各党の「うそつき集」から本音を読む方法
プレジデントオンライン / 2017年10月21日 11時15分
■「退化」した公約の使い道
今回の衆院選で各党が出した公約を読むと、「悪い意味で民主党の失敗を教訓にしている」という感想をもつ。
民主党は2009年の衆院選で政権を奪取した。その時の主役は、鳩山由紀夫代表ではなく、政権交代時に実行する政権公約「マニフェスト」だった。
当時の民主党マニフェストは、子ども手当、農業の戸別補償、高速道路の無料化などの政策を期限付きで実行するという工程表を示し、その財源も明らかにしていた。有権者は「数値、財源、期限」つきの具体的な政策が並ぶマニフェストを信頼し、政権交代が実現した。
だがご案内の通り、大部分のマニフェストを実効することなく、民主党は下野した。財源の計算があまりにいいかげんだったことに加え、官僚の協力を十分に得られなかったことが要因だ。この結果、マニフェストは「うそつき集」など呼ばれるようになった。
■「マニフェスト」は公明と維新だけ
この「反省」に立てば、より精緻で実現可能な政策を練り上げるのが本来の姿だが、残念ながらそうはなっていない。民主党のマニフェストは具体的な約束だったため、約束が果たせなかったことがはっきりしてしまった。逆に、あいまいな表現にとどめておけば、傷は浅い。各党が示し合わせたわけではないだろうが、公約をみると具体的な数値が減っていることがわかる。つまり公約は「退化」したのだ。
主要8党のうち今回の衆院選で「マニフェスト」という名を使っているのは公明党と日本維新の会だけ。自民党は政権公約、希望の党と立憲民主党は政策パンフレット、共産党は総選挙政策、社民党が選挙公約、日本のこころは重点政策としている。ここからも「マニフェスト離れ」が進んでいることがうかがえる。
退化した公約なら読んでも意味がない、と思うかもしれないが、必ずしもそうではない。各党別に「見どころ」をガイドしてみたい。
▼この国を、守り抜く。自民党
今回の自民党の公約は、冒頭から6ページ目まで「安倍外交」のアピールで埋め尽くされている。その中には「世界の中心で動かす外交。」という見出しとともに、安倍晋三首相とトランプ米大統領、プーチン・ロシア大統領、メルケル・ドイツ首相らとのツーショット写真が並ぶ。まるで「安倍外交写真集」のようだ。
選挙では「外交を争点にしても勝てない」という常識がある。有権者は生活に密着した景気や社会保障などの内政課題に関心があるからだ。だから演説も公約も内政課題を前面に出すことが多い。
自民党の公約が、なぜこのような「常識外れ」の構成になったのか。理由は明らかだ。今回の衆院解散にあたり、安倍首相は「大義がない」という批判を受けた。その批判をかわすため、安倍首相は北朝鮮の脅威への対抗を解散の大義と位置づけている。その大義に正当性を持たせるために公約でも北朝鮮の脅威を強調し、それに立ち向かえる力強い外交力を示そうとしているのだろう。
憲法改正の部分では、イメージ写真として4枚掲載されているが、そのうち2枚は災害救助などをする自衛隊員の写真。そこからも9条に自衛隊明記を目指す安倍首相の意思が読み取れる。
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▼教育負担の軽減へ。公明党
自民党と与党の一角を組む公明党。だが、公約をながめると「これが自民と連立を組んでいる政党なのか」という感想を持つ人が多いはずだ。表紙に「教育負担の軽減へ。」と書いてあるように、その公約は内政課題で埋め尽くされている。
4つの重点政策には外交安保の項目はなく、「格下」となる5番目の「安定した平和と繁栄の対外関係」というところであっさりと掲載されている。自民党と公明党の主張は矛盾するものではないが、どこを優先するかで両党の立ち位置の違いが見えてくる。
選挙後の争点になるとみられる憲法改正については、最後の1ページをつかって説明している。「9条1項2項を維持しつつ、自衛隊の存在を憲法上明記する」という安倍首相の提案を紹介しながら「その意図は理解できないわけではありませんが、多くの国民は現在の自衛隊の活動を支持しており、憲法違反の存在とは考えていません」としている。
自民党にはある程度配慮しつつも、あまり乗り気ではない公明党の「本音」が透けてみえる表現だ。
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▼日本に希望を。希望の党
9つの公約を並べているが、注目すべきはその順番だ。
(1)消費税増税凍結(2)議員定数・議員報酬の削減(3)ポスト・アベノミクスの経済政策(4)原発ゼロへ(5)雇用・教育・福祉の充実(6)ダイバーシティ社会の実現(7)地域の活力の競争力の強化(8)憲法改正(9)危機管理の徹底。
