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山崎康晃"スランプの経験はムダじゃない"

プレジデントオンライン / 2018年4月18日 9時15分

山崎選手が高校2年生の時に書いた目標リスト(『約束の力』より)

目標を達成するために、必要なことは何か。横浜DeNAベイスターズの山崎康晃投手は、今年4月10日、プロ4年目にして「日本人最速100セーブ」という記録を達成した。道のりは決して順調ではなかったが、山崎選手はある言葉が大きな力になったという。それはプロ3年目のとき、チームメートの筒香嘉智選手からかけられた言葉だった――。

※本稿は、山崎康晃『約束の力』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。

■「高い目標」と「近い目標」を立てる

誰に教わったわけでもないのだけれど、僕は小学校の頃から「こんなふうになりたい、あんなふうになりたい」という目標をいつも紙に書いてきた。

目標の立て方は2通り。1つは漠然とした高い目標(つまり、夢)と、もう1つは手が届きそうな目標だ。

小さい頃からの高い目標は、「プロ野球選手」。

一方で、「このプレーをできるようになってやろう」だとか、手が届きそうな目標を設定しては、達成のためのアプローチ方法を考えるのが大好きだった。

小さい心はいつもワクワク。結果が出ると少しの自信を感じ、次の目標をまた少し高く掲げる。

中学時代は、帝京高校入学という高い目標のために、「中3で140キロを超える球を投げる」と具体的な課題を設定して、それをクリアできた。

■ダメだった時に大事なことは3つ

でも、すべての目標が達成できたわけじゃない。「高校卒業でプロ野球選手」を実現できなかった僕は、一時、目指すべき場所を失った。

結果が出なかったときに大事なことが3つあると僕は考えている。

まず1つめは、そこまでのアプローチは絶対にムダにならないということ。体得したことが、あとで生きてくるのだ。

2つめは、再チャレンジするために、自分が目指せる目標を設定し直すこと。そうすれば、違う道を通ることになっても、高い目標へとまた届くことができる。

亜細亜大では、「ドラフト1位で指名される」と、高校3年の時よりも上の目標を掲げた。大学3年になって自信がついてからは、「プロ野球で活躍するためにはどうしたらいいのか」という具体的なアプローチにも変わっていった。

3つめは、目標に届かなかったことを認める素直な気持ち。

帝京、亜細亜大では、自分よりもレベルの高いピッチャーたちを目にして、相手を認めることを覚えた。僕が同じボールを投げようと思っても無理がある。

だったら、自分自身を磨きいい投手になるために、何か参考になる技術を盗みたい。教えてもらいたい。

その中でほんの小さなことでいい。何か1つ勝るものがあればいいと思っていた。

プロ野球選手になった今も、上には上がいると思っている。

たとえば大谷翔平(ロサンゼルス・エンゼルス)や松井裕樹(東北楽天ゴールデンイーグルス)は、僕よりも年下だけど、あれだけ腕を振れて、変化球を投げられる。僕にはない良さを持っていると、認めざるをえない存在だ。

でも、僕自身ももっといい球を投げたい。

1つでも勝ちたい。そのために、今でも毎年、お正月には目標を色紙に書いている。

1年目のシーズン開始前、色紙に目標を書いた(『約束の力』より)

1年目は「新人王」。去年は、達成できなかったけど「セーブ王になる」「40セーブ」。

プロである以上、年棒も目標を定める。

今年もまた、新たな目標を掲げている。

■「シミュレーション」が度胸に変わる

“新人離れした度胸”
“強気な投球”
“大舞台でもプレッシャー知らず”……。

1年目から、そんなことを言っていただいた。クローザーをやっている立場からすれば、素直にうれしい評価だ。

一方で、人より度胸があるのかなとか、ハートが強いのかなって考えてみると、自分では分からないところもあるけれど(笑)。

ただ、自分がマウンドでいつもやっていることで、プレッシャーを感じない理由になっているのはこれかなと、1つ思い当たることはある。

一球一球、次にこうなったらこうする、と細かくシミュレーションしていることだ。

目の前のバッターを三振に取ることだけでなく、3人のバッターをトータルでどう抑えるか。ゴロアウトやフライアウトも必要だし、ゲッツーをとる方法もある。

確率面も考える。このバッターが打つ確率はどれくらい? 仮にヒットを打たれたら、次のバッターがヒットを打つ確率は? ましてやホームランになる可能性はわずか……。

ちょっと意外かもしれないけれど、がむしゃらに向かっていくよりも、確率で頭の中を整理しておくと、腕も振れる。

野球はメンタルのスポーツだと思っている。自分の想定外の展開になると、特にマウンドのような場所では慌ててしまうものだ。土壇場になればなるほどアドレナリンが出て体は熱くなる。

でも、そこで一番必要なのは、冷静な判断だ。

実はどんな場面でも、投手には必然的に逃げ道があると僕は考えている。

持ち球ならスライダーにツーシーム、そして高め、低め、アウトサイド、インサイドと4種類のストレート。これらをどうやって組み合わせて抑えるのか。それを考えると「ここは俺が力んでも仕方ない」と、頭は常に冷静に判断しようとしてくれる。

