日本が北欧のようになるのは、もう無理か

プレジデントオンライン / 2018年4月23日 9時15分

来年、消費税は10%に上がる。生活への負担は大きいが、国際的にみればその税率は決して高くない。たとえば「理想的な福祉国家」ともいわれるスウェーデンの税率は25%だという。税率を上げれば、日本もスウェーデンのようになれるのか。欧州経済の専門家が考察する――。

■消費税率25%でもスウェーデン人が幸せなワケ

日本の財政は火の車である。国の借金に相当する公的債務残高はGDP(国内総生産)の2倍以上で、財政危機に見舞われたギリシャよりも酷い。財政再建には、歳出と歳入の両面からの取り組みが必要となる。つまり、公共サービスを切り詰めて、増税を行うということだ。

しかし日本の公共サービスは、切り詰められるほど手厚くはない。教育費を例にとると、日本ではようやく幼児教育の無償化が実現するかもしれないレベルであるが、欧州では無料であることが一般的だ。

また日本の税金、特に消費税の水準は国際的に見て低い。日本の消費税は2019年10月までに10%へ引き上げられる予定だが、欧州諸国では消費税に相当する付加価値税(VAT)の水準は20%前後。このうち特に高税率なのがスウェーデンだ。

スウェーデンはVAT以外の税負担も重く、世界有数の重税(高負担)国家である。しかしながら、それに十分見合う高福祉が、政府によって提供されている。教育費は大学まで無料、20歳未満と85歳以上は医療費も無料だ。失業した際の復職制度も充実している。

■90年代まで「借金の大きさ」は日本と同じだった

こうしたスウェーデンの「高福祉高負担モデル」は、戦後の高度成長期に確立されたものである。もっとも90年代に入って人口増加率がピークに達し、また不動産バブルが弾けるなどして、スウェーデンの高福祉高負担モデルは曲がり角に差し掛かった。90年代半ばには国の借金がGDPの約9割にも達し、当時の日本(はまだこのレベルであった)と並ぶ借金大国として、国際社会から否定的な評価が下されたこともある。

しかしながら、その後のスウェーデンは果敢にも高福祉の見直しに取り組んだ。具体的には年金制度改革(基礎年金の廃止と所得比例年金への一元化や年金保険料率の固定化)や医療制度改革(社会的入院削減のための在宅ケア推進や医療費補助の見直し)などを通じて、高福祉高負担モデルの持続可能性を高めることに成功したのである。

一連の改革の結果、スウェーデンの国の借金はGDPの5割程度にまで減少した。社会保障制度の改革が手付かずのまま雪だるま式に借金だけが増えていった日本とは正に好対照である。

■法人税を低くして、それを国民に還元する仕組み

スウェーデンの場合、経済成長率も先進国の中では高く、毎年3%前後の成長が続いている。高成長が続く大きな理由の一つに輸出の好調があるが、その裏には低い法人税の存在がある。スウェーデンは自動車や重火器などの製造業に強みを持つ輸出立国であるが、経済協力開発機構(OECD)によると、スウェーデンの法定実効税率は22%と日本やドイツ(約30%)に比べて低い。

つまりスウェーデンは、低い法人税をテコに高い国際競争力をキープし、高成長を実現しているわけである。加えて、企業が輸出をして得た所得を家計に還元し、政府は徴税を通じて家計から所得を吸収した上で、それを再配分するという仕組みが成立している。企業の高い国際競争力を維持しつつ、それを国民に還元するメカニズムを、官民一体となって構築しているのだ。

■残念ながら日本の「改革」は手遅れ

一部には、こうしたスウェーデンの「高福祉高負担モデル」を日本に適用すべきだ、とする主張も根強くあるが、それは残念ながら不可能である。

まず、日本の少子高齢化ペースはスウェーデンに比べると速い。これは現役世代や将来世代の負担増が回避できないことを意味する。福祉をより充実させようとすれば、現役世代や将来世代の負担がますます増えてしまうのだ。現役世代や将来世代にばかり負担を強いるわけにはいかない。これからの日本では、公共サービスを切り詰めるしかない。

