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中国人がコース3万円を"安い"と喜ぶワケ

プレジデントオンライン / 2018年3月2日 9時15分

写真=iStock.com/jaraku

「プチ富裕層」と呼ばれる中国人が相次いで日本を訪れている。目的のひとつは「コース3万円」という高級店でのディナーだ。彼らは「安くてうまい」といって喜ぶという。どういうことなのか。『中国人富裕層はなぜ「日本の老舗」が好きなのか』(プレジデント社)の著者で、中国事情に詳しいジャーナリストの中島恵氏が、中国で日本のライフスタイルや旅行に特化した雑誌『行楽』を発行している行楽ジャパン社長の袁静氏に聞いた――。(前編、全2回)

■中国の海外旅行者数約1億2200万人で世界一

――中国人観光客の中でも、個人客が急増中で、2015年には団体客を追い抜きましたね。日本では個人、団体と分けて受け止める人は少なく、すべて「中国人客」とひとくくりにしてしまう傾向がありますが、それぞれ取得できるビザも違いますし、中国にはさまざまな人がいます。どうお考えになりますか。

その通りですね。16年は個人客6.5割、団体客が3.5割というのが全国平均ですが、北京や上海などの大都会に限定すれば、個人客が8割を超えています。観光バスから降りてくるのは団体客です。

中国人の海外旅行者数は世界一で、16年の出国者数は約1億2200万人。人口が14億人もいるので、単純計算で全体の8.7%に過ぎません。その中で個人旅行ができる人はまだ一握り、社会的にかなり上層にいる人々なのです。

――袁さんはご著書『日本人は知らない中国セレブ消費』の中で、日本がインバウンド・ビジネスのターゲットとすべきは、ミドルクラスから少し上の人たちで、「プチ富裕層」と名づけていらっしゃいますね。

はい。ご存じのように、中国は日本では考えられないほどの格差社会です。ミドルクラスより少し上というと、日本では「中間層」と呼ぶことが多いですが、それは、日本では上中下で分けたとき、ボリューム層が圧倒的に多いから。でも、中国ではまだ下が大多数です。先ほど述べたように、上位1割(8.7%)に入っているのに中間層というのは、中国の感覚的にはちょっと違うかなと思ったのです。

しかし、富裕層という言葉には厳密な定義がなく、とてつもない大富豪も含まれてしまうかもしれない。そこで、「プチ富裕層」という言葉を考えつきました。世帯年収が2000万円をこえると、さすがに富裕層と呼ばざるを得ないですが、500~2000万円くらいの人をプチ富裕層とイメージしています。これから、日本がインバウンドのターゲットとしていくのは、このような人々かな、と。

■東京でも星空がよく見えることに中国人は驚く

――なるほど。実は、私は拙著『中国人富裕層はなぜ「日本の老舗」が好きなのか』の中で、まさにその富裕層という言葉を使ってしまった(笑)のですが、私がイメージしていたのもまさに袁さんとほぼ同じで、中国の中間から少し上の層。経済的に豊かになってきて、情報感度が高く、洗練されてきた人々のことを指しています。

日本では、マスコミの影響からか、中国人のお金持ち=「成り金」だと極端にイメージしてしまう人もいるかと思いますが、そういう人々は、たとえ個人旅行であっても「日本の老舗」にはあまり興味を示さないでしょう? ホンモノ志向で、文化や伝統を大事にする、新鮮な感覚の持ち主が増えてきているんですよ、ということがいいたかったのです。

それで、本の帯は「ディズニーランドより加賀屋や根津美術館、唐招提寺に惹かれる理由」とつけました。プチ富裕層の方々は地方のシブいところやマニアックなところにも出かけていますし、私が知らない地名を中国人から聞かれてビックリ、ということもよくあります。日本人にとってごく普通のことに感動してくださるので、驚くと同時に、日本人としてありがたく、うれしくなってしまうのです。

私が中国で発行している雑誌『行楽』のターゲットも、日本を個人旅行するプチ富裕層たちです。彼らの価値観や行動パターンは、おそらく日本の一般の方々がイメージしている中国人観光客の姿とは、大きくかけ離れているのではないかと思います。

