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カシオがスマホ時代に"専用機"を売る理由

プレジデントオンライン / 2018年3月15日 9時15分

カシオ計算機 CES事業部 商品企画部 第二商品企画室室長の大島淳氏

誰もがスマホを使う時代に、「専用機」に勝算はあるのだろうか。カシオ計算機が2017年11月、電子辞書「エクスワード」のブランド名を冠した英会話学習機の新機種を発売した。なぜスマホアプリではなく専用機なのか。なにが狙いなのか。カシオの開発担当者に聞いた――。

■社会人をターゲットに「英会話学習」に特化

今、私たちにもっとも身近な情報ツールといえば「スマートフォン」(スマホ)だ。電話としてはもちろん、メッセージのやりとり、写真の撮影、各種の情報収集まで、ネットサービスやアプリを使えば何でもできる。

だがカシオ計算機は2017年11月、電子辞書「EX-Word(エクスワード)」のブランド名を冠した英会話学習機「EX-Word RISE(エクスワードライズ)」の新機種「XDR-S1」を発売した。エクスワードは電子辞書の国内最大手ブランドであり、学生を中心に根強いニーズがある。今回のエクスワードライズはその派生ブランド。社会人をターゲットに、辞書機能を省き、「英会話学習」に特化させたのがウリだという。

誰もがスマホを使う時代に、あえて「専用機」を発売する理由と勝算はどこにあるのか。英会話学習機や電子辞書の開発を担当するCES事業部 商品企画部 第二商品企画室室長の大島淳氏に聞いた。

■学生向けの電子辞書は現在も堅調

――カシオ計算機では英会話学習機をどのように位置付けているのでしょうか。

【大島氏】英会話学習機は当社の新事業です。学生には電子辞書、社会人は英会話学習機という位置付けでのチャレンジになります。

――電子辞書の次が「英会話学習機」というのは、かなり大胆なチャレンジですね。

【大島氏】当社が「フルコンテンツ型」と呼ばれる本格的な電子辞書に参入したのは1996年で、メーカーとしては最後発でした。先行する他社と戦うには、何か新しい切り口が必要でした。そこで目をつけたのが学生市場です。当時の電子辞書は万人向けで、特定のユーザーが想定されていなかったのです。学校への地道な営業活動を通じて、少しずつ、先生がたの理解を得られるようになり、2003年からは学校推薦の製品というかたちで当社の電子辞書を導入していただけるようになりました。おかげで、最後発ながらシェアを広げることができました。学生向けの電子辞書は現在も堅調で、中高大のいずれの世代でも売り上げは伸びています。

――少子化でも堅調なのですか?

【大島氏】少子化と言われていますが、学習用の紙の辞書がすべて電子辞書に置き換わっているわけではないので、まだ伸び代があると考えています。スマホを持つ子供さんも増えていますが、できることが多すぎますし、使用禁止という学校もあります。教材として広く使われる段階にはありません。学校現場では引き続き、電子辞書が使われ続けると考えています。

■「電子辞書の代わりに何を売ろうか」

――今回の英会話学習機は社会人向けですね。社会人向けの電子辞書は落ち込んでいるのですか?

【大島氏】社会人市場はスマホにどんどん取られています。かつては「社会人が電子辞書を買う」というブームもありましたが、すっかり様変わりしました。そこで、「電子辞書の代わりに何を売ろうか」と考えて、開発したのが、英会話学習機です。電子辞書を手元に置かなくてはいけない社会人は減ったのかも知れませんが、英語を勉強しなくてはならない人は増えているはずだからです。

EX-word RISE XDR-S1

――電子辞書ではなく「英会話学習機」としたポイントは、「調べる」道具から「学ぶ」道具に変化したということですね。

【大島氏】これまでの機種では、もともと電子辞書をベースに開発したこともあって、辞書としても使えるようにコンテンツを残したり、キーボードを搭載したりしていたのですが、新機種のXDR-S1では思い切ってそれらを外しました。そのため、収録コンテンツ数は120から80に減りましたが、中身は中学校の基礎英語からビジネスマンの実践英会話まで網羅し、むしろ充実しています。たとえば、これまでTOEIC600点以上を目標とするコースしかなかった教材に、あらたに500点以上を目指す初級者向けのコースを作っていただいたりもしています。

■ユーザーがコンテンツを自分で集めるより絶対に安い

――多数のコンテンツを盛り込んだスマホアプリとして発売しても好評を得る気がします。なぜ「専用機」にこだわるのですか?

【大島氏】やはり、メーカーだからなんでしょうね。「まずは形で勝負しようや」という思いがある。企画の段階では、スマホアプリでいいのではという意見もありました。しかし、メーカーとして、ハードウェアで差別化しつつ中身の違いも出したい。それが「形にしたい」ということです。当社はハードウェアを自前で開発、製造し、ユーザーのニーズに応えた形が作れる。電子辞書で培ったコンテンツ資産もありますし、いろいろな出版社のコンテンツを組み合わせてプロデュースできる強みは英会話学習機でも発揮できていると思います。

また当社は毎年140万台程度の規模がある電子辞書市場での最大手です。コンテンツの「仕入れ力」には自信があります。今回の新機種は「英会話学習機」ですが、そうした電子辞書から派生しているため、ユーザーがいろいろなコンテンツを自分で集めるより、絶対にお安いですよ。

■スマホと違って「逃げ道を塞ぐ」効果がある

電子辞書は、専用機だからこそ学校で使い続けられている。一方、英会話学習機はどうだろう。カシオ計算機が量販店の販売動向などを調べてみると、スマホなどで英会話学習にチャレンジしたけれど挫折した、という人が、同社の英会話学習機を購入するケースが結構あるのだという。

ユーザー本人の意思の問題だろうが、スマホだと簡単に別のアプリに切り替えられるので、うまく集中できないのかも知れない。それに、スマホで人気のアプリは広告付きで無料とか、有料でも数百円といったものがほとんど。スマホではユーザーが学習にお金をかける習慣がないため、本気になりにくいということも考えられる。

専用機は、ちょっと意志の弱いユーザーの「逃げ道を塞ぐ」効果があるということなのだろう。

TOEICや英検という「資格」は英会話学習の大きな動機になる。エクスワードライズがTOEIC受験をターゲットにしたコンテンツを充実させているのもそこにニーズがあるからだ。だが、それだけでは市場は広がらない。カシオ計算機は今回、エクスワードライズとは別ブランドの「joy study(ジョイスタディ)」の新製品も発売している。こちらは電子辞書の機能はなく、日常英会話のリスニングと発音のトレーニングに特化した製品だ。

joy study JY-S01

日常英会話は、誰もが「上達したら良いな」と考えはするものの、動機の強さに欠ける。カシオ計算機もそこに気付いたのだろう。2016年に、旺文社、毎日新聞と組んで、「英語応対能力検定」という新しい資格をつくっている。これは訪日外国人と接する機会の多いサービス業に必要な英会話能力を問うもので、2017年からウェブサイト上でのリスニング、リーディング、スピーキングの試験を行っている。

学習の動機がないなら、「資格」という動機をつくればいい。スマホ時代に「専用機」を売るには、そこまでする必要があるのだろう。なかなかの策士と言えないだろうか。

(フリーライター 斎藤 幾郎)

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