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2018中学入試の聖域「採点現場」潜入記

プレジデントオンライン / 2018年2月3日 11時15分

(左)東京都市大学等々力中学の校舎内。がらんとした廊下。この中で入試がおこなわれている。(右)子供が試験中、保護者は控室に。一番前に試験問題が掲示されている。

今年も2月1日から東京都・神奈川県の私立中学校の入試が始まった。最近のトレンドは「午後入試」と「当日発表」。このため「1日2校受験」が当たり前になっている。なかでも東京都市大学等々力中学校では、15時から18時すぎまで入試を行い、当日23時ごろには合格発表を行っている。どんなカラクリがあるのか。中学受験塾代表の矢野耕平氏が、その採点現場を取材した――。

■採点現場に潜入 大量の答案用紙をどう処理しているのか

静まり返った教室。聞こえるのは教員たちが赤ペンと青ペンを交互に走らせる音だけだった――。

東京都・神奈川県の私立中学の入試が始まった2月1日の午後4時。同日午後3時から入試を実施している「東京都市大学等々力中学校」(世田谷区)の採点現場にわたしはいた。本来、部外者の立ち入りは厳しく禁じられているが、わたしは中学受験塾の代表として以前から採点作業の実態に関心があり、取材の機会をうかがっていた。そして今回、プレジデントオンラインでの記事掲載を前提に、同校での取材・撮影が実現した。

▼いまの中学受験生は「午後受験」が当たり前

昨今の中学受験のトレンドは「午後入試」「当日発表」である。「午後入試」とは、「午後からスタートする入試」のこと。午前中に入試を終えた受験生たちは、昼食後、別の学校へ移動してもう1本の入試に挑む。特に2月1日、2日の2日間に午後入試を実施する学校が増えており、イマドキの中学受験生は「1日2校受験」が当たり前になっている。

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《参考 2月1日に午後入試を実施している東京・神奈川の代表的な学校》
[男子校]

足立学園、東京都市大付属、鎌倉学園など
[女子校]
跡見学園、江戸川女子、大妻多摩、大妻中野、恵泉女学園、品川女子、実践女子学園、十文字、女子聖学院、東京女学館、中村、三輪田学園、カリタス、清泉女学院、聖園女学院など
[共学校]
桜美林、開智日本橋、かえつ有明、国学院久我山、駒込、淑徳、青稜、東京都市大等々力、東京農大第一、東洋大学京北、広尾学園、三田国際学園、明治学院、八雲学園、安田学園、日本大学、桐蔭学園など。

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■中学入試はwebによる「当日発表」が主流

採点現場となった教室だけに照明がともり、教員たちが答案用紙と格闘していた。

中学受験のもうひとつのトレンドは「当日発表」だ。合格発表の時間がどんどん早まっており、いまや入試当日に発表をおこなう学校が大勢を占めている。時間が早まった背景にはウェブサイトの活用がある。いまの中学入試の合格発表の多くはウェブサイト上でおこなわれるのだ。

指定された時間に学校のサイトへ行くと、そこに合格者番号が一覧化されたPDFが公開されていたり、受験番号とパスワードを打ち込むと個人の合否結果がわかるようになっていたりする。受験生は自宅のパソコンや手持ちのスマホで簡単に結果を確認できる。寒空の下、掲示板の前で合格発表の掲示がされるのをじっと待つ……という光景が見られる学校はずいぶん少なくなった。

▼「午後受験」も「当日発表」も受験生への思いやりがあってこそ

「午後受験」と「当日発表」は、学校側がより多くの受験生を集めるために生まれたものだといえる。従来であれば、「1日1校」しか受験できなかったところ、午後入試ができたことで、「1日2校」の受験が可能になり、受験生としてはよりレベルの幅を広げて受験パターンを組むことができるようになった。たとえば、午前は難関の「挑戦校」を選ぶ一方で、午後は合格圏内の「安全校」を受験する、といった調整ができる。

さらに、「当日発表」がそこにプラスされると、その日の結果を受けて翌日の受験校を考えることも可能だ。たとえば、Aという学校に合格していれば、翌日は「挑戦校」のB中学校を受験し、不合格ならば「安全校」のC中学校を選択する。そんな「W受験」が構築できる。

「午後受験」と「当日発表」を上手に活用することで、わが子の将来の選択肢の幅をぐんと広げることができるのだ。もちろん、受験料などの負担は増すが、わが子の数年間の努力をなんとか実らせたいと思う保護者にとっては必要経費のうちに入るだろう。

そうした中学受験の事情は把握していたが、驚いたのは「午後入試」でありながら「当日発表」をおこなう学校も登場したことだ。その代表的な学校が、冒頭で触れた東京都市大学等々力中学校である。

■2月1日午後3時、461名の受験生が集まった!

東京都市大学等々力中学校の大学合格実績には目を見張るものがある。

2010年度(平成22年度)の東横学園時代、卒業生58名に対し、国公立大学は2名、早慶上理ICUは1名、G-MARCHは4名という現役合格結果だった。これがたった7年後の2017年度(平成29年度)には、卒業生188名に対し、国公立大学は32名、早慶上理ICUは63名、G-MARCHには実に161名の現役合格者を輩出するようになっている。まさに大躍進だ。

小雨の降りしきる2月1日午後。同校には461名の受験生が集まった。

科目ごとに採点する教室は異なっている。

入試広報室長として入試全体の指揮を執る二瓶克文教頭は興奮を隠さなかった。

「こんなに多くの受験生が集まるとは……。昨年は357名でしたから、100名以上増えたことになります。今回特徴的だったのは応募者数に対する実受験率がたいへん高かったことです」

