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ソニーには「ソニーらしい製品」が必要だ

プレジデントオンライン / 2018年4月25日 9時15分

ソニーは、4月1日付で吉田憲一郎副社長兼最高財務責任者(右)が社長兼最高経営責任者(CEO)に昇格する人事を発表した。平井一夫社長(左)は会長に。

ソニーの社長が交代した。社長を6年務めた平井一夫氏は、在任中にソニーの業績を大きく回復させ、同社の時価総額は3倍増となった。とはいっても、そうした数字だけの回復でいいのだろうか。元ソニー社員でジャーナリストの宮本喜一氏は「ソニーらしさが伝わる製品は出てきていない」と指摘する――。

■平井社長6年間を「結果オーライ」と評価していいか

今月4月1日付でソニーの社長兼CEOが交代した。その後任には、副社長兼CFOであった吉田憲一郎が昇格、平井一夫は会長となった。

2月2日の記者会見で平井は交代の理由について、「社長に就任してから2回目の中期計画の最終年度に、掲げた目標を上回るめどがついたから」と述べている。確かに数字の上では業績は回復した。ソニーの株式時価総額は、2012年4月の平井就任以降、約3倍にまで上昇した。

とは言うものの、平井主導の6年の間にソニーは本当に危機的状況から脱したと言い切れるだろうか。本稿では、あえてこれに疑問を投げかけたい。

18年3月期の営業利益が20年ぶりに史上最高になるという明るい見通しを得られるようになったのは、主に、平井・吉田による構造改革路線、具体的には財務の数字にこだわった経営路線が成功したからだろう。
だがこの6年間に、果たして、ソニーから画期的と呼ぶにふさわしい製品がいくつか生まれて来ただろうか。筆者の答えは、否、だ。

エレクトロニクス・IT業界におけるソニーの競合企業のどこからも、そうした画期的製品が生まれた例がないなら、それはそれでしかたがない。しかし、もちろんそんなことはない。ひとつだけ最近の例を挙げれば、アメリカのIT業界の雄、アマゾンが2014年、業界に先駆けて市場に投入したAIスピーカー「アマゾン・エコー」がそうだ。この製品は、技術的に傑出しているというよりはむしろ、既存の先端技術を自在に駆使して彼らの豊かな発想力によって今までにないビジネスを誘発するいわば“プラットフォーム”にまでなっている。

■ソニーの製品開発力には陰りが見える

残念ながら、昨今のソニーから、このアマゾンのような製品開発の意欲が伝わっては来ない。果たしてソニーは、財務の数字を巧みにコントロールすることを重視する企業だったのか。これまで平井が世に送り出した製品は、技術より財務の数字を追いかけるほうに軸足を置いたものが多いと思わざるを得ない。そう思わせる代表的な製品のひとつが有機ELテレビだ。

ソニーは昨年6月、55型、65型の有機ELテレビ2機種を発売している。平井はそのソニーならではの特長を、画像エンジンや音響システムであると説き、「ソニーの独自色を出した」と強調した。しかし、それは競合他社製品と比較して大きな違い(平井の言を借りれば“差異化”)と胸を張って言えるのか、大いに疑問なのだ。なぜなら、“差異化した”と唱える製品の心臓部となる有機ELパネルそのものがソニー製ではなく、他社からの調達品だからだ。

そもそも世界に先駆けて有機ELパネルを開発し、その量産化に成功して有機ELテレビ第一号を製品化したのは、他でもないソニーだ。2007年12月に、11型テレビ「XEL-1」を発売している。ところが、ユーザーにとっての使用目的が判然としなかったためか、あるいは画面が小さすぎてその画質のよさをアピールできなかったためか、ビジネス的には失敗に終わってしまう。

さらに悪いことに、2010年には大型化と採算性のメドがたたずに、パネルの開発を中止。ところが、ソニーの開発中止を尻目に、韓国メーカーが開発を続行。2013年にはLGが大型パネルを使ったテレビを製品化。ソニーはもちろん国内メーカーはすべて韓国LG製のパネルを使わざるを得ないというのが現状だ。乗用車で言えば、クルマはつくる、しかしエンジンなどのパワートレインは他社から供給を受ける、ということだ。これではいくら周辺の特長を磨いても、ソニーが生み出せる付加価値の限界は見えている。もっと問題なのは、供給を受ける以上、供給元にはその製品・マーケティング戦略がある程度わかってしまうことだ。これでは本質的な“違い”はどこまで行っても望めない。

