中国のインド洋進出を見過ごしていいのか
プレジデントオンライン / 2018年3月5日 9時15分
■モルディブの政治危機に日本人が注目すべき理由
インド洋の島国モルディブで政治危機が起きている。政府と野党側の対立が深まり、非常事態宣言が出された。その背景には中国の政治干渉があるとみられ、事態が緊迫している。
外務省などによると、2月1日、最高裁が野党のナシード元大統領(英国亡命中)を含む政治犯9人を無罪として、釈放などを命じた。だがヤーミン大統領はこの命令を無視。野党側は反発して抗議デモを行ったが、大統領は非常事態宣言を出し、最高裁判事2人を逮捕した。こうした事態を受け、ナシード氏はインドに、大統領は中国に支援を求め、対立が深まっている。
政府が裁判所の命令を無視する。日本では考えられない事態である。三権分立の欠如どころか、これでは北朝鮮に引けを取らない独裁国家だ。とても民主主義国家とはいない。
■「楽園」は独裁国家に逆戻りしかねない
2月18日付の日本経済新聞は、この問題を社説のテーマに選び、「心配なモルディブの政治危機」という見出しを付けていた。その3日後、今度は読売新聞が「中国の『干渉』に警戒が必要だ」との見出しで社説(2月21日付)のテーマに選んできた。
モルディブという島国の内政問題を新聞社が社説のテーマに選ぶのは異例のことだ。その背景には中国の海洋進出に対する警戒心がある。中東から多くの石油を運んでいる日本にとって、モルディブは海上輸送路にある重要な国だ。中国が進出してくれば、安全保障を脅かされかねない。
日経社説は「大統領は野党政治家の拘束や国会の封鎖にも踏み切った。2008年に初の民主的な選挙を実施してから10年。『楽園』とも称される高級リゾートの国は独裁に逆戻りしかねない情勢だ」と書き、次のように主張する。
「米欧諸国や国連の高官から懸念や失望の声があがっているのは当然だろう。年内には大統領選も予定されている。ヤミーン大統領は強権的な姿勢を改めるべきだ」
その通りである。南の小さな国であろうと、いまの時代に強権政治などもっての外である。
■大統領は中国、野党はインドを頼っているが……
なぜ大統領の強権がまかり通っているのだろうか。この点について日経社説はこう解説する。
「モルディブは伝統的に対印関係を最重視してきたが、13年に就任した大統領は対中傾斜を鮮明にしてきた。『一帯一路』構想への参加で中国と覚書を交わし、17年12月には中国と自由貿易協定(FTA)を締結した」
「こうした動きにインドは神経をとがらせてきた。ヤミーン政権下で投獄され現在は海外に亡命中のナシード元大統領は、軍をバックにした特使の派遣をインドに求める声明を出した」
「対して大統領は中国とサウジアラビア、パキスタンに特使を派遣し理解を訴えた。中国は外部からの干渉への反対を繰り返し表明しインドをけん制している」
背景にインドと中国の国家利益が絡んだ問題が横たわっているのだ。中国がインド洋に進出するための足場にモルディブを利用しようとしているわけだ。このままだと、国際的な大問題へと発展しかねない。
最後に日経社説はこう主張する。
「日本はながくモルディブに対する最大の援助国となってきた。『自由で開かれたインド太平洋戦略』をかかげる安倍晋三政権は、危機の打開へ知恵を絞るべきだ」
まさに日本の外交の腕の見せどころなのである。
■国連や欧米諸国がモルディブに懸念を表明
読売社説も冒頭部分からこう主張している。
「(モルディブは)海上交通の要衝であり、中国が影響力を拡大させていることから、日本を含む関係国は警戒が必要だ」
さらにモルディブの不安定な情勢についてこう指摘していく。
「混乱が長引けば、地域の安定が損なわれる恐れがある。国連や欧米諸国が、ヤミーン氏への懸念を表明したのは当然だ」
