・こうすけ)
メンタリスタ社長/東海大学進学後、応用スポーツ心理学(メンタルトレーニング)を学ぶ。現在はスポーツやビジネスなど、さまざまな分野で指導を行っている。


■若い世代の人たちは自信がないだけ

やる気が見えないし、感じられない。そんな若手の“問題部下”を抱えて、苦悩している中間管理職は少なくない。そうしたなか、いまだにビジネスの現場で幅を利かせているのが、「もっとやる気を出せ」といった一方的な叱咤激励である。

それにより、人格を否定されたと思い、極度に落ち込んだり、うつに陥って退職したりする。一体どうしたら問題部下の“やる気スイッチ”が入るのか――。単なる精神論ではなく、心理学、それも実際にビジネスの現場で活用されているスポーツ心理学(メンタルトレーニング)や、最先端の脳科学の研究結果から解き明かしていきたい。

まず、心理学を活用しながら企業の人材育成やスキルアップのコンサルティングを手がけるオフィスフローラン社長の新井淳子氏は、「若い世代の人たちは自信がないだけ。ぜんぜんやる気がないように見える部下でも、いろいろ話を聞くと、成功体験がなく経験値も低いので不安なだけだということがわかってきます」と、上司と部下の間の意識のズレを指摘する。

早稲田大学研究戦略センター教授で脳科学が専門の枝川義邦氏も、若い世代がやる気がないように見えるのは、世代間の感覚の違い、意識のギャップに理由があると次のように指摘する。

「マーケティングでいう『ウォンツ』、つまり具体的に手に入れたいと思うものが多様化しています。かつては『いつかはクラウン』が成り立ちました。カローラからスタートして、課長、部長と出世したらクラウンに乗るといったように“モノサシ”は1本でした。でも、いまはそのモノサシが何本もあります。それだけ管理職世代の人たちとのギャップが広がり、若い人のウォンツを突くのは難しくなっています」

では、そうした世代間ギャップを埋め、彼らのやる気スイッチを入れるにはどうしたらよいのだろう。新井氏は相手を「認める」ことによって、まず有能感を植え付け、信頼関係を構築していくことが大切だという。

「よく叱るより褒めろといいますが、褒めてもモチベーションが落ちないだけで、むしろ『これくらいでいいや』と現状で満足して、成長が止まってしまいます。一方、いまの若い人は1番でなくてもいいから、認めてほしいという承認欲求が強いのです。実際に認められると、自己肯定感がすごく高まって、自分に有能感が生まれます」

■まずは信頼関係を築くこと

部下が書類を作成しているときに、「頑張っているね」とひと声かけるだけでもいい。要は結果が出るまでの間、努力している姿を認めるのだ。そして結果が出たところで、その出来栄えを褒める。そこで部下との信頼関係ができ、上司のいうことを納得して受け入れるようになる。枝川氏も次のように述べる。

「部下の真のウォンツを見つけるためには、まずは信頼関係を築くことです。部下に関心があることを、言外も含めてメッセージを送る。そうして心がつながっていくと、脳のなかでオキシトシンという『信頼ホルモン』『愛情ホルモン』とも呼ばれる物質が分泌されます。このような状態になると、信頼関係が強固なものになっていくのです」

神経細胞(ニューロン)の間で情報を伝えている化学物質の神経伝達物質は約100種類あるが、特に感情や心の状態に大きな影響を及ぼすのが、ドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンなのだ。

ノルアドレナリンは興奮性の神経伝達物質で、これが多くなると不安や恐怖、怒りが増す。特に緊急事態の際に働き、外からのストレスに対応しようと、脳の活動や集中力を高める。その結果、トラブルへの対応や急ぎの仕事などについて、「やらなければならない」というプッシュ型のモチベーションがアップする。

ドーパミンは「快楽物質」とも呼ばれ、多量に分泌されると快感や喜びの気持ちが高まる。新しいことを始めるときにワクワクしたりするのもこの働きによるもので、「もっとやりたい」というプル型のモチベーションを高める。セロトニンは、この2つの活動を調整し、不安感を低め、精神を安定させ落ち着かせる作用がある。これにより、次第に「やめたくない」という気持ちになり、持続的に目標達成に挑み始める。