言い換えれば、日本もスウェーデンのように、少子高齢化がまだ将来的な課題であった90年代の時点で社会保障改革に取り組むことができれば、現状は違っていたかもしれない。当時の日本は未曽有の不良債権問題に揺れており、社会保障改革など不可能だったという人もいるかもしれないが、スウェーデンもまた不良債権問題を抱えていた。将来的な課題を見据えて改革したか、それとも見送ったかいう差は大きい。

■世代間の不平等が拡がれば、脱税や年金未納が増える

少子高齢化と関連して、日本の社会給付制度は高齢世代に手厚い一方で、現役世代や将来世代に薄いという問題がある。このままでは世代間の不平等が拡がり、現役世代や将来世代の政府に対する信用低下も避けられないだろう。脱税や年金未納はさらに増えるかもしれない。

他方で、政治家にとって高齢者は大票田であるため、負担増を強いることは容易ではない。こうした政治風土がある中で、日本がスウェーデンのように現役世代や将来世代にも配慮した福祉政策を、高齢世代の負担増を強いる形で導入することはまず不可能である。

また日本は人口が1億2000万人と多く、国民的な合意形成が難しい。スウェーデンは人口が1000万人弱で、その多くが相互扶助に重きを置くキリスト教徒(スウェーデン国教会)であり、文化的価値観を共有している。旧世代が作り上げてきた高福祉路線を次世代に繋ぐという意識が強く、次世代にもそれが当然という意識があると考えられる。

■時代に合った高福祉を模索してきたスウェーデン

そして何より、日本の場合、国の借金の規模が膨らみ過ぎてしまった。冒頭でも述べたが、国の借金はGDPの実に2倍以上の規模だ。削減どころか膨張に歯止めをかけるレベルでも、社会給付の合理化や効率化に努めざるを得ない状況にある。スウェーデン流の「高福祉高負担モデル」への転換など、日本では夢のまた夢である。

スウェーデンから真に学ぶべきは、彼らの改革スタンスにある。90年代に高福祉政策が曲がり角に差し掛かると、彼らはその効率化に努めて、政策の持続可能性を高めた。2000年以降も、失業手当や年金給付の減額を実施するなど、弾力的な調整を欠かさなかった。2008年には現役世代や将来世代のことを考えた「子ども手当」(08年7月)も導入している。彼らは常に時代に合った高福祉を模索しているが、そうしたマインドは、残念ながら日本に欠けているものである。

■いつまで次世代にツケを回し続けるのか

日本は今後、高負担を前提に、中福祉ないしは低福祉モデルへの転換を迫られると予想される。財政再建を後回しにしてきたツケは非常に大きい。現役世代や将来世代の負担減のためには、高齢世代にも負担増を求める必要がある。とはいえ、そうして実現される福祉のレベルは、今よりも低下せざるを得ないだろう。

写真=iStock.com/F3al2

痛みを伴う改革をする覚悟が国民、そしてその代表である政治家に求められるところである。政治家に求められるのは、日本の将来的な社会保障制度の在り方を国民に真摯に説明し、幅広い世代から賛同を得るように努力することに他ならない。19年10月に消費税は10%に引き上げられる予定であるが、本当に少子化対策に充てられるのか、現役世代を中心に不信感は根強いと言えよう。

安倍政権は6月に新たな財政健全化計画を発表する。支持率の低下が続く中で、痛みを伴う内容となることは考えづらい。日本はいつまで次世代にツケを回し続けるのだろうか。

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土田 陽介(つちだ・ようすけ)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 研究員
1981年生まれ。2005年一橋大学経済学部、06年同大学院経済学研究科修了。浜銀総合研究所を経て、12年三菱UFJリサーチ&コンサルティング入社。現在、調査部にて欧州経済の分析を担当。

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(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 研究員 土田 陽介 写真=iStock.com)

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