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選挙後の日本を分断する「3つの軸」とは

プレジデントオンライン / 2017年10月20日 11時15分

時代を読み解く「軸」を持つには、どうすればいいか。国際政治学者の三浦瑠麗氏は「時代の問いに、時代の言葉で答える」という目的のために「政治学」を用いる。今回の衆院選について、三浦氏は「諸外国と同じく、日本でも『センターライト(中道右派)・ポピュリズム』の存在感が増している」と分析する。今後日本はどうなっていくのか――。

■総選挙の対立軸

選挙を間近に控え、どの候補者に、あるいはどの党に投票するか案じている人も多いのではないでしょうか? 本稿では、私なりに今回の選挙をどう見ているかお伝えしたいと思います。

総理が解散に打って出る観測が高まったころ、私は、総選挙の対立軸は改憲問題であると言っていました。与党及び改憲勢力が衆参で2/3の議席を占めながら、改憲の具体的な論議は進んでいなかったからです。その停滞感は、本年5月に9条3項加憲、自衛隊明記の総理私案が提示されて以降も変わりませんでした。特に、与党の一画をなす公明党の煮え切らない態度が目立っていました。曰く、国民的な議論が盛り上がっていないとか、衆院選を前に憲法の話はできないとか。したがって、総選挙の目的は、与党+改憲勢力で2/3の議席を更新し、公明党に改憲に向けた具体的な動きを促すための賭けであると。

ところが、そこに小池さんが登場したわけです。総選挙に、政権選択風味の味付けが加わりました。

「踏み絵」や「排除」といったカラフルな言葉が飛び交いました。ご案内のとおりの曲折を経て、選挙戦は3極に収斂しています。

自公与党が体現しているのは、経済政策と安保政策に対する現状維持。各種の経済指標が改善し、北朝鮮危機の只中にある中で、経験の蓄積を前面に出した戦い方には一定の合理性があるでしょう。そもそも、自民党には、自分の生活が既存の秩序や利権とつながっていると考える人々による基礎票もあります。

■和製リベラルの結集

もう一つ、分かりやすいのが立憲民主党、共産党、社民党による和製リベラル陣営。民進党が分裂して、左派純化路線の下で再結集が可能になりました。リベラルに、わざわざ「和製」とつけたのは、本来であれば経済政策や安保政策において幅があるはずの人々が、安倍政権への拒否感と護憲イデオロギーを介してまとまっているから。

例えば、立憲民主党の枝野さんなどは、改憲私案も出していてガチガチの左派ではないところもあります。安倍政権の対北朝鮮に対する「圧力」に、一定の現実的評価を与える姿勢などは、政権交代を経た野党の成熟と言えなくもない。ポピュリズムの波に飲み込まれずに、信念をもって踏みとどまった姿勢も共感を呼んでいます。

ただ、明確な限界も抱え込んでいます。枝野さんの幅とは別に、支持者がまとまれないからです。労働者の権利という文脈では、正規雇用者と非正規雇用者の利害が、女性の権利という文脈では共働きと専業主婦の利害が、所得再分配では中産階級と低所得層の利害がぶつかってしまう。リベラルをまとめるのは難しいのです。結果として、和製リベラルがまとまれる旗印が、どうしても反政権と護憲になってしまうのです。

もちろん、日本の有権者の2~3割には、護憲イデオロギーを信奉していますから、その層を代表する政党があるのは、健全なのだと思います。とは言うものの、当陣営は100議席に乗せるのが難しい情勢ですから、1/3はおろか1/5に届くかどうかという水準ではあるのですが。

■中道右寄りのポピュリズム

評価が難しいのが、希望の党です。評価を難しくしているのは、希望の党という政治的な動きそのものに着目するのか、小池さんという一人の個性に着目するのかによって異なるからです。政治的な動きの背景にあるのは、先進国各国で共通して進行している反エリートの気分です。既存の政党や政治家には、現代の難問は解決できないという感覚です。

イギリスのEU離脱や米国のトランプ政権誕生には、それぞれに背景や性質が異なるところはありますが、根っこにある感情には似たものがあります。各国で同時進行するポピュリズムに共通する要素は何か。それは、既存の政治家階級への不満であり、感情的に動員されやすい政策への反発であり、中間層の経済的な閉塞感でしょう。それらの要素の上に、中道右寄りの気分と、負のエネルギーを組み合わせた運動が生じているのです。

日本では、政策的な対立点は明確ではなく、反利権という雰囲気が突出しています。希望の党がPR動画の中で攻撃するのは、「しがらみ」、「組織の論理」、「隠ぺい体質」、「既得権」です。重視するのはあくまでもスタイル。今後、日本に移民問題のような国民を分断する感情的な論点が生じることがあれば、ポピュリズムが発するエネルギーは更に暴力的なものとなるでしょう。

利権に力を入れるのは改革を謳う政党の特徴です。過去、自民党が大きく負けたのはいずれも利権を衝かれたときなので、戦術的にも間違ってはいません。ただ、この戦略の盲点は、政権を獲得すると自らも利権化するという矛盾から逃れられないこと。一つの極を形成するだけの永続的な論点にはなり得ないのです。日本で、改革風味の政党群が生まれては消えていったのは、その本質と向き合ってこなかったからです。

■小池氏という個性を超えた次なる焦点

小池氏という個性に着目するとどうでしょうか。悪目立ちするのは、政策の中身における圧倒的な準備不足でしょう。あれだけ、無茶苦茶な発言を繰り返すトランプ政権にさえ、それなりに一貫した政策的体系が存在します。賛成か否かとは別に、経済ナショナリズムを前面に出し、反移民・反貿易・反軍事介入を柱とする政策はそれなりに筋が通っています。

希望の党が打ち上げては萎んでいった一院制、ベーシック・インカム、内部留保課税などは、申し訳ないけれど俎上にすらのってこない代物です。組織運営の堅実さや、有為な人材の結集度合いという意味でも随分と貧弱な印象を持ちます。

選挙前からこのように申し上げるのは失礼かもしれませんが、希望の党が永続すると思っている向きは、本人たちも含めてないでしょう。ただ、各国の例を引くならば、小池さんの求心力が衰えた後にも、センターライト・ポピュリズムの存在感は増していく可能性が高い。

焦点は既に小池氏という個性を超えた展開に移っています。憲法改正、北朝鮮危機、社会保障改革など日本社会が直面する難しい論点において、日本政治にセンターライト・ポピュリズムという明確な存在が加わった影響がどう出てくるのか。試金石となるのは、まずは、憲法改正と北朝鮮問題における立ち位置。そして、経済分野の構造改革を自民党に突き付けるような動きを見せられるかどうか。

自公政権という政権の枠組みに変化が予想されない中、そのあたりが、日本政治の新たな焦点となっていくのではないでしょうか。

こうして政治について考えることは、リアルな世界を生き抜くうえで、欠かせない教養になっていると思います。書籍よりも早く、ニュースサイトよりも深く、いまの政治について考えていくため、この10月からメールマガジンをスタートしました。当面のテーマは「資本主義に政治はどう向き合えばいいのか」というものです。ぜひ、ごらんになっていただければと思います。

(国際政治学者 三浦 瑠麗)

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