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"東京五輪"を過去のノスタルジーで語るな

プレジデントオンライン / 2017年12月22日 15時15分

1964年に開かれた東京オリンピックでは首都高などのレガシー(遺産)が残った。2020年のオリンピックでは何を残すのか、それが問題だ。(写真=アフロ)

2020年の東京オリンピック・パラリンピックまで1000日を切った。だが、開催地決定後の熱狂はすっかりさめ、一向に盛り上がってこない。なにが足りないのか。三菱総研理事長で元東京大学総長の小宮山宏氏は、「同じ場所で2回目の五輪開催は珍しい。だが64年大会にノスタルジーを持つ人がいる。それでは若い人は動かない。五輪を通じて東京の新しい個性を示すべきだ」という――。

■「2回目の開催」東京大会の意味

招致段階で約7300億円とされていた大会経費は、すでに1.5兆円超にまで膨れ上がっています。「東日本大震災の復興五輪」「コンパクト五輪」と謳われていた招致当初のイメージはどこへやら。結局はこれまで通りの、大金をつぎ込んで国ぐるみで作り上げる巨大な商業イベントになるのではないか――。今ひとつ盛り上がりが感じられないのは、そうした「またか」という憂いの広がりに加え、大会の進め方に東京らしい個性を欠いていることが、原因にあるのではないかと思います。非常にもったいないことです。

テレビやインターネットで、派手な大規模イベントを見慣れてしまっている今の人たちにも、「東京らしい」と思ってもらえるテーマとはどんなものなのか。それを考えるとき、「2回目の開催」というのは重要なポイントです。オリンピックの歴史を見ると、2回も開催する都市はパリ、ロンドン、ロサンゼルスなどがありますが、それほど多くありません。しかも東京の場合は、1回目と2回目では、同じ街とは思えないほどに都市のあり方が違います。

1964年の東京オリンピックは、戦後の復興期にあった日本が、世界の表舞台に戻ってきたことを表す「国威発揚」が目的でした。国中が湧きたち、誰もがこのイベントに参加していました。この年は、高度経済成長の真っただ中です。前回のオリンピックでは首都高、新幹線など、その後の高度経済成長を支えるインフラがレガシー(遺産)として残りました。しかし一方で高度経済成長は、深刻な公害問題も生んでいました。空気や河川、湖や海の汚染、光化学スモッグ、水俣(みなまた)病や四日市ぜんそくなどの公害病も問題になりました。

2008年に開催された中国の北京オリンピックは、1964年の東京オリンピックを想起させました。国が主導する「国威発揚イベント」だったからです。さらに高度経済成長真っ盛りで、さまざまなインフラが整えられる一方で、大気汚染などの公害も問題化していました。

高度成長期の日本へのノスタルジーで、次のオリンピックについても1964年の大会をイメージする人がいますが、それでは意味がありません。先進国として、成熟期を迎えた国が、次の時代に何を目指し、何を残すのか。そうしたビジョンを示すための場にするのです。国立競技場や公式エンブレムのすったもんだで、こうしたビジョンについての重要な議論が、すっかりかき消されてしまったように見えるのは、残念でなりません。

■「国威発揚イベント」からの脱却を

さらに、そろそろ国が主導し、国同士が競い合う国威発揚のイベントからは脱皮するべきでしょう。クーベルタンが提唱した、オリンピックの本来あるべき姿に立ち戻るべきです。

近代オリンピックを提唱したクーベルタンは、文化や国籍などの違いを超え、スポーツを通して平和でよりよい世界を実現することを、オリンピックのあるべき姿としていました。当時蔓延していた、各国が覇権を争う帝国主義への、アンチテーゼだったわけです。それをナチスドイツのヒトラーが、1936年のベルリン大会で国威発揚に利用し、オリンピックを汚してしまった。以降のオリンピックは、国が主導して、国と国が競い合う場になってしまったのです。しかし本来オリンピックは、国ではなく、個人主体のものだったはずです。

日本人は、お上(かみ)が呼び掛けてやる全員参加は得意なのですが、自分たちで呼びかけ、ボトムアップで進める全員参加は得意ではありません。

1964年の大会はまさに、お上が呼び掛けた全員参加でした。2020年の大会も、各国の選手たちの練習場を各地に分散することや、聖火リレーなど、国が主導して国民の参加を促すものはいくつかあります。でも私は、それだけではなく、公募型のものや、「勝手連」的なボトムアップによるたくさんのプロジェクトが、ゆるやかに連携して一つの大会を形作るといった、次世代型の参加方法が必要だと考えています。