「注意を要するのは、インド洋での影響力を巡る中国とインドのせめぎ合いが、モルディブ情勢にも波及していることだ」
■「真珠の首飾り」という中国の海洋進出を警戒せよ
読売社説は中国の海洋戦略について、「中国は、インド洋の沿岸国との協力を深める『真珠の首飾り』と呼ばれる海洋戦略を取る」としたうえで、「港湾などの権益を軍事面で活用し、中国軍の外洋展開を促進する思惑があるのだろう」と危険性を指摘する。
実際、中国は軍事基地に転用できる港湾開発をサンゴ礁に囲まれた南シナ海の島々で行っていることが次々と発覚し、大きな国際問題になった。
それだけではなく、中国はインド洋をも“占領”しようと企んでいるのである。
日本をはじめとする国際社会はこれを許してはならない。東アジアの国々が協力して中国の「真珠の首飾り」を破壊する必要がある。
■中国の狙いを国際協力で打ち破れ
インド洋に浮かぶモルディブは世界の海上輸送路の要であり、日本にとっても中東から石油を運ぶうえで欠かせない存在だ。それゆえ日本はモルディブに対し、援助を続けてきたのである。
外務省の「平成29年度開発協力重点方針」の「基本的考え方」の項目は次のように述べている。
「国際協調主義に基づく『積極的平和主義』の立場から、国際社会の平和と安定及び繁栄の確保により一層積極的に貢献すべく、『自由で開かれたインド太平洋戦略』を始めとする我が国の外交政策の推進に向け戦略的かつ効果的な開発協力を実施していく」
簡単にいえば「自由で開かれたインド太平洋戦略」は、日本外交の大きな柱なのである。そしてモルディブはその柱を支える要所なのだ。
インド洋に中国が進出し、南シナ海の南沙諸島のように軍事利用できる人工島を次々と建設されたのではたまったものではない。
中国は虎視眈々と狙っている。それを国際協力によって打破してくことが何よりも大切なのである。
■スター・ウォーズの帝国軍のような中国の動き
読売社説は後半で「インドは、こうした動きに神経をとがらせる。モディ首相はトランプ米大統領とモルディブ情勢を巡って電話会談し、『法の支配』の尊重で一致した。中国をけん制する狙いは明白だ」と指摘し、中国とインドにこう求める。
「中国は『内政不干渉』を唱え、インドの介入を警戒する。中印両国は緊張を高めぬよう慎重な対応が求められる」
その通りで、ここは独立した国同士、大人の対応が必要である。
それにしても中国の海洋進出はひどい。
まるで映画「スター・ウォーズ」に出てくる帝国軍のようだ。帝国軍のダース・ベイダーは、何隻もの艦隊を指揮し、巨大な火器で銀河共和国軍を次々とたたき、宇宙全体を征服しようとたくらむ。あの帝国軍のやり方には、観客のだれもが目を背けたことだろう。
フォース(宇宙の万物を包み込むエネルギー)を得て、ライトセーバーを片手に中国を懲らしめるジェダイの騎士たちは、現れないものだろうか。
■北朝鮮を説得できれば、中国がジェダイの騎士か
話を現実の世界に戻そう。
いまの中国が実行すべきことは、北朝鮮に核・ミサイルの開発をやめさせることである。中国にはそれができる。北朝鮮が中国に頼っているからだ。
中国には日米韓と協力して北朝鮮を真の交渉のテーブルに着かせる義務がある。
北朝鮮がここまで軍事力を持てるようになるには中国の表ルート、裏ルートでの相当な援助があったからである。
ここで中国が北朝鮮を説得できれば、国際社会での評価はグンと上がる。それこそスター・ウォーズのジェダイの騎士になれるかもしれない。
中国は国際社会のために貢献すべきである。自らの利益だけのために海洋進出を図っているときではない。
(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=アフロ)
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