前半は野党色の強い主張だが、(8)、(9)あたりは安倍政権と足並みをそろえた内容といえる。このあたりが、安倍1強の打破を訴えながら、選挙後に自民党と連携するとの見方が絶えない希望の党の状況を示している。
公約の後半には「12のゼロ」というページがある。原発ゼロ、企業団体献金ゼロなどとともに「満員電車ゼロ」「ペット殺処分ゼロ」「電柱ゼロ」など小池カラーの政策も並ぶ。
公約にはアベノミクスに代わる経済政策としてユリノミクスという言葉もあるが、あまり評判がよくなかったためか、小池氏は演説などではあまり口にしていない。
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▼消費増税凍結! 身を切る改革で教育無償化。日本維新の会
希望の党と協調して選挙戦を戦っている維新。まず表紙に党首の顔がないというところが目を引く。松井一郎代表が衆院選に出馬していないことが念頭にあるのだろうか。
消費税凍結、身を切る改革、憲法改正など、主要な政策は希望の党と足並みをそろえている。松井氏が大阪府知事であるということもあり、公約ごとに、大阪が取り組んでいる事例を紹介している。「大阪での先進的事例を日本中に伝える」という立て付けになっている。
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▼力あわせ、未来ひらく。共産党
一貫して政権を批判している。安保法制をつくり改憲を目指す安倍政権の政策を攻撃するのはもちろん、森友・加計疑惑などについてもスペースを割いているのが特徴。
さらに特筆すべきは、希望の党を批判していることだ。「自民党政治の中枢にいた人」、「民進党を離党した人」、「ウルトラ右翼の潮流の人」が集まって結成されたとして「自民党政治の補完勢力」と断じている。この書きぶりを見る限り、希望の党と共産党を含めた「反自公」勢力が結集するのは難しいことがうかがえる。
一方、立憲民主党、社民党については「(野党)共闘の道を勇気を持って誠実にすすもうという政党」と評価している。
共産党は消費税の増税に反対している。そのためか社会保障や教育を充実させる財源について5ページも割いている。「反対するだけ」という批判への反論なのだろう。
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▼まっとうな政治。立憲民主党
民主党の流れをくむ立憲民主党。代表の枝野幸男氏は、一連の民主党マニフェストづくりにも幹部としてかかわってきた。その先入観を持って公約をみると、かつての民主党のマニフェストとは随分違うことに気づく。
例えば原発。民主党時代は「2030年代ゼロ」とうたっていたが、立憲民主党の公約には「1日も早く」という表現はあるが「30年代」はない。その点をもって後退したという見方もあるだろう。
ただ、現実は少し違うようだ。マニフェストは政権を取ったら実行する政策リストのこと。今回、立憲民主党は単独で政権を取れる候補者数を擁立していない。つまり立憲民主党政権は、誕生しない。
さらにいえば厳密な意味でのマニフェストをつくる資格を、まだ持たない。であれば、今回の衆院選では、約束できない年限を書かないという判断だったという。
マニフェストを知る故の「誠実さ」ということもいえるが、読んでみて物足りない印象を持つ人もいるかもしれない。
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▼憲法を生かす政治 社民党
全編で憲法にこだわった構成となっている。今の憲法を守る決意を示すだけでなく、安倍政権にもとで憲法がないがしろになっていることを列挙している。
加計、森友疑惑を指摘するのは共産党と同様だが、加計疑惑で注目された国家戦略特区制度を、首相主導のトップダウンで行政を「私物化」する制度として廃止を提案している。
消費税を10%にあげる代わり、法人課税などを提言。財源論にも踏み込んでいる。
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▼次世代へのメッセージ 日本のこころ
日本のこころは、(1)自主憲法の制定(2)敵基地攻撃能力の保有(3)消費税マイレージ制度の導入(4)被災者の自立を徹底支援―を重点政策としている。
中野正志代表はテレビ討論などで、自民党を全面支援するような言動が多いが、消費税については考えが違うことが分かる。「消費税マイレージ制度」というのは、飛行機にのるとマイルがたまるように、ものを買って消費税を払う度に少しずつポイントが加算され、老後に還付されるという制度だ。
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公約は各党のHPからダウンロードできるほか、選挙事務所や演説会などでも入手できる。ぜひ直接確認してみてほしい。
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