平昌五輪の裏で起きている「通信競争」
プレジデントオンライン / 2018年2月15日 15時15分
2018年2月9日開催の平昌(ピョンチャン)オリンピック。スポーツ熱戦の裏で、別の熱い戦いが始まっている。韓国は、今回のオリンピックのテーマとしてドローンでの警備や、AI搭載の各国語通訳ロボットガイドを投入するなど、高度な情報通信技術を駆使した「ICTオリンピック」を掲げる。大会期間中、インテルと韓国最大の通信企業KTが合同で世界初5G商用デモを実施する予定だ。
デモでは、360度バーチャルリアリティー(VR)、シンクビューなどの技術が登場。360度VRは、主要競技が360度映しだされ、視聴者は思い通りの角度で観戦できる。シンクビューは、スキージャンプなどで、選手になってジャンプ台からジャンプする感覚が味わえる。
5Gは次世代モバイル通信システムのこと。現在の4Gの100倍の通信速度、1000倍の通信容量を持つ。日本総合研究所リサーチ・コンサルティング部門上席主任研究員の山浦康史さんによると、5Gの画期的なポイントは速さだけでなく、「多数接続」と「低遅延」だという。
多数接続は現在よりも大量の端末を同時にひとつの電波基地局に接続できる。携帯電話をはじめ、ロボットや自動運転車、医療機器、多数のセンサーなど、あらゆるものがインターネットにつながり、人を介さずデータをやりとりできるようになるが、これがIoTを実現するための基盤になる。
低遅延は、通信のタイムラグを1000分の1秒まで抑えられる。たとえば、自動運転で高速走行中、4Gなら前の車がブレーキをかけてから、後続車のブレーキが作動するまでに1m以上進むが、5Gなら数センチですむ。
平昌のデモで、韓国は世界に先んじて5G導入をアピールし、5G規格の標準化争いで主導権を握ることが目標だ。5G関連市場での世界シェア獲得につなげるためだ。
日本も2020年の東京オリンピックでの5G商用化のため、国内でさまざまな実証実験が進んでいる。たとえば、NTTドコモとALSOKは、多数のセンサーで収集したデータを瞬時に解析して異常検知を行う高度警備システムを開発中だ。
オリンピックに向けて産学官連携が強まっていると山浦さん。NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクなど通信大手、NECや富士通、国内の大学、総務省などで、第5世代モバイル推進フォーラム(5GMF)を設立して、調査研究を活発化させている。
ちなみにこれまで以上にモバイル通信がさまざまな産業や技術と結びつくため、5GMFは、その市場規模は、20年に460兆円になると予測している。
■五輪がステップになり、規格競争が激化
今回の平昌の5Gデモ以降、18年中頃には、3GPPという通信システムの標準化団体が、5Gの標準仕様を定め、各国はそれをもとに導入を進めるという。20年には東京オリンピックでの商用サービスが本格化することが予想される。
日本と韓国はオリンピックをめどに、この大きな市場をめぐって、商用化をどれだけ具体的に進められるかの競争に突入しているのだ。
他国の状況はどうか。山浦さんは、「中国は独自路線で進化し、4Gに依存しないスタンドアローンという方式で、20年に商用化の計画です。また、米国は日韓のように、IoTや自動運転の用途ではない『固定無線アクセス』という使い方で、もっとも早く商用化」と話す。日本ほどブロードバンドが発達しておらず、「通信事業者から各家庭やオフィスに引き入れる固定回線の代替」としてサービスを先行させるからだ。欧州はやや遅れ、5G本格導入は20年末の予定だ。ただし、各国とも計画の前倒しを視野に入れており、想定よりも早く商用化が実現する可能性もある。
平昌オリンピックのパフォーマンスから、裏側にある規格競争にも注目すると、違った楽しみ方ができそうだ。
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米国:2017年末、固定無線アクセスに限って商用化
韓国:2018年2月に平昌オリンピックで商用デモ
日本:現在、実証実験中、2020年東京五輪で商用化を本格化
中国:現在、独自規格で実証実験中、2020年商用化
3GPP(標準化団体):2018年中頃に標準仕様決定
欧州:2020年末に導入予定
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(奥田 由意 写真=アフロ)
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