ベンチャー投資は「起業家」に聞くべし
プレジデントオンライン / 2017年12月17日 11時15分
■「自分がプロの投資家になろう」
ベンチャー投資を始めて9年になります。1999年に南場智子さんと共同で創業したディー・エヌ・エー(DeNA)が、2008年に東証1部に指定替えになったのを機に非常勤になり、いずれやりたいと思っていた会社投資の道に入ったのです。
これまでに30社余りに投資してきました。基本的には自分の勘が働くIT・ネット系ベンチャーを対象に、スタートアップの段階から資金を入れています。いわゆる“エンジェル投資”で、投資金額は1社当たり500万~数千万円。その時点で私が外部最大の出資者になるような案件を重視しています。他の投資家とシンジケートを組むこともあります。
実績として、インターネットサービスを手がける「フリークアウト」と「はてな」の2社が株式を公開し、ほかにも企業価値を認められM&A(買収・合併)に漕ぎ着けて保有していた株式すべてを買い取ってもらった会社が2つあります。現在のところ投資金額に対するリターンは、プラスで推移している状況です。
そもそも投資家になろうと考えた背景には、大学時代に学生ベンチャーに関わっていたという体験があります。80年代の終わりから90年代初頭の頃であり、バブル全盛期でお金は余っていたはずなのですが、銀行は学生にお金を貸してくれません。ベンチャーキャピタル(VC)にしても、出資の前提条件は担保となる土地の保有というケースもありました。そのため学生ベンチャー起業家たちは資金繰りに困ると、何枚もクレジットカードを作ってカードローンに頼っていたのです。
しかし、当時から米国は違っていました。将来有望な技術があると資本家やVCが着目し、「テクノロジー×資本主義」という形でマネーが付き、ベンチャーが続々と創出されるというダイナミズムが生まれていました。一方で、日本にはそうした「真の資本家」「プロの投資家」が存在していませんでした。そして、20歳のときに学生ベンチャーで挫折した私は、「それなら自分がプロの投資家になろう」と心に誓ったのです。
■創業者個人の人となりも非常に大切
私が最初にベンチャー企業に投資したのが、京都市にあるソフト開発会社の「NOTA」でした。知人の紹介で社長の洛西一周さんと出会い、彼の仲間と飲み会をしたのがきっかけです。日本では未発売のiPhoneをポケットから取り出し、当たり前のように使いこなす彼らの姿を見て私はとても驚きました。
基本的に私が投資するのは起業して間もないアーリーステージの会社で、判断基準は候補会社のテクノロジーやプロダクトのレベルや将来性。優れた技術を有し、皆が使うような製品やサービスを出しているところが成功する確率は高くなる。私はDeNAでシステムとサービス開発を統括していましたから、ウェブやシステム、アプリなりのクオリティの評価はできます。NOTAの場合、データの共有システムのレベルの高さと将来性を評価しました。
創業者個人の人となりも非常に大切な要件になります。ただし、投資先の経営者に限れば、世の中の役に立つプロダクトを作れる人は人間的にも魅力があります。ですから、テクノロジーを重視することで、結果的には人物を見ているわけです。
よく、フェイスブックなどSNSを通して直接売り込んでくる会社がありますが、ややリスキーです。それなりに成長してVCが資本参加するようになった会社でも、そこからIPO(新規株式公開)できるのは10社に1社あるかないかなのです。時間の制約もあって、直接の売り込みには対応していません。
その点、投資先の経営者たちが、有望なアーリーステージの会社を紹介してくれることが多くなり、助かっています。私が信用し、実績を上げつつある経営者の目によってスクリーニングがかけられていれば、ヒットする率は上がってきます。
ただし、そうした有望な投資先は他の投資家も鵜の目鷹の目で探していて、売り手市場になっているのが現状です。そのため、いい案件は獲り合いで、起業家サイドも「どうコミットしてくれるのか」といった条件を当たり前のように出してきます。
■ビジネスマンにお勧めなのは投資信託の活用
積極的に経営にコミットしていくことも重要です。NOTAにしても、最初から順風満帆だったわけではありません。米国で展開した事業がうまくいかず、経営危機に陥ったこともあります。洛西さんと何度も打開策を検討し、資金が足りなくなれば追加で出しました。
その結果、画像や文書の共有サービス「Gyazo」が世界で1000万人に使われるまでに成長したわけです。現在では有料会員も増えて業績も順調。ここに来て「SCRAPBOX」という、遠く離れた人が同じページを同時に編集できるサービスを立ち上げ、こちらも好調です。
もちろん、お金を出すのがエンジェルの1番の仕事なのですが、私は投資先と一緒に事業を育てることに、会社投資の醍醐味を感じています。そこで価値の高いサービスなりプロダクトを作り、それを世に送り出す手助けができることが何よりも嬉しいのです。
いまも、いくつかの投資先では毎週もしくは隔週で、先方の経営者やチームのメンバーと意見交換します。そこにないスキルを持った人が必要なら、私がスカウトしてきますし、営業先も紹介します。
大半のベンチャー企業は、資金ゼロに近い状態からの出発で、私のような投資家がそばにいることにメリットを感じてもらっています。投資先の価値を見出し、チームの組成、資金調達の適切な時期などについて、1歩引いた立場から冷静に判断し、具体的な対処ができるからです。
とにかく、まだ日本ではベンチャー企業を育てていく風土に欠け、その仕組みも乏しい。それだけに、ITやネット事業で成功した人たちが、エンジェルとして投資していくのは、大変有意義なことだと考えています。
その際にエンジェルに求められるのが「ペイフォワード(次に渡そう)の精神」です。社会への恩返しのつもりで、次世代をサポートする。投資先のなかからソニーやホンダを超えるグローバル企業を輩出することを自分の使命にしています。
ビジネスマンが財テク感覚で私たちのような投資をしても、成功を望むのはかなり難しいでしょう。私には起業家としての経験があり、DeNA上場時の創業者利益があるから「この案件ならいける!」と判断し、余裕を持って投資ができるのです。
もしも私のような投資をしたいのなら、「エンジェルファンド」などの投資信託を選ぶ方法があります。しかし、ハイリスクであることは変わりありません。生活とは切り離された、万が一全額を失っても問題のない資金で行うべきでしょう。
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東京都立大学大学院で工学博士を取得後、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、1999年にDeNAを共同創業。COOとしてサービス開発やシステム開発の統括などを行う。2008年に非常勤取締役、11年から顧問に。
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(DeNA共同創業者 川田 尚吾 構成=岡村繁雄 撮影=澁谷高晴)
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