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月額9800円の洋服借り放題がウケる理由

プレジデントオンライン / 2018年3月26日 9時15分

月額制ファッションレンタル「airCloset(エアークローゼット)」が働く女性を中心に人気を集めている。サービス開始2年で会員数は15万人を突破した。人気のサービスは、一体どのように生まれたのか――。

■アイルランドの高校を選んだ理由

【田原】天沼さんは千葉のご出身ですね。でも高校はアイルランド。ご両親の転勤か何かですか?

【天沼】いえ、父は日本で開業医をしていました。私が海外に興味を持ち始めたのは、父の患者さんにキリスト教の宣教師の方がいて、小学生のころにクリスマスパーティーに招かれてから。日本人にとって年末年始の最大のイベントはお正月ですが、欧米の人たちはむしろクリスマスを大事にしている。そうした違いに気づいて、海外の文化をもっと知りたくなりました。その思いがさらに膨らんだのは、中1の夏休みに参加したヨーロッパでの語学研修。当時の私には衝撃的なシーンを見てしまいまして。

【田原】何を見たんですか?

【天沼】イギリスの電車の中で、男性同士が抱き合っていたのを見たのです。いまと違い、当時の日本ではオープンな場所で抱擁する男性同士のカップルはいませんでした。世界は面白いなと直感的に感じて、親に高校は単身で海外に行かせてくれと頼みました。

【田原】ご両親はすんなりオーケーしてくれたんですか。

【天沼】両親よりも、祖父に反対されました。祖父は海外経験が豊富で賛成してくれると思ったのですが、知っているだけに「危ないからダメだ」と。ならば現地校ではなく、日本の学校の全寮制の海外分校ならどうかと頼み込んで、なんとかオーケーをもらいました。

【田原】その分校がアイルランド?

【天沼】選択肢はいくつかありましたが、英語圏がよかったことと、都市化されていないところのほうが文化を学べるかなと思って、アイルランドを選びました。

■コンサル会社から楽天へ転職した後、起業

【田原】大学はそのままロンドンにいく。日本よりよかった?

【天沼】高校は全寮制だったので、外で文化に触れる機会は少なかったんです。現地で1人暮らしをして生活に溶け込んだときに、自分がどう感じるのかを知りたくてイギリスに移りました。最初の1年はドーバー海峡の近くにいて、あとの3年はロンドン大学で、コンピュータインフォメーションを学びました。コンピュータサイエンスというより、情報をどう取り扱うかといった学問です。

エアークローゼット 社長兼CEO 天沼 聰氏

【田原】大学卒業後の2003年にアビームコンサルティングに入社される。どうしてその会社に?

【天沼】将来、独立してチームで何かやりたいなという思いをずっと持っていました。チームを組んだとき、私は尖ったスペシャリストより、幅広く知見を活かせるジェネラリストになりたかった。広く能力を開発するなら、コンサルティングファームがいいなと。アビームには9年勤めました。前半はITシステムの現場に近いところで経験を積んで、後半は中央省庁や大学、病院といったセクターに向けてシステムや調査のコンサルティングをしていました。

【田原】そして楽天に転職。どうしてですか?

【天沼】アビームで自己成長できた実感はありましたが、起業するにはまだ足りないものが3つあると思っていました。1つ目はグローバルなビジネス経験。将来は世界を舞台に事業をやりたかったのですが、クライアントが中央省庁だと、そうした経験を積みにくい。2つ目は、組織をつくる経験です。それまでやってきた仕事はプロジェクト型で、必ずゴールがあります。そうではなくチームとしての大きな目的に向かって継続的に成長する組織のマネジメントをやってみたかった。

【田原】3つ目は?

【天沼】コンサルティングファームって、上司を含めて全員が同じ“コンサルタント”です。自分で起業したら、チームにはデザイナーやエンジニアなどの幅広い人材が必要になる。多種多様な人たちと一緒に仕事をするなら、事業会社のほうが良いと判断しました。

【田原】楽天では具体的に何を?

【天沼】世界に13あった海外拠点をサポートする組織を立ち上げからやらせてもらいました。たとえばアメリカの子会社の購買率が下がって困っていたとしたら、国内の事例を教えたり、分析官やエンジニアを送り込むといった支援を行います。いわば楽天社内の海外向けコンサルティングファームですね。

■「ファッションレンタル」のアイデアは妻が教えてくれた

【田原】3年後、いよいよ起業する。どうしてファッションレンタルだったのですか?

