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"バーモントカレー"の真似できない隠し味

プレジデントオンライン / 2017年12月15日 9時15分

割れたリンゴにとろりとかかるハチミツのパッケージでおなじみ、バーモントカレー(画像提供:ハウス食品)

日本の国民食・カレーライス。そんなカレー作りに欠かせないカレールウの市場で30%超という驚異的なシェアを持つのが、「ハウスバーモントカレー」だ。なぜ長年にわたって愛され続けているのか。“リンゴとハチミツ”という隠し味だけではない競争戦略とは――。

■家庭内夕食“1位”はカレー

カレーライスはラーメンと並び「国民食」といわれるが、立ち位置は微妙に違う。外食需要が多いラーメンに対して、カレーは「家庭の夕食のおかず」として事実上の1位なのだ。

実際のデータで見ると、2017年4月から9月までの「食卓に上った回数の多いおかず」ランキングは、1位が野菜サラダ、2位を野菜炒めとカレーライスが競っていた(「ライフスケープマーケティング」調べ)。野菜サラダはおかずの主役ではない。野菜と何かを炒めれば野菜炒めになるが、幅が広すぎて料理の固有名詞とは言い難い。そう考えると、カレーが家庭料理メニューの王座と言っていいはずだ。ちなみに同調査でラーメンは18位だった。

家庭用のカレーライス市場は大きく2つに分けられる。1つは固形ルウタイプの「即席カレー」で市場規模は約503億円(2016年度。ハウス食品調べ)。もう1つがお湯やレンジであたためる「レトルトカレー」だ。こちらの市場規模は約539億円(同)だ。

■「個食」が進みレトルト市場が成長中

「ここ数年で、レトルトカレー市場が非常に伸び、即席カレー市場と逆転しました。これまで主に家事を担当していた主婦の方が働くようになり、以前よりも調理にかける時間が限られるようになった。1人暮らしの世帯が増え、また家族で暮らしていても『個食』が進み、レトルトはそれぞれの味が楽しめて手間がかからない。味も多彩でおいしくなったからと考えています」

ハウス食品の船越一博氏(事業戦略本部・食品事業一部ビジネスユニットマネージャー)はこう説明する。即席カレーで圧倒的な強さを誇る同社は「バーモントカレー」「ジャワカレー」「こくまろ」の看板ブランドを持ち、同市場での16年度の売上高は約380億円だ。今回はその中でも驚異的に強い、市場シェア約32%の「ハウスバーモントカレー」を紹介したい。

■突出したクセがなく「食べ飽きない」

テレビCMでもおなじみの「バーモントカレー」は、1963年発売のロングセラー商品だ。消費者の好みが多様化し、競合が次々に参入する現在、発売半世紀を超えた商品のシェアが30%超というのが、いかにすごい数字か理解できるだろう。

なぜ長年にわたり、「ここまで愛される」のか。

「バーモントカレーには、突出したクセがありません。だから消費者は食べ飽きないのだと思います。カレーライスに使うカレールウには、色・とろみ・溶けやすさ・香りなどが求められます。バーモントカレーのカレーパウダーは20~30種類のスパイスから構成されており、これが味の決め手となります『リンゴとハチミツ』が特徴のバーモントカレーは甘みの後にカレー感が広がります。その感じ方が他のカレーにないのも特徴です」(船越氏)

子どもから大人まで、一緒に食べられるのがバーモントカレーの特徴だ。(画像提供:ハウス食品)

子供から大人まで一緒に食べられるのは、商品紹介のCMで訴求するとおりだ。長年にわたり「甘口」「中辛」「辛口」をそろえるが、リンゴとハチミツのブランドイメージを大切にして、決して激辛にはしない。売れゆきは中辛・甘口・辛口の順だという。

「バーモントカレーは、辛口でも辛さの5段階評価では3番目。当社が手がける『ジャワカレー』の甘口と辛味順位は同じです」(同)

■戦後に家庭に浸透した「カレー」

家庭用カレーの歴史において、バーモントカレー」はエポックメーキングとなった商品だ。日本の生活文化とも関連するので、この機会にカレーの歴史を簡単に紹介しよう。

日本にカレーが紹介されたのは明治維新、文明開化の頃。当初は洋食屋で食べるごちそうだった。それが大衆化路線に進んだのは、戦争が関係している。大量に作れて栄養バランスもよく、腹持ちもよいカレーは、軍隊(特に海軍)の日常食として重宝された。そして戦争が終わり復員した元兵士たちによって、各家庭に入り込んでいく。昭和20年代半ばを過ぎ、徐々に世の中が落ち着いてくると、カレー業界の争いは激化。ヱスビー食品(東京)、グリコ(大阪)、ハウス食品(大阪)、オリエンタル(名古屋)の各社を中心に商品を展開していた。

