"落ちた小池"をいじめる朝日社説の嫌み
プレジデントオンライン / 2017年11月18日 11時15分
■あれからわずか50日しかたっていない
「国政はお任せして私はみなさまをサポートします」
「希望の党」の執行部を決めた11月14日夕方の両院議員総会。その席で東京都知事の小池百合子氏はこう話し、党代表の辞任を表明した。
小池氏が「日本をリセットします」「私自身が立ち上げる」と希望の党の設立を公表したのは9月25日だった。あの日、安倍晋三首相も衆院解散を表明した。小池氏側の新党設立が進んでいないとみて、「解散のチャンス」と判断したといわれる。
しかし、勘と度胸の小池氏は、安倍首相の判断を逆手にとって、希望の党の設立を世の中に示した。考えてみると、あれからわずか50日しかたっていない。
■追い風はすっかり逆風に変わった
それなのに小池氏に対する追い風はすっかり逆風に変わってしまった。10月22日に行われた衆院選の結果は悲惨なもので、擁立した235人のうち、議席にとどまったのはわずか50人だけだった。
衆院選直後、小池氏は「完敗」と認めながらも「今後の党運営には責任を持つ」と党代表を続ける決意を示していた。
ところでマスメディアの大半は、小池氏に逆風が吹いた理由を「排除の論理」にあるとみている。実際、民進党との合流が浮上した際、憲法改正や安全保障政策で考え方の違う民進党員を「排除する」と発言したことに批判が集まり、その直後から小池旋風が衰退していった。
しかし沙鴎一歩はあのときの小池氏の判断は正しかったと思う。政治的にその思考が180度違うメンバーを迎え入れていたのでは、政党として成り立たないからだ。
■「あきれる人も多い」と書く朝日
辞任表明の翌日の15日付の朝日新聞の社説。その見出しは「一連の騒動は何だった」である。一見すると、客観的に思えるが、朝日らしい嫌みがにじんでいる。
朝日は小池氏が希望の党を立ち上げたときからかなり批判的だった。小池氏の勢いが衰えると、その批判をさらに強める。強者が弱者に落ちぶれると、いじめたくなるのが人間の心情なのだろう。
ただし小池氏は都知事という大きな権力をまだ握っている。その意味では新聞社説で批判されてしかるべき存在ではある。
朝日社説は書き出しもきつい。
「旗揚げからわずか約50日。一連の新党騒動は何だったのか。あきれる人も多いだろう」
朝日社説の指摘のようにあきれる人は多いのか。沙鴎一歩はそうは思わない。朝日社説はこう続ける。
「東京都知事である小池氏が、国政政党の代表を兼ねることには当初から懸念の声もあった。それでも国会議員主導の新党構想を『リセットして私自身が立ち上げる』と乗り出した」
この辺は事実だろうが、次のくだりはいただけない。
「一時は吹くかに見えた小池旋風も、自ら持ち出した『排除の論理』で急速にしぼみ、衆院選では『排除された側』の立憲民主党に野党第1党を譲った」
■小池氏はなぜ支持を失ったのか
前述したように沙鴎一歩は衰退の原因が排除の論理にあるとは考えていない。では小池氏はなぜ支持を失ったのだろうか。
朝日社説は中盤で「小池氏が政党代表をやめるのは、この半年弱で2度目だ」と指摘し、夏の都議選での地域政党「都民ファーストの会」の代表就任と辞任、そして衆院選前後での希望の党の代表就任と辞任を取り上げる。そのうえで「新党設立、代表辞任の繰り返しが政党や政治への国民の不信をさらに深めることを憂える」とお灸をすえている。
要するに小池氏は優柔不断なのだ。ぶれやすいのである。これは性格なのだろう。小池氏の秘書をはじめ、周囲にいる人たちは大変だと思う。
希望の党は衆院選の比例区で967万票を獲得している。党勢が衰えたからといって、簡単に投げ出していいはずがない。朝日の指摘は理解するが、論旨の進め方には嫌みがにじんでいる。
■「身勝手な幕引きだ」と毎日
16日付の毎日新聞の社説も、見出しに「身勝手さが払えぬ結末だ」と書くなど手厳しい。
冒頭で「一時は注目を集めた『小池劇場』は、野党の『多弱化』を招いただけで主役が舞台を降りた。身勝手な幕引きだといわざるを得ない」と批判する。
さらに「『小池人気』を選挙のときだけ看板に利用した印象は拭えない」とまで批判する。次に毎日社説は小池都政に深刻な影響が出てきている現状を示す。
「小池氏にとってさらに深刻なのは、都議選で選挙協力した公明党が国政挑戦に反発し、都議会与党からの離脱を決めたことだ。先日の東京都葛飾区議選では都民ファーストが立てた候補5人のうち4人が落選した。都知事としても足もとが揺らぎ始め、国政どころではなくなったというのが実情だろう」
■希望の党は早晩、分裂するのか
さらに小池氏が共同代表を辞任した希望の党に批判の矛先を向ける。
「党の『顔』を失った希望の党の求心力は低下し、早晩、分裂するとの観測も強まっている」
何のため、だれのための国政挑戦だったのだろうか。
毎日社説の駄目押しが「党の立て直しに汗をかく姿勢すら見せずに退くことは、小池氏の『自分ファースト』と映る」との皮肉りである。
毎日も朝日と同様に弱ってきた者をいじめるのが、かなり好きなようだ。
■読売は希望の党の存在を前向きに捉える
次に16日付の読売新聞の社説。その論調は朝日や毎日と違い、落ち着いている。「辞任に唐突さは否めない」としながらも小池氏を批判するのではなく、希望の党の存在を前向きに捉えて論を展開している。
その主張は「衆院比例選で1000万票近くを得た事実は重い。代表が交代しても、保守系野党として、現実的な路線を継続させるのが有権者への責務だ」と明確である。
読売社説は「小池氏の後任代表には、玉木雄一郎共同代表が選出された」と書き、「玉木新代表は『バトンをしっかり受け止める』と語った。9条を含む憲法改正論議の推進や安全保障関連法容認という、小池氏が打ち出した党の衆院選公約の踏襲を明言したのは妥当である」と指摘する。
読売社説はさらにこう続ける。
「幹事長に古川元久・元国家戦略相、政調会長に長島昭久・元防衛副大臣を起用し、執行部を保守系で固めた。共同代表選では所属議員53人中39人の支持を得ている。公約をぶれずに推進する基盤は整っているはずだ」
■都議会公明党には「理解に苦しむ」と
読売社説は希望の党の路線を支持し、かなり好意的である。中盤では「安倍政権下での改憲反対などを訴えた民進党の『抵抗政党』路線の転換が、結党の原点だった。この認識を忘れてはならない」とも訴える。
面白いのは最後のくだりだ。
「理解に苦しむのは、『都政に専念すべきだ』と小池氏に求めてきた都議会公明党が一転、連携を見直そうとしていることだ。都議会運営が混乱しないようにと、『小池与党』入りしたのではなかったのか。都政の停滞を避けるのも、公明党の責任である」
ここまで公明を批判するのは、読売が希望の党に好意を寄せているからだろう。弱い者いじめをする朝日と毎日に対して、読売の主張は堂々としている。希望の党は衆院選の公約に「9条を含め憲法改正論議を進める」と掲げた。この保守系の主張が、読売が好意を寄せる理由かもしれない。旧民進党出身者ばかりが当選した希望の党の主張がどう変わるか。それに応じて読売社説がどう評価するか。注目すべきだろう。
(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)
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