田原総一朗●1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所入社。東京12チャンネル(現テレビ東京)を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。本連載を収録した『起業家のように考える。』(小社刊)ほか、『日本の戦争』など著書多数。

【天沼】起業にあたって3つのキーワードを決めていました。1つ目は、いまおっしゃったIT。大学からずっとやってきたことなので、最大限に活用しようと思いました。2つ目は、シェアリングエコノミー。シェアは、人と人との信頼関係がなければ成立しない。その概念がすごく好きなんです。そして3つ目は衣食住。ポッと出て流行っては消えていくサービスより、人々の生活に定着してライフスタイルを支援できる事業をしたかった。その条件を満たすものは何かと、コンサルティングファーム時代の仲間2人とディスカッションして、たどりついたのがファッションレンタルでした。

【田原】レンタルできるものはほかにいろいろあります。なぜ洋服?

【天沼】私や共同創業者の奥さんから、洋服と出合う機会がなくなったという話を聞きました。仕事で毎日忙しくて、お店に行く時間もなければ、ファッション誌をめくる時間もないと。子育てが始まると、小さい子どもを抱っこして試着するのは難しいし、そもそも自分の服より先に子どもの服を見に行くようになる。そういった声を聞いて、私たちが洋服を選んでお届けして、自由に試着してもらえるサービスがあれば、もっと洋服に出合っていただけるのではないかと考えました。

【田原】洋服は買うものだというのが常識です。

【天沼】アメリカでは、「レント・ザ・ランウェイ」というドレスのレンタルサービスが09年に始まっていました。レント・ザ・ランウェイは、いまや会員数が800万人を突破。ファッションのシェアがあたりまえの時代になりつつあります。

【田原】買うより借りる時代ですか。

【天沼】誤解していただきたくないのですが、私たちは、「買う」をすべて「借りる」に置き換えるつもりはありません。実際、お届けした洋服が気に入れば、そのまま購入していただくこともできます。ただ、いまは必ずしもみなさんが質の高い出合いをしているわけではない。たとえばインターネットで買ったけれど、サイズがフィットしなかったとか、色みが想像していたのと違うケースもあるはずです。そういう出合いをできるだけなくして、もっと「ワクワクする洋服との出合い体験」をつくっていくことが私たちの目的です。

【田原】エアークローゼットは、いくらで洋服を借りられるのですか。

【天沼】レギュラープランは月額9800円で借り放題。私たちが選んだ洋服を3点、ボックスに入れてお客様の自宅にお届けします。その洋服を好きなだけ楽しんでいただいて、着終わったら返送。また次のボックスをご用意してお届けする流れです。多い方だと月に4~5回はボックスを交換されます。交換は月1回でいいというお客様には、月額6800円のライトプランもあります。

■ファッションもシェアする時代

【田原】箱に入れる3着はどうやって選ぶんですか。ユーザーが何を着たいか、よくわからないですよね。

【天沼】そこが私たちのサービスのキモですね。洋服との出合いをつくるためには、まずお客様のファッションの好みや望む将来像を知る必要があります。そうした情報を分析するため、登録時にさまざまな質問に答えていただきます。たとえばお体やいつも着ている洋服のサイズを登録してもらったり、ファッションスタイルの写真を見せて、その中から好きなものを選んでもらいます。そういったデータのほか、「二の腕を隠したい」などのお悩みのコメントを書いてもらって、一人ひとりのカルテをつくり、それを基にスタイリストが3点を選びます。

【田原】社内にスタイリストが?

【天沼】社内、社外、両方います。社外はクラウドソーシングのスタイリストで、150名以上の登録があります。

【田原】貸す服はどうするんですか。

【天沼】ブランドから仕入れています。現在、ブランド数は300以上。卸からまとめて買うのではなく、ブランド一社一社と直接お話しして買い集めています。

【田原】客の好みは登録時にわかるから、それに合わせて仕入れる?

【天沼】いや、仕入れが先です。予測したお客様数に合わせて事前に仕入れておかないと間に合わないので。

【田原】先に仕入れると、客の好みと合わないハズレも出てきますね。

【天沼】そのリスクを減らすためにターゲットを絞っています。ファッションレンタルというと10代後半から20代の若い層を想起する方が多いですが、私たちのターゲットは忙しい女性たち。年齢層でいうと20代後半から40代で、9割以上が働く女性、4割弱がママさんです。その層はオフィスカジュアルなどコンサバなファッションをお選びいただくことがわかっているので、その中から選べばハズレを少なくできます。

【田原】仕入れた服はどこに置く?

