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同族経営が"普通の経営"より好業績なワケ

プレジデントオンライン / 2018年3月31日 11時15分

サントリーHDは社長に創業家以外から新浪剛史氏(写真右)を起用した。(時事通信フォト=写真)

■S&P500企業の約35%はファミリー企業

創業者の家族や親族が株を所有、あるいは経営を担うファミリービジネスは、日本では「同族企業」と呼ばれ、ネガティブに捉えられる傾向があります。しかし、海外では、以前からファミリービジネスの業績の高さが注目されています。例えば、2003年に発表された研究では、アメリカの代表的な株価指数であるS&P500の企業の約35%がファミリー企業であり、ファミリー企業のパフォーマンスが非ファミリー企業よりも優れていることが明らかになっています。

もちろん、すべてのファミリー企業が優れたパフォーマンスを発揮しているわけではありませんが、一般にファミリー企業には、非ファミリー企業と比べていくつかの利点があります。

まず挙げられるのが、所有と経営が一致していることです。「所有と経営の分離」は、近代企業のポイントとされてきました。そうすれば、経営の専門家に経営を任せることができ、複数の投資家から資金を調達することもできます。

しかし、実際には、株主のエージェント(代理人)である経営者は“雇われ経営者”になりやすく、互いの利害が一致しないために、株主の意向に沿わない行動を取るという問題が起こります。これによって発生する損失を「エージェンシーコスト」と言います。それを防ぐために、社外取締役の配置など、コーポレートガバナンスのルールが整備されてきました。

■経営者が株主としてのインセンティブを持っている

それに対してファミリービジネスは、株主であるオーナーが経営者である場合が多く、そうでない場合も株主と経営者が比較的近い関係にあります。そのため、所有と経営の分離から生じるエージェンシーコストを軽減することができます。経営者が株主としてのインセンティブを持っているため、業績に連動して配当や株価の形で報酬が変化します。その点では、ファミリービジネスはコーポレートガバナンスが利きやすいと言えます。

この点において、日本の非ファミリー企業の場合、経営者は株を持っているとしても、その割合が小さいため、企業価値や株価を高めようという意欲も弱くなります。

■老舗に見られる、いい家訓とは

2つ目は、経営者のモチベーションの強さです。創業者のモチベーションが強いのは当然としても、後を継いだ経営者にも、家族によって代々受け継がれてきた事業を、将来にわたり継続させたいという強いモチベーションが働きます。こうした経営者のモチベーションは、企業のパフォーマンスに大きな影響を与えます。

3つ目として、長期的な視点で経営がしやすいという特徴があります。先述の通り、事業の持続性が目的の1つになっていることが多く、経営者としての任期も長くできます。そのため、短期的な利益だけでなく、20年後や30年後を見据えた長期的な投資を可能にします。ファミリービジネスでも上場企業の場合には、ファミリー以外の株主に対する責任が出てきますが、それでも、短期的な利益を犠牲にしてでも長期的な利益を追いやすい傾向があります。一般的な上場企業の場合、経営者の任期が2~3年のケースが少なくありません。さらに、四半期ごとに業績が評価されるため、長期的な視点に立った経営はなかなか難しいでしょう。

4つ目は、特に老舗のファミリー企業に顕著ですが、「家訓」という形で、強いコーポレートカルチャーを持っている点です。そうした企業の価値観が、後の世代の経営者にとって非金銭的なインセンティブになっている面は強く、ガバナンスにおいても重要な役割を果たしているケースがあります。老舗ファミリー企業を調査した結果、家訓がいい経営に結びついていることがわかっています。

■非ファミリー企業のパフォーマンスが低すぎる

ただし、経営環境は常に変化しますから、家訓はそうした変化に柔軟に対応できるものである必要があります。ある老舗のお菓子屋さんの家訓は「おいしい菓子をつくれ」というものでした。このように、自分たちが何によって社会に貢献していくのか、という本質を捉えつつも、具体的な中身については後の世代に委ねるような家訓がいいのかもしれません。

日本のファミリー企業の傾向として、創業者はもちろんですが、子孫の代が経営を受け継いだ後も、日本の非ファミリー企業よりもパフォーマンスがいいことが挙げられます。その理由は、日本のファミリー企業が取り立てていいわけではなく、非ファミリー企業のパフォーマンスが低すぎるためです。両者の差は、ガバナンスの違いにあります。ファミリー企業のガバナンスを強めている、業績に連動した報酬制度や強いコーポレートカルチャーなどは、非ファミリー企業が見習うべき点ではないかと思います。

一方で、ファミリービジネス特有の課題もあります。血縁者が後継者となる場合、必ずしも能力のある人が選抜されるわけではありません。また、ファミリーの利益を優先するといった、ファミリービジネス特有の不祥事が起きやすいのも事実です。後者については、経営の透明性を高めていくことが必要でしょう。海外の研究では、そうした不祥事を防ぐためのルールができている国のほうが、ファミリー企業のパフォーマンスがいいことが実証されています。

■ベンチャーとファミリー企業の共通点

ファミリービジネスのような経営形態は、AI(人工知能)が発達するこれからの時代においても、力を発揮しやすいと考えています。

AIの発達によって、AIに仕事や職業を奪われるという議論がありますが、そんなことはありません。1つの仕事や職業の中で、AIが人間よりも得意な領域の業務のみが、人間からAIに代替されることになります。その結果、例えば、今まで100人で行っていた業務が、10人+AIでできるようになる、といったことが起こります。同じ事業を、より少ない人数でできるようになるということです。

あらゆる面でこのようなことが起こると、企業は大人数の組織である必要はなくなり、少人数でもビジネスを大規模に展開できるようになります。また、急激な環境変化に対応していくには、小回りの利く組織のほうが有利です。トップがリーダーシップを発揮し、迅速な意思決定をしながら組織を引っ張っていくことが求められます。ビジネスの正解を予想することが難しい中で、トップはリスクを取りながら、自らの信念に基づき、トライ&エラーを繰り返しながら柔軟に事業を進めていく時代になるでしょう。

■ファミリー企業は強いリーダーシップを発揮しやすい

社内融和型のトップが多い日本企業の中で、こうしたリーダーシップを比較的発揮しているのがファミリー企業です。強いリーダーシップを発揮しやすいファミリー企業のような組織は、今後ますます重要になるのではないかと思います。ベンチャー企業が成功できるのも、所有と経営が一致しているファミリー企業の特性を持っているからだと言えます。

人を数多く抱えている企業も、今後はファミリー企業のような組織運営を目指すべきでしょう。AIによって100人必要としていた事業が10人でできるようになった場合は、組織を組み替えて、10人ずつの組織を10つくります。そして、各組織にリーダーシップを発揮させて、それぞれの信じる方向にチャレンジさせるのです。このように、大きな組織を小さな組織の集合体にしていくことが、これからの時代に大企業が生き残るためのポイントと言えます。

先行きが見通しにくいこれからの時代こそ、ファミリー企業の持つ可能性に、改めて注目すべきだと思います。

(東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授 柳川 範之 構成=増田忠英 写真=時事通信フォト)

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