ソニーはトリニトロン方式のカラーテレビを独自に開発。

ソニーのディスプレイの歴史を見れば、製品の心臓部にこだわる姿勢が一貫していたはずだ。それは既存の技術に敢然と挑戦するところから始まっている。具体的には、1968年に製品化したトリニトロン方式ブラウン管の開発成功だ。年間売上高は、トリニトロン発売前年度1967年の584億円から68年には712億円、3年後の70年度には1490億円と約2.6倍増を記録。これによって、ソニーは音響メーカーから、オーディオとビジュアルの両方を手がける総合エレクトロニクスメーカーとなった。つまり、技術開発にこだわる執念が同社の“成長ドライバー”を生み出したのだった。

そんなソニーが、世界に先駆けて量産化した有機ELパネル開発の主役の座を、10年かけて後続の韓国メーカーに明け渡すことになった理由がどうにもわからない。性能に圧倒的な差をつけるためには、根本的なところでの開発力がものを言うことを、トリニトロンで経験してきたはずではないのか。したがって、ソニーの製品開発力には“陰りが見える”、と言わざるを得ないのだ。

■ウォークマンを生んだ独創的な発想力と開発力

ソニーは画期的製品を次々に開発してきたし、ユーザーの期待もまたそこにあるはずだ。ソニーをソニーたらしめた画期的製品は数多い。たとえば、トランジスタラジオ、テープレコーダー、トリニトロン方式のカラーテレビ、家庭用ビデオ、イメージセンサー、ウォークマン、プレイステーションなどなどが挙げられる。

これらが画期的であり、そして同時に独創的だと世の中に高く評価されたことによって、ソニーのブランドは築き上げられ確立してきた。とはいえ、本当の意味で果たしてそれらが「独創的」なのかという視点から冷静に考えると、決してそうは言い切れないのだ。
なぜなら、これらの製品のベースとなっている技術や発想は、ソニーの独創、あるいは発明では“ない”からだ。つまり、ソニーは根本的なところで生みの親ではなく、それらの製品の源泉は、概してアメリカにあったのだ。

例えば、トランジスタはアメリカのウエスタン・エレクトリックの発明であり、テープレコーダーは戦前日本にも存在したワイヤレコーダーがその原型、ビデオはテープレコーダー技術の発展形、イメージセンサー(CCD)はベル研究所の研究者3人が発明したものだった。いずれもソニーの独創ではない。ソニーが優れていたのは、そうした発明を消費者向けの製品に仕上げる豊かな発想と誰にも負けないそして最後まであきらめない開発力だった。

今のソニーから、そうした消費者の期待に応えられる魅力的な製品が再び生まれる可能性はあるのか。1979年に発売され文字通りソニーの“成長ドライバー”になったウォークマンの考察から、その答えを求めてみたい。

ウォークマンを生み出したのはソニーの独創的な発想力と要素技術の開発力だった。

ウォークマンを生み出したのは今さら言うまでもなく、独創的な発想力と要素技術の開発力のふたつだった。ひとつ目は、個人が屋外で好きな音楽を楽しめる製品をつくるという発想。つまりすぐれた製品企画力。そしてもうひとつは、パーソナルポータブル機にするための主要デバイス開発力。
これまで前者には光があてられ評価されてきた。その一方で、後者はそれほど注目されて来なかった。しかし、この開発力があったからこそ「ステレオミニプラグ・ジャック」が生み出される。実はこれがその後誕生することになるパーソナルポータブルオーディオの市場のいわばプラットフォームと言ってもよい存在になっていく。

■ソニーの発明がアップルに負けた日

前者の発想をもとに、ソニーは、誰もが使えるポータブル機器として成立させるため本体の動作電圧を半減させる目標をたてる。つまりそれまで常識だった6Vの動作電圧を3Vに下げるのだ。これが実現すれば、4本必要だった乾電池を半分のたった2本になり、製品は大幅に小型化できる。ただし、2本にするためのハードルは当時の既存技術にとってはきわめて高かった。そこでソニーは集積回路(IC)とモーターを新規に開発する決断をする。結果的にソニーはこの開発に成功し、おかげでウォークマン発売後の2年間、他社は技術的に追随できなかったためこの市場を独走した。つまり、ウォークマンは外観の斬新さだけではなく、当時としては文字通りのハイテク機だったのだ。

そして、そのハイテクの特長を活かしきった陰の主役が「ステレオミニプラグ・ジャック」だった。ソニーはこれを新たな業界標準にしようと考え、その技術を無償公開した。その結果、ソニーの開発した規格はポータブル機器の世界標準になり、その後のパーソナルオーディオ製品に例外なく採用されていったというわけだ。パーソナルポータブルオーディオの市場のいわばプラットフォームと述べた理由もここにある。

