ネット選挙でも「インスタ映え」が重要に
プレジデントオンライン / 2017年11月12日 11時15分
■民進党のネット戦略はかくもダメ
前回記事では、今回選挙で立憲民主党が躍進した理由を分析した。今回は、他の政党のネット戦略について、より詳しく見て行くとともに、ネット選挙戦略の今後についても考えてみたい。
前回触れたとおり、今までの選挙を振り返ると、インターネットでの総合的な発信力は自民党がダントツで1位だった。発信の質の高さで自民党に続くのは共産党。公明党は支持母体である創価学会を主とする登録者数で共産党を上回り、発信力を広げようとしている。
ダメなのが、野党第一党だった民進党(旧民主党)。日頃の発信はほぼ無く、選挙になってから大手広告代理店に一任。選挙が終わればなかったことになっていた。これが、民進党のネット戦略最大の反省点。そして、有権者の支持を得られなかった一因と言える。この民進党の「失敗」には、学ぶべき点が多い。
■ネットに限らない民進党の弱点
政治ジャーナリストや記者、政党のネット戦略に関わる人間であれば、だれもが理解し、指摘していることなのだが、民進党の歴代幹部にはネットを理解できる人がいなかった。これがネット戦略が遅れた最大の原因だろう。代表経験者の中には、ネット上での自らへのバッシングに怒り、ネットそのものに拒否反応を起こす人もいた。前原誠司前代表も例外ではない。彼はネット音痴だ。
念のために言及しておくと、大塚耕平・新代表は党の広報を長く務めており、ネット戦略にも理解がある。これまでに比べればまだ期待できそうだが、すでに党自体の体力が弱りきっている。
話を戻そう。民主党政権時代、「ネット選挙解禁」は社会的なテーマだった。ネット音痴とは言え、幹部たちはネットでの発信を強化する方針を出さざるをえない。しかし、いくら方針を出しても、実働部隊が動かないため、何もやっていないことと同じになっていた。ようはチームが作れないのだ。また、批判を恐れるあまり、無難な発信を地味にやるだけで、結果として話題にすらならない、ということもざらにあった。こういった打つ手の不味さは、ネットだけに限らない、民進党の弱点だった。
知っての通り、民進党は選挙前にドタバタの崩壊劇を演じることになり、候補者たちはちりぢりとなった。結果として、希望の党、立憲民主党が誕生。選挙には新たな対立の構図が生まれた。
■自民党の王道を行く強さ
選挙前まで、ネット発信力で他党を圧倒していたのは自民党だ。大きな要因は、最大手代理店・電通と組んだことだ。今回選挙でも、電通が一括して請け負っている自民党の広報では、頻繁に流れているテレビCMにその「伝統」が垣間見えた。安倍晋三総裁が国民に語りかけるというオーソドックスなスタイルで、特に目新しさは無い。相変わらず安倍総裁の舌足らずなしゃべり方は気になるが、「そもそも政党CMなんて、これでいいのかもしれない」と思わせるシンプルさだ。
ネット戦略もいちいち手堅い。SNSでの発信では、カード式の案内や、応援演説の様子を編集してSNS版として流す最近増えてきたスタイルを積極的に取り入れた。フェイスブック、ツイッター、インスタグラムなど、SNSそれぞれの特徴もよく捉えている。
映像編集も、ひとつひとつが凝っていてかなり高レベルの仕上がりになっている。写真のレベルも非常に高い。随時安倍総裁について回り、短時間でこれだけのレベルの仕事を仕上げるのは、やはり「プロの仕事」なのだろう。
もともと、ネットユーザーとの親和性を高めていた自民党。JNSC(自民党ネットサポーターズクラブ)など、党のネット戦略の詳細についてはここではおくが、今回の選挙では、支持者を拡大したい若者や女性層、アベノミクスの効果に懐疑的で、自民党への支持が弱いとされた中小企業に向けた演説をまとめるなど、「お手本」を見せられている感じだ。とにかく、仕事が安定している。
■共産党は手作り感とストレートさが魅力