――日本のメディアで取り上げられるのは、団体客ばかりですからね。

「深度游(シェンドゥヨウ)」という中国語があります。深みのある旅行という意味です。ゴールデンルートの数日間、駆け足で回るような表層的な旅は嫌だ、日本の社会や文化を掘り下げて知りたいと彼らは思っているのですね。

――そもそも、中国人がどうしてこんなにも日本にやってくるのか、ということとも大きく関係があるように感じますが。

中国ではどんなにお金を出しても買えないものが、日本には「フツーにあるから」という点が重要なポイントだと思います。

中国の一部の都市ではPM2.5など公害が問題になっていますが、そんな街から日本にやってくると、空気のよさは感激ものです。これは飛行機に乗っているときから明らかで、窓の外の景色が違うのです。地上の風景があまりにクリアに見える。日本人は知らないでしょうが、実は着陸前から撮影大会は始まっているんです。

東京でも星空がよく見えることに中国人は驚きます。東京や大阪では空を見上げる余裕もないでしょうが、地方の温泉に出かけたときなど、露天風呂で自然と空を見上げるんですよ。また、広州など、中国の南方では雪が降りません。だから、雪を見るだけでも感激します。

■日本を体験するだけで、中国人には癒やしになる

――私も3年前、北海道に爆買いの取材に行ったとき、観光関係者の方から、「中国の方は雪合戦をして、雪景色を見て、ソリに乗っているだけで十分喜んでくれる」というお話を聞いて、目からウロコが落ちました。インバウンドの盲点ではないかと。ほかに、美しい田んぼの稲を見て感激したという人もいました。「なぜ、日本の畝(うね)はあんなにまっすぐで曲がっていないのか? 日本人は本当にきちょうめんだ」と(笑)。えぇ~、そんなところに感動してくれるの? と思いましたね。

よくわかります。日本人にとっては当たり前の風景でも、中国にはないものが日本にはあるんですよね。そのままの日本を体験するだけで、彼らには癒やしになる。日本のインバウンド関係者と話していて、意外と見落とされているポイントではないかと思います。

――同感です。ところで、ご著書には、日本の食べ物に関する記述もたくさんあって興味深いです。たとえば、訪日中国人が「日本のミシュランは安い!」と感じているというところ。ミシュランで星がつくような高級店は、上海より断然安くてお得だと……。

たとえば、上海ラトリエ・ドゥ・ジョエル・ロブション。ラトリエはロブションのカジュアル版ですが、日本では1万円以内でコース料理が食べられます。ところが、上海ではサービス料などを入れると1人2000元(約3万4000円)は確実にかかってしまいます。また、上海ではミシュランで星のつく日本料理店はありませんが、高級店で2万5000~4万円はします。しかも、ネタの新鮮さは日本のほうがはるかに上。日本では、ミシュラン3つ星の日本料理店でも3万円程度で食べられますから、クオリティの差まで含めると、プチ富裕層には安く感じられるのです。

――この話は日本人にとって驚きだと思います。

そうですね。中国に日本から食材を空輸すれば、値段は跳ね上がりますが、日本産食材の安全性と新鮮さにお金を払うわけです。日本に来れば、空輸よりも新鮮な食材がいただけるのですから、お得感はさらに増します。

中国に大衆点評という、日本の「食べログ」のような、非常に有名なクチコミグルメサイトがあります。これを見ていると、客単価2~3万円もするお店に、レビューが100件以上も書き込まれています。その背景には、メンツを重視する中国人の性格があります。「私はこんな高級店に行ける人間なのだ」とSNSで自慢したい、という気持ちがあります。

――私も以前、大衆点評の担当者にインタビューしたことがあるのですが、そのとき「まだ中国で知られていない日本のレストランを自分が最初にクチコミした人になりたい、という欲求もある」という話を聞いてビックリしました。日本旅行中に大衆点評に投稿している人も多く、それを見た別の中国人旅行客が、またそこに訪れるという相乗効果もあると。中国のSNSのすさまじいパワーを感じましたね。

(後編に続く)

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袁静(えん・せい)
行楽ジャパン社長
中国上海市生まれ。北京第二外国語大学卒業。日本に留学後、日本の出版社に勤務。上海に帰国し、中国の富裕層向けに日本の魅力を伝える雑誌『行楽』を創刊。現在は上海と東京にオフィスを構え、中国での日本の観光PR分野で活躍している。

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(フリージャーナリスト 中島 恵 写真=iStock.com)

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