「家事手伝い」の読者モデルが消えたワケ
プレジデントオンライン / 2018年5月8日 9時15分
※本稿は、博報堂キャリジョ研『働く女の腹の底 多様化する生き方・考え方』(光文社)の第1章「キャリジョの仕事と恋愛・結婚」を再編集したものです。
■「カジテツ」の消滅
雑誌でよく見かける「読者モデル」。彼女たちのプロフィールを注意してご覧になったことはありますか? プロフィールには、しばしば年齢とともに職業が記載されています。今では、職業ではなく居住地域など、その人自身を表す「名札」のバリエーションも増えているようですが、いつの間にか「家事手伝い(通称:カジテツ)」を見なくなったね、というのがキャリジョ研内で話題になりました。
「カジテツ」には「花嫁修業中」という意味合いと、仕事をしていない=「余裕のあるお嬢様」という印象があり、かつては、若い女性に使いやすい職業ラベルだったのでしょうが、現在では「社会に出たことがない」というのは、「世間知らず」というレッテルを貼られてしまうこともあり、マイナスに働くことさえあります。世に出て働くということは、お金を稼ぐ以外にも、人への応対やマナーなど、社会人としての振る舞いを学ぶ機会ともなります。学校教育以外での学びも注目を浴びる現代において、そうした社会性を身につけることは、ますます重要性を増しているのではないでしょうか。
また、バブル崩壊後、男性の失業者も増加。男性の平均年収も、ここ数年回復傾向にあるとはいえ、ピークの1997年から見ると下がっています。こうした状況を踏まえて、「男性ばかりに頼ってはいられない!」と女性が思うのは当然。女性の高学歴化も進み、学校卒業後、「家庭に入る」のではなく、就職を選ぶ女性は増えています。
■リスクヘッジとしての労働
加えて、「いつまでも男性に頼れない」と現実的になっている女性たちにとっては、専業主婦はリスクが高い生き方でもあります。ある一定の年齢になると、飲み会をすれば数人はバツイチがいるくらい、離婚も珍しくはないこのご時世。専業主婦になるのが一般的だった世代の母親からは、自分の果たせなかった夢を託すがごとく「いつ離婚してもいいように仕事はちゃんと持っておきなさい」という想い(重い?)のこもったご託宣をいただき、自分で好きにお金を使えないことへの不安も出てきます。さらにもし夫が倒れて働けなくなったときに、自分に仕事がなかったら? などいろいろ考えを巡らせていくと、1人が家計を支えるのはリスキーです。
そんな時世の変化を受けて近頃は、白馬の王子さまを待つのではなく、ヒロインが愛と勇気と知恵で敵と戦い、困難を乗り越えるドラマや映画も増え、多くの共感を呼んでいます。こうした「脱・王子さま」の風潮も女性の「仕事を持とう」という意欲の後押しになっているでしょう。
実際、キャリジョ研の調査では「結婚した後、どのように働いていたいか」という質問に対して、「仕事は辞めて専業主婦になりたい」はなんと全体で6.3%。年代や地域を問わず、全体の1割に満たないのです。「寿退社」という言葉も、今では死語になりつつあるようです。背景には、一度辞めると再就職が難しいという事情もありますが、先の年収問題に関連して、専業主婦を養える男性が減っているのも大きいでしょう。
専業主婦になりたい気持ちはあっても、現実的には難しい、大げさに言うと「宝くじ当たらないかな~(当たるといいけど、まぁ当たらないよねぇ)」くらい、なりたくてもなれるとは限らない期待薄な存在になっているのです。
時代の流れとともに、自立的に働くことが当たり前になってきたキャリジョたち。ここからは、キャリジョの多様性の話に入る前に、まずはキャリジョの基本の「キ」として、キャリジョ全体としての仕事意識・仕事観について見ていきます。
■“チャーム型”のワークライフバランス
仕事関連の意識で最も高かったのは「仕事をがんばるためにはプライベートが大事だと思う」の83.5%(全体)。これは都市部でも地方でも8割を超え、堂々多数派の結果となりました。ワークライフバランスという言葉が出てきて久しいですが、当然のことながら仕事一辺倒の生活はイヤなのです。また、「仕事よりもプライベートを優先したい」かどうかを聞いている質問への回答も、全体の65.8%がYES!と、半数を超えています。