共産党は自民党に続き、高いネット発信力をもっている。以前はウイットに富んだネットCMを何本も流していた時期があった。しかし、最近はより幅広い層に伝わるように発信内容を変化させた。今回の選挙では、アニメを取り入れて、わかりやすくストレートなメッセージを真面目に伝えていた。
また、「#比例は共産党」と訴えるビデオをSNSで拡散。「昭和のCMかよ」と思わせるような簡単な作りながら、訴えがストレートなのでわかりやすく、手作り感も相まって好感を持たせるものになっていた。
選挙用の特設サイトのデザインも、原色を多用した「いつもの感じ」で、若者も違和感無く入って来られるように工夫をしていた。さすが若者との親和性の高さを強調して、ターゲットを上手に明確化している。ネット戦略においても、自分たちのやりたいこと、やるべきことが分かっている政党と言えるだろう。
■「インスタ映え」しなかった希望の党
今回の選挙で、一番残念だったのが希望の党だ。発足当初には政権交代の可能性すら感じさせ、連日テレビや新聞がその動きを報じていた。しかし、完全に尻すぼみ。ウェブサイトの立ち上げは遅く、候補者一覧が掲載されたのも公示日から何日も遅れるありさまだった。共産党と反対で、やりたいことも、やるべきこともわかっていなかった。
ネットの大きなメリットは共時性だ。特に見る側はネットの情報に速報性を期待している。そのため発信側も当たり前のように速さを競っている。その感覚が、希望の党には見られなかった。
政党の広報がSNSをどう理解しているかは、インスタグラムを見るとよく分かる。先程、自民党はSNSの使い方をよくわかっていると書いた。なぜなら自民党は、インスタグラムにおいても、ユーザーに好まれる「写真・映像の質の高さ」を理解し、レベルの高いものを投稿している。比べて、希望の党の投稿は相対的に質の低いものだった。言うなれば、「インスタ映え」しないのだ。
どういうことかといえば、インスタグラムのユーザーは、候補者の演説風景や街頭演説の告知パネルだけ見たいわけではない。なかには小池百合子代表の食事場面や移動中に撮影したメッセージもあった。ただ、それはツイッターでもできることだろう。何よりも「映え」が大切なインスタグラムの素材としてふさわしいとはいえない。
小池代表の遊説の動画をまとめたものもあったが、残念ながら完成度は自民党にはるかに及ばない。小池代表の演説力に自信があったのかもしれないが、自民党が安倍総裁の主張をいかにシャープに見せるか、編集に力を入れていたのとは大違いだった。
急ごしらえで、プロが付いていなかったのかもしれない。しかし、それであっても共産党のように、逆に手作り感を武器にするくらいのしたたかさを見せてもらいたかった。あらゆる意味で、期待を裏切った政党だといえるだろう。
■立憲民主党躍進から考える今後のネット戦略
希望の党がお粗末な姿を見せる一方、立憲民主党の活動は際立っていた(前回参照)。ツイッターのフォロワー数も、1位だった自民党を抜いて19万人を突破。今回の選挙結果を受けて、これからの選挙では、ますますネットでの「発信力」が重視されるようになるだろう。では、選挙のカタチはどう変わり、洗練されていくのか――。
2016年、18歳まで選挙権が引き下げられ、選挙はより若者まで広げられることとなった。今年でiPhoneが誕生してから10年。そしてツイッターが誕生してから11年である。今やスマホでハイビジョン動画を見るのが当たり前となり、あらゆる情報をテレビや新聞ではなくスマホだけから取り入れる有権者が増えていく。もちろん、この流れは若者に限らず、すべての世代に起こるだろう。
当然、トラブルも増え、フェイクニュースも出回る。支援者ひとりひとりが発信者にもなるので、選挙が盛り上がってくるとヒートアップする。本来であれば、候補者も政党もより発信力が増していくようなものだが、デマや誹謗中傷対応に追われることも多くなる。「そんな苦労するくらいなら、いっそのことやらないようにしたい」と思う候補者も出てくるはずだ。また、ほとんどのSNSが、ここ10年ほどのうちに誕生していることから、この先10年でネットをめぐる環境も大きく変わることが容易に予想される。