そんな中で1960年に発売した「ハウス印度カレー」は、それまでの主流だった粉末ではなく固形タイプのルウを使用。これ以降、固形ルウタイプが即席カレーの主流となった。そして当時は「カレー=大人向けの辛い食品」というイメージが強かったため、「女性や子どもに向けた甘口のカレー」で提案し、当時の他社商品よりも10円高い60円で販売したのが「バーモントカレー」だったのだ。

■「全社一丸」で展開し、少し後にブレイク

バーモントカレーが現在でも強いのは、発売時に徹底して完成度を高めたからともいえる。当初からこだわるのが、前述したリンゴとハチミツだ。

1963年、新発売当時のパッケージ。(画像提供:ハウス食品)

「当時の浦上郁夫副社長(後の2代目社長。85年日航ジャンボ機墜落事故で死去)を中心に検討を行い、『カレーは辛いもの』というイメージが当時は一般的だったことと、夕食のメニューは主婦が子どもを意識して決めることから、ターゲットを子どもと若い女性にしぼりました。そこでマイルドなカレーをつくるため、開発当時は乳製品や果物などいろいろ試し、“リンゴ”と“ハチミツ”にたどり着きました」(船越氏)

そして、米国バーモント州に伝わる“リンゴ酢”と“ハチミツ”を使った「バーモント健康法」が当時ブームになっていたことにヒントを得て、「バーモント」の名前がつけられた。容器トレーも、チョコレートのような銀紙包装で「ニオイがつく」と不満があった従来型から、ニオイを遮断した現在の原型となるトレーを採用。パッケージには食品で初めてグラビア印刷を採用した。営業でも店頭デモンストレーション、宣伝カーなども実施した。当時は小規模だった同社にとって、まさに「全社一丸」の活動だったのだ。

発売当初は流通(卸や販売店)から「リンゴとハチミツ入りの甘いカレーなんて売れない!」と猛反発を受けたが、こうした数々の施策が実を結び、爆発的なヒット商品となった。この商品の大ヒットで、即席カレーは「主婦に向けた商品」に変わったのだ。

「違う味を試しやすいレトルトに比べて、ルウは一度家庭に定着すると商品を変えにくい一面もあります。お子さんのいる家庭で味を変えると、不満になりやすいのです。また同じ商品でも、各家庭で独自の味が作られる特徴もあります」(同)

「ヒデキ! 感激!!」のフレーズは、リアルタイムで観ていない世代にも知られている。(画像提供:ハウス食品)

ちなみに、人気が定着してから現在までのCMタレントは「爽やかなお兄さんと子供たち」でほぼ統一している。最も長期間活躍したのは西城秀樹の12年。世代によっては「ヒデキ! 感激!!」のフレーズが残っている人も多いだろう。現在は、知念侑李(Hey! Say! JUMP)が起用されている。

■「同じ鍋で食べる楽しさ」を訴求

圧倒的に強い「バーモントカレー」にも中長期的な課題は残る。その1つが、冒頭で紹介した個食化の進行だ。1人暮らし世帯の増加は止まらず、高齢単身世帯も進行している。鍋料理もそうだが、総じて1人暮らしになると、手の込んだ料理は作らなくなる。

「CMだけでなく、公式サイトでメニュー提案をするなど、楽しくつくる方法を訴求しています。当社の商品はシチューもそうですが、温かさや触れ合いもキーワード。ロングセラー商品だからこそ、定期的にモニタリングをしています。消費者の声が顕在化する前に自分たちで変えていく。味については、ほんの微差の調整なので時間もかかるのです」(同)

最近のCMでは、鍋をのぞき込む子供たちの笑顔や驚きも訴求している。昔のように、毎日の食卓での団らんはなくても、何かの際には家族や親戚、友人・知人が集まる。そうした時に「同じ鍋で食べる」楽しさは、昔も今も変わらないのだろう。

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高井 尚之 (たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。

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(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之)

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