「点滴頼み」のアベノミクスに未来はない
プレジデントオンライン / 2018年4月17日 9時15分
※インタビューは2月27日に行った。取材後、民進党は3月30日の両院議員総会、4月1日の全国幹事会で新党結党の方針を決定。現在、希望の党の元民進党議員を中心に、新党結党に向けて動いている。
■民主主義を重視する勢力と軽視する勢力
【塩田潮】困難な課題を抱える民進党で代表を引き受けたのは、3党連携を進めて政権交代可能な野党の大きな固まりをつくるためということですが、何が一番厚い壁ですか。
【大塚耕平・民進党代表(参議院議員)】政策の中身、党運営の方針も、人によって考え方が違う。皆が自分の考え方が一番正しい、正義はこちらにあると言わんばかりの主張をする。だいたい人間は正義を掲げて戦争をしてきました。戦争とはそういうものです。ばらばらになった野党間で、正義はこちらにあると言い張って協調できない人たちは、私には平和主義者とはとても思えません(笑)。今の政府よりも平和的な国の運営を目指す意欲があるなら、政策や意見の違いをことさら強調したり、過去の選挙のけじめが必要だと言い続けていてはだめです。それでは平和主義者とは言えない。その点を自問自答してほしい。そこが最大の壁です。
【塩田】過去を振り返ると、1998年の新進党解党の後、いろいろな流れがあって最終的に民主党に結集し、一度は政権交代実現に成功しました。新進党と民進党は党名も似ていますが、今度も現在の分裂状態を野党結集の新しい出発点とするには、何よりも失われた国民の期待感と信頼感を再醸成するかが最大のポイントです。それには「旗・人・矢」、つまり第一に理念や政策、第二に人材、第三に政権追及力を磨く必要があると思います。
【大塚】「旗・人・矢」のうち、まず旗は、本来、民主主義とは何かということさえ理解してもらえば、「民主主義を重んじる勢力」と「民主主義を軽んじる勢力」という対立軸の下で、「民主主義を重んじる」という旗が確実に立ちます。人材面では、自分が正義だと主張する自己陶酔、自己満足型でないことが期待されます。まとまっていくことが、人材力を発揮するための重要な鍵です。矢は突破力、攻撃力。これは蓄積されたスキルです。枝野代表は大変な突破力を持つ人で、大いに期待したい。希望の党にも玉木代表を筆頭に、突破力を有する中堅議員がいっぱいいる。大きな与党と対峙するとき、突破力を持った仲間が複数の党にばらばらに分かれていては力が発揮できない。だからこそ、3党連携を働きかけているのです。結束しなければ、一人ひとりの突破力を磨いてもあまり意味がない。
【塩田】大塚代表のリーダーシップと政治的魅力で新しい大きな勢力を産み出していくという道は。
【大塚】そう簡単ではない(笑)。私はこの局面で誕生した不条理の産物みたいなものですから(笑)。ただ、不条理の産物にはそれなりの役割があります。「元祖中間派」といわれてきた私の頭の中は、意外に国民のマジョリティに近いかもしれない。他党も含め、関係者には「元祖中間派」のそうした特性を有効に使ってもらうのがいいのではないかと思います。
■憲法改正は最後に国民投票で国民が決める
【塩田】森友文書改ざん問題がクローズアップされ、安倍内閣の支持率が急落して、安倍政権の今後も「一寸先は闇」の状態となっています。安倍首相は自民党総裁3選、宿願の憲法改正実現というプランを構想していたと思いますが、視界不良となりました。ですが、安倍政権の下で高まった改憲の議論が、これからの野党結集・再編の問題とどう関係するのかという点が気になります。
【大塚】安倍さんは「憲法の理想の姿を掲げる」と言っていますが、代表質問で「理想の姿とは何か」と聞いても、安倍さん自身、深く答えられない。安倍さんの改憲論は、聞いていて、深みが感じられない。だからこそ、安倍さんとしっかり向き合って議論をしていくことが、結果として野党が結束するモメンタムを生み出す。同時に、安倍さんの改憲の動きに対する姿勢を通して、野党としての結束感、野党に対する国民の信頼感を高めるチャンスも存在していると思います。
憲法改正は最後に国民投票で国民が決めることです。結論が自分の考えと一致しなければ改悪と言ったり、一致しない可能性があるなら憲法の議論や改憲の手続きを阻止するといった主張は、国民に対して不遜だと思います。各政党には当然それぞれ主張があっていい。野党が自分たちの主張に賛同してもらえる人を増やせるように懸命に活動するのは当然のことですが、最後は国民が決めるということを忘れてはならないと思います。
大事なのは、むしろ手続論です。国民投票法では「それぞれのテーマごとに」と書いてありますが、代表質問で「逐条で投票するのか」と安倍さんに聞いたが、はっきり答えない。環境権と教育権と第9条を取り上げるとしたら、国民はそれぞれのテーマにそれなりの答えを出すと思います。ところが、これをパッケージにして投票するとなると、対応に窮します。ある意味、主権者の権能をないがしろにする対応です。もし安倍さんが国民投票をパッケージでやるのであれば、これは大問題だと思っています。手続論への対応は、改憲論争において野党が結集する非常に大きなきっかけになり得ます。
憲法についての考え方が自分たちの意見と一致しなければ改悪であると決めつけたり、考え方が完全に一致しない限りは他の野党とは協力しないという対応は、自己満足の政治以外の何物でもない。この部分を野党が正しく理解し、その論理を共有し、手続論で足並みを揃えられれば、改憲論争は野党結束の契機となり、野党に対する国民の信頼も高まると思います。
