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米国に"兵器の分割払い"を頼む日本の品格

プレジデントオンライン / 2018年1月7日 11時15分

2015年12月10日、「イージス・アショア」は実験で初の迎撃に成功した。(写真=U.S. Missile Defense Agency/ロイター/アフロ)

日本の「防衛費」が増え続けている。2018年度の予算案では過去最大となった。昨年11月に米トランプ大統領が来日し、政府は迎撃ミサイルシステムなど米国製の高額な兵器の購入を決めた。防衛態勢の強化は必要なのだろう。だが、日本にどんな兵器が必要なのか。それを決めるには日本なのか、米国なのか――。

■防衛費の増加は4年連続で過去最大

政府が昨年12月22日、2018年度の国家予算案を閣議決定した。一般会計総額は「97兆7128億円」と6年連続で過去最大だ。社会保障費が高齢化によって増えたことがこの過去最大の原因である。

税収は増えたものの、全体の3分の1以上は新規国債で賄っている。簡単にいえば、財政健全化からほど遠い借金に頼り切った予算案なのだ。

中でも問題は、核・ミサイル開発を続ける北朝鮮や海洋進出を強化する中国に対する備えから拍車がかかって拡大した防衛費である。その規模は前年度よりも660億円も多い5兆1911億円となった。4年連続の過去最大だ。

米国のトランプ政権が誕生して以来、防衛力の増強がますます進んでいるが、果たしてこれでいいのか。

■「どんな兵器をもつかを決めるのは日本自身だ」

予算案は今年1月に召集される通常国会に提出され、与野党で審議される。与野党がしっかり議論してほしい。すべては国民の税金なのだから。

12月23日付紙面で朝日新聞は「どこまで膨らむのか」とお得意の皮肉を込めた見出しを付け、防衛費の拡大を批判している。この時点で各紙は予算全体をまとめて論じているだけだった。それに対し、朝日は第1社説という扱いで防衛費をテーマに取り上げている。

朝日社説は「陸上配備型迎撃ミサイルシステム『イージス・アショア』や長距離巡航ミサイルの導入を決めた。ほかにも戦闘機F35Aや無人偵察機グローバルホーク、新型輸送機オスプレイなど米国製の高額な兵器を購入する」と日本政府が予算に組み込んだ主な武器を並べる。

そのうえで「トランプ米大統領は11月の来日時、安倍首相との共同記者会見で『非常に重要なのは、日本が膨大な兵器を追加で買うことだ』とあからさまに迫った」と指摘する。

強気のビジネスマンらしいトランプ氏の発言に安倍晋三首相は押されっぱなしだった。それでも朝日は強く主張する。

「日本がどんな兵器をもつかを決めるのは日本自身だ」

まさに朝日社説の言う通りである。

アメリカやトランプ氏のために武器を購入するのではない。日本の防衛のために買うのだ。アメリカを利するだけの購入なら直ちに止めるべきである。安倍首相や日本政府はそこのところをよく考えてもらいたい。

■複数年で分割払いする「後年度負担」という仕組み

朝日社説は「限りある予算のなかで防衛費が膨張すれば、それだけ財政全体が圧迫される」とも指摘する。その通りである。小学生でも理解できるだろう。

それなのに安倍政権は北朝鮮の脅威をいいことに防衛費を拡大し続けてきた。今後も増加させていく気なのだろう。

朝日社説は「ミサイル防衛をどこまで優先するか。巨額の費用に見合う効果があるのか。次々と兵器を購入する背景に、米国への過度な配慮があるのではないか」と批判した後、最後にこう訴える。

「論点は多い。年明けの通常国会で徹底的な議論が不可欠だ」

これも同感である。民主主義の原点は国会での論議にあるからだ。朝日社説は米国からの武器購入の問題点をこう説明していた。

「米国製兵器の多くは、日米両政府が直接取引する有償軍事援助(FMS)で導入される」
「米側が見積もった金額を前払いした後に納入が始まり、納入が完了した後、精算して価格を確定させる。このため、後になって価格が上がることもある」
「高額の兵器は複数年で分割払いする『後年度負担』という仕組みで購入するため、将来の予算の制約要因にもなる」