■選挙にもAIの時代
そこで考えたいのは、「いかにインターネット上の選挙活動をポジティブな方向に持っていくか」である。デマやフェイクニュースは今後も悪質化していくという前提で、その監視をどうするか。ひとつの手段はAIの活用だろう。AIが24時間ネットを見回り、デマもしくは悪質な誹謗(ひぼう)中傷のようなものを見つけた場合、運営元に即座に連絡する。その運営元でもAIで受け付けるようになるかもしれない。こうした通報システムは技術的にはここ1年ほどで実用化できるはずだ。
AIの選挙への活用は、日本ではドワンゴがAIによる「当選者予測」をやっている程度だ。ただ、政治とAIの関係については急速に議論が進んでいる。例えば、昨年行われた「選挙ってITでどう変わるの?」というイベントでは、専門家らによって、「今後、政策の立案などをAIが行うことになるのではないか」という議論が交わされた。可能性は十分にあるはずだ。
■選挙から政策決定までAIが決める
AIが進化すれば、選挙コンサルタントとしての私の仕事も減ってしまうかもしれない。どこでネガティブ情報が出回っているか。ポジティブな情報発信はどのチャネルが効果的か。炎上したときに、どのような対応を取るべきか。AIであれば24時間即座に対応できる。
また、情報発信のような「空中戦」だけでなく、街頭演説などの「地上戦」も変わっていくはずだ。街頭演説のルートを自動作成し、交通渋滞や演説が長引いて予定が狂った場合に即座にルートを修正し、それをネット配信する。演説しているときの聴衆の表情から、どのキーワードに一番好感度が高かったかAIが分析し、それをもとに演説内容を修正していく。要素技術はすでにある。旧態依然とした選挙を変えていくためにも、最新テクノロジーを大胆に取り入れるべきだ。
■技術が進んでも最後は人間性
これまで技術的な点を述べてきたが、立憲民主党がネット上で共感を広げたのは、何も最新技術を活用しているからではない。より「人間的」だったからだ。
ツイッターでの情報発信では、顔が見えない担当者(「中の人」と呼ばれる)の自然体な言葉遣いや、おそらく同年代に向けて難しいことを難しく伝えるのではなく、より簡単にわかりやすく伝えようとする姿勢が言葉の端々に見えた。小池百合子代表の「排除」発言など、言葉でつまずいた希望の党とは対照的だ。
そもそも、政治家には、専門用語や業界用語を多用して、自分の能力の高さをアピールする人が多い。選挙でそれを有権者向けに「翻訳」するのは業者の仕事だったが、特にネット広報については、若者の感覚を政治家自身が学びながら発信していくことになるだろう。
政治を変えていくために、若者の投票率を上げることが重要なのは間違いない。しかし、いくら「投票に行くべき」と主張しても、旧態依然の選挙では興味を持つのは難しい。若者が政治活動や選挙運動に直接関わっていくことにより、政治や選挙のスタイルが大きく変わり、そこで同世代が参加しやすい土壌を作ることができるのだ。その可能性が見られた衆議院選挙だった。
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ネット選挙コンサルタント。1960年、長野県上田市生まれ。電子楽器のエンジニアだったが、2000年に長野県知事選に関わったのを機にインターネットと政治の世界に。02年、政治家がネットを使って情報発信するツール「ネット参謀」を開発。議員や政治団体などのサポートやネットメディアのコンサルティング、講演、執筆など多方面で活躍し、「デジタル軍師」の異名を持つ。選挙情報データベースサイト「ザ選挙」の立ち上げ人。著書に『マスコミが伝えないネット選挙の真相』など。VoiceJapan代表取締役、世論社代表取締役、武蔵大学非常勤講師。
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(ネット選挙コンサルタント 高橋 茂)
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