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2018中学受験イージーすぎる"出題ミス"

プレジデントオンライン / 2018年3月9日 9時15分

武蔵中学のウェブページに掲載されている「2018年度入学試験『国語』出題に関するお詫びとご報告」。国語の問六(1)の解答欄の不備に関する説明。

入試問題の出題ミスは大学だけに限らない。中学受験塾の代表・松本亘正さんは「名門といわれる私立中学でも出題ミスが起きています。合否にも大きな影響があったはずです」という。どんなミスだったのか。そして受験生はそうしたミスにどう対処すればいいのだろうか――。

■出題ミスによる「受験生全員満点」で損する賢い受験生たち

2017年、京都大学と大阪大学の一般入試で出題ミスがあり、大きな社会問題となった。京大で17人、阪大では30人が、合格していたはずなのに不合格と判定されていたからだ。「再発防止」を誓っていたが、今年の京都大学の入試でも、化学で複数のミスがみつかり、試験中に問題が削除・訂正される騒動が起きた。

実はこうした入試問題のミスは、大学受験だけの話ではない。

2月16日、開成、麻布に並ぶ「御三家」、武蔵中学(東京都練馬区)の梶取弘昌校長は、塾・出版社向けの入試説明・意見交換会の冒頭、入試問題の不備について謝罪した。

「何よりも受験生の皆さんにご迷惑をおかけしたことをお詫びしたい」

今年2月1日に実施された武蔵中の受験では、入試問題の不備により「国語」で2問、「社会」で3問のあわせて5問、受験生全員が満点となった。これは「たった5問のミス」ではない。何が起きたのか。出題ミスの詳細について紹介したい。

▼御三家・武蔵中学のイージーすぎるミス

武蔵中のウェブサイトには、「出題に関するお詫びとご報告」が公開されていて、だれでも内容を確認することができる。

まず2問のミスがあった「国語」について。

「問六(1)」は、出題文の中にあった「退路を断つ」という言葉の意味を所定の段落から13字で抜き出すという問題だった。解答欄は「■■■■■■■■■■■■■(13字の空欄)という考え方を捨てること。」とすべきなのに、「という考え方を捨てること。」いう言葉が抜け落ちていた。ささいなミスに見えるが、空欄だけの解答欄と、文末に言葉が補われている解答欄では、答え方はまったく異なる。

また関連する「問六(2)」も全員正解となった。「(1)の答えのような態度をとると、なぜ人間が進化していくことになると筆者は考えているのですか。」という記述問題で、武蔵中の試験問題で恒例となっている字数制限のない広い解答欄に書くというもの。これを一生懸命書いた子も、何も書かなかった子も一様に同じ得点となる。

武蔵中の国語の試験時間は50分。問題数は漢字・語彙が9問、接続語5問、その他6問の合計20問で、そのうち4問が長い記述問題だった。配点は公開されていないが、記述問題は1問10点以上だろう。子供たちはミスのあった問題についてもかなりの時間をつかって解答を書いたはずだ。とりわけ国語の記述問題を得意とする受験生にとっては、明らかに不利な形となった。一般的に、記述問題は漢字・語彙や接続語といった基本問題や選択問題より受験生の実力差が出るので、このミスの影響力は極めて大きいと思われる。

■「社会」は実力差のでる記述問題6問中3問が全員満点

さらに社会の出題ミスは、より合否に影響を与えるものだった。なぜなら全員正解となった3問とも記述問題だったからである。

出題ミスの内容は、問題文が途中で突然分断されており、意味がまったく通じないというものだった。問題文の作成時に、「コピー&ペースト」をする箇所を間違えたとすら思えてしまう、きわめてお粗末な間違いだった。

武蔵中学のウェブページに掲載されている「2018年度入学試験『社会』出題に関するお詫びとご報告」。出題文の文言が本来入るべき場所ではなく、全く異なる場所に入っていた。

国語と同じく、社会でも、武蔵中は記述式の問題が多い。2018年の入試では、解答欄の長い記述問題は全部で6問あった。受験生は武蔵中に入るために必死に記述問題に挑戦し、書く力を鍛えて受験の日を迎える。しかし、今年は長い記述問題の6問中3問が書いても書かなくても意味のない問題となってしまった。