このFMSや後年度負担を日本にとって有利なように変えていくことはできないのか。これも国会審議の中で検討してほしい。

■読売は「防衛費の増額は適切だ」

12月23日付の社説で防衛予算を扱ったのは朝日新聞だけだったが、2日遅れて読売新聞が25日付の社説で取り上げてきた。しかも朝日社説と同じ第1社説だ。しかしその内容は朝日社説と反対に防衛予算の増額を認めて評価している。

読売社説はその冒頭から「北朝鮮や中国の軍備増強に対し、日本も相応の防衛力を整備し、抑止力を高める必要がある」と書く。

続けて「政府の2018年度予算案で、防衛費は前年度当初比1.3%増の5兆1911億円と、過去最高を更新した。日本の安全を守り抜くため、6年連続の増額は適切である」と評価する。防衛費の拡大を批判する朝日社説を意識した書きぶりである。

さらに「18年末には、新たな防衛大綱と中期防衛力整備計画を策定する。新たな脅威に的確に対処するため離島やサイバー空間の防御、テロ対策を含め、防衛態勢を多角的に強化することが欠かせない」とも主張する。

■兵器購入で日本は有利に立てるのか

防衛費の拡大問題で対立する朝日社説と読売社説ではあるが、読売社説もFMSの問題を取り上げる。米国との交渉の中で日本に利するように解決していく術を見つけるよう主張を展開している。

「近年、『対外有償軍事援助(FMS)』に基づく米国からの防衛装備の購入が急増している。18年度は4000億円を超す」
「米国が価格や納期の設定に主導権を持つ制度のため、その言い値で購入を迫られがちだ」
「他の装備の調達・維持費、自衛隊の訓練経費などへのしわ寄せが深刻化している」
「小野寺防衛相が『精査し、コスト縮減に努力する』と語ったのは当然だ。法外な価格上昇を招かないよう、米政府と粘り強く交渉することを忘れてはならない」

こうした読売社説の主張は朝日社説のそれと通じるものがある。沙鴎一歩も賛成だ。繰り返すが、外交努力で日本政府に有利な道を探ってほしい。

■米国の軍事力を東アジアに集中

この読売社説でも冒頭で使われているが、気になるのは「抑止力を高める必要がある」という文言である。

抑止力とは相手に攻撃をあきらめさせる軍事の装備力を指す。果たして防衛予算費を増額することで北朝鮮を思いとどませることができるのだろうか。

12月17日付の「プレジデントオンライン」でも「北朝鮮を先制攻撃できるミサイルは必要か」という見出しを付けて書いたが、北朝鮮が米国や国際社会の制裁に反発しながら核やミサイルの開発を続けるのを見ていると、この疑問が湧いてくる。

今年1年間の北朝鮮の暴走と米国などの動きを振り返ってみよう。

まず1月にトランプ氏が米大統領に就任する。すると北朝鮮は2月、中距離弾道弾ミサイルを発射、3月には弾道ミサイル4発を飛ばした。国連安全保障理事会が制裁決議を採択していくと、北朝鮮はそれに反発して大陸弾道弾ミサイル(ICBM)を次々と発射。9月3日には6回目の核実験まで行った。

11月上旬のトランプ氏の東アジア(日本や中国など)歴訪中は、米国は世界最大の戦闘能力を持つ空母など数隻を北朝鮮近海方面に向かわせるなど、米国の軍事力を東アジアに集中させる圧力をかけた。

その効果でミサイルの発射はなかった。抑止力が働いた結果だろう。ここまでは良かった。

■もはや北朝鮮に抑止力は効かない

しかし11月20日、米国からテロ支援国家に再指定されると、今度は29日にはICBM「火星15」を飛ばした。このICBMは青森県沖に落下し、日本の国民を脅威にさらした。

米国の世界に誇る軍事力をもってしても、北朝鮮は核・ミサイル開発を中止しようとはしない。もはや米国の抑止力が役に立たないのだ。いまの北朝鮮に対し、抑止力は限界がある。

ならばどうすれば北朝鮮の暴走を食い止めることができるのか。北朝鮮を交渉のテーブルに着かせることができるのか。防衛費を増額して日本と米国のタッグの良さを北朝鮮に見せつけるだけでは駄目である。

沙鴎一歩にも最善の解決策は分からない。新聞各紙の社説も明確に答えていない。

ただ重要なのは国際社会や米国、それにアジアの国々とともに日本が最善策を探る努力を続けることである。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=U.S. Missile Defense Agency/ロイター/アフロ)

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