"週刊文春みたいな仕事"は恥ずべきものか
プレジデントオンライン / 2018年1月31日 9時15分
■『フライデー』編集部襲撃事件のようになるか?
小室哲哉の不倫報道をめぐり、『週刊文春』(以下、文春)が批判されている。ダルビッシュ有、ASKA、ホリエモン、舛添要一など、一度は文春に取り上げられた“傷”
私のところへも新聞や週刊誌、ラジオ局、ネットテレビなど、いろいろなメディアが取材に来た。今にも文春がたった一本の記事で休刊に追い込まれるような騒ぎだ。記事の概要はいまも「文春オンライン」で読むことができる。
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http://bunshun.jp/articles/-/5887
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私は文春を読んで、何となく「哀れ」な不倫物語だと思った。だが、小室が記者会見を開いてから、SNSで文春批判が巻き起こった。
取材にきた朝日新聞の記者には、こう聞かれた。
「文春批判が強まってます。『フライデー』編集部襲撃事件のようにならないですか?」
おいおい、そう来るか。1986年12月、講談社のフライデーがビートたけしの不倫相手だった専門学校生の写真を掲載したことで、たけしをはじめたけし軍団ら12人が深夜、編集部に押しかけ、編集部員にケガを負わせた。
たけしは逮捕された。講談社は会見を開き、今回の事件は、言論・表現の自由を弾圧する行為だという趣旨の発言をした。
これに新聞が噛みついたのだ。フライデーのやっていることは、プライバシー・人権侵害が甚だしいのに、そんなことがいえるのか。世論がこれに呼応し、5誌合わせて総計600万部ともいわれた写真誌の部数は急落し、次々に休刊していった。
文春もそうならないか? なるわけがない。今回の小室の記事は、裏取り、本人のインタビューと、取材はしっかりやっている。小室は「公人」であり、記事では引退もほのめかしていた。今回の記事作りに限って文春側に落ち度はない。
■「不倫ばかりやらないで、権力者を追及しろ」だ?
ここから週刊誌の成り立ちを少し講義したい。1956年に出版社初の週刊誌『週刊新潮』(以下、新潮)
つまりスキャンダルとメディア批判(当時は新聞批判)である。スキャンダルといっても広い。カネ、利権、女。地を這いながら醜聞を嗅ぎまわり、ネタになりそうならチームを組んで動く。
少ない人数と限られた予算でやるために編集長は常に「選択と集中」を考える。売れるスキャンダルはいつの時代も下半身ネタである。
神楽坂の芸者に三本指(月30万円)でオレの愛人になれといったことを週刊誌でバラされ、わずか60日で総理の座から滑り落ちた政治家がいた。
大物政治家が愛人に「お前の母親とやらせろ」
「不倫ばかりやらないで、権力者を追及しろ」だ? 権力者のスキャンダルも芸能人の不倫も、週刊誌にとっちゃ貴賤の別はない。判断基準は面白いかどうかだけだ。
■「報道の自由とプライバシー保護のどちらかを選べ」
個人が法に触れないで自由にやっていることを暴くのは、プライバシー侵害ではないかという古くからある批判についてはこう反論する。
まず、公人かどうかの線引きだ。自分を世間に常に露出することでその存在が成り立つ人は公人で、その人たちは一般人と比べてプライバシーを守られる権利は狭められる。よって小室哲哉は公人である。
以前、大学で「編集」を教えている時、必ず何人かの学生からこんな質問が出た。
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「人権侵害もあるのではないか」
「恥ずかしくないのか、フライデーみたいな雑誌をやっていて」
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それに私は、
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そういっても、出ていく学生はいなかった。
たしかに編集者の使命とプライバシーは時として折り合わないことがある。
『ジャーナリズムとしてのパパラッチ』(内田洋子著/光文社新書)の中で、イタリアの名編集者、グイド・カルレットはこういっている。
「報道の自由とプライバシー保護のどちらかを選べ、と言われて、倫理観に縛られて<プライバシーの保護>を選んでしまうようでは、マスコミで働く意味はない」
■日本で一番プライバシーについて考えているのは、だれか?
週刊誌を批判する連中は、週刊誌はプライバシーのことなど考えていないと口をそろえる。
週刊誌OBとしていう。日本で一番プライバシーについて考えているのは、週刊誌の編集者たちであること間違いない。文春の新谷学編集長も、ギリギリまでプライバシーについて考えているはずだ。
編集長は場合によって顧問弁護士の意見も聞く。小室の記事がそうだとはいわないが、弁護士でさえ判断できないときがある(私のときはそういうケースがままあった)。最後は編集長の決断力に委ねられる。その号の特集はもちろん、コラム、マンガに至るまで、全責任を編集長が負うのだ。
才能を不倫報道などでつぶしていいのか、という批判もあるようだが、それでつぶれるような才能はそれまでのこと。宮崎謙介はつぶれたが、山尾志桜里は永田町に戻ってきた。
ニューヨーク不倫を文春に報じられた渡辺謙は、奥さんとは離婚するかもしれないが、彼の俳優としての評価には影響していない。
■スクープはカネがかかる割には売れない
文春は今回の無責任な批判にはビクともしないだろう。だが、心配がないわけではない。
一つは、文春が不倫スキャンダルに力を入れ過ぎていることである。不倫取材の一部始終を写真や動画のパッケージにして、ワイドショーに買わせるというビジネスが、文春の大きな収入源になってきている。
文春はワイドショーに売りやすいネタを優先することで、ワイドショーの「下請け」に成り下がってきているのではないか。そのことは、私だけではなく、心ある編集者やライターたちも心配している。
いま一つは、文春砲が毎週のように炸裂しながら、実売部数が減り続けていることだ。
42万7000部(2016年7月から12月、日本ABC協会公査。
『週刊現代』や『週刊ポスト』も、かつてはスクープを追いかけていた時代があった。だがスクープはカネがかかる割には売れないと、スクープ戦争から抜けていってしまった。
その中で踏みとどまっていた新潮と文春だが、新潮の実売部数は24万7000部で、健康雑誌と化した現代(26万4000部)の後塵を拝している。最近、文春や新潮で健康記事が多くなったのは、現代やポストに近づいている証左である。
■くだらない情報も含めて丸ごと週刊誌
このままでは、文春の存在理由さえ揺らぎかねない。不倫報道ばかりやっている雑誌はつぶれてしまえ、というのは簡単だ。
だが、考えてほしい。国民の知る権利に体を張って応えている雑誌がなくなれば、情報も雑誌とともに消えてしまうということを。
昔『噂の真相』という雑誌があった。裏を取らない、真偽のわからない記事も載っていたが、私が毎号楽しみにしていたのは作家たちの情報であった。
女性関係あり、作家批判ありと、出版社が書けない作家たちの生態を伝えてくれる貴重な雑誌だった。同誌が休刊して、そうした作家たちの生の情報を読める雑誌は皆無になってしまった。
雑誌がなくなるということは、そういうことなのだ。くだらない情報も含めて丸ごと週刊誌である。批判するより応援すべき時だと、私は思う。
(ジャーナリスト 元木 昌彦)
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