▼残念ながら出題ミスは「氷山の一角」

武蔵のような名門校がこうしたミスを2科目同時にするとは信じられないが、これは事実だ。そして、この手のミスは残念ながら氷山の一角だといえる。2018年の中学受験では他の学校でも出題ミスが報告されているからだ。

中学入試真っただ中の今年2月3日深夜、午前0時56分。私は一本のメールを受信した。送り主は、私が代表を務める中学受験塾に通う受験生の母親だ。

「生徒は(試験の出題)問題文を持ち帰れませんので、うやむやにされてしまう可能性もあるのかなと思い、連絡させていただきました。塾からならば指摘していただくことはできるのでしょうか?」

メールの内容は前日の2月2日午後に受験した広尾学園中学(東京都港区)の「医進・サイエンス」コースに関することだ。入試を終え帰宅した子供は開口一番、母親にこう訴えたという。

「爪切りを題材にした理科の計算問題で、(計算の前提である説明文の)『作用点』と『力点』の用語が明らかに入れ替わっていたんだ」

■広尾学園中学は「作用点」と「力点」の入れ替わり

子供は困惑した表情で言った。

「必要な力の大きさを数字で答えさせる問題(「この爪切りで爪を切るとき、指で爪切りを押す力の何倍の力で刃がつめを切ることができるか。小数第2位を四捨五入して小数第1位まで答えなさい」)で、最初は(出題された)文に沿って答えを解答欄に書いたけど、(ありえない数字だったので)さすがに違うだろうと思って、(作用点と力点を)読み替えた値である0.1を書いておいた」

合格発表は翌日3日の13時だ。問題に不備があればウェブサイトに公開されそうなものだが、母からのメールには、現時点(3日0時すぎ)ではウェブサイトに問題の不備が掲載されていないことも書かれていた。

また、この入試は問題文が生徒に渡されず、塾関係者にも非公開で、後に発売される入試問題集に載るまで見ることはできない。本当に誤りなら早めに連絡をしておく必要がある。

そこで私は、母親からのメール着信から1時間以内に次のようなメールを広尾学園の広報の先生にメールした。生徒の勘違いの可能性もあるので、文面は慎重なトーンにした。

「本日メールしましたのは、生徒から昨日受験した理科の問題でどうしても納得がいかないところがあるという申し出があったためです。入試問題が回収されるため手元に問題がなく、生徒の指摘について塾として検討させていただければありがたいです」

問題を見せてほしいと要望したが、合格発表までは連絡がなかった。どのようになったのか心配していたが、合格発表と同時にウェブサイトで出題ミスについても発表があった。

広尾学園中学のウェブページに掲載されている「理科の出題ミスについて」。「本来は『作用点』を『力点』とし、『力点』を『作用点』とすべきもの」「問題文中の設定では、つめ切りの図が成り立たず」と説明。
▼生徒の指摘は正しく、勘違いではなかった

生徒が指摘したように、やはり「力点」と「作用点」の位置が逆になっていた。そして、同校の先生からは、次のような丁寧な回答もメールで届いた。

「医進・サイエンス回の入試問題につきましては学内でも不備に気づき、該当問題は全員を正解にする対応を取らせていただきました」

要するに、生徒の指摘は正しく、勘違いではなかったことになる。

私の塾の本部がある東中野の生徒で広尾学園のこの回の入試に挑んだのは5名。そのうち指摘をした彼だけが不合格となり、他の子は4名全員が合格した。もちろん、理科のこの問題によって不合格が決まったとは限らない。

ただ、不合格となった彼は、より難度が高い、都内共学進学校の最高峰とされる渋谷教育学園渋谷中に合格し、進学することになった。他校では特待生にも認定されている。それだけに、この「理科」の出題ミスが、彼の集中力や受験のリズムを微妙に狂わせてしまったとしたら、とても残念なことだと思う。