【天沼】株主でもある寺田倉庫に委託して管理しています。バイヤーが買ってきた洋服は、倉庫に入れるときに採寸し直して写真を撮影。それをシステム上でスタイリストが選び、ボックスに入れてお届けします。

【田原】返送された服も倉庫ですか。

■バーゲン品や中古品を仕入れているわけではない

【天沼】日本最大のクリーニング事業者であるホワイト急便も私たちの株主。ホワイト急便には社内に「エアークローゼット室」という部署があって、倉庫に常駐しています。返送された洋服は、検品後、ホワイト急便のクリーニング工場できれいにして、また倉庫で管理されます。

【田原】服はどれくらい持ちますか。

【天沼】家庭で洗濯するよりダメージが少ない洗い方をホワイト急便と一緒に開発しているので、貸し出し回数でいうと、15~20回でしょうか。

【田原】服は流行遅れになるという意味でも寿命があるんじゃないですか。

【天沼】そうですね。まずスタイリストが選ぶかどうか。そしてお客様に着ていただけるかどうか。この2つのフィルターにひっかからなかったアイテムは外して、棄却などをすることになります。

【田原】耐久性にしろファッション性にしろ、無限に貸し出せるものではないとすると、仕入れ価格を抑えないと利益が出ないんじゃないですか。

【天沼】よく「コストを下げるためにバーゲン品や中古品を仕入れているんじゃないか」と誤解されるのですが、品質やファッション性が下がると、スタイリストに選ばれなくなって洋服が無駄になります。まずスタイリストに選んでもらえるアイテムを集めることが、利益を出すうえでも重要な命題になります。

【田原】いま会員数は何人ですか。

【天沼】無料登録も含め登録ユーザーは15万人です。

【田原】会員はどうやって集めたの?

【天沼】序盤はさまざまなメディアで注目されたことが大きかったですね。広告は打っていなかったのですが、普段着に特化して、なおかつ月額制で借り放題という形のレンタルサービスがこれまで日本になかったので、報道メディアでいろいろ取り上げていただけた。おかげでサービス開始の準備期間で2万5000人の登録がありました。

【田原】エアークローゼットが日本初ですか。後発はどうですか?

【天沼】いまは10近くのサービスが出てきています。

■将来はアクセサリー、メンズ、キッズ、シニア向けも

【田原】ユーザーがエアークローゼットを選ぶ理由は何ですか。

【天沼】3着のうち1着は、お客様が普段選ばない「チャレンジ」アイテムをあえて入れています。普段着ない色みの洋服で出勤して、「いつもと雰囲気が違って、かわいいね」と言われたら楽しいじゃないですか。結果的に似合わなくても、それがまた新しい発見になりますから。

【田原】それは面白い。

【天沼】お客様にアンケートを取ると、「お得だった」という声より、「赤いスカートを初めてはいて、ファッションが楽しくなった」「ここで知ったブランドのショップに行きたくなった」といった声が多い。私たちのサービスが、何か新しい行動を起こすきっかけになれば、本当にうれしいですよね。

【田原】将来はどうしましょうか。

【天沼】3つの展開を考えています。まず、いまアパレルに特化していますが、アクセサリーなども含めて出合いを広げていくこと。また、現在はレディースのみですが、メンズ、キッズ、シニア、マタニティなどにラインを広げていくのもいい。そしてもう1つが海外展開。サイズを考えると、展開しやすいのは東南アジアです。スタイリングは海を超えてもできます。東南アジアで日本のスタイリングを受けるといった体験をしてもらいたいと考えています。

【田原】天沼さんは、もともとITの人。AIは使わないんですか。

【天沼】貸し出し後の感想データをAIで分析して、洋服選びの精度を高めています。いまの十数万着というアイテム数ならアナログで選ぶことも可能ですが、100万、1000万と増えたときに同じことをするのは難しくなる。しかし、AIが30セット程に絞り込んで、そこから先のヒラメキのところをスタイリストのセンスで選んでいけば、成長を止めることなくやっていけるはずです。

【田原】最後の感性の部分は人間ですね。頑張ってください。

■天沼さんから田原さんへの質問

Q. 新しいサービス、どうすれば成功しますか

人間は自分が欲しいものを知っているようでいて、じつはよくわかっていません。だからすごいサービスをつくっても、待っているだけでは認知されず、定着もしないでしょう。

ボストンコンサルティングの日本法人の元社長の堀紘一氏は、ドリームインキュベータという会社をつくった。何をする会社かと尋ねたら、「コンサルティングじゃない。ビジネスプロデュース」と言う。企業の悩みを解決するコンサルティングではなく、新しいビジネスを提案して生み出すことを仕事にするというわけです。

お客自身が気づいていないニーズにいかに気づき、提案できるか。新しいサービスの成功は、そこにかかっています。

田原総一朗の遺言:お客が気づいてない提案をせよ

(ジャーナリスト 田原 総一朗、エアークローゼット 社長兼CEO 天沼 聰 構成=村上 敬 撮影=枦木 功)

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