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部下を去勢してしまう恐怖のアイデア社長

プレジデントオンライン / 2018年4月20日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Rawpixel)

経営にはアイデアが必要だ。社長自身が「アイデアマン」であれば、実行までのスピードも早い。だがそれが続くと大変なことになる。経営コンサルタントの小宮一慶さんは「アイデアが豊富な社長は、部下の成長の芽を摘んでしまい、結局会社を潰してしまう」という。リーダーが本来果たすべき役割とは――。

■会議でバレる、一流の企業vs三流の企業

私は経営コンサルタントとして社外役員や顧問をしている会社の取締役会や経営会議に定期的に出席します。その際に、社長がずっとしゃべり続けているケースがあります。会議が、社長の「独演会」のようになっていて、他の出席者は黙ってそれを聞いている。そんな光景です。

そうした社長はワンマンタイプが多く、ひとりでどんどんアイデアを述べます。表面的には「部下任せにせず陣頭指揮を執って、会社を引っ張っていく」とも受け取れます。しかし経営コンサルタントの大先輩の一倉定先生(5000社超の企業を指導し、多くの倒産寸前の企業を立て直したといわれる)はかつてこう言っていました。

「アイデア社長は会社をつぶす」

これは、社長はアイデアを出すなという意味ではなく、社長の出したアイデアを絶対視しないことが大切だという意味だと私は考えています。

カリスマ経営者のいる会社の共通点のひとつは「社員が何も言わなくなる」ことです。もちろん、部下もアイデアをたくさん持っているものですが、社長に頭から否定されたり、責任を取らされたりするのが嫌なので、それをあえて言わなくなるのです。

社長は、「部下からは何もアイデアが出てこない」と考え、戦力は自分だけだと思いこみ、ますますアイデアを出してきます。このサイクルに陥ると、正常な状態に戻すのは至難の業です。こうしたリーダーの“暴走”は、社長だけでなく、役員や部長でも起こります。

▼部下はイエスマンになり、本気で働かなくなる

経営のセオリーとしては、どんな優れたアイデアであっても、成果をあげていない段階では「仮説」にすぎません。それを絶対視して無条件に予算を投じるような行為は危険です。

ですから、そのような会議の場では、私はやんわりと「仮説を検証することが大切ですね」と話すようにしています。仮説を検証することで、失敗する確率を減らすことができます。また、違う視点でものを見ることで、見落としていたことも見えてきます。社長やリーダーのアイデアを絶対視するとそれができないのです。あとで後悔しても、後の祭りです。

さらにタチの悪いワンマンになると、自分が口にしたアイデアを本人はすぐ忘れているのにもかかわらず、部下はやり続けなければならない悲劇が起こる可能性があります。ある企業では、社長が会議で思いついたアイデアを、部下が念入りに企画書にまとめ上げ、何カ月もかけてプロジェクト化。再度、社長に確認してもらったところ、「そんなつまらない企画を誰がOKと言ったのだ」と言われ、最終段階ですべての苦労は水の泡となったことがありました。このような状況が続くと、部下はやっているふりだけをして、本気で仕事をやらなくなるのです。近い将来、その企業が落ちぶれていくのは目に見えています。

■アイデア社長が人を育てられない理由

そもそも、人(部下)はなぜ動くのでしょうか。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/OwenPrice)

私は講演会で聴衆にときどき「右手を挙げてください」とお願いします。ほとんどの方は少しいぶかりながらも要求に応えてくれます。すると私は意地悪にも「なぜ、右手を挙げたのですか」と質問します。きょとんとした表情を浮かべた聴衆は「だって、そう言われたから」と答えます。

この珍妙なやり取りを通じて、私が伝えたいことは「権威」についてです。

<私にお願いされたから右手を挙げたと聴衆は思っているが、もし、私が講演会場近くの駅の改札前で同じことをお願いしても、通行人は右手を挙げない。講演会の聴衆は手を挙げたのは、私が「講師」だから。つまり、講師という「肩書」が聴衆の手を挙げさせた>

心理学では、この肩書のことを「権威」と言います。権威で人は動くのです。企業でも大きな肩書を持つ管理職が言うことだから、部下はその指示に従おうとするわけです。しかし、部下が上司をリスペクトしていなければ、ただ指示に従って表面的に動くだけになってしまいます。自らの「権威」を武器に人を動すことを続けていると、いずれ部下は面従腹背になるでしょう。そうなれば、会社の勢いが失われるのは明らかです。

▼会議は部下の思考力と実行力を鍛える場

会議は社長がアイデアを発表する場ではなく、部下の能力を鍛え伸ばす場です。部下に多くのことを考えさせ、それを発言させることが大切です。

以前のこの連載にも書きましたが、私はビジネスパーソンに必要な基本的な能力は「思考力」と「実行力」だと考えています。つまり自分で「考え抜く力」とそれを「やり抜く力」です。

しかし、社長やリーダーが会議で独演会を行えば部下の思考力は伸びません。リーダーの言っていることだけをやっていればいいから、ゼロから考え抜くという作業を怠るようになります。

また、ワンマンの度が過ぎると、何を提言しても無視されたり、いい評価を得られなかったりするので、どんなに能力の高い人であっても、思考することをバカバカしく感じてしまうでしょう。部下の“頭”はどんどん悪くなります。

結局、上から降りてきた案件をただこなすだけになります。自分が心から信じている案件やアイデアではないので、やる気が出るはずもありません。そうなると実行力も衰えていくことになります。

会議の場では、社長やリーダーは自分では分かっていることであっても、部下に発言させ、考えさせることが大切です。そして、部下に当事者意識を持たせて、実行した結果をきちっとチェックする。そうしたトップの務めを果たしていれば、部下の思考力と実行力はしっかり伸びていきます。

(経営コンサルタント 小宮 一慶 写真=iStock.com)

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