【塩田】大塚代表は日本銀行出身ですが、黒田東彦総裁は1期5年の任期が満了した今年4月、再任となり、2期目も続投となりました。黒田さんは1期目、安倍首相と二人三脚でアベノミクスの柱である「異次元の金融緩和」を推進してきましたが、ここまでの5年間のアベノミクスの仕上がり具合と、金融緩和の果たしてきた役割をどう見ていますか。
【大塚】経済政策には必ずプラス面とマイナス面があります。株価が上がったことと過度の円高が是正されたことの2点は評価しますが、一方で、実質賃金が上がらず、労働分配率は下がった。生産性の向上に実質賃金の上昇がまったく追いついていない。こうした点は、明らかにアベノミクスの失敗です。
国民生活の向上を目指すことが原点というわれわれの立場からすれば、相対的貧困率の中央値が下がり続け、貧困層が増えている現状は、憂慮すべき事態です。プラスとマイナスを合算すると、ネットではマイナス超であり、安倍政権はマイナス超の経済政策を5年間もやってしまった。その中核である黒田日銀総裁の「異次元の金融緩和」も当然失敗です。
黒田さんは「2年でマネタリーベースを2倍にして物価上昇率を2%にしたら、経済の好循環が生まれ、デフレから脱却する」と豪語していましたが、5年経って、マネタリーベースは4倍にしたのに、直近2年間は、消費者物価指数(CPI)は下がり続け、予想物価上昇率(BI)は低下傾向にあります。「黒田さん、あなたはいったい何をやってきたのですか」と問わざるをえない状況です。黒田総裁による異常な金融緩和を前提として組み立てられたアベノミクスは、過去に前例のない重大な宿題、過大な負債を後世に残しつつあります。
■アベノミクスの副作用が出てくる可能性
【塩田】一方で「異次元の金融政策」をいつどういう手順で終わらせるかという「出口政策」も議論になっています。
【大塚】日銀は大量の国債を購入し、現在400兆円の国債を保有しています。国が全部を償還することは困難です。金融政策の運営上、日銀は保有国債の全部を売却する必要はありません。保有国債の一部は、元本償還の必要のない「永久債」に転換し、元本の返済義務を減らすことが一案です。
以前から多くのことを提案してきましたが、「それは現実的ではない」とか「そんなことは起こり得ない」と言っていたことが全部、現実になっているわけです。永久債も考えざるを得ない局面がくると思います。永久債と言わなくても、永久債と同じ効果を生み出すような手法を工夫せざるを得なくなるでしょう。
【塩田】安倍内閣は来年10月に消費税率を10%に引き上げることにしていて、実施するかどうかの判断を今年の後半に行うと見られています。この問題はどうお考えですか。
【大塚】経済状況がよければ、予定どおりやる必然性はあります。増税に反対ではありません。ですが、アベノミクスの副作用が極端に出始めたら、多分、増税はできなくなります。
来年10月に向けて、アベノミクスの副作用は拡大する可能性があります。安倍さんは今年9月の総裁選と2020年の東京オリンピックをにらんで、とにかく経済重視の政権運営をするでしょう。つまり、景気対策で今よりもたくさん点滴を大量に打ち続けるという形を取るでしょう。消費税は予定どおり引き上げられるかもしれないけど、オリンピック後の経済はかなり懸念が高まっています。
【塩田】日銀マンから、なぜ政治家の道を。
【大塚】いろんな巡り合わせで、2001年の参院選の際、民主党から立候補の誘いを受けました。当時、速水優総裁に仕えていました。私自身、1980年代のバブルの発生から崩壊まで、ずっと金融の最前線で仕事をしていましたので、金融政策の功罪や財政問題が深刻化していることに問題意識がありました。新聞に擁立記事が出てしまい、速水総裁に呼び出された時には怒られると思いましたが、意外にも総裁は「誘われているんだったらやりなさい。これから政府と中央銀行の関係は大変なことになってくる。中央銀行出身の政治家は必要だ」とおっしゃいました。今まさしくそうなっています。自分の問題意識や速水総裁の慧眼に導かれて政治の世界に入り、この局面で、巡り合わせで民進党代表になりました。後世のために、財政金融問題に一定の道筋を付けるのが私の仕事だと思っています。そのためにしっかりやりたい。
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参議院議員・民進党代表
1959年、愛知県名古屋市生まれ。愛知県立旭丘高校、早稲田大学政治経済学部卒。83年に日本銀行に入行。金融政策の企画・運営に携わり、政策委員会室調査役を最後に退職。在職中に早大大学院博士課程を修了し、博士号を取得。専門はマクロ経済学。2000年に日銀を退職し、01年の参院選に民主党公認で愛知選挙区から出馬し当選(現在3期)。鳩山由紀夫内閣で内閣府副大臣、菅直人内閣で厚生労働副大臣等を歴任。現在、早稲田大学総合研究機構客員教授と藤田保健衛生大学医学部客員教授を兼務。著書に「公共政策としてのマクロ経済政策」「3・11大震災と厚労省」「『賢い愚か者』の未来」など。仏教研究家として中日文化センター仏教講座の講師等を務める。仏教関係の著書に「仏教通史」「四国遍路と般若心経」など。
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(作家・評論家 塩田 潮 撮影=尾崎三朗)
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