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大谷だけが二刀流で成功できた戦略的理由

プレジデントオンライン / 2018年4月25日 9時15分

2018年4月22日、ジャイアンツ戦にエンゼルスの大谷翔平が4番DHで出場することを伝える電光掲示板(写真=時事通信フォト)

米大リーグで目覚ましい活躍を続ける大谷翔平選手。並外れた素質の持ち主であることはいうまでもないが、抜群の素質を持ちながら活躍できない選手もいる。一体どこが違うのか。 マーケティング戦略コンサルタントの永井孝尚氏は「大谷選手は私が『トルネード式』と呼ぶ仮説検証思考を身につけている。だからオープン戦では苦戦したが、公式戦で結果を出せた」と分析する――。

■「開幕には間に合わないのでは?」との声もあった

今年2月から3月に行われた大リーグのオープン戦で、大谷は振るわなかった。

投手としては、打者20人に対し、9安打、3被本塁打、5三振、3四死球。防御率27.00。

打者としては、32打数4安打、0本塁打、1打点、10三振。打率0.125。

数字だけ見ると惨憺たる結果である。

「開幕には間に合わないのでは?」「マイナー落ちではないか?」と予想する声も多かったが、開幕後の大活躍は既に報じられている通りだ。

実は当初から、エンゼルスの幹部は「オープン戦の数字は意味がない」と語っていた。本来オープン戦はいろいろなことを試す場だ。大リーグ1年目の大谷にとって大きな課題は、大リーグ選手との実戦経験不足。だから実戦を通して学ぶことが必須だったのだ。

■オープン戦の試行錯誤を通じて、大リーグについて学んだ

たとえば2月24日のオープン戦初戦の登板。スライダーの制球力が乱れ、予定の2回を投げきれずに1回1/3、2安打2失点で降板した。しかし登板2回目となる1週間後の練習試合では、スライダーのキレが戻り、8つのアウトをすべて三振で取った。実戦を通じて調整をした結果だ。

大リーグと日本では、公式球の違い、マウンドの硬さや傾斜、ブルペンでの球数制限、自軍攻撃時のキャッチボール不可など、投手の環境はまったく異なる。オープン戦の仮説検証を通じて、大谷は大リーグのベースボールについて学んでいたのだ。

一方で打者としての大谷は調整が遅れていた。大リーグ投手のフォームは日本人選手とは異なるので、テークバックが遅かったりして、なかなかタイミングが合わなかった。必要なのは場数だ。そこで打席数を増やすことで、タイミングを会得していった。

大谷はオープン戦や練習試合で、具体的な課題を一つひとつ決め、その課題に対して仮説を立てて、仮説を実戦で実行し、結果を検証して課題を一つずつクリアすることにより、急速に大リーグに適応していったのだ。

■「高校生で160キロを投げる」と宣言

大谷が仮説検証プロセスを重視するようになったのは、高校時代からだ。

大谷は高校時代に「高校生で160キロを投げる」と宣言した。それまで誰も達成しなかったことだ。その目標を実現するために、監督やコーチとともに体幹トレーニング、ランニング、柔軟性向上、さらに食事メニューや技術力強化などに取り組み、3年夏の岩手大会で160キロを実現してしまった。

永井孝尚『売る仕組みをどう作るか トルネード式仮説検証』(幻冬舎)では、本稿で紹介した仮説検証思考について詳しく解説している。

日本ハム時代にある打席で三振してベンチに戻ってきた時、次のように語っている。

「自分のデータになかったから仕方がない。次は大丈夫」

またあるインタビューでは、次のように語っている。

「結果を出すためにやり尽くしたと言える一日一日を、誰よりも大切に過ごしてきた自信を持っています」

日本ハムのコーチとして大谷に接していた吉井理人は、このように語っている。

「大谷は放っておいていい選手なんですよ。そういう選手はあまりいません。自分で考えて、順序立てて学んで、うまくなっていける選手ですから」

■「誰もしたことのないことをやる」

注意すべきは、大谷が行っているのは世の中で一般的にいわれている「仮説検証」ではない、ということだ。明確な目的を持った上で、仮説検証を実践している。大谷の強さは、明確な目的意識、言い換えれば「あるべき姿」を持った上で、「あるべき姿」を実現するために愚直に仮説検証を繰り返しているところだ。

