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安倍首相が新年会で財界を持ち上げたワケ

プレジデントオンライン / 2018年1月16日 9時15分

写真=アフロ

1月5日、安倍晋三首相は経済3団体の新年祝賀パーティーであいさつし、「原稿にないことを話す」と前置きしたうえで、好景気の話題で会場を沸かせた。有力企業のトップが経済の先行きを楽観視するなかで、安倍首相があらためて要請したのは「3%の賃上げ」。好景気が「給料」に反映されるのは、いつなのか――。

■株高は「アベノミクス」の成果なのか

1月5日、日本経済団体連合会、日本商工会議所、日本経済同友会の経済3団体の「2018年 新年祝賀パーティー」が都内のホテルで開かれた。来賓としてあいさつした安倍晋三首相は、「通常、私は原稿を持ってくるのですが、今日はちょっとその原稿を置いてまいりましたので、自由にやらせていただきたいと思います」と前置きしたうえで、こんな話題で集まった経営者たちを喜ばせた。

「関西のあるデパートは、開店の前になんと6000人のお客さんが並び、高級品の動きもいい。東京のデパートも非常に高い、榊原(定征、日本経団連会長)さんが買うような福袋、これがたくさん売れた」

そのうえで、最後には「しっかりと経済の好循環を回していくためには、今年の賃上げ、はっきり申し上げまして3%お願いしたい」と述べ、経済界を持ち上げながら、あらためて3%の賃金引き上げを訴えた。

安倍首相が経済3団体の新年会であいさつをするのは恒例のことだ。だが、その表情は例年になく晴れやかだったように思う。総選挙での大勝や、26年ぶりという株高を好感しているのかもしれない。

2018年に期待を寄せるのは安倍首相だけではない。今年の干支、戌(いぬ)には「戌笑う」という相場格言があり、縁起のいい年とされる。ちなみに昨年は申(さる)で、「申酉(さるとり)騒ぐ」とされる。英国の欧州連合(EU)離脱決定やトランプ米大統領就任など、たしかに波乱の年だった。

■キヤノン・御手洗会長「今年の目玉はAI」

2018年はどんな年になるか。格言通り「笑える」年になるか。経済界の有力経営者たちが、新年会で披露した見通しを紹介しよう。

日本経団連の名誉会長、御手洗冨士夫キヤノン会長は今年の景気拡大に期待を寄せる一人。「IMFの世界経済見通しによると、世界経済の成長率は、2016年は世界金融危機以来最低の3.2%だったが、2017年は3.6%、2018年は3.7%へ上昇すると予想し、経済活動の世界的上昇は強まっていると指摘しています。去年よりも順調に拡大していくと思います」と語る。

キヤノンは昨年、カメラや複合機などの既存事業が好調で、医療や産業機器などの新規事業がこれに加わり増収増益だった。今年の目玉はAIだ。「これからAIの時代になりますから、どうやってそれを製品化していくか。それが競争力の源泉になると思います」という。

■三井住友FG・國部社長「今年は変革の年」

三井住友フィナンシャルグループの國部毅執行役社長兼グループCEOも今年の景気見通しはポジティブだ。

「今年は基本的にはいい年になると思います。地政学的な問題、米国の金利引き上げに伴う金融市場に対する影響とか、リスクはありうるのですけど、世界経済も緩やかに回復し、日本の経済も世界経済の回復に伴う外需の好調さもあり、いい年になるではないでしょうか」

しかし、これはあくまでも日本経済全体の話。銀行を取り巻く環境は決して楽なものではない。マイナス金利の影響は銀行の預金貸付業務に大きな負担となっている。

「金融業界はマイナス金利、特にイールドカーブ(残存期間が異なる複数の債券などにおける利回りの変化をグラフにしたもの)がフラットになっている状況では、預貸金収益で利益を上げることが難しい。だから我々がいいサービスを提供していくフィービジネス、これに加えて海外業務を拡大していくことによって、持続的に成長につなげていく」

さらに将来を見据えた企業体質の改善にも抜かりがない。

「今年は変革の年だと思っています。マイナス金利を含む低金利環境、国際金融規制の強化、何よりも技術の進展、デジタライゼーションへの対応、我々が今までやってきたビジネスモデルを新しい時代に合わせたビジネスモデルに変革する時期ではないでしょうか。昨年、中期経営計画を作り、その中にデジタライゼーションの推進を一つの大きな柱に据えているのですが、それを今年は本格的に実行する年だと思います」

三井住友FGのデジタライゼーション推進には2つの側面がある。ひとつは新しいテクノロジーを使って新しいサービスを提供していくということ。もうひとつは今までやってきた業務プロセスを新しいテクノロジーで効率化していくこと。この2つを徹底的に推し進めていくという。

■SMBC日興証券・清水社長「日経平均は2万6000円までいく」

「日経平均株価は2万6000円まではいくと思います」

こう語るのはSMBC日興証券の清水喜彦社長。この強気の発言を裏付けるかのように大発会以降も株価は上がり続けている。

「今年はスタートもよかったですし、安定した年になると思います。ただ米国や北朝鮮などのポリティカルリスクが残っています。これさえなければ世界5極ともに安定した年になっていくはずです」

おしなべて日本は追い風であるという見方が大半を占めるが、慎重論も少なくない。

大手不動産会社の元会長は「株高だとつい景気がいいように感じるが、あまり株価と実体経済とを結びつけて考えない方がいいのではないか。株高そのものにも違和感がある」と苦言を呈する。日本の株高は世界的な金余りの中で海外の機関投資家が日本株に殺到したということだけでなく、日銀とGPIFが巨額の資金を投入して株価を買い支えている側面も否定できないからだ。

さらに日銀の今後の経営にも不安が残る。日銀のバランスシートの85%はすでに国債が占めている。しかも保有する国債の9割以上が長期国債だ。政府は今インフレ政策をとっているが、一方でインフレが進めば国債は暴落し、日銀は巨額の損失を抱え込むことになる。しかし、「日銀の抱える国債の出口戦略はまだ見えてこない。しばらくは塩漬けにしておくのだろう」(大手証券会社社長)と懸念を口にする。

■産業革新機構・志賀会長「もっと再編統合しなければダメ」

「表面的には景気も悪くないし、いいムードだろうと思うのですが、比較ということでいうと、世界中でイノベーション競争になっている。日本があまり足元の景気の良さに浮かれていると、苦労するのではないかと思います」

こんな警鐘を鳴らすのは昨年、東芝メモリの支援問題などで注目された産業革新機構の志賀俊之会長だ。

「いろいろなところで世界の動きをみていると、イノベーションを起こして商品や技術だけでなく、ビジネスモデルを変えていく動きがものすごく激しくなっている。いままでの常識にとらわれたビジネスをやっていていいのか。そういうことを変えなければならない時代が確実に来ているので、“ゆでガエル”ではないが、足元がよければ対応が遅れて、どうしてもゆで上がってしまう。そこが心配です」

政府も賃上げや設備投資を積極的に推し進めた企業に対しては減税をするなど企業体質の改善を後押しする取り組みを始めようとしているが、それだけでは十分ではない。

「これだけ多くの企業が一つの業界でしのぎを削っているのは特殊です。これでは世界に打って出るような原資が稼げない。もっともっと再編統合していかなければダメです」(志賀会長)

戌年は「戌笑う」というが、そんなのんきなことは言っていられない。足元の明るいうちに次の一手を打たなければならない、2018年はそんな年なのかもしれない。

(ジャーナリスト 松崎 隆司 写真=アフロ)

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