■ボトムアップで持続性社会のモデルを

具体的にはどんなことをイメージしているのか、少しご説明しましょう。私は東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の、「街づくり・持続可能性委員会」の委員長を務めているのですが、2017年7月に委員長メモとして提出した「持続性社会に関する基本提案」の中で、それを描いています。

今度の東京大会は、「人類が希求する社会を、日本はこう考える」ということを、世界に示す機会ととらえるべきです。課題解決先進国として、地球温暖化対策や持続可能な資源活用などにどのように取り組んでいるのかを、象徴的に示せるプロジェクトをいくつも行うのです。

例えば、都市鉱山の活用です。われわれはこれまで、鉄やアルミなどのさまざまな資源を、「自然鉱山」から採掘して加工し、製品化して使った後は廃棄してきました。こうした過去のシステムに決別し、すでに出回っている資源を再利用する循環型社会に移行する必要があります。オリンピックでは、こうした「都市鉱山」にある金属などを活用します。市民が持ち寄った携帯電話やパソコンなどの小型家電の中から金属を抽出し、メダルを作るという「都市鉱山からつくろう みんなのメダルプロジェクト」がすでに動き始めています。

都市鉱山は、競技場建設にも利用できます。競技場のうち、少なくとも1つは、使用済みの鉄、アルミ、セラミック、ガラスや、再利用を前提とした木材を活用して作るといいでしょう。

大会で使うエネルギーは、福島県などの東日本大震災の被災地で作られた、再生可能エネルギーでまかないます。私の試算だと、費用は10億円程度です。決して難しい金額ではありません。特に福島県は、東京電力福島第一原子力発電所の事故で、世界に大きな衝撃を与え、注目されています。オリンピック・パラリンピックで、福島県の再生可能エネルギーを使えば、震災復興の象徴ともなるでしょう。

自然共生についてもアピールすべきです。日本は、前回のオリンピックが行われた1960年代から30~40年間をかけて、空、水、土壌ともにきれいにしてきました。生態系も戻りつつあります。東京のすべての川には、アユが戻ってきています。約1000万人が住む大都市で、清流でアユ釣りができるというのは、世界に誇っていい。さらに、佐渡島にはトキが、豊岡市にはコウノトリが、三島市にはホタルが戻りつつあります。東京湾で天ぷらツアーをやるもよし、多摩川でアユ釣りをするもよし。公害を克服し、自然と共生する社会づくりの入り口に立つ日本を紹介する、格好の事例として世界に示すことができます。

■大規模・大量消費型イベントからの脱却

私が子どものころは、誰もが大晦日にはNHKの紅白歌合戦をラジオで聞いていました。なぜなら、当時、大スターが一堂に会して歌を披露するのは、大晦日の紅白歌合戦しかなかったからです。しかし、今はさまざまな「フェス」が開催されるし、好きなときにインターネットで好きな歌手の歌を楽しめます。

スポーツでも、似たような現象が起きています。ワールドカップなどの国際的なスポーツ大会は各地で開催されているし、各地のプロスポーツリーグには、世界中からトップ選手が集まってプレーしている。トップアスリートが一堂に会することの「珍しさ」は薄れてきています。

従来型の、大規模で大量消費型のイベントが、国が主導するかつての東京オリンピックだったとすれば、次の大会のあるべき姿は、分散型でボトムアップの参加による、持続可能な社会をテーマとしたオリンピックです。東京ではぜひ、原点に立ち返り、こうした「あるべき姿」を東京らしく実現する場としてほしいと思います。

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小宮山 宏(こみやま・ひろし)
三菱総合研究所理事長。1944年生まれ。67年東京大学工学部化学工学科卒業。72年同大学大学院工学系研究科博士課程修了。88年工学部教授、2000年工学部長などを経て、05年4月第28代総長に就任。09年4月から現職。専門は化学システム工学、CVD反応工学、地球環境工学など。サステナビリティ問題の世界的権威。10年8月にはサステナブルで希望ある未来社会を築くため、「プラチナ構想ネットワーク」を設立し会長に就任。

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(三菱総合研究所理事長 小宮山 宏 写真=アフロ)

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