■立命館、女子学院、筑波大学附属駒場も出題ミス

今年は立命館中学(京都府長岡京市)の「社会」でもミスがあった。青森県の縄文時代の遺跡を選ぶ問題で、正解は「三内丸山遺跡」とするべきところを、「吉野ケ里遺跡」を正解として採点してしまった。合格発表後に問題と解答を受け取った学習塾の指摘で分かったため、3人が追加合格となった。

以上にあげた3校の出題ミスは、すべて単純なものだ。問題の難度や複雑さとは関係がない。つまり大学入試の不備とは異なるイージーミスが起きているのである。

このようなミスは何も今年に限った話ではない。

写真=iStock.com/AH86

2017年、女子御三家のひとつである女子学院(東京都千代田区)では、算数の「大問」の1つで、問題を解くための条件が不足していたため、全員正解となった。合格・入学した私の塾の教え子は「私はあの問題は解いていないし、(最後の大問だったので)入学後、みんな解かなかったと言っている」と話していた。その大問に一生懸命時間を使って解こうと頑張った子は、女子学院に合格できず、入学していないということがあるかもしれない。むやみに難しい問題や悩ましい問題は避けるに限る。

私立中だけではない。

御三家同様に、多くの東京大学合格者を輩出している国立の筑波大学附属駒場中学(東京都世田谷区)も、2013年、国語の文章に不備があって記述問題2問が全員満点になったことがある。「お地蔵さんに笠をかぶせて」とすべきところを、「お爺さんに笠をかぶせて」としていたのである。このケースも、ミスだろうと解釈して一生懸命書いた受験生は報われず、よく分からないから飛ばした受験生に有利に働いた可能性がある。

受験倍率が高い公立中高一貫校の中でも特に人気の都立小石川中等教育学校(東京都文京区)では2012年、新年度が始まって2カ月以上も経過した6月になって追加合格を出したこともあった。5月に大手塾から指摘を受け、学校が想定した解法以外の解法があることが明らかになったのである。追加合格となった生徒は、既に他校に進学していた。

▼ミスを公開して対処していることは評価できる

つまり、大阪大学や京都大学のように、別の学校に進学したのちに合格が分かるという事態は中学受験でも起きているのである。

私は、ここで取り上げた学校の作問能力やチェック能力が低いと言いたいわけではない。チェックは厳密に行っても漏れが起こるものであり、意欲作を出そうとするほどミスが起こりやすくなる。むしろ、ミスを公開して対処していることは評価できる。出題ミスが放置され続けていることもあるのだ。

■なぜ塾は「今後、過去問の重要性が高まる」と考えるか

では、受験生はどのような点に気を付けて試験に臨めばいいのだろうか。私は、受験生に次のように指導している。

(1)「おかしい」「解けない」と思ったら、99%は条件の読み落とし(出題ミスではなく、受験生本人の問題)。特に大問の最初の文章を再度読むこと。

(2)残り1%は出題ミス。ここで悩んでも時間の無駄。得点にならないし、配慮もされない。諦めて、他の問題に取り組むこと。

写真=iStock.com/y-studio

本当は、「粘り強く問題を考え抜いてこそ、光が見えてくる」と指導したい。一生懸命悩みに悩んで解法や答えを思いつくのは、学力の向上につながる。

しかし、私たちは「塾屋」であって、志望校に合格させるのが仕事だ。だから、「出題ミスは全員満点」という可能性がある以上、条件の読み落としがないと思えるところまで見直してもなお解けない問題ならば、諦めましょうというのが受験に合格するために必要な戦い方だと割り切っている。

今後も出題ミスがなくなることはないだろう。そこで、受験生には試験の注意点だけではなく、受験に向けた学習のアドバイスをしておきたい。今後のトレンドとして「過去問の重要性が増す」と考える。一度、出題されてミスがなかった問題は安全かつ安心だ。学校の先生としても出題ミスは絶対に避けたい。そういうリスクは取りにくい中で、自校の過去問を、数字や設定などを微調整した上で再利用するケースは今後も増していくだろう。受験生には、自分が受験する過去問を古い年度までしっかりやりこむことを推奨したい。

(中学受験専門塾ジーニアス代表 松本 亘正 写真=iStock.com)

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