■無理やりの外発的動機付けであっても構わない

「やる気を出す」「やる気が出ない」など、我々は日常的に「やる気」という言葉を使っているが、「やる気」とは何かと問われると、意外に戸惑うはず。

数多くのスポーツ選手やビジネスパーソンにメンタルトレーニングに基づいた指導を行うメンタリスタ社長の大儀見浩介氏は、「やる気とは最終目標に向かってプランを立て、具体的なプロセスをつくることで、湧き上がってくる『いけそうだ』『できそうだ』という気持ちのことです」と定義し、次のように語る。

「この内発的なやる気、いわゆる『内発的動機付け』は伸びていくための理想的なやる気ですが、自分でしかつくることができません。なぜなら、やる気が上がったというのを感じ取れるのは自分だけだからです」

実は、やる気に対するメンタルトレーニングからのアプローチは、脳科学の分野からのアプローチと通底している。カナダの心理学者アルバート・バンデューラが提唱する「セルフ・エフィカシー」という概念がある。これは「人」「行動」「結果」の3つの関係性を分析したもので、人と行動の間には「効力予期」、そして行動と結果の間には「結果予期」が存在している。

■部下の内在化を積極的にサポートする

前者は具体的な結果は見えないものの、行動すれば何らかの結果が出るだろうと意識し、とにかく走り出そうというような状態のこと。後者は、どういう行動をしたら、どういう結果につながるかがイメージできている状態で、結果予期力の高い人は適切な行動がとれるようになる。その結果予期は、大儀見氏のいう「プランとプロセスを通じたやる気」と同様のものと考えられ、それを高めることで自信がつき、効力予期も向上してより積極的な行動に移っていく。

前に触れたように、やる気の理想形は自分の内部から生まれる「内発的動機付け」によるものだが、なかなかそう上手くはいかないのも実情だろう。そこで、アメとムチなどを使った「外発的動機付け」からスタートするのも有効だと大儀見氏は話す。

「外発的動機付けはよくないとされてきましたが、最近の『自己決定理論』という新しい考え方では、両方を組み合わせています。初めはムリヤリでも嫌々でも構わないのでやり始め、その状態から徐々に内発的動機付けに変えていくものです」

そのように外発的動機付けから内発的動機付けに少しずつ変化していくことを「内在化」という。やり続けるなかで、自己決定や自己選択する力が培われることによって内在化が進む。もっとわかりやすくいうと、自分で目標を立てる力、課題をつくる力を自然と身に付けていくことが内在化なのである。そして、部下の内在化を積極的にサポートするのが上司の役割だと、大儀見氏は強調する。

「上司には部下との信頼関係を構築し、失敗や成功を受け止める環境づくりが求められます。1番ダメなのは、選手や部下がミスを隠そうとしたり、失敗をとりつくろおうとするような環境です。失敗に気づき、経験、成長、進化のきっかけと捉えると、ミスを次に生かしていけます。こうしたミスを受け止められる環境づくりが、職場の上司の重要な役割なのです」

さらに、外発的動機付けから内発的動機付けへの転換について、新井氏も次のように述べる。

「承認することでやる気になってくれればベストですが、納得するまで待っていられないときもある。そうした際には外部から内部を整えます。たとえば、心理学者のレナード・ズーニンが提唱する『初動4分の法則』の活用です。嫌な仕事や厄介な仕事は後回しにしがちですが、最初の4分だけ無理にでも集中して頑張る。そうすると気分が乗ってきて、どんどん進むようになるのです。その結果、やる気も自ずと高まります」

■成功確率50%の目標設定で自らの成長を促す

そうやってやる気にスイッチが入った後、それをテコにスキルアップを図っていくのに有用なのが「フロー」と呼ばれる状態だ。枝川氏によれば、仕事などのスキルと難易度の関係性はやる気に大きく影響しており、そのバランスが調和して、心地よく感じるスペースがあるという。それが心理学者のチクセントミハイが提唱する「フロー」である。

「フロー状態は内発的動機付けが非常に強く、やる気に満ちています。やること自体が楽しく、外部の音が聞こえなかったり、時間を忘れるといった状態がフローです。実はこのとき、脳内ではドーパミンが放出されています」(枝川氏)

フローから外れた上の部分は、スキル以上の難易度の高い仕事を与えられたときで、不安を感じる領域になる。一方、フローより下側は、難易度が低いため逆に退屈に感じてしまう。そこでスキルと難易度のバランスがとれているフロー状態をキープするために、スキルアップに応じて仕事のハードルを少しずつ上げていく。その際に重要なのが、設定する目標の難易度の高さだ。