ちなみに、仕事、恋愛・結婚(結婚生活)、趣味、人づきあいの4領域について「今後どの程度力を入れたいと思うか」を聞いている“貪欲度”についての質問では、仕事が54.1%、恋愛・結婚生活が71.8%、趣味が72.8%、人づきあいが57.9%。キャリジョたちは仕事以上に恋愛や結婚、趣味に力を入れていきたいと思っていることがわかります。
とはいえ、仕事にやる気がないわけではなく、「仕事にはやりがいが必要だと思う」「仕事を通して人間として成長したい」という人も7割を超え、仕事に向き合おうという姿勢が見て取れます。
ただ、ワークライフバランスを実践する中でも、男女で仕事への向き合い方には違いがあるのではないでしょうか。従来、生活のメインミッションとして仕事をとらえていた男性にとっては、プライベートの充実を図るとしても、そのメインミッションを二つ、ないしは三つに切り分ける「ケーキカット型」のバランスのとり方をしている人が多いようです(だから仕事が忙しいと他の取り分はグッと減り、妻や彼女に怒られることに……)。
対して、仕事を元々生活の一要素としてとらえている女性にとっては、ブレスレットの「チャーム(飾り)」みたいなもので、仕事、友達、趣味、恋愛など、それぞれのチャームをバランスよくつけていたいし、個々のチャームもキラキラ輝くように、その中で最善を尽くそうとがんばっているのです。
このとらえ方の違いは、職場で「やる気」のありなしのように受け取られがちですが、実は男女の根本的なとらえ方の違いと言えるのではないでしょうか。
■「あみだくじキャリア」が生む不安
一方で、仕事に前向きとは言え、上には上がりたくないのがキャリジョの本音。「将来、昇進昇給したい/偉くなりたい」は31.4%、「管理職になりたくない」は52.7%と半数を超えます。出世意識の低さについては、男性と比べて、女性のほうが自分に自信がない人が多いことが理由としてよく挙げられます。それに加え、女性のキャリアパスは、結婚・出産などのライフコースの変化が絡み、複雑です。
さらには実際に両立できているいわゆる「ロールモデル」も身近に少ないのが現状。調査でも「参考になる生き方をしている人(ロールモデル)が会社にいる」は全体の23.5%と、仕事関連の64項目中ワースト5位に入るほど低いのです。
女性の場合、ゆるキャリからバリキャリまでたくさんのキャリアパスがあって、会社の都合だけでなく、パートナーの都合、親も含めた家庭の都合など、自分の意思では思い通りにならない要素で、途中でどこのキャリアパスに流されるかわからない。まるで「あみだくじ」のような不安感があるように思います。
ただ、ロールモデルの有無については、年代別に見ると、25~29歳が19.4%、30~34歳が18.9%と、ともに19%前後なのに対して、20~24歳は31.6%と10ポイント以上高め。今の世の中の変化や、子育てをしながら働く女性たちのがんばりのおかげで、ようやくロールモデルができ始めているのかもしれません。
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広告会社博報堂および博報堂DYメディアパートナーズの女性マーケティングプランナー、プロモーションプランナー、メディアプロデューサーたちが、2013年に立ち上げた社内プロジェクト。 キャリア(職業)を持つ、特にお金と時間を自分のために使いやすい子どものいない女性を「キャリジョ」と定義し、有識者ヒアリング、女子会形式の定性調査、インターネットによる定量調査などを通じて「キャリジョ」を研究している。
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(博報堂キャリジョ研)
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