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橋下徹"国連を動かすのは核保有の脅しだ"

プレジデントオンライン / 2017年12月20日 12時15分

写真=iStock.com/3D_generator

核・ミサイル開発を続ける北朝鮮に対して国際社会からの圧力が高まっている。しかし北朝鮮は一方的な悪であり、国連安保理事会を中心とする国際社会は一方的な善といえるのか。問題解決のためにはまず、米英仏ロ中の核保有5大国だけが既得権を振りかざす国連の抜本改革が必要ではないかと橋下徹氏は指摘する。プレジデント社の公式メールマガジン「橋下徹の『問題解決の授業』」(12月19日配信)より、抜粋記事をお届けします――。

■「持った者勝ち」のNPT体制! なぜ北朝鮮だけ核保有が許されないのか

核・ミサイル開発を止めない北朝鮮に対して、国連安全保障理事会が制裁決議を採択するなど国際社会からの圧力が強まっているが、北朝鮮は核・ミサイル開発を諦める気配はない。12月16日に開かれた国連安保理の閣僚級会合でもアメリカと北朝鮮は非難の応酬を繰り広げた。北朝鮮は超大国・強国のアメリカに対して自衛の措置だとして一歩も引かない。

たしかに北朝鮮の核兵器保有(核保有)を容認することは日本にとってつらいことだ。中国、ロシアに加えてさらなる近隣国が核兵器を持つことの脅威だけではなく、アメリカ本土が狙われる状態になったときに、アメリカは自国の壊滅状態を覚悟してまで日本を守ってくれるのかという疑念が必然沸き起こり、日米同盟の根幹を揺るがす状況に陥る(デカップリング)。しかしこの問題の根源には、NPT(核不拡散条約)体制の欺瞞というものが存在することを頭に入れておかなければならない。

NPT体制は、アメリカ、ロシア、中国、イギリス、フランスにのみ核兵器の保有を認める。そこには合理的な理由は全くない。先に持った者勝ちで、これ以上核兵器保有国を認めるとリスクが大きくなるという理由だけで5カ国のみに核保有を認めたに過ぎない。

さらにインド・パキスタンも事実上核保有を認められることになった。特にインドに対しては当初ルール違反として、国際社会は批判を浴びせたが、時が経ってインドは今や核保有国になってしまった。そしてインドに対抗せざるを得ない隣国パキスタンも事実上の核保有国になった。

このように結局NPT体制というのは、「持った者勝ち」という世界なんだよね。北朝鮮の核保有を否定するなら、インド・パキスタンの核保有はなぜ否定されないのか、なぜ北朝鮮同様の圧力・制裁が加えられないのか、もっと言えばなぜ5カ国だけに核保有の権利が与えられているのかを合理的に説明する必要がある。けれど、この点安全保障の専門家と称する者を含め誰も合理的には説明できないんだよね。だって合理的な理由なんて全くないんだから。

だからこそNPTは第6条で、核保有国は核軍縮に努めなければならないとしている。ところが核保有国は、その核保有という厳然たるパワーを手放すことは毛頭考えておらず、一向に核軍縮の話は進まない。核保有が完全に既得権化している。

(略)

■核を放棄したウクライナはロシアにクリミア半島を奪われた!

1991年に旧ソ連が崩壊し、ソ連に属していた国が独立する流れになった。ウクライナもその一つ。ただしウクライナには旧ソ連の核兵器が存在した。そこでウクライナの独立にあたり、ウクライナの核廃棄が問題となったが、ウクライナは自国の安全のために核兵器をそのまま保有し続けたいと考えた。ゆえにウクライナの核廃棄を促すため、アメリカ、ロシア、イギリスがウクライナの領土の安全を保障するかわりに、ウクライナが核を廃棄するという国際的な約束が取り交わされた。これをブダペスト覚書という(1994年12月5日)。

ところが見てよ。2014年にウクライナで親ロ政権が倒れるや否や、ロシアの見事なハイブリッド戦争戦略によって、あれよあれよという間にウクライナのクリミア半島はロシアに併合されてしまった。クリミア半島はロシアにとっては自国の存亡にかかわる死活的な戦略地域。ロシアと地中海をつなぐ要衝地であって、ロシアの核配備した原子力潜水艦の基地(セバストポリ)がある。

プーチン・ロシア大統領としては、このクリミア半島が西側諸国の影響下に入ることは絶対に阻止しなければならなかった。ゆえにどんな手を使ってでもクリミア半島を奪取しなければならない覚悟だったのだろう。その後のプーチン氏の発言において、クリミア半島奪取において核をちらつかせる発言もあった。

で、ブダペスト覚書によってウクライナの領土保全を保障したアメリカとイギリスは何をやったか。なんとロシアに対する抗議と経済制裁だけ。結局ウクライナの領土保全を保障できなかったんだよね。もしウクライナがブダペスト覚書以前のように核兵器を保有していたら、プーチン氏=ロシアがクリミア半島を奪還する決意をする際に相当ハードルが上がったことは間違いないだろう。核兵器を保有するウクライナに対してそうは簡単に手出しはできないはずだからね。

このように国際社会の取り決めなんて実にいい加減なものだ。現実に実力行使をしてきた相手に対しては、相当な覚悟すなわち戦争を覚悟しなければ、さらなる実力行使で応じることは難しい。さらにロシアは核兵器を保有している。ゆえにウクライナを支援する西側諸国は核兵器をちらつかせるロシアに対して軍事力をもってクリミア半島を奪還することができない。せいぜい抗議と経済制裁止まり。

