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北朝鮮が崩壊すると中国の脅威が増すワケ

プレジデントオンライン / 2018年2月16日 9時15分

現状打開の道は、事実上北朝鮮の体制転換以外にない。だがその変動は、日本の地政学的地位に構造的変化をもたらすかもしれない。北朝鮮の長距離ミサイル「火星15号」を視察する金正恩党委員長(写真中央、写真=KCNA/UPI/アフロ)

これから北朝鮮はどうなるか。現実的なシナリオは、中国、ロシア、韓国、日本、アメリカの5カ国による「国際共同管理体制」での体制転換だ。そしてその主役は中国となる可能性が高い。東京外国語大学の篠田英朗教授は「もしそうなれば朝鮮半島での中国の影響が強まり、日本の地政学リスクは高まる」という。日本はどうすべきなのか――。(第3回)

■国際社会が北朝鮮に譲歩する機運は過ぎた

北東アジアに位置する日本にとっては、北朝鮮問題が大きな関心事項であることは間違いない。2015年に安保法制が議論されていたときには、意外にも、朝鮮半島との関連性はあまり論じられなかった。しかし2017年には、日本にとって集団的自衛権の問題を含む最大の安全保障上の課題が、朝鮮半島情勢にあることが明らかになった。

国際情勢は、政治指導者層の判断や思い込みによって、大きく結果が変わるところがある。金正恩・朝鮮労働党委員長の気分の変化一つで、戦争は起こったり、起こらなかったりする。金正恩氏の考えで、北朝鮮が核開発を放棄するのであれば、それは誰もが歓迎する。しかしそれを引き出すために、国際社会の側が何らかの譲歩をするような機運は、過ぎ去っている。現状では、信頼醸成の基盤がない。

金正恩体制は、国内的には、一切譲歩をしていないという姿勢を維持しなければならない。それでも実態として、北朝鮮に核開発を放棄させるとすれば、かなりの困難を伴う交渉になる。

■今後ありうる3つのシナリオ

今後の展開には、大きく分けて、3つのシナリオがある。現状維持、クーデター、武力行使である。

北朝鮮との間に新たな核抑止の均衡を作るべきだなどといった議論もあるが、それは基本的に、現在すでに発生していることである。2018年年頭に、金委員長とトランプ大統領が、双方が持っている核兵器のボタンについて威嚇しあったのは、そのことを示している。両国の戦力的な格差が埋まることがありえない一方、北朝鮮が核保有国であること自体は一つの事実だ。双方の威嚇と開発は、誰にも止めることができない。

現状維持の方向の中で、韓国や日本の核武装なども論じられるが、それは両国がアメリカに見捨てられる可能性に備えるかどうかという論点の問題であり、状況の解決につながる論点ではない。

おそらく平和的な現状打開の可能性が、北朝鮮の体制転換でしかないことは、誰もが知っている。最も「平和的」なのは内部からのクーデターだが、政策的な計算の対象になるほどの高い可能性はない。

北朝鮮との国境付近では、中国の人民解放軍が不測の事態に備えている。アメリカの精密誘導兵器による北朝鮮の攻撃能力の迅速な破壊が、あるいは特殊部隊を擁した斬首作戦との組み合わせをオプションとして進められるというのが、起こりうる武力行使の方向性である。

なお日本の「専守防衛」政策論と、国際法上の自衛権行使要件とは、異なる。武力行使の国際法上の合法性は争われるだろうが、少なくとも2003年のイラク戦争のときほどには問題にならないだろう。北朝鮮政府は、いくつかの公式声明ですでに武力による威嚇を行っている。度重なるミサイル実験を「攻撃の意図」を示すものと解釈する余地が発生してしまっている。

政治的に言えば、体制転換と武力行使は、連続した一つの政策になる。武力行使を回避した政権転換が望ましいが、早期の政権転換につながる武力行使も一つの可能性になる。

■「戦後処理」に大きく関与する中国とロシア

複雑なのは、北朝鮮の体制転換が、現実的に可能な地域の安定を伴って進められるものか否か、という問いである。

最も大きな役割を果たすのは中国だ。北朝鮮は伝統的に中国の影響下にある。北朝鮮国内の人脈も持つ。増大する国力を背景にして、中国は、自国の影響圏の確保または回復に努めるだろう。逆に言えば、中国の影響力をそぎ落とすような形での「戦後処理」の方法は、ありえない。

ロシアは周辺国の中で、最も良好な関係を北朝鮮との間で維持している。金正恩氏の亡命受け入れ先になっているといううわさすらある。戦後処理への関与は絶対である。場合によっては、かなり大きな役割が求められる可能性がある。

長期的には半島統一が目指されるとしても、韓国は負担が大きすぎる早期の統一を望まないだろう。したがって、中国、ロシア、韓国、日本の周辺4国に、アメリカを加えた5カ国が主導する(事実上の)国際共同管理体制が導入されることになる。もっとも実際の形式や名称には、さまざまな可能性がありうるだろう。国連平和維持活動(PKO)も一つのオプションだろうし、上記5カ国が満足する影響力行使の仕組みが確保されたうえで、安全保障理事会を通じて他の常任理事国なども関与に関心を示したなら、それは有力なオプションになる。