ところが2016年、このソニーの発明が、アップルによって否定される事態が起こる。新製品iPhone7からこのミニジャックが消えたのだ。この事実はソニーにとってふたつの意味で非常に重い。

ひとつは、ソニーのウォークマンのつくった“プラットフォーム”が否定され、その命脈が絶たれたことだ。もうひとつは、ソニー自身が自らの発明をあえて否定できなかったことだ。アップルによる否定をソニーがそれほど深刻に捉えたという様子は感じられない。もしこの指摘がはずれていないとすれば、ソニーはウォークマンの大成功を、生活文化を変化させた発想力の勝利と、ある意味で一面的に捉えているために、自分たちの独創性・強みがどこにあるのか客観的に分析する努力を怠っているのではないか。

この6年間、ソニーは「感動を与える企業になる」「製品は差異化にこだわる」と言い続けてきた。しかし、以上考察したように、昨今世に送り出された製品を見るにつけ、このお題目が十分ソニーの製品群に反映されているとは言い難い。ソニーの課題はまさにこの点にあるのではないか。

■社員が共有すべき「ソニーらしさ」とは何か

ソニーの人たちは製品企画の話をするとき、異口同音に、「ソニーらしさ」と言うことばを使う。

ペットロボット「aibo(アイボ)」は“ソニーらしい”製品か。

一体、ソニーらしさとは何だろうか。それがどんなものであるにせよ、これまで述べてきたように、過去、成長ドライバーの役割を果たしてきた製品と、現在の製品群との間にズレがあると言ってもそれほど間違いではないだろう。有機ELテレビのパネルは韓国メーカー製、iPhone7に引導を渡されたポータブルオーディオなどを見ていると、ソニーに期待をしているユーザーに対する、“ソニーらしさ”のメッセージは残念ながら彼らの製品群からはあまり伝わってこない。

言い換えれば、“ソニーらしさ”とは何かに対する共通の認識が、ソニーの社員間、あるいはまたユーザーとの間で共有されているとは思えないのだ。こうなると“ソニーらしさ”を植えつけているはずの個々の製品に対する“共感”はどのレベルであろうと、生まれはしない。したがって、新社長である吉田氏に与えられた最大の課題は、その“ソニーらしさ”を定義することによって同社が取り組むべき開発のベクトルをソニーグループ全体で一致させることだ。そして過去のソニーの何を継承し、あるいは変革するのかを明確にすることだ。

ソニーの内部には、“ソニーらしさ”の答えとして、その“代表選手”はペットロボット「aibo(アイボ)」だと考える人が多いようだ。しかし、筆者が昨年12月にプレジデントオンラインで主張したように、新しいアイボと過去のアイボにはつながりがない。したがって、生産が追いつかずウェーティングリストがあるという新しいアイボをやっと手に入れて喜び、場合によっては感動するユーザーがいるその陰で、息をしなくなった過去のアイボのお葬式をするユーザーがいる。後者のユーザーの中では、ソニーという企業に対して感動をおぼえる人はそんなにいないだろう。

クルマの世界では、国内外のメーカーが率先して過去の人気モデルやクラシックカーのレストアを手がけ始めている。つまり愛情のこもった製品を、いつまでも使い続けようという意識が企業と消費者の双方で高まっている時代なのだ。一方で、ソニーはアイボについて、「生産完了後7年以上たった製品に対してメーカーはサービス(修理)する義務はない」という姿勢をとり続けてきた。お葬式を出す人たちがいることを知りながら、それとは別の新製品をつくって“感動を与える”というキャッチフレーズを唱える姿が、筆者にはどうしても理解できない。折しも、今月4月26日には、千葉県のお寺で第6回のAIBO葬(前回は昨年6月8日)が営まれる、ということを付け加えておこう。

いずれにしても、財務の数字が改善したことはソニーにとって非常に喜ばしいことだ。だからこそ、その経営的な余裕を背景に、黙っていても“ソニーらしさ”の伝わる新製品を開発してほしい。そしてそれはソニー製品に対するユーザーの深い愛情に応えるものであってほしい。筆者はこれが新しいソニーのリーダー、吉田に与えられた最大の課題だと考える。聞けば、会見のときの眉間にしわを寄せる表情とは裏腹に、普段仲間と談笑するときの吉田は、実に明るくユーモアのある人物だと聞く。あまり情緒的なことばを使うのは気が引けるが、その明るさから真に画期的な製品が生まれることを期待したい。(文中敬称略)

(ジャーナリスト 宮本 喜一)

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