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火山列島日本で原発稼働は認められるのか

プレジデントオンライン / 2017年12月24日 11時15分

読売新聞の社説(12月14日付)。見出しは「伊方差し止め 再び顕在化した仮処分の弊害」。

12月13日、愛媛県伊方町にある四国電力の伊方原子力発電所3号機に対し、広島高裁が運転停止を命じた。この広島高裁の仮処分決定に納得できない産経新聞と読売新聞は早速、社説で反論を展開。一方、原発に反対する朝日新聞や毎日新聞も社説のテーマに取り上げ、「火山国に原発はなじまない」などと主張した。火山列島の日本に原発は適さないのだろうか――。

■「強引さと言い訳めいた論理展開が目立つ」と産経

産経社説(12月14日付)は広島高裁が運転を認めない理由について、次のように説明する。

「伊方原発から130キロの位置にある阿蘇山の巨大噴火を挙げた」
「9万年前の破局的噴火の規模なら、火砕流が到達する可能性は否定できないとした」

こう書いたうえで広島高裁の決定を「あまりに極端だ。そうした噴火が起きれば、原発以前に九州全体が灰燼(かいじん)に帰するではないか」と手厳しく批判する。

さらに「全体に強引さと言い訳めいた論理展開が目立ち、説得力の乏しい決定といえる」とも批判する。

産経社説は「極端」「強引」「言い訳」「説得力が乏しい」と徹底した書きぶりである。原発を肯定してきた産経らしさがにじみ出ている。

一般的に司法判断に対し、新聞社が社説でここまで批判するのは珍しい。批判というより「非難」といった方がいいかもしれない。

産経社説は「規制委の安全審査に合格した原発への仮処分自体、そもそも不適切ではないか」とまで書くが、原子力規制委員会自体を絶対的存在として捉え過ぎている面もある。

社説の最後も「今後の各地裁でのよりどころとなるべきであるにもかかわらず、混乱を助長するものとなった。極めて残念だ」と高裁の判断を厳しく批判する。

■40年の運転期間に「破局的噴火」が起きるか

読売社説(12月14日付)は「再び顕在化した仮処分の弊害」という見出しを立て、サイドから批判している。

読売社説は「10月から定期検査に入っている3号機は、来年1月に運転再開予定だった。四電は決定を不服として、執行停止などを広島高裁に申し立てる方針だ」と書き、「当分、運転再開は見通せない」と指摘する。

仮処分自体の問題点について言及し、「証拠調べを十分に行わずに短期間で判断する仮処分は、効力も即座に生じる。高度な知見を要する原発訴訟への適用には慎重であるべきだ、とかねて指摘されてきた。その弊害が改めて顕在化した」とも書く。

さらに読売社説は、規制委が原則40年の運転期間に照らせば、原発から約130キロ離れた阿蘇山で「破局的噴火」が起きる可能性は「極めて小さい」としたことについて、「ゼロリスクに固執しない常識的な判断だった」と評価したうえで、こう書いている。

「原発に限らず、破局的噴火を前提とした防災対策は存在しない。殊更にこれを問題視した高裁の見識を疑わざるを得ない」

読売の主張は産経にくらべて具体的で、それなりに理解できる。

■日本で原発を稼働することへの重い問いかけ

根っからの原発嫌いの朝日は社説をどう書いているか。

12月15日付で「火山国への根源的問い」と分かりやすい見出しを付け、冒頭から「火山列島の日本で原発を稼働することへの重い問いかけだ」と書き出している。

前半で「周辺に火山がある原発は多く、影響は大きい。国の原子力規制委員会や電力会社は決定を真摯(しんし)に受け止めるべきだ」と主張する。

今回の広島高裁の仮処分決定は朝日にとってまさに「してやったり」なのだろう。

朝日社説は「司法からの疑義は、今回が初めてではない」と書き、「火山リスクの審査のあり方の不備が、繰り返し指摘されている事実は重い。規制委は、火山学者の意見に耳を傾け、根底から練り直すべきだ」と原子力規制委員会を批判する。規制委の判断をよしとする読売とは正反対である。

朝日社説は「決定は、社会は自然災害とどう向き合うべきか、という根源的な問いを投げかけたといえる」とも指摘する。「根源的問い」とは実に朝日らしい言い方だが、実際、広島高裁はそこまで考えて伊方原発の運転停止を命じたのだろうか。朝日の独りよがりのような気もする。

■朝日社説より1日早かった毎日社説の中身

朝日社説は最後を「福島第一原発の事故の教訓は、めったにないとして対策をとらなければ、取り返しのつかない被害を招くというものだった。再稼働を進める政府は教訓に立ち返り、火山国で原発が成り立つかも検討すべきだ」と締めくくっている。

毎日社説(12月14日付)も朝日社説と同様に「世界有数の火山国である日本は、原発と共存することができるのか。そんな根本的な問いかけが、司法からなされたと言えよう」と書く。

さらに後半で「日本で巨大噴火が起きるのは1万年に1回程度とされている。だが、頻度が低いからといって対策を先送りすれば、大きなしっぺ返しを受けることを、私たちは福島第1原発事故で学んだはずだ」と書くが、これも朝日社説と同じ主張である。

最後も「政府や電力会社は、原発の火山対策について、さらに議論を深めていく必要がある」と同じように要望している。

実は毎日社説の掲載は、朝日社説よりも1日早かった。社説を担当する論説委員は、当然、各紙の社説を読んでいるはずだ。朝日は毎日との違いを出すために、「独りよがり」とも言える主張を盛り込んだのだろう。新聞社説を読み比べると、こういう事情もみえてくる。

■原発を止めるならそれに代わるものが必要だ

火山列島の日本に原発は適さないのだろうか。

原発のウラン燃料は数年間、交換する必要はなく、使用済み燃料を再処理して使うことも可能だ。石油や石炭、天然ガスといった化石エネルギーに比べ、供給が安定している。二酸化炭素も排出せず、地球の温暖化を確実に防げる。

エネルギー資源に乏しい日本にとってこれほど重宝するエネルギーはない。ウラン燃料は実に素晴らしいエネルギーなのである。

問題は原発事故が起きたときだ。原発は事故で放射能漏れを起こすと、その被害は計り知れない甚大なものになる。

人類はこれまで米国のスリーマイル島事故(1979年)、チェルノブイリ原発事故(1986年)、福島第1原発事故(2011年)と過去に3度の大事故を経験している。

今後も原発政策を続けていくなら悲惨な原発事故を未然に防ぐ術を見つけなければならない。過去の事故を検証し、安全対策に結び付けていくことが何よりも大切である。

これまで日本では原発に影響を与えるような火山噴火や地震はなかった。しかし「いま、日本列島は、火山噴火や地震の起きやすいサイクルに入った」という説がある。一部の識者も「火山列島には原発は適さない。これまで運が良かった」と指摘する。

そこでもうひとつの選択肢は原発政策そのものを止めてしまうことだ。ただ、それには原子力に代わる安定したエネルギー源が必要となる。

12月4日に掲載した「肝心なときに脱原発を書けない朝日と毎日」の記事の最後で沙鴎一歩が指摘したように、地球温暖化を回避し、安定した出力が得られ、かつ安全なエネルギー源の開発に力を注ぐ必要がある。

太陽光発電や風力発電、地熱といった再生可能エネルギーの研究開発と、それによって得られた電力を長時間、無駄なく安全に蓄えておくことができる蓄電池の開発が求められている。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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