■中国中心の「国際平和活動」に日本は入り込めるのか

日本は近隣の有力国として、巨額の財政負担を求められる。さぼっていれば、20世紀前半の韓国併合の負の遺産などを問われ、泥沼の歴史論争が始まるだろう。ただし、口を出せずにただ財政負担を求められるだけ、というのは、日本にとってむしろ「最悪のケース」と考えるべきだ。

私は、仮に朝鮮半島情勢が不穏であっても、南スーダンなどの国連PKOに人員を提供し続け、組織的ネットワーク維持や人材育成に努め続けるべきだ、と主張してきた。現実はむしろその逆になっていることは、第1回の冒頭でふれたとおりだ。

中国の存在感は、日本とは真逆である。朝鮮半島における国連PKOやその他の国際平和活動が、アメリカと中国(およびロシア)の主導で進められることは間違いないが、人員の提供という意味では中国が圧倒的な存在感を見せるだろう。歴史上かつてないほど、中国の影響力が絶大な国際平和活動が展開されることになる。日本がそこに入り込めるかどうかは、アメリカを通じた政治的作業だけが生命線になる。

19世紀後半以降、日本は朝鮮半島への関与を、地政学的観点から死活的利益の対象だとみなしてきた。近い将来、日本に何の準備もないまま、朝鮮半島に大きな政治的変動が起きた際には、日本の地政学的地位の構造的な変化が決定的になる事態が発生する可能性がある。

結局、日本は、新しい現実に適応する柔軟性を見せなければならない。国益の確保を目指し、国際的活動に参加しながら、地域の安定を最優先で考えた行動をとっていくことが求められる。

憲法改正によって日本が果たすべきこと

2018年の国政では、憲法改正が大きな争点になるという。まずは憲法論争で不毛な議論を続け、国力を疲弊させることがないように、将来にわたって安定的な解釈を確定させることが重要だ。

私個人は、国際法と調和した憲法の運用を通じて、国際法と合致した武力行使や軍隊の管理ができるようになれば、最も望ましいと考えている。実は、ほんとうの日本国憲法典が予定しているのは、国際法と調和した国内制度の運用だ。

しかしいずれにせよ、憲法論争のための憲法論争を延々と繰り返すのは、そろそろ終わりにしたい。そのような行為を通じて、日本が自らの存在感を減らしていくのは、日本がかつてのような「ならず者国家」ではないことだけをアピールするのが目的であれば、意味があるかもしれない。国力が上昇している限りは、そういう無駄を持つことも必要だったかもしれない。だが現在は、そのような時代ではない。

国際情勢を厳しく見つめ、自国の国益を確保しながら、国際秩序の安定化のために自国がどんな役割を果たせるかを考えていくのでなければ、待ち受けるのは衰退の可能性だけだ。国際貢献を通じて、国際秩序と自国の国益追求をどのように調和させていくのか。日本がその問いに明快な答えを出すことが、東アジア地域や国際社会の安定と日本の未来につながる。

過去数十年にわたり、多くの日本人は、(見えないところで日米安保体制を確保しつつ)憲法9条を保持すること、そして世界2位の経済大国として途上国を援助することが、国際貢献になると考えてきた。それは「第2次世界大戦の記憶に訴えて何もしないことこそが日本の巨大な国際貢献である」、あるいは「国際経済を安定化させ、政府開発援助でも貢献することが日本の役割である」といった主張として強調されてきた。

そうした姿勢が無効になったわけではないだろう。だが、人口減少時代の継続的な国力低下によって、同じやり方だけでは効果が減少し続けるだけであることもまた、明白になっている。高い技術や丁寧な仕事ぶりなどの日本人が持つ美徳もあるが、いずれも相対的な要素であり、どの程度まで、どれくらいの間、効果があるのかは、不透明である。

よりいっそう戦略的に、国際社会の中で、自国を冷静に位置づける分析的視点が必須だ。そのうえで、現実的な国際貢献を着実に果たしていくことによって、日本が国際社会の重要なメンバーであることを強調していきたいものである。

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篠田英朗(しのだ・ひであき)
東京外国語大学教授 1968年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大学大学院政治学研究科修士課程修了、ロンドン大学(LSE)大学院にて国際関係学Ph.D取得。専門は国際関係論、平和構築学。著書に『国際紛争を読み解く五つの視座 現代世界の「戦争の構造」』(講談社選書メチエ)、『集団的自衛権の思想史――憲法九条と日米安保」(風行社)、『ほんとうの憲法 ―戦後日本憲法学批判』(ちくま新書)など。

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(東京外国語大学教授 篠田 英朗 写真=KCNA/UPI/アフロ)

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