(略)

■5大国を動かすのは「このままなら、一斉に核保有するぞ!」条約だ

第二次世界大戦が終結して70年以上の年月が経つ。これまでの国際連合の役割は一定評価されるべきことは当然だが、それはそれとして、これからの時代を担うべき国際連合として抜本的に組織を作り直すことが喫緊の課題だ。

これはこれまで多くの者が主張してきたことだが、現実には誰も実行できなかった。

軍事力で軍事力に対抗することによる紛争の解決を本当に防ぐのであれば、ルールによる秩序維持を徹底しなければならない。そのためにはルールを制定するだけでなく、ルールを守らせる機関の存在が決定的に重要だ。そしてその機関を構成するにあたり、既得権を認めず、公正・公平なルールに基づくことを原理原則としなければならない。

アメリカが力による平和を主張するなら北朝鮮も力を主張してくるだろう。ゆえに「力による秩序」から、「ルールによる秩序」への転換が必要だ。そしてそのためにはルールを守らせるべき機関(真の国際連合)の再構築が核心。まさにカントの『永遠平和のために』の実践だ。

ではどうやってこの大掛かりな国連改革に踏み出すのか。単純に「国連改革!」と叫んだところで何の改革も進まない。

これは軍縮をめぐる歴史的事実が参考になる。軍縮には「頭の中で展開される」理論として二つのアプローチがある。一つはお互いに力を強化して、緊張感が高まってから軍縮が始まるというもの。もう一つは力の強い者が一方的に力を削減するというもの。

しかし歴史をみれば軍縮の実際は前者のアプローチであることは明らかだ。軍縮! 核廃絶! と言葉だけで叫んだところで何も動かない。

ちょっと前の歴史を見ても、1921年のワシントン軍縮会議や1930年のロンドン軍縮会議も大国・強国が軍事力を増強し、これ以上の軍拡はどこかで止めなければならないという危機感を各国が共有してから軍縮が始まった。最近の事例ではINF(中距離戦略核)全廃条約がそうだ。これもソ連がヨーロッパで西側諸国向けの中距離ミサイルを配備したことに対して、西側諸国が対抗的措置としてソ連向け中距離ミサイルを配備。そして緊張感が絶頂に高まってから相互に全廃することになった。

(略)

結局一方当事者が力を持てば、対抗措置として他方当事者も力をつけようとする。今の国際連合の体制の下では、目指すは力の均衡となってしまう。そして力の増強合戦がある程度の限界を迎えメンバー全員に危機感が高まり始めると、やっとそこから軍縮の話し合いが始まる。これが国際政治の現実だというのが僕の認識だ。

一方的に力の削減を叫んだり、世界からの軍事力消滅や核の廃絶を叫んだところで何も動かない。力には力をぶつけて緊張感を高めて動かしていく。しかし力といってもいきなり軍事力を使って動かすことはご法度。すると軍事力以外の力で相手を動かすには相手が嫌がることを突いて緊張感を高めていくしかない。相手が嫌がることを突かず「国連の抜本改革!」「核兵器禁止!」なんて叫んだところで、5大国に対しては屁のつっぱりにもならない。

今般、北朝鮮の核・ミサイル開発というもので、この5大国が慌てふためくことが明らかとなった。5大国にとっては核保有国という既得権を脅かされることが最も嫌なことなんだ。であれば現在核を持たない国が一斉に核を持つことを主張したら、5大国の慌てふためきぶりは尋常ではなくなるだろう。

5大国が国連改革を真剣にやらなければ、核廃絶を進めなければ、自分たちも核を持つぞ! 5大国は既得権にしがみつくな! 5大国の既得権を認めない公正・公平な新しい国連組織に作り直し、核保有についても5大国の既得権を変えていけ! それが実現できないなら、今は核を持たない国が一致団結して核保有に向けて動き出すぞ! それくらいの技術や金は核を持たない国も十分に持っているぞ! その中心は日本だ!

これくらいの主張を5大国にぶつけて、はじめて5大国は真剣に動き出すんじゃないか? これこそが現実の核保有には至らず、核保有をちらつかせる核ヘッジングの実践例。しかもどこか一国が核をちらつかせることに突出すると、その国は国際社会から猛批判を受けるので、核を持たない国が一致団結して5大国にぶつかって行くという知恵。

核兵器禁止条約に日本が参加しない理由として、岸田文雄自民党政務調査会長(前外務大臣)をはじめ日本の政治家は、核保有国5大国が動かなければ意味がないと主張する。それなら5大国を動かす戦略・戦術を考えるのが政治家なんじゃないか?

北朝鮮問題を解決していくのはそうは簡単ではないことは誰でも分かる。しかし力による秩序からルールによる秩序に変えていくことが、北朝鮮問題を解決していくアプローチであることは間違いない。あとは口で言うだけではなく実践だ。

きれいな理想を唱えても核保有5大国は動かない。5大国を「動かす」には核兵器禁止条約ではない。逆だ。5大国が最も嫌がる「このままなら、核を持たない俺たちも一斉に核保有するぞ!」条約だ。(ここまで約4000字、メルマガ本文は約1万2200字です)

※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.84(12月19日配信)を一部抜粋し簡略にまとめ直したものです。もっと読みたい方は、メールマガジンで! 今号は《北朝鮮危機で急迫の国連改革! 5大国を本気にさせるのは「一斉核保有運動」だ》特集です!!

(前大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹 写真=iStock.com)

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