さらに言えば、僕は「気持ち」までシミュレーションしている。カウント1-2、2-2、3-2からは、こういう気持ちでいこう、ここで打たれたらこういう考え方でいく……そうやって、あらゆるパターンを想定している。

強気で勝負ができるのは、マウンドでの頭の整理があるからだと思う。

■主砲・筒香が教えてくれた「ファクト」の重要さ

チームメートの中で、自分の気持ちを素直に話せる人。それは筒香嘉智さんだ。

「今はどんな状態なの?」

いつだって絶妙なタイミングで声をかけてくれたり、食事に誘ってくれる。2年目のスランプの時もそうだった。

「レフトから、今のお前はこう見えている。どうすればいいかは自分で考えろ」
「球が来ていない。躍動感を感じないぞ」

厳しい言葉なのに、筒香さんの言い方だと素直に受け止められる。

打たれるリスクがない方法なんてない。どれが正解かわからない中で、何が自分に合っているのか。選択するのは自分だ。

筒香さんは「こんなカードもあったんじゃない?」ってスタンス。だから、言ってもらえることで単純に引き出しが増え、僕の武器になる。

「たとえ球が来ていなくても、腕を振られたらバッターは一瞬、たじろぐ。調子が悪くとも、そのギャップがいい方向に出るときもあるんだぞ」

そう言われたこともある。なるほど。投手と打者の視線は違うんだ。

打者の視線を知ることで、より幅が広がる。僕の一番身近にいる球界のスラッガー筒香さんは、一番の学びだった。

筒香さんは、よく「ファクト」(事実)と言う。

「今日打たれた」
「何を打たれた?」
「強い球を投げられているか?」
「お前が不安な姿をファンは見に来ているの? 違う。腕を振るだけでしょう?」

考えれば考えるほどに小さくなる心と体を解放して、腕を大きく振って思い切り投げる。

これは、1年目の僕では考えつかなかったこと。筒香さんや周りの方たちのおかげで、経験と勉強を重ね、僕は強くなる。

スランプを経験できたのはムダじゃないって、今はそう思える。

3年目のシーズンの始め、筒香さんに言われた言葉がある。

「1年間、毎日調子がいいわけじゃない。それは当然のこと。でも、ここは勝ちたいというところを自分で考えて、そこに100パーセントの状態でいける準備はしておけ」

3年目は、要所でこの言葉が浮かんできた。

山崎康晃『約束の力』(飛鳥新社)

考えながら、調整をして試合に臨む。

たとえば、「今日はキレでいく」「今日は140キロ前後のボールでストライクを取りに行く」と、自分でテーマを決めて臨んだ試合だったら、打たれて結果が出なくてもOK。

長いシーズン、そういう日があってもいい。ただ、それをムダにはしない。事実と結果を受け入れて、次につなげる。この積み重ねが、成長につながるわけだ。

「今日のピッチングは、ただ打たれたわけじゃない」

筒香さんが、そういう観点から見てくれているのを心の支えに、試合に臨んでいた。

■負けられない試合ほど気負わないこと

2017年のチームは前年、初のCSを経験。次はリーグ優勝、そして日本シリーズへと、確かな成長を遂げつつあった。

優勝を経験したことのない僕たちが、それを身近なものに感じながら、どういう気持ちで試合に臨めばいいのか。常に目をそらさず、ぶれない目標にしながら、向き合って戦えていたと思う。

そして……真っ青に染まった横浜スタジアムの大歓声に後押しされ、勝つために戦うことの喜びを体感した。本当に最高!

僕自身について言えば、2年目の経験もあり、チームの勝利を重く感じないようにしていた。「僕が抑えないと勝てないんだ」という思いは、要所で感じる場面もあった。

だけど、順位を争う中、負けられないゲームでマウンドに上がるときほど心がけたのは、決して気負わないこと。

「うまく腕が振れさえすれば抑えられる」

そうシンプルに考えてマウンドに上がっていた。もちろん打たれて落ち込む日もあったけど、比較的気持ちは安定したと思う。

やるべきことを徹底し、周りに左右されない毎日。調子を大きく崩す時期もなかったし、平均的に調子の良し悪しの幅が少なかった。極めてレベルが高いシーズンを送れたと思っている。

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山崎康晃(やまさき・やすあき)
野球選手
1992年10月2日生まれ。東京都荒川区出身。 帝京高校、亜細亜大学を経て、2014年秋、ドラフト1位で指名を受け、横浜DeNAベイスターズに入団。15年、開幕からクローザーとして活躍、年間37セーブをあげ、NPBの新人最多セーブ記録を更新。16年にはチーム史上初のクライマックス・シリーズ進出、17年にはチーム19年ぶりとなる日本シリーズ出場に貢献。3年間でNPB史上初「新人1年目から3年連続シーズン20セーブ」の記録を樹立。日本を代表するクローザー。

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(野球選手 山崎 康晃)

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