しかし、これだけの受験者が集まると、うれしい反面、採点作業は大変になる。

「午後の試験が始まった直後に校長(原田豊氏)より保護者に告知をしたのですが、当初の合否発表時刻を22時から23時に変更する可能性が高くなりました。受験生には申し訳ないという思いもありますが、わたしたちもしっかり闘って、きっちり合否判定をしていきたい」

▼試験終了時刻は18時10分だが、採点はすでに始まっていた

同校の午後入試は「4教科(算数・国語・理科・社会)」と「算数・作文」のいずれかの科目形態を選ぶことができる。試験時間の詳細は以下の通りだ。

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*4教科入試  
15:00~15:50 国語(50分)     
16:05~17:05 理社(合わせて60分) 
17:20~18:10 算数(50分)     
*算数作文入試
15:00~15:50  算数I(50分)
16:05~17:05  算数II(60分)
17:20~18:10 作文(50分)

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■採点現場は無音だが、熱量が空間に充満

試験終了は18:10だが、実は採点作業は1科目が終了した15:50から始まる。ある教室に構えられた採点現場に461人分の答案用紙が続々と運び込まれてくる。それを、1枚ずつ、1ページずつ、1項目ずつ、正確に◯と×を付けていく。

「採点作業の中心を担うのは、各科目8~10名の専任教員です。それに加え、15名ほどの非常勤講師が各科目に散らばり、記号問題の処理や得点集計作業などを行います」

(1)子供たちの答案が試験会場から採点現場に持ち込まれた。(2)国語採点現場の端に並べられているPC。ここに子供たちの得点が入力される。(3・4)採点に一番手間取る国語科の様子。

とりわけ採点に時間がかかるのは国語である。同校の国語は選択式のほかに「記述問題」がいくつかある。そのため、子どもたち一人ひとりの解答を複数の教員で採点しなければならない。二瓶教頭は言う。

「たとえ採点に時間がかかっても、わたしたちの学校の『教科観』を入試問題に反映したいのです。たとえば、国語では記述問題を必ず入れる、社会では統計資料を盛り込む、理科では実験についての問題を出す……ということです」

その記述問題と格闘している国語の採点現場。部屋の片隅には教員のために用意された軽食が並んでいるが、誰も手をつけない。答案用紙に教員の全神経が注がれているのが伝わってくる。無音の世界だが、熱量が空間に充満している。教員たちが手にするのは赤ペンと青ペン。おそらく赤ペンで最初の採点を終えたあと、その再確認のため今度は青ペンでもう一度採点するのだろう。そして、ときどき誰かが声を発する。記述において「別解」として認められるか否かの相談をしているのだ。

■「1844枚」を採点し合否を決定までわずか5時間

すべての科目の採点現場を回ったが、確かに科目主任を軸に各自の作業分担が明確になっていて、採点に対するさまざまな疑問もたちどころに解決できる「風通しの良い環境」が構築されていた。普段の教員同士の関係性が見えてくるようで実に興味深い。

採点作業が一通り終了したのは21時ちょうど。

このあと校長、教頭、主幹教諭、教務設計部長、事務長、事務係長の計8名のトップ会議「入試判定会議」がおこなわれる。ここで決定されるのは段階別の合格点である。同校では、受験生の合計点に応じて「S特選クラス」「特選クラス」「特進クラス」「不合格者」に分けていく。合格者たちの「歩留まり率」も予測しながら慎重に合格ラインを引くことが求められる。また、トップレベルの合格者の中から「特奨生」を決定する場もこの「入試判定会議」だ。

(左)社会採点現場。答案が持ち込まれ、いよいよこれから作業。(右)採点現場の隅には教員用の夜食が置かれていたが、誰一人食べていなかった。

「入試判定会議」の開始時間は21時半、終了したのは22時半だった。この場で確定した「最終データ」が事務サイドに送られ、ウェブサイト上で合否発表が行われたのは22時45分だった。受験終了時刻から見れば、(受験生の大半が4科受験であることを考えると)単純計算で461人×4科目=1844枚もの答案用紙を採点し、合否を決定するまで、たった5時間だったことになる。

■受験生だけでなく教員も「骨身」を削っている

多くの教員は精魂尽き果てたという感じだったが、二瓶教頭はにこやかにこう語った。

採点は必ず1人が1度チェック。そのため青ペンと赤ペンが必要だ。

「早い子では小学校3年生くらいから塾通いして中学入試に備えます。わたしたちはそんな受験生たちが悔いのない受験をしてほしいと願い、何回も受験するチャンスを設けています(編注:同校では2万5000円の検定料で最大5回の受験が可能)。そして、その試験結果はいち早く受験生に伝えたい。合格が早くわかると、それが自信になって5日ごろまで続く中学入試を乗り越える力になると思うからです」

今日も多くの受験生が試験に臨んでいる。多くの親子が緊張の日々を送っているにちがいない。そして、その裏側では多くの学校教員たちが受験生を応援するために骨身を削っているのだ。

 

(資料)【東京都市大学等々力中学校・高等学校】
創立者は東京急行電鉄(東急)の創業者である五島慶太氏で、学校の経営母体は東急グループに属する「学校法人五島育英会」。最寄駅は東急大井町線「等々力駅」もしくは「尾山台駅」。「東横商業女学校」として1939年に創立され、戦後、「東横学園中学校高等学校」と改称。2009年系列の武蔵工業大学が東京都市大学と改称されるに伴い、校名を「東京都市大学等々力」と変更。2010年に共学部を新設し、16年に女子部を廃止。17年からは完全な共学校となっている。

(中学受験専門塾スタジオキャンパス代表 矢野 耕平 撮影=矢野耕平)

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