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橋下徹「日本の外交が韓国より弱い理由」

プレジデントオンライン / 2018年5月9日 11時15分

写真=iStock.com/SonerCdem

北朝鮮情勢が劇的に動いている。トランプ米大統領、金正恩朝鮮労働党委員長という米朝両国の個性的な指導者に注目が集まる中、橋下徹氏は、自国の国力を冷静に見極め北朝鮮に対して「妥協・譲歩」を行った文在寅韓国大統領の交渉力に注目する。日本外交が学ぶべきポイントとは? プレジデント社の公式メールマガジン「橋下徹の『問題解決の授業』」(5月8日配信)より、抜粋記事をお届けします――。

■現状維持では真の外交といえない。弱腰批判を乗り越え妥協・譲歩の道を

自分自身に力のある者が、さらに他人の力を借りる場合には無敵となる。ところが自分自身では力のない者が、他人の力を借りる場合には、交渉相手や周囲からはバカにされるし、何と言っても、その力を借りた他人とは、完全に上下の関係に陥ってしまう。

(略)

自分自身弱い力のまま、相手と譲歩して交渉を進めるべきか。それとも他人の力を借りて、強気に交渉を進めていくべきか。

原則は、前者。まずは自分のありのままの力を基に、交渉を進めていくべきである。

どうせ力を借りた他人から見返りの利益を求められるなら、その見返りの利益分を、交渉相手に直接提供した方がいい。力を借りた他人に見返りの利益を渡すことと、他人の力を借りずに交渉相手に直接利益を与える譲歩をすることを比べて、当方の持ち出しに大差がないのであれば、まずは他人の力を借りずに、交渉相手に直接利益を与える譲歩をすべきだ。なぜなら、他人の力を借りた場合の方が、交渉相手や周囲からリスペクトをされない分、マイナスになるからだ。

具体的に見てみよう。日本はアメリカの力を全面的に頼っている。日本固有の問題である北朝鮮による日本人拉致問題についても、アメリカや韓国に、北朝鮮との交渉議題に上げてもらうよう頼んでいる。憲法9条の下、自らの力が制限されている日本においては、アメリカや韓国の力を頼るしかない。しかし、そのようにアメリカや韓国の力を頼れば、アメリカや韓国にそれ相応の見返りを求められることを覚悟しなければならない。そのような見返りに応じるくらいなら、今の力の弱い日本のまま、北朝鮮に直接それなりの譲歩をした方が、北朝鮮はもちろん周囲の世界各国からも、ジャイアンであるアメリカの力を借りるスネ夫のように見られることは避けられる。

(略)

韓国の文在寅氏は、アメリカや日本から苦言を呈されながらも、融和政策つまり北朝鮮への譲歩の姿勢を貫いた。自分たち韓国に、北朝鮮と軍事的に勝負する力がないことを認識していたなら、的確な判断だ。アメリカの力を横に置き、自分たち韓国の軍事力を率直に分析・評価する。それも単純な軍の力だけでなく、国民が被害を受けたときのことをも想定する。

北朝鮮はあのような国だから、国民に被害が出てもどうってことない。しかし民主国家である韓国の場合は異なる。国民に大きな被害が出れば政権が吹っ飛ぶ。日本は韓国以上に国民の被害に神経質だ。

このようなことを考慮し、もちろん同一民族による融和という思想を基に、「自らの意思」で北朝鮮に譲歩し、融和をお願いしたということが北朝鮮情勢を動かした。自分たちに力がないなら、譲歩することによってしか事態は動かせない。

逆に、北朝鮮は核兵器保有という「自らの意思」を貫いたことによって事態を動かした。

この点僕は、「日本は自らの意思で事態を動かしていない。外交に意思がない」と「橋下徹の日本改造論」というインターネットの番組(AbemaTV)で指摘した。そしたら出演者の松川るい参議院議員(外交官出身)が、次のように反論してきた。

「日本も尖閣諸島については防衛の意思をはっきり示し、防衛力を強化している。『自由で開かれたアジア太平洋戦略』も明確な日本の外交意思だ」とね。

この日本外交が良い方向であることは否定しない。でも事態を動かす「自らの意思」とは言えないんだよね。

尖閣諸島の防衛強化は、あくまでも中国に攻められているところを防戦=食い止めるところまで。すなわち中国公船の領海侵入を食い止めたり、接続水域への侵入に警告を発するところまで。それ以上に、港や灯台などの公的施設を尖閣に設置するなどして尖閣を完全に日本の領土として確保するまでの意思は示していない。また「自由で開かれたインド太平洋戦略」は、皆で仲良くしていきましょうね、といういつもの日本の外交戦略で、中国が力を入れている南シナ海の領海化や一帯一路構想に「対抗するだけ」であって、膠着している事態を自らの意思と能力でグリグリと動かしていくものじゃない。あくまでも防戦なんだよね。

