日本を滅ぼす"ブロガー議員"に伝えたい事
プレジデントオンライン / 2018年2月21日 9時15分
■すべてブログに書けば、政策実現は遠のくだけ
昨秋のことでした。民間放送連盟の報道研修会に、音喜多駿都議と私が講師として招かれました。研修会のテーマは、小池百合子東京都知事が当選した都知事選から昨年の都議会議員選挙、衆議院総選挙までの流れをどう見るか、というものでした。
この場において、ある記者が音喜多都議に対し「日々ブログを書かれ発信されていることは素晴らしい。私たちはそのブログをもとに取材ができるのだから」といった趣旨の発言をされたのですが、私はその場で反対意見を申し上げました。
私も日々の政治活動についてブログに書いています。しかし、私は水面下で作業を進めていることについて書かないと決めています。これは議員活動の情報公開を否定しているのではありません。単純に、表に出せるタイミングまで待っているだけのことです。メディアの世界では、一番先に事実を公にした人が褒められるのでしょうが、物事を円滑に進めようとする立場になれば、そんなことはできません。
大きなプロジェクトであればあるほど水面下での交渉は難航するものです。裏を返せば本質的な提言は日々のブログには記しづらいものです。私にとっての政策とは「大事に蒔いた種に丁寧に水を撒いて開花させる」ことなのです。
音喜多氏は見たり聞いたりしたことをすべて公開しているように見受けられます。それでは周囲の信頼を失うだけで、政治家の本分である政策実現は遠のくだけです。
■東京五輪を「夏から秋」に変更する案があった
これは今だから言える話ですが、舛添要一前都知事は、東京の猛暑対策として「2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催を夏から秋へ変更する」という計画を秘密裡に進めていました。猛暑でのオリンピック・パラリンピック開催は、選手にとっても、運営する立場にとっても、観客にとっても過酷なものです。私も舛添氏からこの計画を「舛添おろし」が始まる直前の16年4月に偶然にもお聞きし、これは面白い事だ、ぜひとも秋開催の可能性を探っていただきたいと思いました。
しかし、世間には知れ渡らないまま実現に向けて動いている段階でその舛添降ろしが始まってしまったのです。水面下でプロジェクトを進めていることを知っている私は、メディアに同調して舛添批判をすることもできず、苦しい立場でした。責任ある行政の推進と舛添氏の個人的な問題は分けて考えるべきだったと今でも信じています。
当時、この計画を私がブログで発信すれば「舛添憎し」で凝り固まるメディアの反発により、夢の構想はさらに後退してしまったでしょう。もしくは、根回しも済んでいない状態であれば多くの関係者が舛添氏のスタンドプレーだと批判したでしょう。結局、舛添氏は辞任しましたが、後任の小池百合子知事は「都議会自民党憎し」で都政を推進したため、東京五輪の秋開催はなくなりました。それどころか、選手村から新国立競技場をつなぐ道路として期待されていた環状2号線の開通も、五輪後となってしまったのは残念な事です。
■議員の仕事は議場での質疑が中心になるべき
ブログは都政の情報を発信するうえで、有益なツールだと思います。議員はブログでの情報発信を積極的に行うべきです。ただし、私は、議員の仕事は議場での質疑が中心になるべきだと考えています。
私の場合、朝起きてから力尽きて眠るまで、大小さまざまな会合や行事に出席し、その合間に政策研究や取材活動、議会での質問作成を行い、その他の活動があった上で、さらに時間ができればブログを書くといった具合です。昨年は専門である五輪関係や市場移転問題において、都議会で最も質疑時間を重ねた議員と自負しています。このため、その結果について、ブログなどでの発信も怠らないようにと心がけています。
音喜多氏について大変残念だと思うのは、ブログで大量発信するわりに、議会や委員会での発言が明らかに少なく、内容も五輪関係や市場移転問題について総合的な視点の不足が疑われるような発言が見受けられました。
実は、昨年までの私たちや都政記者たちも、音喜多氏の登壇時には「何かやってくれるのではないだろうか」というある種の期待感をいだいていました。ところが、彼が議会で繰り返すのは根拠薄弱な臆測による質問ばかりでした。
■「土壌汚染Xデー」という言葉は何だったのか
たとえば百条委員会では彼が持ち出した「土壌汚染Xデー」という言葉がメディアを騒がせました。音喜多都議の主張によると、「Xデー」とは都の環境確保条例よりも厳しい国の土壌汚染対策法が適用される日です。かつて都は、豊洲市場建設に向け、土地の所有者だった東京ガスとの交渉を行っていました。その際、規制が厳しくなれば、土地価格は下落します。音喜多都議は、「Xデー」と書かれたメモを根拠に、都が価格下落を材料に東京ガスを脅していたのではないかと質問したのです。
ところが事実は逆でした。「Xデー」という言葉は、東京ガスの社内用語で、法の制定に先んじて、自らの土壌対策を発表する日でした。音喜多都議の質問に対し、福永正通元副知事は「全く事実を承知しておりません」と答えましたが、当然のことです。
メディアが飛びつきそうな話題をつくることは天才的にうまいのですが、それが現実の行政を動かすようなものにつながっておらず、ただの時間のムダ遣いになっています。むしろ、音喜多氏が提起した問題でメディアが動いた結果、都民の目が本質的な問題からそらされているという印象すらあります。これが東京の発展を阻止した一面がある事を強調しておきます。
たしかにブログを更新していれば都議としてはひときわ目立ち、人気も得られるのかもしれません。しかし彼に政治家として政策を実現する能力が本当にあるのかは甚だ疑問です。音喜多氏は、小池知事の側近として、何の中身もなくスタンドプレーと他人の批判だけに終始した政治家がどのよう顛末を送るかは見てきたはずですから、早く目を覚ましてほしいと思います。
ただ彼の発信力は誰にもない武器です。だからこそ、都議会自民党の政策について、ご自身や小池知事が批判してきたことは正解だったのか。ぜひとも彼のブログで検証していただきたいと思います。
■記者は「ブログ頼み」の取材から脱却すべき
さて、話は民放連研修会での一場面に戻ります。前述の場で記者のみなさんには、たまたま目にしたブログのストーリーに基づいて取材するのではなく、日々行われている水面下での交渉をスクープしていただきたいと要望いたしました。
私はテレビ朝日に勤務していたとき、先輩たちから「独自の取材ネットワークを構築せよ。他社の報道を焼き直ししたようなネタは要らない」と繰り返し指導されました。知られざる情報をスクープすることは報道機関の責務であり、非常に重要なことだと思います。
都政の今後を左右するような大事な情報は、ブログには載りません。一方的なストーリーは、ある面では正しいようにみえても、多面的に考察すると印象操作であることがほとんどです。健全に真正面から権力をチェックする記者が増えれば、政治家の質は高まり、結果として日本は良くなっていくものと確信しています。
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東京都議会議員(自由民主党、墨田区選出)
1980年生まれ。墨田区立両国小中、都立両国高、日本大学を経てテレビ朝日にアナウンサーとして入社。スポーツ番組などを担当。2011年、テレビ朝日を退社し、2013年都議選で初当選。
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(東京都議会議員 川松 真一朗 写真=時事通信フォト)
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