"PDCAを回せ"と指示する管理職は無責任
プレジデントオンライン / 2017年12月25日 9時15分
■PDCAがフィットする条件とは
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本連載の初回タイトルは「日本企業を壊す“PDCAを回す”という言葉」だった。このタイトルを見て、違和感があった方は少なくないはずだ。そのような人たちに、安易に“PDCAを回す”という言葉を連発することの問題点を伝え、どのようにすれば経営管理サイクルが機能するかを考えてもらいたいと思っている。
「PDCAを回せ」。この言葉を聞いたことのない人はほとんどいないはずだ。説明する必要がないと思われるかもしれないが、ここでその意味をもう一度考えてみよう。
PDCAとは、P(Plan、計画),D(Do、活動),C(Check、比較評価),A(Action、是正措置)という動詞の頭文字をつないだものである。「計画(P)に基づいて活動(D)し、実績値を計画値と比較(C)し、両者間に乖離が生じていて対応策が必要な場合には、適切な是正措置(A)を取り、是正措置後に次の計画を策定する」という一連の経営管理プロセスを継続して行うことを意味している。「PDCAサイクルを回す」とは、上記の活動を継続実施することを意味する。
この説明の限りでは、PDCAサイクルを回すことは、経営管理の基本であり、何の問題もなさそうだ。PDCAと聞いて、図表1をイメージする人が多いだろう。しかし、この図が、実はくせ者なのである。
問題点は3つある。まず第1に、この図には時間軸が欠落している。第2に、PDCAのそれぞれの活動に担当する人は同一人物ではない。そして、第3に、2サイクル目に入る段階、つまり、AからPへのつなぎの部分について十分な配慮がないことである。
「PDCAサイクル」は、別名「デミングサイクル」とも言われる。つまり、この言葉は、品質管理の世界で生み出されたものである。デミングサイクルは、一定の条件下では、品質管理のような継続的な業務改善活動にフィットする。一定の条件とは、計画の修正が不要だったり、比較・検討と是正措置が極めて短時間で実行可能であったりする場合を意味する。
わが国の品質管理活動では、計画値は明白である。つまり、100%良品、あるいは、欠陥ゼロ(品質管理用語を使うなら、ばらつきが一定の許容範囲《公差》内にとどまっていれば、欠陥ゼロと判断される)を意味する。Pは、このように究極の理想状況に設定される。全品良品を目指して製造活動や検査活動が実施される。一定期間の経過後、実績、つまり、全品良品が達成できたかどうかがチェックされる。品質に問題がなければ、特段の措置を講じる必要はなく、次期でも全品良品を目指した活動が継続されることになる。
一方、何らかの品質問題が生じていれば、必要な是正措置をとる。ただし、全品良品という計画目標は変更されず、次期の活動が継続される。このように、品質管理では、計画値が全品良品という理想状況を想定しているので、計画の変更は行われず、そのため、PDCAサイクルはつながってくる。
■PDCAに時間軸を導入するとどうなるか
しかし、他の経営管理活動では状況は異なるのである。そのことを理解してもらうために、予算管理という経営管理活動を取り上げてみたい。
PDCAサイクルの図を、次のように時間軸を考慮に入れて示すと、次のようになる。
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このように、PDCAサイクルをAとPのところで切断して時間軸を考慮すると、気づきが得られる。ここでは、4月から始まる予算期間(いわゆる3月期決算会社)を想定し、PDCAサイクルを回すことができるかどうかを検証してみよう。
次年度の予算作成は、早いところで、今年度の9月くらい、遅くとも12月から始まり、予算案は3月に確定する。確定した予算目標の達成に向けての活動(D)は、次年度期間すべてを通じて実施される。
活動の成果について確定値(実績値)が得られるのは、この会計期間が終了した翌年度の5月連休明けくらいになるだろう。それから、予算実績の差異分析を行い、分析結果に基づいて是正措置を講じるということになれば、是正措置というアクションが取れるのは6月以降となる。しかし、その時点では前期のCとAを待たずに、次の予算期間は始まっているのである。
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理解していただけたであろうか。予算管理活動では、実績が確定する前に次期に突入しており、予算実績比較を行い、是正措置を講じた後で、新たな計画を立てているわけではない。つまり、予算管理では、PDCAサイクルを回したくても回らないのである。時間軸が欠落しているPDCAサイクルの図は、この問題を見過ごしてしまう。