大谷が思い描く「あるべき姿」とは「誰もしたことのないことをやり、大リーグでトップを目指す」ことだ。そして目的実現のためには、達成手段も柔軟に変えていく。

たとえば高校3年生の時、大谷は「日本のプロ野球には行かず、マイナーリーグを経て大リーグに行く」と表明した。ドラフト会議では日本ハムが1位指名したが、この時点で「米国でやりたい。日本ハム入りの可能性はゼロ%」と意志が固かった。

日本ハムは「大谷翔平君 夢への道しるべ」と題した26ページの資料を用意。「直接大リーグに行くよりも母国リーグで実力をつけた選手の方が、大リーグで活躍する確率が高い」という統計データを示した上で、栗山監督から大谷の能力を最大限に発揮する二刀流のプランなどを提案した。

日本ハムの提案に、大谷は考えを改めた。一見遠回りだが、日本のプロ野球で基礎を作ることが「大リーグでトップを目指す」という夢を実現する近道と納得し、さらに誰もやったことがない二刀流を提案し挑戦を支援する日本ハムの体制にも魅力を感じたのだ。

■周囲の声に左右されることが驚くほど少ない

当初から大谷の二刀流に対しては賛否両論があった特に最初は反対派が目立った。そんで、周囲の声に左右されずマイペースで二刀流の挑戦を続けてきたのも、「誰もしたことのないことをやり、大リーグでトップを目指す」というあるべき姿が明確であり、さらに失敗前提で仮説検証を行っているからだ。

大谷は無趣味を公言し、プライベートの時間もほとんど外出しない。彼のすべての行動は、首尾一貫して「あるべき姿」を実現するためのものだ。そのおかげで天賦の才能が大きく開花している。

ビジネスの世界でも、大きなイノベーションを生み出す人物は、「あるべき姿」を思い描き、仮説検証を愚直に行うことが、大きな武器になることをよくわかっている。

■イーロン・マスクも「コツコツと努力を積み重ねた」

たとえばイーロン・マスクは、「環境破壊が続けば、人類は地球以外の惑星に住まなくてはいけなくなる」という危機感を持ち、「人類を火星に移住させる」という「あるべき姿」を思い描き、未経験のロケット事業に取り組み始めた。3回の失敗を重ね、創業8年目に宇宙ロケットを成功。さらに人類を火星に送り届けるためにロケットの総コストを100分の1に引き下げるため、使い捨てしていたロケットを回収する技術も実現した。

「いかにコストダウンをしたのか?」という問いに、イーロン・マスクは「コツコツと地道な努力を積み重ねることで成し遂げた」と語っている。イーロン・マスクも、「あるべき姿」を目指し、地道な仮説検証を愚直に積み重ねる大切さを知っているのだ。

大谷は天賦の才能に加えて、明確な目的意識を持った仮説検証プロセスの方法論を持ち、その方法論を愚直なまでに実践している。だから世界最強のプレイヤーが集う大リーグで注目を集める活躍ができるのだ。    

大谷は今後、さまざまな壁にぶつかることだろう。しかし「あるべき姿」を持ち続け、仮説検証の方法論を実戦し続ければ、必ず乗り越えることができるはずだ。

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永井孝尚(ながい・たかひさ)
マーケティング戦略コンサルタント
1984年慶應義塾大学工学部卒業、日本IBM入社。マーケティング戦略のプロとして事業戦略策定と実施を担当。さらに人材育成責任者として人材育成戦略策定と実施を担当。2013年に日本IBMを退社。ウォンツアンドバリュー株式会社を設立して代表に就任。執筆の傍ら、幅広い企業や団体を対象に新規事業開発支援を行う一方、講演や研修を通じてマーケティング戦略の面白さを伝え続けている。主な著書に『100円のコーラを1000円で売る方法』『戦略は「1杯のコーヒー」から学べ!』(すべてKADOKAWA)、『これ、いったいどうやったら売れるんですか?』(SB新書)、『「あなた」という商品を高く売る方法』(NHK出版新書)などがある。

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(マーケティング戦略コンサルタント 永井 孝尚 写真=時事通信フォト)

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