「心理学と脳科学の研究から、ハードルの高さは成功確率50%のときにやる気が最も高いことがわかっています。成功体験によりセルフ・エフィカシーが高まり、スキル向上も伴うと、難易度の高い仕事を好むようになります。そうやって仕事のレベルを上げていくのが理想的なのです」(枝川氏)

■10%アップの水準に設定するのが最適

大儀見氏も同様の見解を示すが、目標達成に向けた1歩目の水準は、前回の110%、つまり10%アップの水準に設定するのが最適という。

「ある実験結果によると、1歩目は高すぎても低すぎてもよくありません。学校の中間試験で50点だった子どもに、期末試験で100点をとれといっても、『どうせムリだ』と思って諦めてしまう。しかし、目標が前回の110%だと55点でよく、『5点だったらできるかもしれない』と思って机に向かい、集中力も上がる。そして目標を達成すると、『もっと高い点数をとりたい』という意欲が湧き、進んで勉強し始めます」

このように生まれた内発的なやる気を持続的に向上させていく際に、深く関係してくるのが脳内物質であり、枝川氏は次のようにいう。

「最初に目標を与えられたときに分泌されるのが緊張に関係するノルアドレナリンです。これが多くなりすぎると不安感が強まりますが、適度であれば集中力が高まってパフォーマンスが上がります。いわゆる“お尻に火が付いた状態”です。そして目標の達成に際して、今度はドーパミンが放出され、クリアすればセルフ・エフィカシーが高まる。それを繰り返しながらハードルを上げていくことで、外発的動機付けが内発的動機付けに転換していくのです」

そうやって自らやる気のスイッチを入れて走り続けていく際に、大儀見氏が大切にしているのが「快適自己ペース」だ。長い時間ジョギングを楽しめる人は、自分のフォームとペースをしっかり持っており、それがモチベーションの維持にもつながっているのと同じこと。職場でいえば「仕事での勝ちパターン」と「自分にとって1番いい仕事のリズム」といってもいい。

そして、最後に忘れてはならないのが、プランやプロセスづくりの大前提となる目標の設定だ。単に目標を設定すればいいというわけではなく、「目標をどう捉えるかで、成長、やる気、パフォーマンスが大きく変わります」と大儀見氏は釘を刺す。

■もっと上に行きたいという意欲が高まる

「達成目標理論」には「課題目標志向」と「自我目標志向」という2つの目標の捉え方がある。成績や評価を考えて行動する自我目標志向が強くなると、ミスを恐れ、次第に挑戦する意欲が衰える。一方、課題目標志向が強いと、目標達成のためのプロセスを重視し、自分の努力や成長の過程に目を向けるようになり、もっと上に行きたいという意欲が高まる。

ただし、課題目標志向と自我目標志向は常に一定ではない。当初は課題目標志向だったのに、いつのまにか結果を気にするようになり、自我目標志向に変わっていたということがよくある。そこで、自分がどちらの志向なのかを、絶えずチェックしておくことが重要になってくる。

最後に問題部下のやる気スイッチを入れ、モチベーションをアップさせていく順序を整理しておこう。まず、成功確率50%ないし前回実現した成果と比べて10%ほど高い目標を設定し、実現に向けたプロセスを提示する。強制でも構わず、むしろこの程度の目標なら部下も「できそうだ」と考え、脳内はノルアドレナリンが分泌されて集中力が高まる。ここがやる気のスイッチが入った瞬間なのだ。

その目標が達成されたら、部下が退屈しないよう、さらに1段上の目標に挑戦させる。それが達成されると高揚感が高まり、脳内ではドーパミンが分泌されてプル型のモチベーションがアップする。そして、自分ができそうと思える1段上の目標への挑戦と達成を繰り返すことで、自分が最も心地よいと感じるフローの領域内で、自ら成長していくようになる。

当初は強制的で外発的動機付けだったが、ここまでくると内発的動機付けに転換されていて、上司の役割も課題目標志向か自我目標志向かをチェックさせたり、サポート役に徹することだけで済むようになる。ぜひ職場で活用してほしい。

(ジャーナリスト 田之上 信 撮影=柳井一隆、加々美義人)

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