(略)

これが日本外交の弱さなんだ。それは力がないことの弱さではない。事態を動かす強い意思がないことが日本外交の弱さだ。日本は軍事力で事態を動かすわけにはいかない。そうであれば、力がないなら、ないなりの対応でもって、事態を動かさなければならないのに、その強い意思がないことの弱さなんだ。

(略)

■「自らの意思に基づく譲歩」――これが尖閣問題を解く具体策だ

尖閣の今の事態を動かすには、中国を圧倒するだけの力を持ちに行くか、それともいったんは退く・譲歩するしかない。もともとは尖閣を日本が国有化したところから、中国との緊張関係が始まった。

(略)

日本国内の不動産登記手続きに過ぎない国有化をいったん引き下げて、その代わり、日本が主張する領海域、接続水域に中国公船が侵入しないことを約束させる。約束以後もし中国公船が侵入した場合には、それこそ登記上の国有化を再度実行し、さらには尖閣に港や灯台やその他の施設を設けることを宣告する。だいたい尖閣を先に国有化してきたのは中国なんだよ。中国は1992年に領海法を制定して尖閣を中国領土と宣言した。このときに日本は大騒ぎしなかった。騒いだ方が領土問題化するとして無視したらしい。

にもかかわらず、今度は日本が国内登記で国有化し、中国から大騒ぎされるようになった。日本が国有化を取り下げるなら、中国のこの領海法による国有化も取り下げさせる必要がある。

日本は、尖閣に領土問題は生じないと型にはまった主張を繰り返しているけど、今や尖閣防衛が日本の防衛問題の大きなテーマになったことは間違いない。そして日本の国力からして、そこに割かれる政治行政のエネルギーが、日本全体の海洋資源の保護、そして日本全体の防衛力を弱めてしまっていることも事実である。尖閣に投入する政治行政のエネルギーは日本全体の海洋資源の保護や日本全体の防衛力強化の方に回すべきだ。そして中国も尖閣に投入している政治行政のエネルギーを効率化したい、他に回したいと考えているはずだ。

そうであれば、このような交渉をすることこそが事態を動かす交渉である。日本自らに「力」がないのであれば、「自らの意思」に基づく「譲歩」が必要になる。

譲歩するにしても、力を持つ意思と能力を示してから譲歩することも交渉の鉄則だ。北朝鮮も核保有の意思と能力をしっかり示してから、今度は譲歩の姿勢を示している。完璧な交渉プロセスだ。

日本も尖閣については、国有化や防衛強化という意思と能力を示した。その上で、譲歩による交渉に移っても、日本にとって著しい不利益とはならない。むしろ日本全体にとってはプラスになる事態に持ち込める。

日本が尖閣の国有化を取り下げる代わりに、中国の国有化も取り下げさせ、お互いに軍事的な緊張を解消する。日本はそこに割いていた政治行政のエネルギーを他に回す。その上で、いったん約束したことを中国が破ってきたなら、徹底した強硬策を講じる。これが事態を動かす交渉というものだ。今のまま尖閣に人とカネをつぎ込み続けても、日本にとってプラスの事態にはならないだろう。そして法を重視する日本としては、フィリピンが南シナ海における領海を守るために国際機関を用いたように、尖閣が日本の領土であることのお墨付きを国際機関から得られるように努力する。

まあこんなことを言ったら売国奴! という激しい批判を浴びることになるだろうから、日本の政治家にはこんな交渉はできないだろう。でも、何の戦略性もなく、ただただ口だけで威勢のイイことを言って、人(自衛隊や海上保安庁の力)やカネ(税金)を消耗することの方がよっぽど売国奴なんだよね。

(略)

(ここまでリード文を除き約3100字、メールマガジン全文は約1万5000字です)

※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.102(5月8日配信)を一部抜粋し、修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【超実践・交渉術】なぜ北朝鮮情勢は動いたか? 国際関係から学ぶ「交渉の極意」》特集です!

(前大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹 写真=iStock.com)

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