実際には、予算期間が半年経過後あるいは第3四半期の途中で、次期の予算編成活動が始まる。つまり、予算管理活動は、CやAの活動が欠如した計画・実行のみが繰り返されているにすぎない。PDCAサイクルが回らなくても、実績確定後の予算実績差異分析を行うことや、是正措置を講じることには意味がある。しかし、いずれも相当の時間経過後の作業となる。それゆえに、経営管理活動としてのインパクトは極めて弱い。
■「やれ」と言われても混乱だけが増幅
「PDCAを回せ」と部下に指示する管理者は、極めて無責任である。というのは、部下は、PDCAすべての活動を担当していないからである。計画を立てるのは、管理者自身か自分の上司、あるいは、計画を立てる前提となる経営環境分析も担当する経営企画スタッフである。そして実行を担当するのは部下である。
上司は、設定した計画を達成できるよう、部下に対して適宜指示を与えるのが業務である。チェックに関しては部下による自己分析も必要だが、本来は管理者の仕事だ。チェック後にどのような是正措置をとるかについては、管理者が部下に指示することもあれば、部下自らが対応策を見いだし実行することもあるし、是正のために制度やルールの変更や巨額の投資が必要な場合には、別の担当者の仕事となる。
担当業務ではない仕事を上司から「やれ」と言われても、部下は何をしたら良いかもわからず、混乱のみが増幅されてしまう。管理者の無責任な発言を前にして、部下は立ちすくむ。事態が一向に改善されないので、管理者は不満を募らせる。そのような管理者の言動に、部下はさらに困惑する。PDCAサイクルは、回したくても回せない。
■サイクルを回すのに必要な判断業務
PDCAサイクルに関して、もうひとつ大切なことは、1度目の経営管理サイクルが終了し、2巡目に入るときにある。是正措置をとった後の新しい計画を練る時に必要なのが「新たな計画を策定するにあたって、前期との比較で経営環境に変化があるかどうか」を確認する作業である。顕著な変化がなければ、新しい計画は比較的容易にたてられる。
一方、経営環境に大きな変化があるなら、それを考慮に入れた慎重な計画設定が必要になるのである。PDCAサイクルとは、PDCA(J)Pサイクル、つまり、是正措置をとった後に、次の計画を設定する前に計画前提が前期と顕著な違いがあるかどうかを判断(Judge)した後に、次の計画を立てるものなのである。判断(J)のプロセスを欠いたPDCAサイクルは、不毛である。
例えば、前期に想定した為替レートから今期の為替レートが大幅に上振れないし下振れすることが予想された場合を考えてみよう。そう判断するなら、計画前提が前期とは異なることになり、新規の計画設定にあたっては、為替が影響するすべての要因を考慮に入れないといけなくなる。
もっともらしい言葉が、ビジネスの世界では満ちあふれている。これらの言葉が実は経営を混乱させている。「横展開せよ」とか「愚直に取り組め」なども危険な言葉である。部下の自主性と創造性は極めて重要だが、上司の明確な指示や良い意味での介入がなければ、管理者の期待する(あるいは、期待を超える)成果は得られない。
日本語は他の言語との比較で、極めてハイコンテクスト(多義的に理解される)な言語である。そのことを十分理解した上で、適切な言葉を選択し、使用する必要があるだろう。
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![](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/6/8/80/img_68b4b68fd2b4c2ba26ec4c45e8cb752e3889.jpg)
同志社大学大学院ビジネス研究科教授(神戸大学名誉教授、博士(経営学))
1953年8月兵庫県生まれ、78年神戸大学大学院経営学研究科博士課程前期課程修了(経営学修士)、99年神戸大学大学院経営学研究科教授、2008年同大学院経営学研究科研究科長(経営学部長)を経て12年から現職。専門は管理会計、コストマネジメント、管理システム。ノースカロライナ大学、コロラド大学、オックスフォード大学など海外の多くの大学にて客員研究員として研究に従事。
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(同志社大学大学院ビジネス研究科教授 加登 豊)
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